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ブルームシード

第三章過去の傷で、過去の居場所だった人々。


 昨日の宴会のせいで酷く疲れた。時刻は六時半。いつもの起床時間

だが起き上がれない。

 今日は水曜日だ。今週はまだ今日含めて三日ある。この疲れをどこか

で消さないと辛い。辛すぎる。

 今日休むか?いや、金たちが来て連れていかれるだろう。だったら

起きるしかない。

 そう思ったところで携帯端末が震えた。

 驚いたことにこのセントラルでは携帯電話とは言わないらしい。

携帯端末と呼んで通常の携帯電話機能に加えて小型化もされている

し処理能力も容量もノートパソコン並みにあるのだという。USB

メモリーも接続できて外部取付ハードディスクも使える優れものだ。

このセントラルのノートパソコンは市外のデスクトップパソコンに

匹敵するらしい。

 開いて見ると春彦と金からだった。

『今日身体動かないから休む~。そっちも休むなら言って~』

『今日は昨日のせいで非常に疲れてしまったので学校を休みます。

二人はどうしますか?』

 そのメールに『俺も休む』とだけ書いて返信する。

「あいつらも一緒かよ・・・」

 布団に潜る。今寝たら起きるのは何時だろう?自力で起きるのは

難事に違いない。

 上手いこと言ったのを理由に目覚ましを適当にセットして寝た。



 目覚ましが鳴らなかった。否、俺が気付かなかっただけだ。

 時刻は午後四時。約十時間寝た計算だ。

「我ながら、良く寝たなぁ」

 そう思いつつベッドを出る。腹が減った。当然だ、朝も昼も抜いている

のだから。

 後二時間弱で夕飯の時間になる。金が作りに来るかは不明だがあまり

沢山食べてしまうと夕飯が食えなくなってしまう。

 適当に数個のパンと飲み物を取ってきてパソコンの前に座る。

 起きたら調べてみようと思ったことがあったのだ。

 検索システムに「エクスクレセンス」と打って検索をする。

 すぐに出てきた。それをクリックして内容を見る。

『最近エクスクレセンスとかいう怪物に襲われた』

『あれだろ?確か死人の成れの果てとかいう』

『つぅかもう死人みんなエクスクレセンスでよくね?』

『同意。あんなバケモンたちがいるかと思うと怖いす』

「・・・・」

 俺はエクスクレセンスと死人が世間的にどう思われているか。

 この結果は当然と言えば当然である。一般人にとってDUは恐怖の

対象でしかない。最近はそれが暴走しているとあっては恐怖心に拍車

がかかるのも当然だ。

 落ち込みはない。こうなることは分かっていたのだから。

 そのとき携帯端末が震えた。

 煩わしく思いつつも手に取る。開いてみるとそこには死兆星の文字が。

 呼び出しだ。

 通話ボタンを押して耳に当てる。

「こちらアルトレイン隊長・常光朝月。どうした?」

『こちら死兆星本部!THE BLOOMING GARDENの本隊が攻撃を

仕掛けてきましたッ!』

「何ッ!?場所は?」

『デルタセントラルシティ東中央公園です。急いでください!』

「了解した!」

 木刀を乱暴に掴んで鞄に手を突っ込む。その中からヘッドホンのような

もの――まぁ名称はフェイスバイザーなのだが、それを掴んで外に出る。

 ここから東中央公園まではすぐだ。走って五分とかからない。そんな

場所で戦闘が起きているのに気付かないとは。何をしてんだ俺は?

