違和感
記憶の奔流が止まる。今まで真実と思い込んできたこと。あの事件で
陽は殺されたということ。それが書き換えられた真実と知った。
陽は事故死。俺を護って、同じく護ろうとしたアッシュ・ライク・
スノウの氷によって死んだ。
アッシュは恨まれるべきではなかった。陽の死で、誰かが恨まれる
ならば、陽を護りきれなかった俺なのに。
「大丈夫か朝月?・・・・思い出したな?」
「ああ・・・・・でも」
俺は兄さんに向けて圧砕重剣を向けた。
「俺はまだ知らなくちゃいけないことがあると思う」
「そうだな。知る権利がある」
兄さんも俺に剣を向けた。
「あの時、俺が気絶した後で」
「何があったのか、知る権利がある」
すぐに剣を降ろした。戦闘の意思はない、ということか。
どうしてすぐに生きていることを知らせてくれなかったのか。どうして
目覚めるまで側にいてくれなかったのか。色々言いたいことはあるし、
そのことに対して憤りも感じている。
だがしかし、感謝もしていた。
あの時、俺が自暴自棄になっているときに怒ってくれなければ俺はきっと
生を諦めて死んでいた。陽が命賭けで護ってくれた命を無駄にするところ
だったんだ。
そのことに関しては感謝していると言える。
今も心折れかけた。でもその言葉に助けられて折れずにいる。
そこで何かが引っかかった。
何だ?何が引っかかる?兄さんの言葉に気になることでもあったか?
『確かに陽は死んだかもしれない!クラスメイトたちは死んだかも
しれない!父さん母さんも死んだ!それでも、俺たちはまだ生きている
んだ!今ここで死ぬことで、父さん母さんや陽が喜ぶと思うなッ!』
この言葉のどこかに―――。
『確かに陽は死んだかもしれない!』
――――え?
『確かに陽は死んだかもしれない!』
おかしい。今更になって気付くが、これはおかしい。
だって、だって――――。
『そのカッコよくなった感じを、陽にも見せてやれよ』
兄さんたちは知らないはずなんだ。俺は言えなかった。心が折れかけて
いる俺は皆に言えなかった。陽の死を、一度も告げずにいた。
それなのに―――。
『確かに陽は死んだかもしれない!』
そう言った。心折れて自暴自棄になりかけていた俺を正気に戻すために
言った。
そして、答えも見つけ出せずに俺は頭を左手で押さえて言った。
「どうして・・・・兄さんは陽が死んだことを―――知っていたんだ?」
「・・・・・!」
一瞬の驚きが分かる。そしてすぐにさっきまでの真剣な表情に戻って、
「それも含めて、今から話すよ」
地面に座って、他の五人も同じように地面に座って。
「お前が気絶した後、何があって何が起こって、こんな結果になって
しまったのかを」
語り始めた。俺の知らない出来事を。