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春と闇

 翌日。結局俺は家まで出向いてきた桜子と影名に起こされた。

 落葉のようにヴァイオレンスな起こし方じゃなかっただけマシという

ものだ。

「・・・起きろ」

 ゴスッ!と鈍い音が俺の脳内に響く。鈍痛のせいで声を上げること

さえも面倒になった俺は額を押さえながら目を開ける。

 言い換えよう。落葉“ほど”ヴァイオレンスじゃないだけマシという

ものだ。

 というか事実上落葉よりも被害を被っている。落葉の攻撃は避けられた。

でも桜子と影名というコンビはいかんせん、家への侵入を気付かせなかった。

 桜子はよく喋る。でも周りが静かなときは空気を読んで黙っているし

一人のときは有り得ないほど寡黙なときがある。

 言わずもがな影名は寡黙だ。というか無音だ。気配も薄いし発声なんて

殆どしないから全く侵入に気付けなかった。

 お陰で落葉のときは回避できた覚醒(叩き起こし)攻撃を影名が敢行

した場合見事に額に直撃をもらった。分厚いハードカバーの本の角で。

「痛い・・・・もっと羽毛布団のように優しくふんわり起こせないのか」

「起きない朝月が悪い」

 昔から変わらず単刀直入毒舌なことで。

 桜子は見てみぬ振り、というか止められなかったことに引け目でも

感じているんだろう。部屋の隅っこで手を合わせていた。

 ハードカバーは辛い。しかも角だ。もう少し気配があれば回避できた

ものを。

「ふぁ~・・・・今日はどこ行くんだ?昨日海深たちに拉致られて

体力限界まで搾られたからあんまり動きたくないんだが・・・・」

 欠伸と伸びをしながらパジャマ代わりのTシャツを脱ごうとする。

すると桜子は慌てて部屋の外へ出て行ったが影名はゆっくりとした速度

で「礼儀として」的な雰囲気で出て行った。

 ・・・・学習しないな俺も。昨日も同じことやらかしたというのに。

 昨日と同じようにさっさと着替える。おそらく扉の向こうにいるで

あろう二人に向けて再度確認した。

「今日はどこ行くんだ?それによって持ち物の準備も変わるんだが」

 クローゼットから適当に服を引っつかむ。どうせ全部無地の柄無しだ。

どんな組み合わせでもミスマッチってことはないだろう。色以外。

 流石に色の組み合わせだけは頭に入れねばならない。

「今日はゆっくりしようかな・・・・って。海深たちと遊びに行って疲れて

るだろうと思ってたから。アサ君もゆっくりしたいでしょ?」

「まぁそうだな。明日もあるんだし、休んでおけるに越したことはないな」

 着替えなんて一瞬だ。寝起きでもたもた着替えることもあるが今日は無い。

だって額が痛いんだもん。

「・・・今日は三人でゆっくりする日。公園行って、ゆっくりするだけ」

「それだけなのか?ある程度なら大丈夫だからどっか行っても―――」

「問題無い。もう決まってること、グダグダ言うな」

「うぐ・・・・」

 相変わらず容赦ないな。気を遣って言った言葉を問答無用で切り捨てるとは。

まぁゆっくりできるならいい。ああは言ったが正直身体が痛い。

「じゃ、じゃあ私たち下で待ってるから~・・・」

「・・・早くする」

