復讐という無意識
ここら辺から主人公が壊れていきますが、その心情変化がうまくできませんでした。
自分の文章力のなさが浮き彫りになった瞬間です・・・・・orz
第十一章 無くなったと思った、けど、そこに在った復讐心
かつての仲間であり、今では激しい復讐の対象である軌条氷魚に相対
した俺は力の限り叫ぶ。
「どうしてだ軌条ッ!華南さんはお前の幼馴染だったじゃねぇのかよッ!」
圧砕重剣を軌条に向けて水平に構える。俺の突然の行動に驚いたみたい
だったが華南さんの名前が出た瞬間に表情を酷く歪めた。
「ああ、そうさっ!だからこそ、あの場で華南の死を無駄にできるわけ
ないだろッ!」
「だからって――っ」
バラバラにしなくてもいいじゃないか。
そう言ってやろうと思った。でも、一番辛くて一番悲しくて一番痛いの
は軌条のはずだから。恋人を自らの手で殺してしまう怖さは俺もよく知って
いる。ついさっきまでそれに恐怖を抱いていたから。
「あそこで俺が攻撃しなきゃ、俺も死んでたっ。下手をすればお前らに
だって被害が及んだ可能性もあったんだぞっ!そんなの見過ごせるかっ」
俺は思う。どの口がそんなことを言うのかと。あの事件の時、俺たちの
命を蹴り飛ばす石のように扱った男が、何の躊躇いも無く、任務だからと
いって殺そうとした男が何を言うか、と。
「どの口が―――」
「・・・・ん?」
「どの口がそんなこと言うんだって言ってんだよッ!」
突然の怒声。それに驚いたのは軌条だけでなく、漂っていた暁も、後ろ
にいる御堂さんたちもびっくりしているようで、
「この町で起きた五年前の惨劇っ!その場で俺を殺した奴が、今更俺たち
を助けようなんてすんのかよッ!」
「・・・・お前」
瓦礫の下で何かが動く気配がした。ちらりと視線を向ければそこには
満身創痍のE4が最後に残った一本の鋏を俺に向けて伸ばしてくる所
だった。
「あ、朝月っ」
軌条の声。それは心配そうではあったけれど、今の俺にはそれが偽り
に思えてならない。激しい復讐心のせいで、軌条や暁、アッシュたちが
どんどん悪に、敵に思えてきてしまう。思い込み―――というのか、
精神が感情に作用してしまっている。
「邪魔だ―――」
E4を睨む。そして誰のものとも知れない声とともに右腕に文字が
浮かぶ。
[Scale]
右腕から銀色の鱗が剥離していく。それは海深の護鱗に酷似していて、
まさしく護鱗そのものだった。電子的な文字は“鱗”を意味いしていて、
海深のDUである護鱗を体現していた。
俺とE4の間に重なるように綺麗に並んでいく。自分の意思で動かせる
のは便利だが、やはりというか操作が大変だ。
金属同士のぶつかる嫌な音が鳴り、鋏が完璧に防御される。刃先が
欠けたのを見た俺は間を置かずに今度は左足に意識を集中する。
[Reflection]
振りぬかれた左足に浮かぶは“反射”を意味する言葉。それに呼応し
て光線は左足から放たれる。本来雪女が使うはずの能力を俺が使う。
何度も反射を繰り返した光線はE4の最後に残っていた鋏を根元から
へし折り――折るというよりも溶解に近い、最後の武器を奪い去った。
E4の咆哮が響く。それが最後の武器を失ったことに対する絶望なの
か、痛みによる咆哮なのかは判らないが。
脅威の対象でなくなったE4は恐れるレベルではない。護鱗を解除して
左腕をE4に向けた。
「失せろ」
[Distance]
左腕に浮かぶ文字は“遠距離”を意味して、左腕がグレネードランチャ
ーへと形を変える。影名の使っている能力を俺が使って、E4へ向けて
弾薬のある限り連射する。
グレネードが連続で爆発する。総勢六発。全て撃ち終わり煙が晴れる
頃のはE4は跡形も無く消え去っていた。
静寂が包むのは一瞬。左腕を元に戻した俺は軌条を見据えて糾弾する。
「答えろ、軌条」
DUを解いた暁にも向けて問う。
「あの事件で俺を殺して、皆を傷つけたのは、お前らなんだな?」
「・・・・ああ」
憎しみが増す。俺を殺した。皆を苦しめた。陽の死という束縛から逃
