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残る命と、消えた命

今回は二本立てです。

柚木と別れてからすぐ、朝月は圧砕重剣を地獄篇(インフェルノ)に変える。その剣

に宿る重力制御能力で空を舞い、上空から春彦たちを探す。舞い上がった

場所から東中央公園に向かう方向から振動が伝わってきた。

 ビルの間。ストリートから少しはずれた場所での戦闘による振動。その

方向へ向かって最速で移動する。道に従って移動する必要がないという

のは速度が重要視される状況ではとても大きなアドバンテージとなる。

道程など無視して直線距離を突き進むことができるからだ。

 そして見つける。もう戦闘は終わっているのか、春彦たちはその場に

背を向けて去ろうとしている。その後ろでは小規模なクレーターができて

いた。

 後方で“未知の欠片”が脈動する。激痛に苛まれ墜落する危険性もあった

が朝月は速度を緩めなかった。そして危惧していた激痛は襲ってこなかった。

 何かによってアスファルトの地面に穿たれたクレーターの中に動くものを

朝月は見る。潰れた人型だったそれは肉を潰し、骨を砕き、醜悪にその姿を

肉の塊のように変貌させていく。中心に唯一つ、大きな眼球のみを残して、

それは本当に肉塊に成り果てた。

「あの野郎・・・・軌条“だけ”に波動をぶつけやがったな・・・・っ!」

 御堂の声が聞こえ、肉塊の中心にある眼球が見開かれる。流血しながら

開かれた眼は御堂をしっかりと捉え、軌条がいつもしていたように、御堂

のを中心に空気を圧縮して超高温の空間を生み出す。

「間に合え・・・・・っ!」

 肉塊に向かって左手を向ける。左手に文字が浮かび上がり、誰のもの

とも知れない声が響く。


[Distance]


 左腕に浮かび上がるのは“遠距離”を意味する電子的な文字。それに呼

応して、俗にRPG7と呼ばれるロケットランチャーに変形していく左手。

変形が完了する前に照準を定め、完了すると同時に発射した。

 空中で、しかも急制動をかけた直後だったために狙いが逸れてしまった。

それでも爆風の範囲内。多少の誤差なら問題はないはず。

―――ギィィィッ!

