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復讐する、戦うべき相手とは

本気で休みになってしまったため今日はとことん暇だ。夜中から明け方

にかけて五時間余り暇な時間を体験したため、もうやだ。

 家に帰ったのは午前六時。それから風呂にも入らず底無し沼に沈む

ようにズブズブと眠った。

 起きたのが午後二時。風呂に入って昼食を食べて、外に出た。

 色々と因縁のある公園。東中央公園までやってくる。ここに来ればまた、

スノウに出遭うかもしれない。ここに来れば柏原がいるかもしれない。

 全くもって別の人間がいたのだが。

 本当、ここには何かと因縁めいた人間とばかり出会うな。

 そう考えると、柏原も何かあったりして。

「・・・・兄さん」

「朝月?」

 思わず兄さんと言ってしまった。彼らは偽者。そう思い込んでいるのに。

「・・・・ここで何をしている、刀騎士?」

「そっちこそ、常光」

 すぐに言葉を変える。周りには誰もいないが万が一、さっきのような

会話を誰かに見つかったら大事だ。

 誰もいない。そう、誰も、だ。

「他の連中はどうした?大伽藍や護鱗もいないようだが?」

「俺がいつもあいつらと行動を共にしていると思うな。全員が一組織の

構成員なんだ。別行動くらい普通にするさ」

 俺は木刀に手をかける。持ってきておいてよかった。

 刀騎士もいつでも刀を抜ける状態だろう。

 武器を向けるなんてことはしたくなかった。本心では、感謝している

のだ。生きていてくれてよかった、と。

 それでも俺は武器を向ける。今の自分を護るため、自分のするべきこと

を達成するために。

 そのためには、生きていてくれた兄に武器を向け続ける必要があるのだ。

 背中から引き抜いて振り下ろす。圧砕重剣に変化させようとして、

「・・・・・」

 止めた。

「・・・・・?」

 刀騎士も刀を抜く。俺の木刀を峰で受けた。

 峰で受け止めてくれたおかげで木刀は壊れずに済んだ。

「どういうつもりだ?」

「ここで戦うつもりはない、という意味だ。さっさと退け」

 木刀を納める。刀騎士も刀を納めた。

 俺はここを去らない。去るのはあいつだ。

「俺たち死兆星は死人を管理するための組織だ。お前たち反抗組織の鎮圧

はしても所構わず戦って拉致するような組織じゃない。だから、退け」

 本心では違う。今言ったことも当然、理由の一つだ。ただ、その根底

には純粋に兄と戦いたくないという感情がある。

 このまま退いてくれ。そうすれば、俺は無駄に家族と戦うなんて、そんな

悲しいことをしなくて済む。

「そうか・・・・断る」

 一瞬、振り向きそうになった。

「・・・・と言いたいところだが、今日は退こう。俺たちも無駄な戦いを

好んでいるわけでもないんでな」

 振り向いた。そこに刀騎士の姿は既になかった。

 痛いくらいの静寂が公園を包む。今は夏休みの午後なのだ。もっと人が

いてもよさそうなものだ。

 以外と広いこの公園。ついこの前、俺とスノウが戦った場所は今も立ち入り

禁止になっている。

 しかし、そのキープアウトのテープを無視している人物がいた。

 というか俺の知り合いだった。

 あの炎の中で奇跡的に残っていたベンチ。そこに横になって本を開いたまま

寝ている少女がいた。

 長い髪の毛に顔に巻かれた包帯。鎖骨と足にも巻かれている。何か怪我でも

したのか手にまで包帯は巻かれていた。

 柏原柚木だ。俺が始めて自分で手に入れた、友達。

「すー・・・・・・すぃー・・・・・」

 今すぐそこでちょっとした事件があったというのに。平気で寝てやがる。

 側まで行ったがすぐに帰ろうとした。よく寝ている。それを起こして

まで自分の暇を潰そうとは思わなかった。

 俺らしくもない。

 大人しく立ち去る。しかし、それはできなかった。

「・・・・」

 いつの間にか、俺の服を掴まれていた。

 ガッチリと。寝惚けてできる握力じゃねぇだろ、と言いたいほどの力で。

 当然、外れない。

「・・・・・ふぅ」

 逃亡することを諦めてベンチに座る。俺も寝よう。まだ眠い。

 時間を潰すにはちょうどいい・・・・・。

 ちなみに、本はいわゆるBL本だった。

 見なかったことにしよう。



 目を覚ましたら夜だった。時間は午後六時。

「どれだけ寝てるんだよ俺・・・・」

 隣に柏原の姿はなかった。代わりに俺の手に一枚の手紙があった。

 開いて見ればそれは柏原からだった。

『起きたら常光さんが隣にいて驚きました。本を読んでいたら寝てしまった

ようで・・・・お恥ずかしいです』

 まず、あんな本を屋外で読むな、と言ってやりたい。

『起こさないでくれたんですね?ありがとうございます。ボク、低血圧

なので起こされると機嫌が悪くなっちゃうんです』

 それは正解だったな。起こしたのに機嫌が悪くなるんじゃたまらない。

