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ある意味デート

今回は二つ同時更新

「陽――っ!どこだ!?」

 俺は炎の中を走って探しまわっていた。背後では爆発が起こっている。

それを押し止めているのは灰色の氷柱。

 ――あの時の夢か。

 不思議と意識はあった。身体の自由が無いだけで意識ははっきりと

している。夢の中なのに不思議だ。

 俺の身体が意思に逆らって勝手に進む。もう既に、場所は近い。

 陽の死を目の辺りにした、あの場所が。

 ――覚悟くらいはできてるさ。何度も夢に見てきた。慣れはしないが、

覚悟くらいなら。

 そんな俺の覚悟は無駄に終わった。

 流石夢だ。何が起こっても不思議じゃない。

「陽―――っ・・・・え?」

 目の前にあるのはあの時のあの場所。陽がその一生を終えた、場所。

 本来、一つの遺体があるべき場所に、しかし、一つではなかった。

 陽が、金が、春彦が、修之さんが、兄さんが、桜子が、海深が、落葉が、

雪女が、影奈が――――柚木がいた。

 全員が、陽と同じ格好で。同じ、色彩で。

 灰色の氷柱に身体を貫かれて絶命していた。

「な、んだよ・・・・・コレ」

 俺の意思で口が動いた。身体は相変わらず動かないが口だけは動いた。

「俺の夢じゃない・・・・何なんだよコレはぁッ!?」

 想像の中だけで頭を振る。頭を抱える。目を閉じる。呼吸を止める。

耳を塞ぐ。蹲る。

「俺は知らない、こんな光景知らない!夢って記憶の整理じゃないの

かよ!?何なんだよぉッ」

 半狂乱。当然だ、こんな光景を例え夢にでも見てしまったら。

 自分の大切なものが全て失われる。自分で手に入れた、友達も。

 初めて自力で掴み取った柚木さえも、ここではいない。

「言ったでしょ・・・・今のアサじゃ護れないって」

 海深の声だ。つい昨晩、聞いたばかりの声。

「復讐する相手さえ、まともに見れていない今のアサじゃ・・・」

 最後まで言葉は聞こえなかった。海深たちの身体は吹き飛ぶ。横から

突然割って入った爆発によって、炭化しながら、バラバラになりながら

吹き飛ぶ。

 爆発の起こった方向を見る。あの爆発は俺自身を爆撃したあの攻撃に

似ていた。

 案の定、影があった。俺が爆破されたあの時、僅かに見えた敵の姿。

 顔までは分からない。だが、背格好くらいは分かった。

 何か見たことあるような姿だが、今は関係ない。

 そいつの傍らには、灰色の雪を降らせる少女もいたからだ。

 対峙するように向き合っている。

 今のこの現状を生み出した二人を前にして俺は、

「ふざけるなぁぁぁぁぁあぁあぁああああッ!」

 俺はそいつに向かって走り出していた。

「・・・・・・」

 笑みを作りながらそいつは指を鳴らした。

 途端に、俺を灼熱の劫火が包み込んだ・・・・・・。

 