 案の定、爆風は肉塊に届いた。そのお陰で奴の狙いも逸れ、御堂に空気

圧縮の直撃はしていない。御堂が回避行動した方向と逆に狙いが逸れて

良かった。

「ぐぁっ!」

 無理な回避行動をしたせいで地面に受身も取れず倒れこんでしまう。そ

のすぐ側に朝月は降り立った。

「大丈夫ですか御堂さんっ!」

「あ・・・朝月っ!?」

 御堂は自分のことよりも朝月の帰還に驚いた。春彦も金も暁も皆が驚き、

喜んだ。

「朝月君!無事だったんですね」

「朝月、もう平気なの・・・?」

「ああ、ちゃんと正気さ」

 圧砕重剣を地面に突き立てて笑顔を見せる。以前のように他人を拒絶

していた朝月でなく、明るくなった朝月として、今ここにいることができ

る。それは紛れも無く柚木のお陰だった。

 そんな感動的な再会はすぐに打ち破られてしまう。

 感極まって泣き出しそうな金。応えるように笑顔を見せる春彦。安堵す

る御堂。その中で唯一人、暁だけが反応できたのは、幸運とするべきか。

それとも朝月との再会よりもエクスクレセンス化してしまった軌条への

関心が強かったことを責めるべきか。答えなんて前者に決まっている。

ベストパートナーと言われていた軌条と暁。二人にとって朝月なんて出会

って一年近くしか経っていない上、一緒に仕事をしたことだって殆ど無い

のだ。

 だからこれは必然的であって、幸運でもあった。

「お前ら、避けろっ!」

 暁の言葉で我に返る。爆風で転がっていった肉塊が体勢を立て直し、

大きな眼球をこちらに向けていた。

 眼球がぎょろりと動くたびに血液が流れ出し、その瞳がこちらを完璧に

捉えた。周囲の空気の質が変わり、気温が上昇したのが分かる。

 朝月たちは脇目も振らず一目散に横へ飛び退いた。

 その直後、朝月たちのいた場所に寸分違わず圧縮された空気の層が

出来上がった。

「ありがとう、教えてくれなかったら危なかったぜ」

「気にしなくていいさ・・・・朝月、戦ってくれるか?」

 朝月は目の前の肉塊を見る。醜悪に血を垂れ流すそれはとても生き物

のようには見えない。しかし、朝月は人型だったものが肉塊に変貌する

瞬間を見ている。第一形態から戦っていて、小規模のクレーターが出来る

ほどの攻撃を受けても絶命しなかった。戦うメンバーは春彦に御堂、暁

がいる。それほどまでに強いエクスクレセンスを朝月は知らなかったし、

それに、気付きたくなくとも気付いてしまうほどに欠けているものがこの

場にはあった。

 その欠けているものと肉塊の放った攻撃、直前に御堂が叫んだ言葉の

せいでで朝月には肉塊の正体がおおよそ予想できていた。

「・・・・軌条さん、なのか?」

 欠けているもの。それは軌条氷魚の存在だった。

 朝月が現れてから能力が暴走し一番最初に離れていった人物。春彦たち

が追いかけていき、それでいて今この場にいない。

 そこから導き出されるのは当然のことだった。

「・・・・ああそうだ。エクスクレセンス化した軌条氷魚。コールネーム

はプレッシャーだ」

 答えたのは意外にも御堂ではなく暁だった。答えることを拒否するかも

という懸念があったのだが、目の前の存在を見て吹っ切れたのか。確かに、

目の前の肉塊はどこをどう見ても軌条には見えなかった。

 暁の呼び方が「氷魚」から「軌条氷魚」に変わっていたことに気付く者

はこの場にいなかった。

 朝月は自分とは反対側に飛び退いた御堂に言う。大して距離は離れて

いないから普通の声量でも届く。

「御堂さん。何か、ずっと身に着けていたものってありませんか?」

「ずっと身に着けていたもの・・・・?」

 考えるように目を閉じたのも数秒、何か思いついたようで、すぐに否定

し始めた。

「これは・・・・ああ、でもな・・・う~ん・・・・」

 しばらく悩んだ後、自分の左手首から時計を外して投げて寄越した。

 放物線を描いて投げられたそれは狙ってもこうはいかないだろう、と

言いたくなるほど正確に朝月の手の上に落ちた。

「俺が緋月から貰った時計だ。一年以上付けてるから大丈夫だと思うが。

・・・・・壊すなよ?」

「はい。ありがとうございます」

 朝月は腕時計を自分の手首に付けた。そして自らのDEATH UNITを

発動する。


[Penetration]


 その腕時計に電子的な文字が浮かび上がる。その文字は“貫通”を司る。

腕や足に浮かぶものと同じように浮かんですぐに消えていった。

 そして朝月の手には御堂のDUである針天牙槍が握られていた。

 それを見て御堂は訝しげな視線を朝月に投げかけた。

「朝月、お前は何者なんだ?」

「それは後で・・・・・目の前の敵を蹴散らしてからゆっくり説明します

からッ!」

 針天牙槍を構えて肉塊に――正確には肉塊になったプレッシャーに次々

と突きを繰り出していく。

 それに御堂も続いて、戦えるほど体力が回復していない春彦に代わって

暁がプレッシャーの動きを止めにかかる。

 プレッシャーは目を見開いて朝月を狙った。眼球が朝月の動きを追い、

朝月の進む方向にあわせて圧縮された空気が超高温の空気層を生み出す。

 効力が分かっていても範囲が限定できない以上、回避は難しい。その

ことを朝月もわかっていて、敢えて回避に出る。

 右手に携えた針天牙槍。左手に持った圧砕重剣。地獄篇と化したそれ

の重力制御でもって身体を浮かし、


[Blaster]


