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一番の相棒(2)

続き。

検証実験その一・圧縮規模



 

 まず暁が提案してきたのはプレッシャー行う“万物の圧縮”の圧縮規模

の確認だった。

『圧縮できる規模が一定なのか不定なのか確認したい。もし一定範囲しか

圧縮できないなら活路を見出す足がけになってくれるはずだ』

 とのこと。

 圧縮の規模を知る。そのことは重要であり、春彦の力を使えばある意味

簡単に検証できることがらでもある。

 そしてそれは春彦に課せられた検証でもある。朝月と御堂には別々の

検証が言い渡されており、今この場所には春彦と暁、金しかいない。

「よし、やってくれ春彦」

「はい」

 鎖を伸ばしていく。複数座標で出現した鎖と、プレッシャーの歩いてい

る道路の反対側、春彦たちの反対側から遠隔複数座標で出現した鎖がプレ

ッシャーの行く道を遮るように壁を形成していく。幾重にも重なった鎖の

壁は、ただ歩くだけで突破できるようなものではない。

 ――ガッアアァァァッ!

 プレッシャーが正面にある、四つの巨眼を見開く。

「もしこれで壁が一気に潰されたら圧縮規模は不定。何回にも分けて潰し

ていくようなら圧縮規模は一定って判断が下せるが・・・・」

 その呟きを掻き消すように圧縮が起こる。行く手を遮られたプレッシャー

が鎖を押しつぶし先へ進もうとしているのだ。

ぐしゃり、と鎖が押しつぶされる。だが、それは一部だ。鎖の壁の四箇所

が、四箇所だけが押しつぶされて、連続して潰されていく。

 壁となった鎖が完全に消えるまでそう時間はかからなかった。

「・・・・・確証が得られましたね」

「ああっ・・・・検証結果・奴の圧縮規模は一定っ!」


 