 道すがらフェイスバイザーを付ける。目の前に現れたディスプレイに

アルトサイレントから寄越された情報が羅列されている。

 現状は最悪、第二部隊が少数で居たところを襲撃されたらしい。襲撃

されたのは第五部隊アルトサイエンスの東中央支部。第五部隊のなら

放っておきたい気分なのだがあれでも死兆星最大の研究・開発機関だ。

壊滅されてもらっちゃ困る。

 途中で春彦と金と合流する。互いがフェイスバイザーを付けていた。

 襲撃したのはBGの六人幹部会・ブルームシード。

「ブルームシードって確か相当強いんじゃなかったっけ?」

「そうですね。隊長格でないと触れることもできない連中だとか」

 その言葉を聞きながら音無さんに連絡を取る。

『こちら現。どうしたの?』

 コールしてすぐに繋がる。

「敵のリーダー格はどこにいますか?」

『どうしてそんなことを?敵はブルームシードよ。叶うわけ・・・』

「いいから教えてください。倒せなくても誰かが止めなくちゃいけない

ですから」

『・・・・』

 しばしの無言。その後に答えが返ってきた。

『東中央公園の殆ど真ん中。ていうか全員固まってるからそのまま三人

で向かって。防衛隊は壊滅してるから』

「了解しました」

 通信を切って二人に言う。

「ブルームシードは公園の真ん中にいるそうだ。防衛隊は壊滅してるから

急ぐぞ!」

 二人の返事を聞かずに走る速度を上げた。



「ま、待ってくれ・・ッ!」

 そう叫ぶ死兆星の隊員を仮面から覗く冷徹な瞳が見下ろす。

「お前たち中になら回復系の死人だっているだろう?」

 そう言って右手に持った刀を振り下ろす。

「ぎゃあッ!」 

 隊員の腕が飛ぶ。切断された腕は宙を舞って地面に落ちる。

「これで終わりか。呆気ない」

 そう言った青年の背後にいる五人の少女の一人が頷いた。

「そうだな。刀騎士だけで終わっちゃうなんて拍子抜け」

「護鱗も多面鏡も使わなかったね」

「それに越したことはないと思うんだけどなぁ」

 青い髪の少女と茶髪の少女、桃色の髪の少女が言う。

 残りの二人、銀髪の少女と黒髪の少女は沈黙している。

「俺たちの復讐相手にしては、物足りないな」

「でもこれが全力じゃないでしょ?」

「流石にそれはないと思うよ?」

 仮面を付けているために少女たちの素顔は分からない。それでもまだ

十五、六歳の少女だと分かる。

「お前たちか。ブルームシードってのは」

 その声に振り向いた。少女と青年は愕然とした。

 そこには自分たちの知る人物が、敵としていたからだ。



「お前たちか。ブルームシードってのは」

 ようやく辿り着いた時には防衛部隊は全滅。そこらに腕やら足やらが

散乱している。死者はいないようだが惨いことをする。

 目の前には仮面を付けた男が一人。その後ろに形の違う仮面を付けた

少女が五人いる。

 こっちを見たまま動きを止めている。驚いているのか?それとも俺に

何かあるのか?

 すると背後から春彦と金が追いついてきた。

「朝月君、早いですよ~」

「先走りすぎ。敵は最強クラスだよ?」

 息を切らしている様子のない二人は前の六人を見る。

「あなたたちが、六人幹部会・ブルームシードですね?」

 春彦が問いかける。それに青年は答えた。

「ああそうだ。六人幹部会・ブルームシードリーダー・(かたな)騎士(きし)

 身を引いて後ろにいる五人の少女たちを前に出す。

「これから戦う相手に名乗る。それは例え、復讐すべき相手に対しても

名乗ると決めている」

 一人ずつ前に出てくる。まずは桃色の髪の少女からだ。

「六人幹部会・大伽藍(だいがらん)

 それに続いて青い髪の少女が前に出る。

「同じく()(りん)

 茶髪の少女も間を置かずに出てくる。

「同じく心地(ここち)

 ・・・・。

 少々の沈黙の後、銀髪の少女が慌てて出てくる。

「えっと、(かがみ)です」

 そう言ってすぐに下がった。

 もう一人の少女は無言。本に目を落としていてこっちのことにはまるで

興味が無いみたいだ。

(じゅう)有士(ゆうし)