れた俺に平穏は訪れない。復讐をしても意味を成さず、かといって
復讐せずにいられるほどこの感情は軽くない。例え復讐を果たしても
復讐心が消えることが無いとわかっていても。
「お前が覚えていないなら、それでいいと思った。無理に思い出させる
必要も無いだろうと思ってな。今回はそれが逆効果になっちまったみたい
だな・・・・」
軌条の表情を見る限りは悲しそうに見える。でも、それが偽りにしか
見えなくなってしまっている俺は信じることができなかった。
心では理解できている。復讐に意味は無く、よってこの憎しみも意味
が無いことも。
「話す必要も無いかもな・・・・・あの事件に関しては、お前の知って
る通りなんだから」
「教えろ、あの時にどんな指令が出ていたのか」
軌条のことを少しでも知っている俺は彼が意味も無く人を殺すように
は思えなかった。好き好んで人を殺すようには見えなかった。だからこそ、
今ここで説明を求める。
もしかしたら、俺が本当に憎むべき相手も、俺が本当に戦うべき敵も
判るかもしれないなんていう根拠の無い期待を持って。
もしかしたら、真実を知ることで軌条に対する復讐心も薄くなって
くれるんじゃないかと思って。
「あの時出ていた指令・・・か。聞いて楽しいもんじゃないと思うぞ?」
「いいから言ってくれ。俺は知りたいだけだ」
「そうかい。なら語らせてもらうよ」
圧砕重剣に向けられた視線を感じ取ったために剣を降ろす。決して解除
することはしないけれど。
御堂さんも兄さんもこっちに来た。他の皆はここにいるようにとでも
言われたのか、聞こえるから動かないだけか。
「五年前、俺と輩蓮はその頃から既に隊長でな。十四も修之も隊長で、
俺たちは仕事にあくせくしてた。修之がここの隣街に出て死人の保護を
した後のことだ、俺と輩蓮は上層部の連中に呼び出されて調査命令を
受けた。調査対象は飛沫町。飛沫町にて反乱分子であるBGの動向を
探って来いという命令だった。
報告書を提出してしばらく、全隊長を集めて開かれた会議で飛沫町
強襲作戦が提示された。作戦名は「虹色の殲滅戦」。ふざけた名前だろ?」
そこで言葉を切った軌条の後を引き継いで暁が続きを語る。
「作戦内容はこうだ。「飛沫町に本拠を置くと思われるレジスタンス組織・
THE BLOOMING GARDENのメンバーの捕獲及び殺害。隊長格総動員
での作戦になるので目撃者は全て排除。町の住民そのものがBGの構成員
の可能性もある」だとさ」
「なん・・・・だよ。その指令・・・・」
俺は愕然とする。あくまで管理が仕事だと言い張ってきた死兆星。しかし
その実、死人の殺害さえも許可してきたってのかよ。
セブンスカラー・フィナーレを引き起こしたのが死兆星であることは
知っていた。でも、その場の殺害は兵士の独断だとも思っていた。どんなに
死兆星がダメな組織でも管理という名目上殺害命令なんて出さないと思って
いたのに。どこかで死兆星を信頼していたのかも。
「無茶苦茶だ・・・・管理するための組織なのに、殺害命令だなんて。あんた
らはそれに従ったのかよっ」
「当然、反対したさっ。でも、一隊長でしかない俺たちに上層部の決定を
覆せるだけの権限は無かった。もちろん、他の隊長にもな。皆が皆反論しつつ
も結局、従うしかなかったってわけさ」
「参加者は全隊長格。別任務の第一部隊隊長と戦闘向きじゃない第五部隊
隊長以外の全ての隊長があの作戦に参加した。当然、十四もいたし、お前の
先代の第三部隊隊長もいた」
先代―――。
俺は先代のことを殆ど知らない。誰も教えてくれないということもあるが
自ら知ろうとしなかったのもある。
しかし、全隊長格の参戦・・・・ということは、俺の知っている隊長全員
があの場にいたことになる。
先代、華南さん、音無さん、軌条に暁、それに――御堂さんも。
視線を逸らす御堂さんは参戦の事実を物語っていて。
「かくして作戦は始まった。まず第五部隊の新兵器である自動飛来型爆弾・
レインボーハートを使って町全体を爆撃。後に隊長たちを投入して死人と