“爆風”を意味する、落葉の爆心地でもって一気に空高くまで持ち上げた。

「範囲が限定できないなら、とりあえず、かなり離れればいい。お前の

姿からみて能力を発動させているのはその眼―――なら、とりあえず

お前の視界内から消えればいいっ!」

 ほぼ直上。そこから圧砕重剣と針天牙槍を真下に向けて突き降ろす。

 その光景に目を奪われていたプレッシャーの横からは御堂が。

 プレッシャーの後ろからは砂という塵と化した暁が。

 同時に迫っていた。

 しかし、プレッシャーの眼球は一個しかなかった。

 確実に攻撃がヒットする。誰もがそう思わずにはいられなかっただろう。

しかし、そう簡単にはいかないのが世の常。

 プレッシャーは転がった。

「なっ!」

「おいコラ、逃げんな!」

「ちっ・・・!」

 それぞれが攻撃をはずす。プレッシャーは転がった際に眼球が地面に

触れたのか血以外に普通に涙を流していた。 

 球体であるプレッシャーは巨眼を閉じて地面を転がり始める。それが

回避と攻撃を両立させる行動であるのは朝月も御堂も暁も理解できていた。

 ゴロゴロと高速で転がり始め、周囲のビルなど構い無しに突き破って

いる。ここが開けた場所なら敵ではなかったのだが、いかんせん、ここは

障害物の多い場所。ビルを突き破って視界の外に出られてしまえばどこか

ら迫ってくるのか予想が困難だ。

「丸っこいくせに・・・!これじゃ攻撃が―――うおっ!?」

 もの凄い速度で転がってくる。御堂のすぐ横を通り過ぎていって、また

ビルの一階部分を突き破って視界から消えていく。 

 塵となって空中に浮いている暁だけが安全だった。

「御堂さん、転がってくるときに槍で突き刺して止められませんかね?」

「無理だろ。向こうは高速回転してきてるんだ。俺が無理矢理突き刺し

たってへし折られるのがオチさ」

 となれば投げるのも無意味だろう。同様に受け止めるのも無理。動き

を阻害しなければあのプレッシャーは止められない。

 今度は朝月の横にあったビルを突き抜けて突撃してくる。朝月は試し

に針天牙槍を伸ばし、突き刺すことで止めようとした。

「伸びろッ!」

 その声に応じて槍が急激に長さを増していく。プレッシャーの速度も

相まってあっという間に届いた穂先はプレッシャーに刺さり――さえも

しなかった。

「って、えええぇぇ!」

 槍は肉の塊であるプレッシャーに刺さりもせずに回転する方向に受け流

されてしまい、地面に先端を埋める羽目になった。そのせいで身動きの

取れなかった朝月は砂になっていた暁に助けられ、無傷ですんだ。

「だから無理だって言ったろうがっ・・・・刺さりさえしないとは思わな

かったけどよ」

 地面に刺さった槍の上にプレッシャーが乗ってきて、そのとき朝月が

手に握っていたせいで針天牙槍は見事に折れてしまっていた。朝月はその

折れた槍を捨て、すぐに新しい槍を取り出した。

『これじゃ手の打ちようがないな。春彦と金はさっきビルの上まで運んだ

から安全だとしても・・・・・どうす―――』

 そのとき、御堂と身体が浮く。暁は塵となっているので既に空中にいる。

朝月の圧砕重剣の重力制御で全員が浮いた。

 これでプレッシャーがどんなに転がっても攻撃は当たらない。あいつが

跳べない限りは。

「おお・・・・浮いた」

『これならあいつの攻撃は当たらないな。あとはどうやって止めるか・・

・・だな』

「朝月は何かないか?」

「と言われても・・・・あれだけの速度で移動している物体なんて捕まえ

られませんよ」

 朝月たちの下ではプレッシャーがゴロゴロと意味の無い移動を続けてい

る。立ち止まったらその瞬間、攻撃を受けることを理解できているのだ

ろう。

『・・・・ッ!』

 突如、暁が砂から人間体に戻る。朝月は重力制御を咄嗟に適用させる

ことができたが、暁は一声、

「ここから動けッ!攻撃が来るぞっ!」

 その直後、周囲の気温に変化が生じる。同時に息苦しいような、圧迫

されるような感覚。朝月は急いで重力制御をし重力を加えて一気に高度

を下げる。そのお陰で一番高い位置にいた朝月の髪の毛が少し巻き込まれ

るだけで済んだ。朝月のすぐ上では空気が圧縮されて超高温の空気層を

生み出していた。

「朝月、まだだッ!」

 下を見ていた御堂が鋭く叫ぶ。そのとき朝月は周囲の異変に気付いた。

「な、なんだこりゃ・・・」

 自分の真上、自分のいる場所、その更に下、見当違いな方向。至る場所

で気温の上昇が分かった。

「とりあえず何も無い場所まで上がるか下がるか何かしろっ!このままじ

ゃこんがり丸焼けだッ!」

 御堂の言葉に従って三人分の身体を横へ移動させる。ビルの中へ無理矢

理突っ込ませた。

 ガラスを突き破って突入したビルの中が何も変わっていないことを確認

してからようやっと息を吐く。

「ふぅ・・・・あの野郎。痛ぇならやるなっての」

 割れたガラスから下を見る。一度転がっていってまた戻ってきたところ

なのかプレッシャーが真下を転がっていく。その眼球は大きく開かれて

いて血と一緒に涙を流しながら転がっていく。

 ――ギィィギギィィィィイイッ!

 必然的に地面に眼球を高速で擦りつけながら転がっていることになる。

相当痛いのか雄叫び(悲鳴?)に同情を感じた。

「しばらくここにいるとしよう。このビルの屋上には春彦と金もいる

から、ここであいつを止める方法を検討しよう」

 暁の周りに集まる。そこで円陣を組んで意見の出し合いを始める。

 ――ギィィィィィッ!

 下からは叫び声が聞こえるが無視する方向で。

「さて、どうやって止めるかだな。空中に打ち上げるのが一番か?」

「いや、御堂の場合だと打ち上げたって今まで回転していた分は残って

しまう。空中にいる間に回転が止まるとは思えない」

 プレッシャーは朝月たちがいないのを知っているのかいないのか、ま

だ転がり続けているようだ。

「でもよ、あんなでかいの打ち上げる以外にどうやって止めるんだよ?