 ぽつり、と呟いた。こっちを見さえもしねぇ。

 だが、俺はこのブルームシードの面子に会ったことがあるような気がした。

 そんなことはない。そう思っているのに誰かの顔が思い浮かぶ。

 誰かは分からない。もし知っている人物なら顔を見れば一発なんだがな。

 それでも分かる。こいつらは強い。俺でも勝てない。修之さんクラス

なんじゃないだろうか。

「お前たちは?まだ名乗ってもらってないぞ?」

 そうだな、と呟いて前に出ようとしたが先に金が出る。

「死兆星第九部隊アルトブレイン隊長・湖子宮金」

 次こそは、と動いたが春彦に手で止められ先に行かれる。

「同じく第七部隊アルトスター隊長・一駿河春彦」

 二人の名乗りの後にようやく俺の番が来た。

 何で最後なんだよ。まぁどっちでもいいけど。

「同じく第三部隊アルトレイン隊長・常光朝月」

 俺の名乗りの後にブルームシードの面子の空気が変わった。

 疑問が確信に変わったような、そんな感じだ。

「そうか・・・・」

 そう言って刀を収めた。

「退け」

「なんだと?」

 俺は聞き間違いかと思った。敵に撤退しろと言われたのだ。

「俺たちに戦闘の意思はない。ただこの施設を破壊したいだけだ」

「それが戦闘の意思表示だ」

 静かに言って木刀に手を掛ける。刀騎士と名乗った青年はまだ武器に

手をかけていない。

「まいったな・・・・無駄な戦闘なんてしたくないのに」

「それがこの惨状を引き起こしたヤツの台詞かよ?」

 周囲を改めて見る。そこには腕やら足やらを鋭利な刃物で見事に切断

された隊員たちがのた打ち回っている。血液が方々に飛び散り、まるで

人一人を丸ごと潰したような感じになっている。こういうのに免疫のない

一般人が見たら嘔吐しそうな光景だ。 

「仕方がなかったんだ。そっちが仕掛けてこなきゃこっちだって――」

「ふざけんなっ!理由がどうあれこっちから見たらそっちが一方的に悪

なんだよ!攻めてきたくせにウザったらしい言い訳してんじゃねぇ!」

 そう叫んで圧砕重剣を開放する。右手に感じる重い剣の重量。俺の生命

力を吸って現れた最高の相棒にして最大の敵。右手に現れた巨大な剣に

驚いたのも一瞬、すぐに刀に手を添える。

「螺旋を描け!」

 同時に春彦も解放する。その後に金が両手に警棒を持った。

「せあぁぁぁっ!」

 横薙ぎに大きく振る。それを見た刀騎士は避けることをせず刀で受け

止めた。当然、吹っ飛ぶ。バランスを崩さずに着地した刀騎士の手には

折れた刀があった。

「刀騎士が刀折られちゃ名折れだなぁ?」

 そう嘲りを込めて言う。しかし油断はしない。呆気なさすぎると俺の

中の何かが警報を鳴らしていた。

「流石だな。巨大なだけはある」

 そう言って折れた刀を捨てる。そして両手を空間に向けた。ちょうど

肩の高さで水平に伸ばした感じだ。

「だが、それ故に―――」

 一瞬だけ、何も無い空間から何か出てきたように見えた。それは刀

とも単なる棒とも取れるものだった。そしてそれを確認する暇はなかった。

「動きは鈍重になる」

 目を閉じたその一瞬で背後に移動されたからだ。

「な・・・っ!?」

 驚きながら背後へ振り返り着地を狙って斜め下から振り上げる。

「どうしても振りは大きくなり細かい調節などできはしない」

 しかし圧砕重剣は空を切った。そこに刀騎士はいなかったのだ。

 剣を振るった時、ほんの少しだけ一瞬だけ剣の重量が増した気がした。

 それは気のせいではなかったのだ。

 振り上げた剣の刃の上に乗り、そのまま剣の勢いを使って飛び上がった

のだ。

 気付けば頭上にいた。その両手にはいつの間に持っていたのか二本の

刀が握られていた。

 あの時だ。消えた瞬間、何か持っているように見えたのはこの刀だった

んだ。

「そしてお前の大剣は幅が狭い。だから防御もままならない」

 俺の動体視力を超える速度で振るわれた刀。しかも振ったのは右手の

一本だけだ。

 剣を平らにして受ける。今防御できたのは運が良かったからに過ぎない。

 しかしバランスを崩してしまった。後ろによろける。

「そして、バランスを崩したらすぐに立て直せない」

 俺の背後で着地した刀騎士はすぐに反転、左手の刀を逆手に持った。

「それがお前の弱点だ」

 こいつは速い。俺の眼で捉えられる速度を超えている。すれ違った

のさえ見えなかった。

 でも分かった。なぜなら―――。

「ぅあああああッ!」

 俺の左腕に人生最大の激痛が奔ったからだ。



 朝月君が刀騎士と名乗った青年を吹き飛ばしていった。

 金に二人の少女が向かっていって大伽藍と名乗った少女を護鱗と

名乗った少女が護衛している。

 必然的に僕の前にいるのは銃有士と名乗った少女だけになるので

あって・・・・・。

「・・・・」

 無言。全くもって興味を示されてません・・・。

「あのぉ・・・・」

「・・・・・・・」

「あははは・・・・」

 やり辛い。完璧に無視されている。

「あなたに戦闘の意思はありますか?」

 そう問いかけてみる。

「話かけないで。今いいとこ」

 本から目線も外さずそう答えた。

「あの・・・・だからですね・・?」

「・・・・・・」

 また無言。

「無言は戦闘意思表示と認識します」

 待機させていた螺旋鎖鎌を少女に向かって飛ばす。少女の手前で止めた。

「ほんとにどっちなんですか?」

「・・・・」

 少女の答えはいきなり来た。

ドォンッ!