 影名の言い方に俺が怒らないかどうかビクビクしているのか、桜子は

バタバタと階段を下りていった。

 五人でいたときは桜子ももっと喋るし元気だ。いつも影名の相手をして

いる海深か雪女がいないからか、口数が少ない気がする。ゆったりするには

最適なコンビかもしれないがトークを展開させるには最悪なコンビだぞ。

 公園でゆっくりするだけって言うなら持ち物なんていらないだろう。財布

と携帯端末をポケットに押し込む。それ以外に無いだろうと確認してから

扉を開けて階下へ降りた。

 ダイニングでは影名が勝手に冷蔵庫を開けてジュースを飲んでいた。その

隣で桜子が必死に手を合わせていた。

「お前な・・・・勝手に飲むなよっ」

 とは言いつつも取り上げることはしない。自分も冷蔵庫から取り出して、

ついでに桜子の分も取り出して渡した。

「いい?自分のために買っておいたんじゃ・・・・」

「いいんだよ。どうせ買い溜めしといただけだしな。必要ならまた買いに

出ればいいんだから」

「ありがと」

 これが朝食代わりになるとは思ってなかったが、全員が飲み終わる

と同時に影名が玄関に向かって歩きだしたのだからしょうがない。

 慌て半分に俺と桜子は影名についていく。昨日に引き続き朝食抜きは

辛いものがあったが桜子が手に持っているバッグが結構大きい。たぶん

それが弁当か何かだろうから安心していた。

「目的地は?公園って言ってたけど・・・」

「東中央公園なんだけど、アサ君、大丈夫かな?」

「東中央か・・・・別にいいよ。そう何度も巻き込まれることも無い

だろうからな」

 確かに影名の足取りは東中央公園に向いていた。俺の家から走って

五分と離れてない場所だ。すぐに着く。もう以前の戦闘の痕跡は残って

いなかった。相変わらず迅速な処置ですこと。

 意外と広かったりするこの公園の木の下、日光の届き難い場所に桜子

はレジャーシートを敷いた。

「ほらほら、アサ君も座って」

 桜子は自分の隣をポスポスと叩いて座れと言う。俺が座ると影名が

俺の左手側―――桜子が右手側にいるからちょうど俺を挟んで反対側

に座った。

 二人に挟まれる形になった俺は、

「で、何するんだ?」

 と聞いた。

「だから・・・・ゆっくり?」

 俺はがくぅ、とコケる。そんなことは分かっている。

「だから、何してゆっくりすんだって聞いてんの」

 ポカンとした表情の桜子は「何言ってんのこの人?」みたいな

顔になって、

「ゆっくりっていったら何もしないでしょ?」

 とか言いやがった。

「いやいやいやっ。何もしないんじゃ暇だろうよ。何かしようぜ何か」

 結構まともなことを言ったつもりだったのだが、

「え~・・・」

 とか言って口を三角形に歪めやがった。

 影名は俺の横で全く気にせずに本を読んでいた。俺を起こした

ハードカバーではなく、文庫本サイズの小さいやつだった。

 そうか・・・・本か何か持ってくればよかったんだ。こういう時に

自分が本を持ち歩く癖を持っていないのが悲しい。

 そして何も行動しない桜子。こいつも暇つぶし用品を持って来なか

ったのか?ここに来ることは分かっていただろうに。

 ポケ~っとした桜子の顔。本気で何もしないでゆっくりするつもり

なのか?