検証実験その二・非物理的攻撃の有用性




 暁が朝月に命じた検証は非物理的攻撃の有用性の有無だ。

『もし非物理的攻撃――――朝月のバースト・カラットとかが通じるなら

楽なんだ。こっちで気を逸らしている間に朝月が撃てばいいんだからな。

というわけで調べてきてくれ』

 とのこと。

 そして朝月は夏彦に空間の狭間への道を開けてもらい、それなりの距離

離れた場所まで移動した。それなりとはどれくらいかというと、目測で見

て百四十mほど。バースト・カラットが届く限界距離だ。

 朝月が言い渡されたことは二つ。遠距離からのバースト・カラットによ

る狙撃と近距離からのサモン・ブラストによる範囲攻撃。

 どうしてサモン・ブラストを撃つ必要があるのか朝月が尋ねたところ、

『圧縮っていうのがその範囲内にあるものしか圧縮できないのか、それと

も圧縮している最中に周囲のものを引き寄せる性質があるのか知りたい』

 とのことだった。

 朝月の二度の正面攻撃を敢行しなくてはならない。一度目は遠方からだ

からまだしも、二度目は近距離。怖さがないといえば嘘になる。

 あの巨大な眼に睨まれた朝月だからこそ分かる。

 あの眼の視界に収まってしまえば問答無用の死があると、それが分かっ

ているからこそ身動きが取れなくなってしまう。怖さで身が震えるのだ。

「これほど視線が怖いって思ったことなんて・・・・普通無いよな」

 百四十mは遠いと思っても結構遠くない。どちらかといえば近い部類に

入るだろう。その気になればAK-47などの一般的なアサルトライフルでも

狙えてしまう距離。視力がどれほどあるか知らないが朝月がいると見止め

れば攻撃してくる距離だ。

 ただ、攻撃をする以上、タイミングを計る必要がある。しかも今回は検

証だ。プレッシャーが万全の状態でやらないと意味がない。

 だから隠れていることもできず、プレッシャーの姿がよく見える建物の

屋上で身を晒して待機しているわけだ。

「あとは春彦の検証が終わるのを待つだけか・・・・」

 もう攻撃の準備はできている。圧砕重剣は地獄篇で発動しているし、バ

ースト・カラットを撃ち終われば今度は徒歩で近づいていく。そうしてサ

モン・ブラストを撃って仕事は終わりだ。

 たった百四十m程度の距離ではプレッシャーが歩くたびに鳴る地響きが

伝わってくる。もう辺りは夜だ。普通は百四十m先なんて見えないはずな

のに、見える。どうしてかといえば“未知の欠片”が光っているのだ。

 つい先ほど、暁から検証実験の概要を聞かされている最中、脈動するよ

うに光っていた“未知の欠片”が発光現象を起こした。そして発光したま

まその光量を保っている。それがどういう意味を指すのか朝月には分から

ない。

 御堂と暁が言うには「この世界のDUを集め終わる合図かもしれない」

と言っていたが憶測だとも言っていた。真偽は分からず、今に至る。

「しっかし・・・・遠くから見ても恐怖感バリバリの眼だよなぁ」

 あの眼がこっちを見るたび、身体が震えてしまう。

 もしあの眼が自分の姿を捉えたとしたら? 視力が良くて遠くまで見える

眼で、自分の姿を視認されたら?

 そう考えると今すぐここから逃げ出したくなる。“万物の圧縮”は発動を

肌で感じてからでは避けきれない。

「お・・・・?」

 そういう恐怖感をそそる思考をしている最中にプレッシャーに変化が訪れ

る。行く手を阻むように展開した鎖は何回もの圧縮によって散り散りにされ

てしまい、自分の出番が迫っていると朝月は感じる。

「よしっ」

 圧砕重剣の切っ先をプレッシャーに向ける。漆黒の刀身は二又に別れ、刀

身の付け根にある純白の宝石は中空に浮いている。左右に別たれた漆黒と、

その間で狂ったように振動する純白が、見るものに禍々しさを植えつける。

 裂けた刀身の間に黒い球体が形成されていき、その淵を暗い紅が縁取って

いる。

「バースト・カラットッ!」

 重力を押し固めた黒い球体が、破裂する。その中からは紅く縁取られ重力

光線がプレッシャーへ向かって迸る。

 空気を切り裂き、直線状に押し固められた重力はプレッシャーを貫通する

べくその肉を裂く―――――。

 ――ガッアアアアアアアッ!

 ことはできなかった。

 向かって右上の眼が大きく開かれ、バースト・カラットとプレッシャーの

間に“万物の圧縮”が発動される。

「な―――――っ」

 その光景に朝月は目を疑う。突如として空中に生まれた黒い穴。それは朝

月が放つ重力光線を際限無く呑み込んでいく。

 それは小さな――といっても人の数倍の直径のある――ブラックホールだ

った。

「ブラックホールって―――あいつ、空間まで圧縮できるのかよッ!? 何

が“万物の圧縮”だっ! 空間は万“物”じゃねーだろっ」

 そう悪態を吐きつつも建物の屋上から慌てて降りる。今のバースト・カラ

ットで朝月の位置はバレただろう。あのまま留まっていれば絶対に圧縮攻撃

が飛んでくる。

 案の定、朝月が飛び降りた直後、屋上を削るように“万物の圧縮”が発動

した。髪の毛を数本持っていかれるほどの距離で行われた必殺の攻撃。その

ことに寒気を覚えながらも重力を制御、地面に降り立つ。百四十mの距離を

全力疾走しながら地獄を通り抜けて煉獄を解き放つ。

「神曲よ、蘇れッ!」

 模倣のDUに目覚めた朝月にとって発動するための言葉は要らないに等し

い。初めて使うときや扱いに慣れていないときに叫ぶのみで、今のこの状況

で唱える意味はなかった。

神曲喜剣(ディヴィーナコメンディア)煉獄篇(ブルガトーリオ)ッ!」

 左右に別たれていた刀身が刃の向きを変え、片側へと向ける。本来なら合

わさっていたはずの部分は峰となり、幾つかの開いた穴からは蒸気が漏れ出

ている。刀身の根元にあった純白の宝石は柄頭へと移動していた。

 二本の片刃の刀身。峰から漏れ出る蒸気。固定された二本の刃は熱を持ち、

刺突ではなく斬撃するために片側へと集約された刃は通り道に転がっていた

ゴミ箱に火を灯した。

 最速で駆け抜け、プレッシャーの正面に立つ。蒸気を吹き上げる圧砕重剣

を振り上げ、朝月は叫ぶ。

「サモン・ブラストッ!」

 峰から炎が吹き上がり、刀身を覆う。一本の剣が生み出せるとは到底思え

ないほどの炎の怒涛がプレッシャーへと襲いかかる。

 サモン・ブラストはバースト・カラットよりも射程が短い。その最大の利

点は横への範囲を調節できることだ。

 横へ広がるように炎を放てば当然、射程はもっと短くなる。しかしそれを

補うだけの攻撃範囲が得られるのだ。

 だからプレッシャーは炎を消すために攻撃しなければならない。空間さえ

圧縮できたなら炎もできるだろう。さっきの春彦の検証のお陰で圧縮規模は

一定と分かったから今回見るべきは炎の動き。

 一回の圧縮に対して一定の圧縮規模外の炎が動くかどうか。簡単に言えば

“万物の圧縮”には周囲のものも引き寄せて巻き込む性質があるか否かだ。

 それもこれではっきりする。そのためのサモン・ブラストなのだ。

 ――ガアアアッアアアッ!