朝月の重力制御で簡単に―――」

「それは無理です」

 御堂の言葉を朝月が遮って否定する。

「俺の重力制御は目標を指定しないと効果が出ません。移動する物体を

目標指定するのは大変なんです。ましてや、あんな速度でビルの陰に隠れ

ながら転がってくる奴を指定するなんて無理です」

 これで御堂の打ち上げ案は廃止。次は朝月が言った。

「暁さんの塵を固めて受け止められませんかね?」

「無理・・・だろうな。砂なら強度もあるだろうけど、あいつが固める

だけの時間を与えるとは思えない」

 受け止め案も廃止。そもそも、縦横無尽に転がっている肉塊をどうや

って止めることができるのか。今はもう速度は自動車を軽々越えている。

「・・・・・そうだ、ブレーキだッ!」

 御堂が立ち上がって言う。まさに名案というように輝いた顔があった。

「ブレーキ?」

「そう、それだよそれ!ブレーキだっ!」

「・・・・いけるかもしれない」

 御堂の案を聞いて暁は頷いた。微かに見えた勝機。朝月もブレーキ

ならいける、と思った。

三人が早速行動に移ろうとした時、突如としてビルが揺れた。

 ズズゥン!と漫画か何かの効果音のように揺れ、傾いた。

「ちょ・・・!傾いてんぞ!」

「まさかあいつ・・・・!」

 暁が急いで窓の下を見る。そこには何度もこのビルの下を通過している

プレッシャーが見えた。

「あいつ、俺たちがここにいるのが分かったからビルごと倒そうってハラ

かよ!」

 朝月の重力制御で窓から飛び降りる。そのとき、上から声が聞こえた。

「朝月君・・・・・!僕たちもお願いします―――――っ!」

「って、おおおおい!」

 春彦と金が屋上から落ちてきていた。真っ逆さまに凄い速度で。

「任せろ!」

 暁が砂となって二人を受け止める。砂だって、使いようによっては今

みたいにクッションにもなるんだなぁ、と思った朝月と御堂だった。

 その横ではビルが轟音と土煙を立てながら崩れていく。まさか漫画や

バラエティ番組以外でこんな光景を見ることがあろうとは。

 崩れ去った瓦礫を跳ね除けてプレッシャーはまだ絶賛回転中だった。

 空中に留まったまま、御堂が言った。

「これから作戦を言うぞ。タイミングが命だからな―――」

 ・・・・・

 ・・・

 ・

 作戦を聞いた朝月たちはすぐ行動を開始した。プレッシャーの攻撃を避け

ながらそれぞれが移動して、準備はすぐに整った。

 春彦と金はまだ戦力外として別のビルの屋上に避難してもらっている。

その上で朝月と暁が空中に浮いている。目の前には道路一本道。空中に浮いて

いる以上、プレッシャーは空気圧縮を使ってくるはずだ。

「さて・・・・あとはあいつがこっちの思い通りに動いてくれるか・・・・」

 朝月がそう呟いた直後、何十mも先でビルの一階部分を突き破ってプレッ

シャーが爆走してきた。

「来た!」

 朝月がフェイスバイザーの通信を入れる。御堂に繋いでいつでも状況を

伝えて合図できるようにする。

 タイミングを逃せば成功はしない。次も無いと言える。もしプレッシャーに

経験を積んでそれを学ぶだけの頭脳があるなら、次は無い。

 この作戦には運も結構重要な要素なのだ。

『よし・・・・一直線にこっちに向かってくるぞ!』