「・・・・・」

 自然と口数も少なくなる。ついこの間、死人同士の戦闘があったばかり

だ。そのせいか一ヶ月、二ヶ月くらい前は子供の声で賑わっていたのに

今は閑散としている。静寂を求めて家を出てきたような連中しかいない。

「・・・・」

 誰も喋らない。風の音とそれに揺れる木の葉の音。等間隔で聞こえて

くる本のページを捲る音。鳥が羽ばたく音。決して大音量ではなく、小

さく聞こえてくる蝉の泣き声。時々息継ぎのように止まって、思い出し

たかのように再び鳴き始める。俺たちの呼吸の音さえも聞こえてきそう

なほど。時間の流れそのものがゆっくりなのではないかと思わせるほど

の空間。

 公園のすぐ側を通る道路から聞こえる自動車の走行音も苦にならない。

公園の中と外で、まるで別世界になったように感じる。

「いいでしょ?こうやって何もしないで、ゆっくり時間の流れみたいな

のを感じられるのも。アサ君はこういうのしたこと無かった?」

 桜子の声も優しい。皆で騒いでいるときからは想像し難い、達観して

いると錯覚させるほどだった。

「ああ・・・・復讐だの仕事だの、エクスクレセンスだのBGだのと。

デルタセントラルに来る前は訓練続きだったから。こんな風に落ち着く

暇もなかったな・・・・・・」

 ゆっくり、というのはこういうのを言うんじゃないだろうか。何か

をしていてはゆっくりとは言えない、そういう教訓だった。

 ふと、桜子の持つ大きめのバッグに目がいく。三段くらいの重箱サイズ

なら入るんじゃないかというバッグだ。俺は元々少食なのでこれだけの

量はとても食べきれない。影名も食べるほうじゃなかった気もする。じゃあ

桜子が食べるのだろうか。

「そのバッグ・・・・」

「ああ、これ?お弁当入ってるの」

 バッグの中から弁当箱を取り出す。やはりというかなんというか、三段

重ねの重箱サイズだった。

「重箱・・・・俺そんなに食べないぞ?」

「へーきへーき。三人なら食べられるって」

 影名も頷いている。桜子がどれほど食べるかは知らないが俺に期待

はしないでもらいたい。

 最初はどうなることかと思っていた。このメンツではどう足掻いても

トークなんて弾まない。もとより俺はトークの才能が無いし影名は無口、

桜子も話題に乗るのはよくするが話題の提供はあまりしないのだ。

 しかし、気にすることもなかった。トークなんて必要なかったし、

そんなものが無くても大丈夫だ。

「・・・・・」

 また無言。こういうときは時間がゆっくりと感じるものなのだが、

体感時間よりも早く過ぎていたようだ。

 二日連続で朝食抜きの胃袋が音を鳴らす。別に恥ずかしいという

ことはないが流石に連続で鳴られると辛い。

「朝月うるさい」

「うるさいのは俺じゃねぇ」

 影名にも文句言われたしな。

「アサ君お腹減ったの?」

「ああ、二日連続で朝食抜きだからな。昨日は遊び疲れたし、今

結構腹減ってるかな」

 桜子はバッグから重箱を取り出して、

「じゃあちょっと早いけど食べちゃおうか」

 隣でパタンっと本を閉じる音が聞こえた。影名が動いて俺の前

に陣取るように座る。確かに、そこにいたほうが食べ易い。

 開かれた三段重箱は流石というべきだった。綺麗に盛り付けられて

いるし色彩にも気を遣っている。桜子や影名が料理上手とは意外な

事実だ。海深や落葉は見るからに苦手そうだ。

「勘違いしてるかもしれないけど、夜兄ぃ以外は皆料理上手だからね」

「・・・・何ぃ!?」

 衝撃的事実発覚。まさか体力バカの二人まで料理上手だと?