 目覚めはとても最悪なもの。今までの中でトップに君臨するほどの

最悪具合だ。

 携帯端末を開いて時刻を確認する。俺が桜子たちに助けられてから

一日が経過していた。

 覚えている夢はあれだけだ。だが、丸一日もあれば他の夢も見ていた

のかもしれない。

 とりあえずシャワーでも浴びないと。汗だくで気持ち悪い。

 木刀を持って外に出る。今はまだ夜明け前の時間だ。新聞配達の人が

横を通り過ぎていった。

 俺は公園へ向かう。木刀も持っていない今では危険と知りつつ、それでも

足は東中央公園へと向いていく。

 公園の中は幾ばくか綺麗になっていた。俺とスノウの戦闘の跡を消す

作業を死兆星がしていたのだろう。完璧ではないが、あの惨状は消えている。

 そして、例のベンチには少女が座っていた。まだ朝早いこの時間に、

いわゆるBL本を読みながら。

「・・・よう」

 意識せず素っ気無い挨拶になってしまった。気分転換のために出てきた

のだから気分が悪いのは仕方がないにしても、もう少し普通に挨拶できな

かったものだろうか。事情を何も知らない相手からしてはいい迷惑だろう。

「あ、おはようございます」

 それでも意に介さず普通に挨拶してきた。そして本を閉じる。

「こんな時間にこんな場所で何読んでんだ?健康的なやつだ」

 そう言いながら横に座る。相変わらず仏頂面なわけだが。

「な、何か目が覚めちゃって・・・・ただ、家には居づらいから・・・・」

「・・・そっか」

 会話が途切れてしまう。こいつの、柚木の家庭事情がどんなものかは

知らないが、家に居づらいのに家にいるのは嫌だろう。だからこんな時間に

こんな場所まで出てきたのか。

 元より家族との記憶の少ない俺にとって家に居づらい、という気持ちの

理解は難しい。だからそれ以上は踏み込まないことにした。

「常光君は・・?どうしてこんな場所に・・・?」

「俺は・・・・」

 言おうかどうか一瞬迷った。しかし、すぐに結論する。夢の内容を

言わなければいいだけだ。

「悪夢を見て、な。疲れて丸一日眠ってて、悪夢で起きた。だから気分

転換に出てきたんだ」

 思わず横目で気にしてしまう。あんな夢を見たせいだ。柚木が、今すぐ

この場から消えてしまうんじゃないか。あの灰色の雪が降ってきて柚木の

身体を貫いていくんじゃないか。そんな恐怖に支配されかける。

 しかし当の本人は気楽なものだ。本を抱えて笑っている。ようやく自分

で得たものを、この笑顔がいつか消えてしまう。もしかしたらそれは凄く

近い未来なのかもしれない。

 今日は出社しないといけない。だが、まぁいいだろう。無断はダメだが

連絡の一つでも入れて、夜になる前に家に戻れば問題ないだろう。

「お前、この後はどうするつもりなんだ?」

「え、えと・・・・しばらく読書してから・・・街を歩こうかと」

「健康的な奴だな」

 ・・・・俺にはトークの才能が無いようだ。すぐに会話が途切れて

しまう。

 柚木自身は話し上手ではないようだし、やはり俺が繋げるしかないのか。

「俺も今日暇だからな・・・・・よし」

 意味があったわけではない。いや、意味はあったのだろう。夢で見た

光景を、防ぎたいと思って、行動を共にしようと思った。

「十時にもう一回ここに集合な」

「ほえ・・・?」

 また面白い声が出た。

「さっきの聞く限りじゃ、今日暇なんだろ?」

「は、はい」

「俺も暇だから。十時にここに集まってどっか行こうぜ」

 告げるだけ告げて俺は立つ。拒否されては恥だ。それに、ここで拒否

されれば護ることも何もできなくなってしまう。

 現実になんてならない。なるはずがない。なってはいけない。

「わ、わかりました・・・!」

 無駄に力んだ了承の声を聞いて俺は立ち去った。



 もう死兆星には連絡を入れた。春彦たちも夕方までには来るそうだ。

 それまでに帰宅すれば問題ないだろう。

 今は午前十時。約束、と言っても一方的に取り付けた感じだが、間に合う

ように家を出たのだが、気付けばギリギリだった。

 今日は一日、柚木を護衛することが目的だ。自分の勝手な思い込みに

よる勝手な護衛だが、不安で仕方が無いんだ。

 待ち合わせ場所の公園には既に柚木がいた。

「よぉ。待ったか?」

「は、はい。五分ほど」

 結構正直な奴だった。

 やはり本を読んでいた。今回はBL本じゃないみたいだ。流石にこんな

時までBL本を読むことはしないのだろう。

 良く見れば包帯が増えている。右の目から頬にかけてと両鎖骨、両足に

巻かれていた包帯だが、今は指先にまで包帯が巻かれている。

「包帯・・・・どうした?怪我でもしたか?」

 少しだけビクっと身体を跳ねさせて手を隠す。

 触れて欲しくない話題だったか。

「え、えとー・・・・準備してた時に、色々と――」

 何の準備をして何をすれば十本の指全部に包帯を巻かねばならない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ほどに