 暁の言うとおり、プレッシャーは空気圧縮を乱雑に張りながら朝月たちの

いる場所へ向かって一直線に転がってきている。作戦通りだ。

 その速度を見て朝月は驚く。さっきよりも速度が増していたからだ。作戦

通りではズレてしまう。この場で新しく計算するしかなかった。

 カウントダウンを始める。これが一秒でもズレてしまえば作戦全体が失敗

してしまう。

「5・・・4・・・3・・・2・・・1―――」

 朝月のカウントダウンが終わった時、一秒の間もおかずに御堂が飛び出し

た。そのタイミングにばっちり合ってプレッシャーが御堂の前を通る。御堂

が側面から攻撃を仕掛けた。

「伸びろ、貫けッ!」

 御堂の声に呼応して針天牙槍が伸びる。御堂が手を前に突き出す速度と

相乗効果で一気に伸びた。

 そして、御堂の前を通ったプレッシャーの中心――横から見ればプレッシャ

ーの中心部分は回転していない。タイヤの中心を思い浮かべると分かり易い。

 そこを針天牙槍が正確に貫いた。

 ――ギギィィィィィィィイイイッ!

「ぃよいっしょ―――っ!」

 槍の穂先が貫通したのを手から伝わる感覚のみで判断し、御堂は槍を

持ち上げた。中心を貫いたって地面にいる限りプレッシャーは進み続ける。

御堂が引き摺られて終わるだけだ。だから御堂は力を出し切って長くな

った槍を旗を立てるように上へ持ち上げたのだ。

『よしっ!動きが止まったッ!』

 空中へ持ち上げられたせいでプレッシャーの回転は意味を成さず、その

場で空回りするだけ。その勢いも次第に弱くなっていき、横転した車の

タイヤのようにゆっくりと止まった。

 ――ギ・・・?ギィィッィイイイっ!

 プレッシャーが暴れだすが手が無い。今の状況でプレッシャーにできる

ことなど何も無かった。

「今だっ!やれ朝月ッ!」

 御堂が叫ぶ。御堂自身は槍を両手で抱えているために身動きができない。

朝月が暁の砂で運ばれていく。片手で針天牙槍を投擲し、空になった両手

を中空にかざした。

「もう転がれないようにデコボコにしてやるぜッ!」

 

[Sword Knight]


 空間を裂いて刀が姿を現す。朝月の兄である夜月が扱うDEATH UNIT

を今、朝月が使う。朝月の着ていた上着に電子的な文字が浮かび上がり、

誰のものとも知れない声が響き渡った。そして空間が割れ、刀が姿を現す。

 それを無造作に引っ掴み、朝月は身動きの取れないプレッシャーに突き

刺した。

 ――ギギィィィィィィィイイイッ!

「おらぁあああああッ!」

 何本も何本も突き刺し、引き抜くことはせずに新しい刀を引っ掴んでは

突き刺していく。一分も経たないうちにプレッシャーの丸い肉体は刀の

柄と突き抜けた刃でデコボコになっていた。

 回転も勢いを失い、中心を槍に貫かれ、全身に刀を突き刺されたプレッ

シャーは一切の身動きをせず、大きな眼球もまた光を失っていた。

「終わり・・・・・かな?」

 朝月の呟きを合図に御堂が手を離す。槍は重力に従って横倒しに地面

へ倒れパイプが地面に落ちたのと同じような乾いた音を響かせた。



直後に続きます。一応連続した話だから間を開けないほうがいいかもNE☆


では次回へ~。

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