 どこにあるのかも分からない口から咆哮が発せられ、一度に四つの圧縮攻

撃が行われる。

 それに巻き込まれた炎。周囲の炎が動くことは―――なかった。

 まるで炎が固形であるように、一定範囲だけを球体状に切り取ったように

ぽっかりと、穴が開いた。

「結果はどうあれ、これで俺の分の検証実験は終了――――かっ!?」

 プレッシャーの視界全体を覆ったはずのサモン・ブラスト。一気に開いた

四箇所の穴から“万物の圧縮”が放たれてきた。朝月の右足、その目の前。

もう少し朝月が前に出ていれば右足はなくなっていただろう。

「役目がすんだら撤退するに限る・・・・」

 



 検証実験その三・同時攻撃の回数。




 御堂はまた別の場所にいた。ちょうどプレッシャーが歩いている通りに

面している建物の屋上を跳んだりして渡っている。

 なんのためにこんな場所にいるかというと、暁に言い渡された検証を実

行するためだ。

 御堂が言われたのは同時攻撃の回数を調べろということだった。

『背中の眼を狙って複数の槍を落としてくれ。正面の眼の攻撃回数は一と二

の実験の中で分かるだろうけど、背中は分からない。眼によって回数が違う

とか、背中の眼に何か例外的なものでもあったら困るからな』

 とのことだった。

「例外なんて無い気もするけどなぁ・・・」

 正直、あの背中にある巨大すぎる眼の視界がすぐ側にあるっていうのも

怖いものがある。一歩間違えてしまえば視界に入ってしまうのだから命賭け

と言えなくもない。

 今しがた春彦の鎖が伸びプレッシャーの行く手を遮ったところだ。それが

潰されるまで時間はかからなかったが、自分の出番はまだだと知っている。

朝月がサモン・ブラストまで撃ち終わった後。そのときが出番だ。

 バースト・カラットの光が見える。状況をしっかり見たいが屋上から乗り

出すわけにもいかず、後から暁の報告を聞くしかない。もう準備は整ってい

るのだから、タイミングさえ逃さなければいい。

検証しているのならそれを直に見ておきたい。そのためには屋上から身を

乗り出さねばならず、そんなことをすれば即座に視界に入り“万物の圧縮”

が飛んでくることは確実。だから音だけで状況判断を下さねばならない。

「サモン・ブラストは炎だから・・・・夜の今なら分かり易いか。無駄に明

るいから見落とさねぇようにしねーと・・・・」

 そこまで言って、口を閉じる。さっきバースト・カラットの光が見えたの

だ。もしかしたらそろそろ朝月がサモン・ブラストを撃つかもしれない。

「サモン・ブラストッ!」

 予想通り、朝月の叫ぶ声が聞こえる。ちょうどプレッシャーが歩みを止め

ていた時だったからこそ聞こえた。“未知の欠片”が発光し続けていること

で明るくなった夜を朝月の炎がさらに明るくする。

その明るさもすぐに消えていく。圧縮攻撃で消されていったのだ。

「よし・・・・そろそろ俺の番か」

 御堂は針天牙槍を持つ。足元においてある数は十。両手に一ずつ。合計し

て十二の槍が背中の眼を目掛けて落とされる。一本落としては一本落とし、

できる限り槍と槍との間を空けてタイミングをずらす。

 なるべくバラけるように、バラバラに落としていく。上空から落下してく

る物体を、プレッシャーの背中の巨大すぎる眼が捉えた。

 ――ガガッアアアアァァアッ!

 背中に開いた眼は血を流し、落下してくる槍に向かって“万物の圧縮”を

放つ。絶妙に間が空けられて落ちてきた槍を、やはり一本しか捕らえること

はできなかった―――――というように問屋は卸さない。

 確かに一回の圧縮攻撃では一本しか捕らえることはできなかった。しかし、

同時に見えるほどの連続攻撃で十二本全ての槍を押し潰した。



次へ~。

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