疑わしき町民および目撃者の全排除を開始。各自、対象を発見次第行動に
移れ、とのことだった。命令に従うしかない俺たちは行動したよ。嫌々ながら
行動して、朝月を見つけて、攻撃した。失敗したとは思ってなかったからな。
二度目に見つけたときは驚いたぜ」
それからその場にいた俺たちを殺そうとした、ということか。
理解もしたし納得もできた。俺の意識ではもう復讐なんて考えていない。
思ってもいない。
でも、俺の無意識がそれを認めない。許容しない。無意識がたとえ一時でも
生きる目的を失うのを恐れている。
俺は、俺が生きるために、生きる目的を失わないために軌条を殺そうと
している。
心の奥底で無意識が未だに憎しみを訴えている。
「そうだ・・・・もう一つ教えてやるよ。お前の先代のことだ」
誰も教えてくれず、誰も教えようとはしなかった。俺自身もいつしか
知ろうとしなくなった存在。俺が就任する前の第三部隊の隊長。
「お前が第三部隊の隊長になる一年前まで隊長をやっていて、当然あの
作戦にも参加してた。名前は―――」
そこで、突然御堂さんが止めに入った。酷く慌てた様子で。
「や、やめろ軌条ッ!言うんじゃないッ!」
しかし、言葉は紡がれてしまった。そしてその事実は俺の予想の斜め
上を行く事実で、兄さんさえも驚愕させる事実だった。
「―――常光緋月」
「・・・・・ッ!」
常光緋月―――俺が生まれるのと同時期にいなくなった俺の姉。顔
も知らない姉。それが「虹色の殲滅戦」に参加していた――?
「じゃあ――姉さんは自分の手で自分の生まれ故郷を焼いたっていう
のかよッ!?」
兄さんの激昂が聞こえる。兄さんは姉さんとの記憶がある分、俺よりも
信じることができないでいるのだろう。
「そうなるかもな。常光緋月は作戦後、何かヤバイことに手を出していた
らしい。そして、DUの侵食限界が来た。死兆星による死を拒んだ彼女
は愛する男にその命を奪われた。組織の卑劣な手段によって」
愛する男によって命を奪われた。俺の憎しみが、その名前も知らない男
にも向いてしまう。終わり無い復讐心が無差別に、ほんの僅かな理由だけ
でも復讐の対象に仕立て上げてしまう。
顔も知らない姉を殺した男を。
「・・・・その男の名前は・・・?」
「――聞かないほうがいい、と言ったら?」
「力ずくでも聞き出す」
剣を構える。それを見た軌条は視線を向ける。その先には――御堂さん
がいた。目を伏せ、明らかに俺から目を逸らしている。
「まさか・・・・御堂さんが?」
「・・・・」
無言。それは肯定と受け取っていいのだろう。確かに御堂さんは言って
いたじゃないか。あの公園で。
『さっきの質問、俺が仲間を殺したことがあるか、だったか』
『殺したよ。この手で、最愛の女性をな――――』
その最愛の女性と言うのが、姉さんのことだったのだ。
「十四がお前を気にかけるのは修之が拾ってきた子供で、緋月の弟だ
からだ。恋敵が拾ってきた恋人の弟――」
御堂さんはやはり、視線を合わせようとしない。結局は、それが全て
だったのだ。俺の面倒を見てくれたのも、姉を殺してしまった罪を少し
でも償おうとしての行為。信じたくなんかなかった。でも、御堂さんの
行動が、俺に信じさせてしまう。
俺の無意識の憎しみの矛先が、御堂さんにまで向いてしまった。
「すみません、軌条さん、暁さん」
理性はある。けれども、俺は無意識に突き動かされて二人を攻撃する
だろう。だからこそ今、最後に残った理性を総動員して言わなければいけ
ない。
「逃げてください。俺はたぶん、自分の無意識に逆らえない。根底に
ある復讐心が二人を――いえ、御堂さんも攻撃させます。だから逃げてく
ださいっ」
たぶん、こう思うことももう無くなるだろう。自分の理性よりも、意識
よりも強い無意識に呑まれて、復讐することが当然と思うようになって
しまって―――。
「逃げてくれよ。あっさり殺せちゃ、復讐の捌け口が無くなっちまうから
さぁッ!」
[Blaster]
右足に浮かぶ文字。落葉の力が俺を一気に軌条の眼前まで運ぶ。爆風
が御堂さんと兄さんを牽制して動きを阻害する役目も果たした。