唐突にきた銃弾は僕の脇腹をかすった。

「っ!」 

咄嗟に避けた。もし回避が遅れていたら寸分違わず胃を貫かれていた。

「うるさい。いいとこなんだから邪魔しないで」

 その一言を言って本に視線を戻す。

 僕はこの少女を敵と認識した。あれだけのことをされて敵と認識しない

わけがない。

「捕縛しますっ!」

 そう叫んで螺旋鎖鎌を伸ばす。僕の生命力を吸って僕自身を、万物を

束縛しその力を内側に封ずる螺旋の鎖。

 少女の身体に何重にも巻きつく。それで少女は本を落とした。

「・・・・・」

 無言が続く。ついにその無言が破られた。

 その時に螺旋鎖鎌の能力を発動する暇はなかった。

「邪魔しないでよ」

 少女の両肩に急に、そうなんの前触れもなく―――いや、一応あったか。

何かパーツのようなものが現れて二つのグレネードランチャーと化した。

「ちょっ・・・・・ッ!?」

 流石に驚いた。銃声がして弾丸がかすったから銃器系の何かかとは

思っていたけど。

 まさか全銃器系とは・・・!

 放たれる弾頭は恐らく炸裂弾。当たらなければ問題ないはず。

 しかし甘かった。

 僕の前、五mくらいの位置で突如炸裂した。

「うわ・・・・!」

 炸裂するとは思っていなかった僕は反応が遅れた。

 破片が僕の顔の皮膚や腕の皮膚を引き裂いていく。

 爆風からは辛うじて逃れた。鎖の先にまだ感覚はある。切れてはいない。

 ガァンガァンッ!

 銃声が二回連続で起こる。回避行動を取ったが弾丸が飛来した気配は

なかった。

 代わりに鎖が切れていた。砕かれたようにして千切れている。

 それがさっきの銃声によって切られたことはすぐに分かった。

しかし解せない。煙の向こうの少女は何をしているのか。どうして

威嚇射撃さえもしてこないのか。

 思い切って煙を突破する。さっきの疑問はすぐに晴れた。

「ふー、ふー、ぺしぺし、よし。傷はない」

 地面に落ちた本を拾ってグルグル回して傷や汚れが無いか調べていた。

「・・・・・」

 その光景に何も言えなくなってしまう。

 脱力というかなんというか、改めて眼中に無いことを思い知らされた。

「キミ、いい加減に―――」

 しろ、と続けようとした。しかしその必要はなくなった。

 彼女がこっちを向いたからだ。

「あなた、なんで邪魔するの?」

「あなたがブルームシードの一人だからです」

 間を置かずに答える。それを聞いて少女の笑みが増した。

「なら、あなたは敵?」

 その問いに一瞬だけ迷った。ここで上手く説得できれば敵対せずに済む

のではないか?

 その自問もすぐに解決する。無理だ。少女の目は笑っていない。おそらく

コミュニケーション能力が低いのだろう。それ故に自らの片割れともいえる

本を攻撃されたことが許せない。そんな風に思っているのか?

「あなたは、敵?」

 今度は迷わず答えた。

「僕はあなたの敵です」

「ふふ・・・」

 少女は両手を上げた。その手の周りに黒い何かが現れる。

「あ~あ。お兄さんやっちゃったね」

 その声に視線を向ける。青い髪をした“護鱗”と名乗った少女がこちらを

向いていた。

「影・・・じゃなかった。銃有士はね、他人と関わりを持ちたがらない。

でも一度戦闘になると凄く強いんだ。しかもお兄さんは銃有士の大事な本

を攻撃したっておまけ付き。勝ち目ないね」

 その言葉を聞いて反論しようとした。しかしそれをする暇はなかった。

 黒髪の少女を見る。その両手はいつの間にかガドリングガンに変貌して

いた。

「ガ、ガドリング・・・・!」

 少女の両手が火を噴く。僕は咄嗟に数本の鎖を眼前で纏めて回転させた。

 ガガガガガガガガガッ!

