断章
今回は断章なのでとても短いです。
存在しないはずの章――――空間の狭間
常人なら十分程度もいれば発狂してしまうであろう空間の狭間に、一人の
男がいた。夏彦たちが通ってきた場所とはまた違った場所に居を構えるこの
男は、一切の常識が通用しない空間の中に平然と居座っていた。
夏彦曰く、遠くて近い。長くて短い。遅いのに速く感じて、大きいのに
小さく、高いのに低く感じる。空間。この男が常人でないことは明らかだ
った。
「本当にこの世界は面白い―――――憎らしいほどに」
男の前にはいくつものモニターのようなものが陳列している。機械的な
モニターではなく、超能力的なモニター。中空に浮いている。
幾つもの世界を見る男。自分の世界に絶望し、自分の望む未来を求め、
多重世界にそれを見出した男。未だ叶わない自らの願いを、今混乱に見舞
われている世界に託していたのに。
五十年以上もの間、見てやっていたというのに。
「どうして予定通りに上手くいかないかねぇ・・・・もう何百年目だろう
な。こうして私自身に失望していくのは」
彼の言葉に同意するように背後で何かが大きく輝く。近くで見上げれば
視界に収まりきらないほどの大きさを持つ、クリスタル。
まるで“未知の欠片”に似たそれは内部で液体のようなものが蠢き、
時折人の顔のようなものが映ったりする。
「あの世界ももう終わる。破滅に突き落としてやったからな。そうしたら
――――次の世界へ行こう」
巨大なクリスタルの影にひっそりと、目立たずにある水槽のような物体。
その中には、一糸纏わぬ姿の美少女の遺体が、ただ一つ、在った。
連続で投稿するので次の章へ移って頂いて結構です。
次章から本編に戻ります。