「死ねよ」
これが俺の意識じゃないとしても、結局はこれが俺の根底にある感情
なんだから。それに逆らえない俺はやっぱり臆病なのかな。
今まで「心を閉ざす」という理由で他人と関わりを持つのを極力避けて
きた。今も無意識に突き動かされて、という理由で他人と無意味に関わる
ことを避けている。無意識に動かされていれば、目的がそっちにだけ向い
ていれば、他人に興味を持たなくて済むからと。
結局は他人と深い関係になって、それをあっさり失うのが怖いんだ。
その恐怖も、俺が無意識に逆らうことをできなくさせている。
「ダメですッ!朝月君―――ッ!」
振り下ろそうとした圧砕重剣が何かによって無理矢理止められる。刃
には何重にも堅固な鎖が巻きつき、俺の身体さえも雁字搦めに縛って
いく。
「は、春彦っ!」
「ダメですっ。こんな・・・・こんなことしたって、何にもならないじゃ
ないですかッ!」
ああ、春彦は昔から争いごとが嫌いだったな。だから、自分の意思に
関係無く攻撃してしまう俺を見ていられなかったのだろう。
「はずせよ・・・・。はずさないなら――っ」
発動したままだった“爆心地”を使って右足に巻きついている鎖の
一欠片に触れる。鎖は環状の部品一つ一つで独立しているから、両掌
サイズしか変換できない“爆心地”でも爆発させられる。
鎖が解け自由になった足を跳ね上げて右腕に絡み付いていた鎖の
一つを爆弾に換えて切り離す。圧砕重剣を一度解除してから間を置かずに
発動させた。
[Cataclasis]
それを春彦に向けて振りぬいた。
「お前も死ね」
もう、無意識を自意識と錯覚してしまっている俺にはこれが間違った
行動には思えなくて。
でも、臆病な理性はどこかで見ていた。
だからか、一瞬だけ剣が止まった。そこを春彦じゃない何かが見過ご
さずに剣を弾いてくれた。
ただの蹴りだけで圧砕重剣を弾いたのは春彦―――じゃない。外見は
全く一緒なのに、雰囲気が全く違う。
「何やってんだよアサツキ!自分の無意識なんかに乗っ取られやがってッ」
「お前・・・・誰だっ」
雰囲気の全く違う春彦は答えた。全く持って以外な答えで。
「俺はハルの守護人格・ナツヒコだッ!」
春彦の――いや、夏彦の首から下げられた二つの指輪が見えた。その
リングにはローマ字でHARUHIKOとNATSUHIKOと彫られていた。
空中に伸ばされた夏彦の右手。夏彦のその手に緑色の何かが集まる。
「来たれッ!」
針金が複雑に組み合わさって、最後に肉付けするかのようにして顕現
した深緑色の刀。少し振るわれただけで大気を振動させる未知数の刀。
「縁絶ッ!」
俺はその力に恐怖する。まだ能力も判明していないのに、得体の知れない
恐怖感が無意識さえも萎ませる。
「お仕置きだっ!しばらく空間の狭間でも漂ってやがれッ!」
俺目掛けて振り下ろされた刀。両断されたかと思えばそうではなく、どう
いう原理なのか俺の後ろの空間だけを切り裂いていた。
「俺の邪魔をするなぁあああっ!」
呑み込まれまいと必死に足掻いても、最後に夏彦に蹴り飛ばされて俺は
空間の狭間に呑み込まれる。
様々な色が交じり合って、気持ち悪い色彩となっている。何と言えばいい
のだろう・・・・・的確な言葉が見つからないような、俺の知らない色。
全方位をそれらが占める空間で、俺は漂う。もう、入り口はしまっていた。
身体が浮いているような、流動体の中を移動しているような感覚が耐え難
くて、俺は意識的に目を閉じて、眠りの中へと落ちていく。
さっさと復讐したいという焦燥感が眠りを拒む中で、臆病な何かが安堵の
息を吐いた。
今まで前書き後書きと何も書いてきませんでしたが、それを不快に思っていた方がいらっしゃったらお詫び申し上げます。すみません。
ここから最後の戦いに発展していくのですが、ちょっと無理やりな感じもあるかもしれません。
もし「ここは強引だ」とか「不自然だ」などの感想があれば、そうぞ、容赦なく言ってやってください。
あ、もちろん普通の感想でもいいですよ~。では、また次回。