 便箋はそこで終わっていた。なんとも中途半端だと思っていたら裏面に

まだ続きがあった。

『しばらく待ってみたんですが起きないようだったので先に帰ります。

すいません』

 律儀な奴だ。謝ることなんてないだろうに。

 下のほうに追伸があった。小さくまとめられていた。

『追伸・いつものしかめっ面と違って、素直な寝顔でしたよ♪』

「・・・・・」

 しかめっ面ってなんだよ・・・・。

 いや、それ以前に気恥ずかしい。こんなことなら俺も柏原の寝顔を

眺めておくんだった。

 畳み直した手紙をポケットに仕舞ってベンチを立つ。

 最近は色々なことが立て続けに起きている。疲れてもいたのだろう。

こんなに寝てしまうとは思わなかった。

 もうそれなりの時間だ。家に帰ってもやることは無いとはいえそろそろ

金が来る時間だろう。金が来た時に家に居なければ何かと面倒だ。

 いい加減帰ろう。真夏だというのに若干冷えた。こんな場所でこんな

時間まで寝てた罰だろうか。

 気が緩んでいたのだろう。その時の俺は、すぐ後ろにあった気配に気付け

なかった。

 もし気付いていたなら、普通に家に帰ることはしなかっただろうに。



 帰り道。公園から家までは五分程度の道程だ。普通ならこの短距離で

何かが起きるとは思わない。

 無意識に警戒を解いていたのが原因だった。

 五体のエクスクレセンスに囲まれて右肩を負傷した俺。既に三体は

斬ったがまだ五体はいる。

「油断大敵ってのは・・・このことかよ・・・・はっ・・・・はぁっ」

 組織的に行動していることは知っていた。しかし待ち伏せまがいのこと

までしてくるとは思いもしなかった。

 圧砕重剣を発動できたのも奇跡だ。殆ど隙の無い連携までしてきやがった。

これじゃ強化人間を相手にしているようだ。

 家は近い。でも助けが来る可能性は低い。金がDUを発動すれば別だが

意味も無くDUを発動することはない。あるとすれば、俺の帰りが遅い

から探す、といった場合しかない。それも、俺がこのまま後何時間か耐え

続けなければならない。

 電話をできる状況でもない。フェイスバイザーを取り出して装着する暇

もない。

 自力で乗り越えるしかないようだ。

 しかし、乗り切る自信はない。

 まだエクスクレセンス五体なら何とかなった。今、奥のほうに第二段階

が一体、現れなければ。

 縦長の棒のような形。遠距離からブーメランのような刃付きの武器を

無数に飛ばしてくる。

 それに加えて五体の連携。このまま勝利したら勲章ものだ。軍隊なら

確実に昇級できるぞ。

 辛うじて攻撃は避けている。右肩の一撃は俺の油断が生んだ傷だ。

 このままじゃ体力切れで俺が負ける。こいつらに体力なんていう分かり

易いものはない。

「埒が明かねぇ・・・・」

 傷を負うのを覚悟で踏み込む。右腕に大きな裂傷を刻みながらも、代償

として二体を一度に葬れた。

 右腕はもう使えない。肩の傷と手首から肘にかけても大きな裂傷。

感覚すらも危うい。

 残りは四体。左腕だけで勝てるなんて思ってない。逃げるのが最良か。

 振り返って走り出そうとした瞬間、四体が同時に動いた。

 まるで、俺が逃げようとするのが分かっていて、逃げ出した瞬間を

狙っていたかのように。

 また後手だ。防御しかできない。逃げることもできない。

 まだ大丈夫だが俺の体力もいつかは尽きる。

「万事休す・・・・かよ」

 意地で一体を無理矢理切り裂いた。しかし、その隙は大きかった。

 迫るのは第二段階の攻撃。ブーメランのような飛び道具が幾つも。

 避ける手立てはなかった。回避も間に合わない。

「護鱗!」

 その俺とブーメランの間に、何かが割り込む。

 青い髪に仮面を付けた少女。その腕から剥がれる銀色の鱗。それが

ブーメランを完璧に防いだ。

絶対防御(シャットアウト)!」

 俺のバースト・カラットを防いだ時と同じ。何も通さない、一切を

通行止め(シャットアウト)する無数の鱗。

「御鏡煌け!」

 銀色の髪の少女が唱えた。DUの発動言語を。

 残った三体の第一段階。それを鏡に反射された光線が、貫いていく。

 一瞬だった。一本の光線が反射を繰り返して攻撃する。美しいとさえ

言えた。

 一人が俺を支える。振り向けば仮面を被った桃色の髪の少女が俺を

支えて倒れないようにしてくれている。

 その後ろから別の二人が走り出す。

 茶髪の少女はポケットからBB弾の袋を取り出す。それを袋ごと手で

包んで、袋の口を開けて投げつけた。

「撃爆!」

 小さな粒だったはずのBB弾。一つ一つが中規模程度の爆発引き起こす。

小型の爆弾でも爆発したかのような爆発。

 しかし相手はエクスクレセンス第二段階。この程度では倒れない。

「弾を雨を束ね血に染めよ」

 早口言葉のような言い辛い言葉。しかし、発動さえしてしまえばこの

上無いほどの強力なDU。

 黒い髪の少女の両手にあるロケットランチャー。少女が両手で二本持つ