「私がちょっと下手なだけ。海深も落葉も上手」

 影名も同意してしまった。俺は料理以外の家事なら何とかできなく

もないが料理だけはできない。何か負けた気分だ。

「いただきます」

 そんな俺の気持ちを無視して影名は先に食べ始めてしまう。俺も

桜子もそれに続く。

「じゃあいただきます」

「いただきます」

 備え付けだった箸を持って食べ始める。影名に食われてしまう前

に俺もしっかり食べておかねば。とは言っても影名がそんなに大食い

とは思えない。やはり俺が頑張るしかないのか。

 と、不安がっていたのも二十分ほど前のこと。

 今、俺の目の前には空になった三段重箱があった。

 俺は半分も食べていない。その半分以上を影名が平らげてしまったのだ。

「・・・・」

 唖然とする俺。もう見慣れたのか普通に三段重箱の片付けに入っている

桜子。一切の無関心で読書に入った影名。

「運動も殆どしないあのちっさい身体のどこにあれだけの量が・・・・」

「まぁそうだよねぇ。しかも太らないし」

 片付けが終わった桜子が言う。あれだけ食った上に運動せずに太らない

って、全国の女性を敵に回しそうな勢いだなおい。

 先ほどまでと同じ位置取りで座る。いつも以上に食ったから腹がキツイ。

ゆっくりできるのはいいことだ。

「どうだったお弁当?一番上の段は私、真ん中は影名、一番下は二人

で作ったんだけど、どうだった?」

 どこが一番、とかは言わないほうがいいのかもな。甲乙付け難いと

いえばその通りだ。影名もちょっと下手なだけ、とか言っていたけど

そんなことはない。普通に美味しかったし俺的には影名の味付けの方が

好みだったくらいだ。

「格付けなんてできないけど、全部うまかったぞ。強いて言うなら、

味付けは影名のが好みだったかなってくらいだ」

 ページを捲ろうとしていた手が止まったのが分かった。一瞬だけ止ま

ってから何事も無かったかのように捲っていったが捲る速度が速すぎて

内容が頭に入っていないのは明らかだった。

 その様子に苦笑しつつも桜子から言われる礼の言葉に俺は面食らった。

「なんでお前が礼なんて言うんだよ。礼を言うべきなのは俺なのに」

「ううん。食べてもらったら、お礼を言うのが礼儀なの」

 妙に納得できてしまう理由だ。普通なら食べさせてもらったこっち

が礼を言うべきなんだがな。

「・・・・・ありがと」

 影名がぼそっと言ったのを俺は聞き逃さなかった。もし聞き逃していた

らすごく後悔していたであろう影名の感謝の言葉だ。



 どのくらいの時間が過ぎただろう。実はあんまり過ぎてないのかも

しれない。こういうゆっくりな時間に時計を見るのはマナー違反(誰が

定めたわけでもないが)な気がしたので時計は見ていない。今が何時

なのか分からないのだ。

 昼食を食べる前と同じ音。その中で、少しだけ違和感を感じた。

 一定感覚で聞こえてきた本のページを捲る音が聞こえなくなって

いた。

 そして、左肩に感じた重量。決して重くはなく、軽すぎるとさえ

感じる。見ればそれは影名の頭だった。

「すぅ・・・・・すー・・・・」

 眠ってしまった影名の頭が倒れてきて俺の肩に乗ったのだ。

 文庫本を開きっぱなしで危うく閉じかけている。俺はそれをそっと

取って栞を挟んだ。

「影名寝ちゃった?」

 反対側から覗き込んでくる。眠った影名の姿を確認すると「あ~

やっぱり」と言った。

「影名はよく寝るからね。今日はお弁当作るために早起きしたから」

 規則正しい寝息が耳元で聞こえる。俺の肩では痛いだろうと思った

俺は起こさないようにそっと優しく影名の頭を動かして自分の腿の上

に乗せた。いわゆる膝枕的なものだ。

 寝息がもっと安らかなものに変わる。本が潰れてしまわないように

どけてやると、影名は小さく丸まった。

「むむむ・・・・結構羨ましい体験・・・」

「それはどっちに言っている?影名を膝枕してやれた俺にか?それとも

俺に膝枕してもらえた影名にか?」

 桜子は答える前に俺の腿の上に――影名の頭の乗っている場所の

反対側に頭を乗せてきた。

「こういうこと♪」

 そんなにいいもんでもないと思うのだが、二人がいいならいいとしよう。

頭の重さも殆どないから腿が痛くなることもないだろうしな。

「私も眠くなってきちゃった・・・・・あふっ、寝ていい?」

 殆ど眠気眼で聞いてくる。最早寝ているに等しいかもしれない桜子に

一応返事をした。

「いいぞ。起きるまで起こさないからな」

「くー・・・・・・すかー・・・・・」

 既に聞いていなかった。まぁ、分かりきっていたことではあるんだが。

 二人の寝顔を見る。真夏の正午過ぎくらいだというのに汗をかいて

いない。俺も大して汗をかいていないがこの二人は“全く”と言える

かもしれない。

 頭でも撫でてやろうかとも思ったが止めた。それで起こしてしまって

は本末転倒だ。何もしないで、俺も目を閉じる。

 本のページを捲る音が無くなった代わりに二つの寝息が聞こえる。そ

れは睡魔に抗う気持ちを俺から奪うには十分過ぎた。

 少し暑い。そう思いながらも俺の意識はゆっくりと沈んでいった。




 気が付けば俺は身体を横たえていた。二人の頭を腿に乗せていたのだ

から横になれるわけもないんだが、はて?

