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一番の相棒(3)

続き。

「さて、ご苦労様。ちょっと休憩を――――というわけにはいかないことは

分かってもらえると嬉しい」

「んなことは分かってる。それよりも、結果はどうだったんだよ?」

 検証実験が全て終了し全員が集合した。今、プレッシャーは度重なる攻撃

のせいか周囲を警戒して移動を止めている。

 地響きが無く移動もしなくていいため、落ち着いて検証結果について話す

ことができる。

「じゃあ報告を始めようか。まずは最初から分かっていたことの再確認から」

 暁が指を三本立てる。

「一つ、視界内の物体しか圧縮できない。二つ、それに射程は関係ない。

三つ、死角がない。だったな」

 指を折り終えてからまた指を立てる。

「まず一つ目の定義は否定された。視界内限定なのはそのままだが、物体

限定では無かったってことだ。朝月の重力光線バースト・カラットが空間

を圧縮した小型ブラックホールで迎撃された。よって“万物の圧縮”は物

体だけに限定されず非固形物にも有効である」

 それは朝月自身がよく知っていること。バースト・カラットもサモン・

ブラストも非固形物。物理的な攻撃でないというのに見事に防がれたのだ。

空間を圧縮した点でほぼ確実と言えるだろう。

「二つ目の射程に関しては変更はない。朝月の身を張った行動のお陰で最

低百四十m前後は届くっていうことが判明した程度だな」

 朝月としては「程度」というのは甚だ納得し難いものがあるのだが、こ

の状況で文句など言えようはずもない。大きな変化が無かったのも事実だ。

「三つ目の死角がない。これは今のところ変更しようがないな。事実とし

て受け止めるしかなさそうだ」

 ここからがやっと実験結果に入っていく。今までのは分かっていたこと

に付け足しをしただけに過ぎない。実験結果を元に、暁なりの解釈を付け

てやっと今回の検証実験の意味がある。

「まず春彦にやってもらったことには“圧縮できる規模は一定か不定なの

か“ということを判断するために必要なことだった。あれだけの鎖で作ら

れた壁を目の当たりにして、大きく大量に潰せる方法を取らないのはおか

しい。そういう定義の元、得られた結果は――――圧縮できる規模は一定、

というものだ」

「つまり、決められた範囲しか圧縮できないってことですね?」

 朝月の問いかけに暁は頷き、金に声をかける。未だにDUを発動しっぱ

なしの金は素っ気無く答える。

「金、あいつの圧縮規模はどの程度だった?」

「直径四m程度の球体形」

「ということだ。その程度しかあいつは“万物の圧縮”効果範囲が無いっ

てことになる」

 いかに死角無しと思われていた第三段階プレッシャーといえども死角は

あったということ。直径四m程度なら視界内に入ってから常に四m以上、

移動し続ければいい。思っている以上に簡単なことではないだろうけれど、

何も無いよりはずっと光が見えてきた。

「次の朝月にやってもらったことには“非物理的攻撃が効くか否か”とい

うことと“圧縮攻撃は周りのものも巻き込むのか”という意味がある。結

果として非物理的攻撃は効かず、代わりに物体以外も圧縮できるという副

産物が得られた。サモン・ブラストのお陰で圧縮できるのはあくまで範囲

内限定という確信も得られた。もし、周囲も引き寄せて巻き込む性質があ

るのなら炎とかなら簡単に引き寄せられてくはずだからな」

 しかし炎は巻き込まれず四mの球体状に納まった部分の炎だけが圧縮さ

れた。よって、近くで“万物の圧縮”が発動しても引き寄せられてバラン

スを崩すなんて事故には至らない。

「最後の御堂にやってもらったことだが、これには“背中の眼はいくつま

で同時に攻撃できるのか“ということを調べる意味があった」

 正面の眼は分かっている。春彦が鎖で行く手を塞いだときに四箇所一気

に穴が開いたからだ。どこへ向かっているのかも不明だが、とにかく前に

進みたいご様子のプレッシャーが行く手を遮った鎖を破壊しないのはおか

しい。効率良く、少ない手間で破壊できるならそれを行うはずだ。

「しかしながらプレッシャーは鎖を破壊する際に大きさを変えず四箇所、

という攻撃手段に出た。そのことから正面の眼は一つの眼につき一回ずつ