にはあまりに巨大過ぎて重過ぎる代物。それを軽々と発射した。

 大きな爆発。近隣住家の壁を破壊しながら上がる火柱。

 いい加減春彦も金も気付いているだろう。それ以前に死兆星も行動を

起こしていなければおかしい。

 戦いの終わった五人の少女は俺を見る。仮面越しの視線を感じた。

 実際、見ているのだ。

「君に、聞きたいことがある」

 仮面越しのくぐもった声で話しかけられる。聞き取りづらい。

「どうして、刀騎士の側にいてあげないの?」

 その問いは俺が刀騎士を兄だと確信している、ということを知っている

ことを前提にした問いだ。

「あいつは敵だ。敵の側になんて・・・」

「そんなことを聞いてるんじゃないの」

 俺を支えていた大伽藍に言葉を遮られた。いつにない口調で。

「どうしていつまでも、皆を認めてくれないの?」

 それは、願いのようだった。認めて欲しいと。自分たちはここで、こう

やって生きているんだと。

 今、ここにいる自分たちを否定しないでくれ、と。

「どうして認めない・・・・か」

 自嘲気味に言う。だって、本心では認めているのだから。今すぐにでも

抱きついて泣き叫びたい。「生きていてくれてよかった」と。

 それができないからこそ、認めないのだ。

「もし、俺がお前たちを認めたら・・・・俺は崩れてしまう」

 遠くに春彦が見えた。金の姿もある。家までは大した距離が無かったの

だから気付いて当然なのだ。

「お前たちの死を、陽の死を踏み台にして、俺はここにいる。それが

崩れたら、俺はここにいられなくなる」

 もうすぐここに辿り着くだろう。そうしたら彼女たちは逃げなければ

ならなくなる。

 もう時間はない。

「俺はここに居続けるために、お前たちを否定する。許してくれなんて、

言わない」

「そう・・・・か」

 仮面を取って、素顔を晒して、海深が言う。

 悲しそうな顔で。

「アサはもう、自分の居場所を見つけてるんだね」

「そう・・・かもな」

「でも、今のアサじゃ何も護れない」

「・・・え?」

「ただただDEATH UNITに振り回されて、道化に踊って朽ちる。戦う

相手を、復讐する相手を履き違えている今のままじゃ、誰も」

 そう言って立ち去った。素早い動きで、音も無く。

 あっという間に。

 その後に来た春彦と金と何を喋ったか、俺は微かにしか覚えていなかった。



 桜子たちが朝月を助けると言って出て行った後。俺の家には俺と珍客が

二人ほどいた。あと普通の客が一人。

 普通の客はアッシュのこと。珍客はフェニックスとメイガスのことだ。

 アッシュは意外とよく家に来る。逆にメイガスやフェニックスがここに来ることは殆どない。

 今みたいな午後六時を過ぎた時間にもなれば尚更だ。アッシュはいつも

六時になる前には帰ってしまうのに、今日は六時になる前に来た。そして

そのまま帰っていない。俺と朝月が対峙したあの公園にいたのは知って

いるが眠っていたはずだ。あの後に何があったかは知らないが、朝月絡みで

あることは十中八九確実。朝月がアッシュに対してどんな感情を持っている

かは分かっている。だからこそ、今のままでいいはずがなかった。

 俺たちの計画が進めばいずれ、死兆星と全面戦争になるのだから。その

時にアッシュと戦ってしまえば、朝月は崩れてしまう。

「スノウは、どうするつもりなのです?」

 メイガスは問う。それが朝月に関することだと、アッシュも悟ったようだ。

「このままじゃ、いけない。け、けど―――」

「自分から切る勇気もない、か」

 俺はアッシュがどんな過去を持っているのか、どんな人間関係を持って

いるのかを知らない。それはフェニックスにもメイガスも同様で、彼女ら

のことを俺は殆ど知らない。

 この会話の内容くらいは分かるが。

「友達は大事にしたほうがいいです。できればこの関係、壊したくは

ないものですね」

「でも、計画進行につれて難しくなってくるよ。ワタシもスノウも、前線

に出ることが多くなってくるんだしさ。当然、弟君に出くわす確率も高く

なるわけで」

 友達、か。その程度で収まってくれればいいが。

「朝月はお前に、強い依存みたいなものを持っているみたいだが?」

「そ、それに関しては・・・・よく・・・・」

「まぁそうだろうな」

 今はそこまでの感情を表に出してはいない。だが、さっきの公園で寝て

いる時、周囲に殺気を撒き散らして何も近づかないようにしていた。それで

いて隣にいた少女には、気を許していた。

 何が原因か。それは分からない。

「あなたに・・・・アッシュ・ライク・スノウにではなく、あなた自身に

聞きます」

 メイガスがアッシュを横目で見る。メイガスの瞳を見たのは初めてかも

しれない。

「あなた、柏原柚木は、どうしたいのですか?」


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