怪我をするのか。気になったが、さっきの反応を見る限り、追求は止めた

ほうがよさそうだ。

 柚木がベンチを立つ。本を小さめのバッグにしまって担ぎ直す。

「そ、それで、どこに行くんですか・・・?」

 ちょっと控えめに聞いてくる。実は、

「いや、ノープランだ」

「ほえ・・・?」

 ふむ、どうやらビックリしたときにはこういう面白い声が出るらしい。

「どこかに行こうとは言ったが、どこに行こうかは考えてない」

「じゃー・・・どうするんですか?」

「これから決めるしかないだろうな」

 随分と前途多難だった。

 まぁ、ノープランにしてきた自分が悪いのだが。

 自分でプランを作ってきては、自由な時間とは言えない気がした。それに

本来の目的はあくまで護衛だ。自分的はこのままこの場所で会話している

だけでも目的は果たせるし楽しいだろう。

 何せ、金や春彦以外で歳の近い人と会話なんて殆どしたことが無いの

だから。

「どこに行きましょうか・・・?」

「どこと言っても・・・・選択肢は多くないぜ?」

 このデルタセントラルシティは思った以上に娯楽施設が少ない。これだけ

大きな土地なのに基本が商業都市だ。中心に聳え立っている二本の尖塔、

ブリッツタワー・セントラルが日本最大級の商業都市である証でもある。

 西と北が商業を中心とした区画。南が住居と商業を合わせた働き者が

使うべき区画。東が娯楽や学生を中心とした区画だ。

 つまり、俺たちがどこかに行くにしろ東セントラルから出ることはない

ということだ。

 気の利かないことに遊園地なんて施設はない。学生にとって娯楽が

少ないのは結構キツイものだ。

 アルバイトには困らないが。

「どうしましょう・・・・?」

「さっきと似たような質問だな」

 実際どうしよう。本気でノープランだ。

 種明かしは簡単。気分を見事に転換できた俺は家に帰ってからまた寝た。

そして起きたら九時半だった。というわけだ。

 幾つかの選択肢のうち、取れるのはこの三つ。

 一つ、都市内外あらゆる物が流通する激流商店街(正式名称)。

 一つ、映画やゲームセンターなどの施設がある激流商店街。

 一つ、ゆっくりゆったりできる空間も完備の激流商店街。

「て、全部激流商店街行きじゃねぇか」

「・・・一人ボケツッコミ・・・・」

「というかそこしか選択肢がねぇな。よし、行くぞ」

 先頭に立って歩く。数歩後から付いてくる感じで柚木が歩く。

 激流商店街までは少しだけ歩く。普段から戦いの訓練やら何やらを

行っている俺には問題無い距離だ。

 だが柚木の体力が不明だ。少しでも疲れ始めたら頃合を見て休憩しよう。

 


 ちなみに、東中央公園から激流商店街までは直線距離で四㎞以上ある。

普通の、運動部にも入っていない女学生なら歩いただけで疲れる距離

だろう。

 しかし、コレはどういうことだ?

 柚木は疲れるどころか歩き始めと何ら変わりなかった。息も上がって

いないし汗さえも殆どかいていなかった。

 体力は俺並みか?駅が少し遠い上に、学生は金も少ないだろうと思って

電車は止めたのだが、ある意味では正解だったか?