しか攻撃できない。そして二回目以降には若干の時間がかかるということ

だ。それが背中の巨大過ぎる眼にも通用する定義がどうか、知っておきた

かった」

 正面の四つの眼は最初に四回一気に攻撃する。少し時間をおいてから一

回ずつ、リボルバーのシリンダーを回すように四つの眼で圧縮攻撃を回し

撃ちしていく。そうして常に攻撃を放てるようにして攻撃していない時間

を無くそうとしているのだ。

 だが、背中の眼にその方法は当て嵌まらない。一個しか眼が無いからだ。

「結果として――――正面よりも厄介だ。御堂が落とした十二本の針天牙

槍。それは残らず潰されたわけなんだが・・・・その速度がハンパないっ

てことだ。十二本、全てが同時に見えるほどの速度で潰されたんだ」

「それって、タイムラグが無いってことですか?」

「そうなるな。正面の眼は大体四秒程度の“発射準備時間”がある。一発

圧縮攻撃を撃ったら四秒間は撃てないってわけだ。だが、その法則は背中

には通用しなかった。あの眼――――一回圧縮攻撃してからほぼノータイ

ムで次を撃ったんだ」

 ノータイム――――それは背中において無数の眼を持っていることと大

差ないということ。何人で襲い掛かっても、背中を狙う限り全てが撃ち落

されるということでもある。

「背中は危険だ。あいつを攻略するには――――正面からの複数人同時攻

撃以外に得策は無いと俺は考える」

 そういって暁は自論を閉じる。ここまではあくまで暁の解釈の元で導き

出された回答。他の者の意見もあるだろう。

 しかし、事務的と言われていた暁が展開した持論は、少なくとも、学生

の身分である朝月と春彦に否定できる部分も追加できる解釈も無かった。

「まさか・・・・常識の通じないDU相手にこんな方法が通じるとはな・

・・理に適ってるし、俺は賛成だ」

 御堂はあっさり賛成する。自分よりも頭が良いであろう暁に反対する気

はないということか。それとも彼自身が同じ結論に至っていたか。

「それ以外に方法は無さそうですね。僕も賛成します」

「俺もだ。隊長格が四人もいるんです。勝てますよ」

 金は頷きもせずにただじっと目を閉じている。それがやっぱり不安に感

じて朝月も春彦も金を見る。夏彦の声が春彦の頭の中に響いてくる。

『クガネの奴・・・・大丈夫なのか?』

『さあ・・・心配ではありますけれど、今はプレッシャーを倒すことを最

優先に考えたほうがよさそうです』

『俺が戦いに出ようか?』

『いえ、僕と暁さんの攪乱が必要でしょうし、僕には危険に晒された仲間

を助け出すという大命がありますので』

『そっか、まぁ必要になったら呼んでくれよ』

 それっきり夏彦の声は聞こえなくなってしまった。

「どうした春彦?」

 脳内で夏彦と会話している様は、端から見ればボーっとして百面相して

いる風にも見えるだろう。脳内会話の欠点である。

「あ、いえ何でもありません。それで、何の話でしたっけ?」

「どういう陣形で戦うかだよ。もうプレッシャーは動き出してるから手早

く決めたいんだけど」

「あ、それなら、暁さんが攪乱、僕が攪乱と救助を担当するっていうのは

どうでしょう?」

 ついさっきまで夏彦としていた会話を思い起こす。春彦は攻撃には徹底

的に向かないし、暁だって攻撃よりは攪乱のほうが得意なはずだ。

「ま、妥当な線だな。朝月には遊撃手として動いてもらうことになるが平

気か? かなり戦場を駆け回ることになるぞ」

「平気ですよ。あらゆる戦場に対応できるのが俺のDUなんですから」

 朝月が今使える能力の種類は八つ。大伽藍、護鱗、爆心地、多面鏡、影

名の銃、刀騎士、針天牙槍、そして圧砕重剣。

 これだけの力がある。どんな戦場でも戦い抜ける気がした。

「よし、じゃあ移動するぞ。あいつを正面から叩き潰すんだ」

 再び鳴り始めた地響きのせいで歩きにくさを感じながらも金も連れて移

動する。

 最初で最後の弱点を狙った総攻撃。

 たった一度っきりのチャンスを使うときがきた。



今回はここまでです。すぐに続きを書きますので少々お待ち頂けると滂沱します。


力の”本質”を現わしてしまった第三段階。みんなは倒せるんでしょうかね?


ではまた次回~。

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