 もの凄い勢いで弾丸が吐き出されていく。それを防いでいる鎖の隙間

から少女の姿が見えた。

 それを見た僕は恐怖した。

 少女の背中から六連装のミサイルランチャーが今にも発射寸前で待機して

いた。

「やばっ・・・・!」

 さすがにヤバイ。両肩あわせて十二発。さっきみたいに時限信管を入れられ

ていたらどんなに頑張っても逃げ切れない。

 放たれる。この鎖では受け止めきれない。回避しなければ。

 鎖をそのままに横に跳躍する。少なくとも爆風からだけは逃れなければ。

 弾丸がかすっても気にしない。それどころではないからだ。

 破片が直撃しても致命傷に至ることは少ない。しかし爆風は人体を焼く。それ

は一気に命を奪う足掛けになる。それだけは避けたい。

 爆風が起こる。なんとか範囲からは逃れられたが鎖の破片と弾頭の破片が

僕の身体を打つ。

「うぅ・・・・っ!」

 爆風の勢いに身を任せて後ろへ吹き飛ぶ。

 地面に転がって止まった時には僕の身体は傷だらけだった。

「これが・・・・ブルームシードの・・・実力」

 戦慄を隠せない。とてもじゃないが今の僕では太刀打ちできない。

 それは当然、金でも朝月君でも勝てはしない。

 少女が無言のままに肩のミサイルランチャーを再装填する。

 ガチャンッという鈍い音が鳴り、僕の恐怖を加速させる。

「さよなら」

 その一言が合図になってランチャーが火を噴いた。

「・・・・!」

 何もできずに目を瞑る。どんなに思考を巡らせてもこの状況を打破できる

作戦が出てこなかった。

 死を覚悟した。その時だった。

 ザッ

 足音が聞こえた。恐る恐る目を開けるとそこには―――。

 僕よりも背丈の低い小柄な、子供とも言える少女が立っていた。

「情けない。だから行くなって朝月に言ったのに」

 ただそれだけを言って手の甲にある弦を鳴らした。



 私の敵は二人。能力があればけっして不可能じゃない。

 小声で呟いてDUを発動する。

「全てを暴け」

 これが私の発動キー。私の能力はこれで発動する。

「神の瞳」

 そう、これが私のDU、神の瞳。私の命を奪って現れる、私をこの

世界に留まらせた私の敵。

 自分の周囲百m以上に渡って存在するものの形、動き、何から何まで全て

見通せる。知覚できるのだ。だから私は死兆星のブレイン。戦場を常に

把握して指示を飛ばす司令塔。私が崩れれば戦場は混乱する。そう断言

してもいいと修之さんが言っていた。

 事実、今までの戦闘の殆どは私が指揮を取っている。無論、私に戦闘力

など殆ど皆無のため護身用に警棒を持っているだけに過ぎない。

 私の部隊アルトブレインは私を含めてたった十人で構成された部隊だ。

その仕事は私は戦場の指揮。部下は方々にそれを伝える仕事だ。当然、

皆戦闘力など皆無。そんな私たちを護衛しながら後方支援をするのが

第二部隊アルトシューター。御堂さんの部隊だ。御堂さんの部隊があるから

私たちは生きていられるのだ。

 だから私では勝ち目はない。でも時間稼ぎくらいならできる。

「DU使わないの?」

 茶髪の少女が言う。確かさっき心地とか名乗っていた。ネーミング

センスはまぁまぁかな?