「やっと到着、と」

「四十分くらい・・・ですね」

 激流商店街は人が溢れていた。まぁデルタセントラルシティ最大の

商店街だ。人がいないほうがおかしい。

 イメージ的には首都のほうにある秋葉原と同じ感じだ。雑多な店が所

狭しと並んでいる。

「どこにいくかは・・・・まぁ歩きながら決めるか」

「そうですね」

 きょろきょろと視線を巡らせながら歩く。実はこのデルタセントラル

に着てから半年近くしか経っていない。この激流商店街に来る機会も

殆ど無かった。

 だからどんな商店街かはあんまり知らなかったりする。

 女子高生やらサラリーマンやらが往来している。ここまで人が多いと

精神的に辛いものがある。

「気になった店とかあったか?」

「ん~と・・・あのお店行っていいかな」

 まさかの薬局。一緒に入ると柚木は包帯やらなにやらを買ってすぐに出た。

 普段から包帯を多用するからすぐに無くなってしまうらしい。

 少なくともこういう時に行く場所ではないことは分かっていたらしい。

 今度は俺が目に止めた店に入った。小奇麗なレクリエーションショップだ。

 俺は幼い頃から人間嫌い――というか他人と接する機会を持たなかったので

自然に一人のときは独りで遊ぶようになった。そのときにはまり込んでいた

のが星だ。星を観察したりして時間を潰していた。

 そのときの習慣のせいなのか、今でも時々こういう店をみるとつい入って

しまう。

「星・・・・ですか」

「ああ、昔の趣味でな。今でもつい入っちまう」

 買うものなど無いのに入ってしまう。過去の習慣とは恐ろしい。

「独りじゃないときは春彦か金がいたから遊びには困らなかった。でも独り

になったら何もやることが無くてね。友達なんて作らなかったし誰も声を

かけてなんてこなかった。そんな時に星を眺めてたら興味が沸いてさ」

 星座図鑑を手に取る。もうすっと前に買ったがどこかにいってしまった

やつと同じ本だった。

「それから本を買うや金無いから双眼鏡で我慢するわ図鑑見ないで星座を

見つけられるか試したりと、どんどんはまっていったな。まぁそれも、

小学校卒業までだったんだがな」

「卒業してからは・・・・何を?」

 恐る恐る聞いてくる。まぁ、過去に傷に触れるかもしれない話題だ。腰

が引けるのも分かる。

 卒業してからは間を置かずに死兆星に入った。しかしそれは裏の死兆星。

このデルタセントラルシティにおいて表の死兆星――ブリッツタワー・

セントラルが表の名前だが――は競争率が最も高い人気の職場。学生が

入れるわけもないし、裏の死兆星のことを一般人に告げるわけにもいかない。

死人のことは知っていてもブリッツタワー・セントラルが死人の総本山

である死兆星だと知っている一般人はいない。

 ここは嘘を言っていない程度に誤魔化すのが正解だろう。

「アルバイトさ。バイトをやって働いて、暇な時間を減らしてた」

 本を元の場所に置く。もうあまり興味のないことでもあるのだ。知識は

残っていても、それを更に深めたいという思いはない。

 そのまま店を出る。柚木もそれに付いてきた。

「いいんですか?もっと見ていかないで」

「いいよ。そこまで思い入れもないからな」

 躊躇わずに店から離れた。人が多くてはぐれそうなので割りと近寄り

ながら歩いていたら目の前に見知った頭が見えた。しかも五つ。

「ね~落葉、そのジュースちょっと頂戴」

「やだよ。海深にでも貰え」

「ね~海深・・」

「言わなくていい。今あげるから」

「・・・・私にも」

「・・・・・・・影名、いつもなんだけどさ、引っ手繰らないでくれる?」

「・・・・・・・」

「また無言で突っ返すし!」

「え、影名。あんまりそういうのはよくな――」

「ね~海深~」

「あ~、残り少しだから、あと一口飲んで残りあげ―――!」

 意図せず寄り添って歩く形となった俺と柚木を視界に収めた海深は、

「ぶぅ―――――――――――――――ッ!」 

「わぁぷっ!?」

 口に含んだジュースを隣にいた桜子に向けて思い切り噴出した。

 側を通った通行人まで被害が出なかったのが救いか。

「ゲホッ、ゴホッ!」

「う~もっと普通に頂戴よ~」

 海深が桜子に缶ジュースを渡す。海深の視線の先に俺がいることに気付いた

残りの四人も目を見開いた。

 桜子は受け取った缶を落としそうになり、落葉はジュースを喉に詰まらせて

いるし、雪女は固まっているし、影名は本を閉じてしまった。栞を挟まずに。

 そんなに俺に出会ったことが驚きなのか?いや、視線が向いているのは俺じゃ

ない・・・・?俺から、柚木に移っていく?

 周囲の喧騒に反比例するかのような沈黙した場に耐えられずに俺は声を

かけた。「よ、よぉ。海―――」

「ひ、久しぶりだね柚木!」

 海深は俺の言葉を遮るようにして柚木に声をかけた。

 他の四人もそれに続く。俺なんか知らないみたいに。

「う、うん。夏休み入って以来だからね」

 柚木もぎこちなく合わせている。夏休みに入って以来ということは同じ学校

なのか?それとも、口裏を合わせているだけか?