 少し涼しい。頭の下に暖かく柔らかい物体があるのが分かる。聡明な

俺は自分の状況をすぐに理解することができてしまった。つまりはこう

いうことなのだろう。

「あ、起きた?」

 うっすらと目を開ければ視界に入るのは横になった世界。視線を上へと

ずらせば桜子の顔が見えた。

「・・・・なんでこんな体勢なんだ?俺の記憶が正しければ立場が逆

だった気がするんだがな」

「うん、逆だったね」

 つまり俺は今、桜子の腿の上にいる。いつの間にか“していた”側

だったはずの俺が“されている”側になってしまっていた。

 寝る前は暑かった気温も傾き始めている日のお陰か多少低くなっている。

影名は移動していて桜子の右側にいる。俺は寝る前まで影名のいた場所に

足を伸ばしている体勢だ。

 いつの間にこんなことになっているのだろう。いや、寝苦しいとか

そんなもんではなく・・・・。

 いつまで膝の上に乗っているつもりだ。そう思い跳ね起きた。

「寝苦しかった?」

「い、いやいや、大変結構なものでして・・・・」

 何を言っているんだ。そういう赤面を誘う台詞は心の中にしまっておく

べきだ。

 言ってしまったものはもう遅い。

「朝月、すけべぇ」

 抑揚の無い声で言われると結構辛い。本気か冗談か分からないからだ。

 日は既に傾き始めていて、周囲は夕焼けで赤い。蝉も静かになっていて

鳥はもう巣に戻ったのだろう。照りつけるような日差しも影を潜めていた。

「そろそろ帰ろっか」

 桜子は立ち上がって尻を叩いて汚れを落とす。影名もそれに倣って

立ち上がる。身体の汚れを払ったあと入念に本の汚れを払った。

 俺も立ち上がって弁当箱を渡す。手に届く距離にあったのだ。

「今日はゆっくりできた?」

 帰り道。桜子は笑顔で聞いてくる。影名は興味無さ気だったが、本

を閉じていることが興味深々な何よりの証拠。こういう所で影名はわかり

やすい。

「ああ。昨日の疲れなんて、吹っ飛んじまったよ」

 大きく伸びをする。全部疲れが無くなったというのは誇大だが今朝と

比べれば相当マシになっているのは事実だ。

「明日は雪女と柚木だね」

 それなら安心できよう。疲れは明日の朝には取れているだろうけれど

雪女と柚木ならばまかり間違っても遊び疲れるなんてことはあるまい。

 ただそれだけに不安はある。あの二人が何をするのか。俺と何をしたい

と思っているのか想像できない。

「朝月、気をつけたほうがいい」

「んあ?」

 無駄に真剣な声色で言われるものだから何か敵でも現れたのかと思って

しまう。しかし、気をつけて発言は明日の俺に向けられたものだった。

「そうだねぇ。明日は肉体的よりも精神的に疲れを見ると思うから」

 精神的だと?肉体的に消耗しきった後に休息を入れ、その後に精神的

に消耗させるだと?何の作戦だ何の。

「ま、明日は頑張ってね。今日は楽しかったよ、ありがと!」

「・・・・ありがと」

 そういい残して二人は去っていった。あまりに迅速で俺が言葉を返す

暇も無かった。

「・・・・ふぅ」

 俺も家に帰ろう。明日のために身体も精神も休めておかなければ。

 そこで着信があった。ポケットに押し込んでいた携帯端末を取り出して

通話ボタンを押す。

「もしもし」

『あ、朝月?まだ家に帰ってない?』

 金だった。電話とは珍しい。金が電話してくるときは大抵が晩飯に

関することだった。

「ああ、まだ外だけど・・・」

『よかった~。今日さ、ご飯作りに行けないから何か買って食べてよ。

ごめんね』

「ああ、分かった。謝る必要なんざ無いさ」

『うん。明日は行くからさ。春彦にはこっちから伝えておくから』

「おーう」

 それで通話は切れた。金が何をしているのかは知らないが用事でも

あるのならあまり長電話もしないほうがいいだろう。

「確か、買い置きのカップ麺あったかな・・・・」

 無かったら買いに出ればいいか。そう思いつつ帰宅した。

 そこで違和感に気付く。ダイニングから明かりが漏れていたのだ。

 それは有り得ないことだ。金はさっきの電話からして俺の家に来る

ことはまず無い。春彦も合鍵を持ってはいるが勝手に入ることはしない。

必ず入っていいかどうか確認を取るのだ、あいつは。

 他に合鍵を持っているのは修之さんくらいのものだ。でも、修之さん

はまだ意識不明。ここに居るはずもない。

「・・・・」

 警戒しながら玄関に手をかける。何の抵抗も無く扉は開いた。中から

聞こえる声は二つ。一応靴も確認したが二つだった。靴の有無などあまり

重要ではない。もし空き巣や強盗ならばいちいち靴を脱いだりしないから

だ。

 この時点で泥棒、という線は殆ど消えた。となれば俺の顔見知りが

何とかして侵入したと考えるのが妥当か。

 しかし警戒は解かない。ダイニングに繋がる扉の前を影が通り過ぎた

瞬間、扉を一気に開け放って中に飛び込み、影の首に左手をかけて右手

で相手の右手を拘束した―――――。

こまま続きます。次は最後の文の直後として読んでください。

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