「使わないと・・・あのぉ・・・」

 銀髪の少女は困り顔だ。鏡とか名乗ってた。こっちもまぁまぁだと思う。

「大丈夫。勝てはしないけど負けるつもりもないから」

 もう戦場は見えている。向こうの動きも朝月や春彦の位置も全部把握済み。

 問題ない。いつも通りやれば。

「あらそ。じゃ、遠慮無くっ」

 茶髪の少女――心地が手に持ったハンマー――けっこうデカイ。心地の

身長くらいある――を振り回してきた。

 すぐに反応できる。警棒で防げば確実に折れ曲がるため回避する。その

間に鏡が移動していくのがわかった。しかし今はこっちが優先だ。

「へぇ。よく見てるね」

 そう言いつつもハンマーを振る手は止めない。背後に鏡が回ったのが

分かった。

「こ、これならどうですか?」

 鏡の腕から何かが出る。それの発射位置も角度も高さも全て分かる。この

戦場全ては私の瞳で捉えられているのだ。

「でも、当たらないよ」

 朗らかに言って身を捻る。まさか回避されるとは思っていなかったのか

心地の行動が遅れた。

「ちょちょ・・・・っ!」

「わぁーわぁー!避けてぇ!」

 ギリギリで回避する心地。「ちっ・・・」と小さく呟いたのは秘密だ。

「お前今舌打ちしたろぉ!」

 聞こえてたか・・・。

 距離を取ってもう一度戦場を見る。

 大丈夫。今私の周りには彼女たちしかいない。奇襲をくらうことは無い

だろう。

 問題は彼女たちだ。どんな攻撃か未だに不明な部分が多い。心地は武器

を持っているがあれがDUではないだろう。鏡に至っては何かを飛ばす

ということ以外不明な状況だ。

 まずは相手の能力を知るところから始めたほうがいいだろうか。それとも

あくまで逃げに徹するか。

 私的には、逃げたい。

 だって怖いもん。前線なんて出たこと殆ど無いし。あんなデカイハンマー

使いと何か変なもん飛ばしてくる奴となんて戦いたくないし。

 でも部隊的には戦ったほうがいいに決まってる。どうせここで倒しきる

なんて不可能なんだ。だったら後々に有利になるように少しでも相手の

手の内を知っておいたほうがいいだろう。

 さぁどうする?

 時間さえ稼いでいればいずれ増援がくる。問題は私がその時間まで耐えて

いられるか・・・。

 もし確実な生存を望むなら逃げに徹するべき。あくまで隊長としての責任

を優先するなら攻撃に出るべき。

 さぁどうしよう?

 そんなもの決まっていた。

 逃げる。時間を稼いで皆で生き残る。

 戦場の全てを掌握するのが私だから。

「攻撃・・・・して来ないな?」

「そう・・・ですね。何か策でもあるのかも」

 いやいや、何もないですって。

 そして再びくる攻撃。一直線にハンマーが振り下ろされる。

 それを余裕の表情で回避する。本来なら私のDUは正面からの攻撃に

は大した意味を持たない。目で確認できても反応できなければ意味が無いと

修之さんにも言われた。だから動体視力と反応速度だけは鍛えてある。

 これくらいなら楽に避けれる。問題はない。

「それくらいならっ」

 身を捻って回避する。相手も予測済みだったようで、すぐに振り上げて

くる。それさえも回避は容易い。

 今一番警戒すべきなのは鏡の動向だ。どこにいるかは把握できているが

どんな攻撃かまでは理解できていない。心地もそうだがDUを使われた

なら厄介だ。

「確実に当てていきますっ」

 鏡の声が聞こえた。いる場所は分かっている。右の拳が振るわれ、そこ

から何かが飛び出した。

(これだ。これが何かわかれば・・・・)

 しかし見るヒマがない。心地の攻撃が間断なく行われているからだ。

 左に跳んで回避する。ついでに心地からも距離を取る。さらについでに

鏡から来た攻撃を視界に入れる。

 それは光っていた。まるで漫画に出てくるレーザーのようなものだった。

実際光なのだろう。進行は速く、正面から来ても避けることは相当に難事に

違いない。

 視線を逸らす。もうあの光に意味はない。私に当たることはまず無いの

だから、目の前にいる心地のほうに集中するべきだ。

 そう思って興味を失った光から心地へと視線を向けた瞬間、異変は起きた。

 神の瞳が何かを感知した。中空にいきなり現れたそれは光を反射して

私の方向に軌道修正した。

「軌道修正・・・!?やばっ」

 回避が間に合うか手遅れかの瀬戸際。運に賭けるしかない。

 幸い、回避は成った。だがバランスを崩してしまう。

 最強と呼ばれたブルームシードが見逃すはずがない。当然、隙を突かれる。

「そらっガラ空きだ!」

 バランスを崩した私の腹部にハンマーが迫る。それを両手の警棒を交差

させて防いだ。

「うっ・・・!」

 酷い衝撃が両手と腹部を襲った。数m吹き飛ばされて、しかし倒れずに

体勢を直す。

 見れば二本の警棒は原型が分からない程ひしゃげていた。それを投げ

捨ててもう一度戦場全体に神の瞳を向ける。

 二人ともさっきの場所から動いていない。そして判明したこともある。鏡

の能力が屈折現象を任意に発生させることができる、という能力である可能性

が高い。心地の能力は判明していないが、一人でも情報があれば少しは対処

ができる。

 そこで公園外から接近する存在を感知した。数は四。おそらくは死兆星の

援軍だ。

 これで勝てる。勝つとはいかないまでも撃退はできるはずだ。

 そう思っていたのがいけなかったのか。一瞬の油断が命取りとは言ったものだ。

 目の前に小石が迫り、眼前で爆散した。



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