 そんな考えを巡らせている時、影名が知らない人を見る目でこういった。

「・・・この人、誰?」

 本当に何も知らないみたいに。

「こ、この人は―――」

「お、なんだぁ、彼氏か?」

 落葉が可笑しげに言う。影名の一言で暗くなりかけた場を持ち直そうとして

いるのだ。

「ふぇ!?ち、違ッ―――」

 手を振ってあたふたと否定しようとしたが、

「必死に否定すると逆に怪しいよ?」

 雪女までもがイジりに参加し始めた。

 俺は否定も肯定もせずにただ居るしかなかった。

 もし桜子たちが俺との日常的接触を避けているなら、それを受け入れる

しかない。今周りに知り合いがいないから普通に接しても大丈夫、なんて

いえるわけがない。

 そもそもついこの間出会って、言われたのだ。

『今のアサじゃ何も護れない』

『戦う相手を、復讐する相手を履き違えている今のままじゃ、誰も』

 それがどういう意味なのか未だに理解できていない。

 俺が戦う相手は、復讐の相手は死兆星。皆を殺そうとした死兆星と

陽を殺したBG。それ以外の何がある。それ以外に何がある。

 もしそれを履き違えているというなら、それを目標に、夢に、目的に

してきた俺に意味はあったのだろうか?今までの復讐に焦がれる日々に

意味はあったのだろうか?

 海深たちは俺を助けたいのか、それとも叩き落としたいのか。

 ・・・また負の方向に感情が向いてしまう。この悪い癖は修之さん

にも直しておけと言われているのに。

 立ち尽くす俺の横で談笑している。影名は必死に閉じてしまったページ

を探していた。

 どうやら俺は蚊帳の外のようだ。海深たちも俺と会話しようとしないし

柚木も俺を会話に混ぜようとしない。

 暇になった。側の自販機まで行ってさっき桜子が欲しがっていた缶

ジュースを買う。そして飲んでみる。

「・・・・・」

 正直、微妙だった。

ラベルを見る。ジュースの名前は「テラスコヴィル」と書いてある。

 スコヴィルとは辛さの程度を示す単位なのだが――――。

「全く辛くない上に微妙に甘味なのはなぜだ・・・?」

 マスコットの「多苦労くん」に続いてどうして売れているのか不明な

商品だった。

 おいしくないものをちまちま飲んでいてもしょうがないので一気に

飲み干す。

 缶をゴミ箱に捨てて柚木たちの場所に戻った。

 その時、柚木を挟んで反対側に見知った顔が三つ見えた。

 しかもこっちに気付いた。

 俺と海深たち五人を交互に見る。そして顔色が変わる。

 御堂さんが口に入れた炭酸を横にいた金と春彦に噴出した。

「ぶふぅぅッ!?」

「うわぁっ!?」

「ちょ、御堂さん!?」

 金と春彦は吹きかけられた炭酸を驚異的な反射神経で避けた。

 吐き出された炭酸が地面に落ちて染みを作った。

 口元を拭いた御堂さんは俺を見てこっちに詰め寄った。

 そして小声でまくし立ててくる。

「何やってんだてめぇ!?何敵の幹部会とイチャついてんだ!?」

「別にイチャついてねぇ!最初は俺と柚木の二人だけだったんだ」

「柚木?」

 御堂さんは海深たちと会話している包帯を巻いた少女を見た。

「アレか・・・・」

「アレって言うなよ」

 そして訝しげな視線に変わる。

「おい、ブルームシードの連中と随分と親しげだな?」

「なんか同じ学校みたいだな。夏休み入って以来、とか言ってたから」

 向こうも御堂さんと春彦たちに気付いたようだ。一瞬顔を強張らせた

が柚木の手前なのか動揺を隠そうとした。平静を装って会話を続けていた。

「同級生か・・・・?どうみても年下なんだがな」

「そこまで知るかよ」

 そこで少し離れた場所にいる柚木たちに警官と思われる人が近づいていった。

「少しいいですか?」

 ぎょっとした海深だったが流石はリーダー的存在。しっかり応答する。

「な、なんでしょ?」

「最近、この辺りは死人が出て昼間でも危険です。暴走者も出ているようなので。

保護者の方はいますか?」

「あ、ええと・・・・」

 そんな会話が聞こえて海深がこっちを指さした。


次に続く

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