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潜入捜査

第七章政府組織



 翌々日。俺と春彦、金と音無さんと暁が集められた。召集をかけたのは

言うまでもなく軌条だ。

「この二日でまだ気持ちの整理が付いて無い者はいるか?いるなら遠慮

なく言ってくれ。・・・・・これから言うことは、ちょっと刺激が強い」

 いつになく真面目な口調。真面目な表情。ある程度なら予想できた。

「誰もいないか・・・・。誰がどういう整理を付けたかは聞かない。ただ

俺の話を聞いて、自分がどうるすかを決めてくれ」

 さすがに全員が真面目になる。

「俺は、この前の証拠映像を上層部に提出していない」

「え!?それって・・・・」

「ああ、間違いなく反逆行為と看做されるだろうな。だが、そんなことは

覚悟の上だ。それでも俺は・・・・」

 迷うような、俺たちを見て、一息おいてから言う。

「それでも俺は今夜、この死兆星本部の上層部に潜入して、未知に関する

情報が無いかどうか、調べるつもりだ」

「軌条、あなたはそんなことをして・・・・」

「見つかればアウトだ。だからこそ、皆に集まってもらった」

 俺たちを見回して、

「手伝ってほしい。俺一人じゃ無理だから、皆の力を貸して欲しいんだ」

 軌条をこんな行動に出させた原因はおそらく、あの一言。

『今一番怪しいのはこの死兆星だよ。政府直轄組織の死兆星なら、いろんな

情報があるはず。もし、未知(ノーバディノーズ)のことを知っていて尚、死人を管理しよう

としているなら―――ね』

 ザ・フェニックスが去り際に言った一言。それが原因なんだろう。

「聞かせてくれ。手伝うか手伝わないか。手伝うなら残って、手伝わない

なら帰ってくれ」

 しばらく悩む。そして、金と春彦が立った。

「帰るのは構わない。ただ、邪魔だけはしないでくれ」

 そして迷いなく座る。何なんだこいつらは。

 誰も立つものはいなかった。皆が皆、気になっているのだろう。

 死兆星が未知のことを知っていながら、死人を管理しているのなら、

それは許し難いことでもある。

 未知のしていることを知っていて、それでも未知を止めようとしていない。

死人を管理していることが止めようとしていると言えばそうとも言えるが、

それならば隊長格の誰も知らないというのは可笑しな話だ。

「手伝ってくれるんだな?・・・・・ありがとう」

「礼を言う必要はないわ。自分たちの意思でここに残ったのだもの」

「・・・・そうだな」

 少しだけ真面目な表所を崩して微笑む。怖かったのだろう。自分一人で

行うにしては、相手が強大すぎる。

「決行は今夜の予定だが、皆大丈夫か?」

「大丈夫だろ。夜イチャつくならまだしも、夜中に予定のある奴なんて

いないだろう」

 暁が言う。イチャつくってなんだ。しかも勝手に決めるなよ。

 まぁ、実際何もないんだが。

「時間は夜の零時。朝月の家に集合な。詳細はその時に話す」

 何故に俺の家。

「持参物等は?」

「ん・・・・・目立たない服装といつでもDUを使えるようにしておく

ことくらいか」

 目立たない服か・・・・あったかな。夜だから黒い服がいいか。

 対して問題もケンカも無く計画は決定された。

 決行は今夜夜中の零時。

 死兆星と今まで死兆星に従ってきた俺たちのやってきたことの意味が

問われる。もし、未知のことを知っていながら死人を管理してきたなら。

 一体何人が、反旗を翻すだろう?



 夜中の零時前。俺と春彦、金に音無さん、軌条に暁が集合場所である

俺の家に揃った。

 しかし、実に面白いことがあった。それが―――。

「お前ら皆バカだろ?」

「カタカナで言うな。余計にバカにされた感じがする」

 軌条と暁含め、全員が全員、全身真っ黒。服のコーディネートが示し

合わせたかのように黒一色なのだ。

 しかし、音無さんはなんでライダースーツなんだろう。この人、この身長の

低さでバイク乗れるのか?

 音無さんの身長の低さには定評がある。年齢は噂で二十三歳。噂で身長は

百四十五㎝と聞いている。

「華南は呼ばなくてよかったの?」

 音無さんが軌条に問う。

「ああ。華南にはこんな危険なことに関わって欲しくないからな」

 軌条と華南さんは古い知り合いなのだそうだ。だから軌条はこの

計画に華南さんを巻き込みたくないと思ったのだろう。

「行こう。いつまでもここにいられない。時間は無限じゃないんだ」

「カッコいいこと言ったつもりかしら」

 軌条の後に暁と音無さんが付いていく。その後に俺たちも続いた。



 死兆星の本部。その正面。

 から入るなんて愚行を犯すつもりはない。

 帰宅する前に会議室――俺たちが使っていた部屋――の窓の鍵をあけて

おいた。そこから侵入する。

 地上十五階の場所の窓にどうやって辿り着くのかというと、

「じゃあ朝月、頼むぞ」

「はい」

 俺が重力制御で持ち上げることに。

 面倒なことこの上なかったが、これが一番無音で効率的な方法だという

ことも理解している。春彦や金を除いて、俺が一番侵食が軽度だということも。

 ゆっくりと持ち上げる。こういう細かい作業は苦手なのだが、こんな状況

で文句は言えない。見つかったらそれまでなのだ。

 最初に上げた軌条が窓を開けて中に入っていくのが見えた。しばらくしてから

懐中電灯の光が一度一瞬だけ光る。

 大丈夫だという合図だ。それを見た後に音無さんを初めに俺を最後として

窓まで持ち上げた。

 俺が窓から中に入る。真っ暗な部屋に真っ黒な服装の人間が六人も佇んで

いると怖いものがある。

 窓を閉める。帰りもここからのつもりなので鍵は閉めなかったが、

「朝月、鍵は閉めておいてくれ」

「どうしてです?」

「万が一、ここの窓以外から帰ることを余儀なくされた場合、窓の鍵が開いて

たんじゃここから侵入しましたって言っているようなもんだ。それに、最後に

この会議室を使ったのは俺たちで、疑われる一番の容疑者だ」

「・・・・なるほど。わかりました」

 そこまで考えが及んでいなかった。さすがだ。

 後ろ手に鍵をかける。指先の感覚でしっかりと鍵がかかったのを確認した。

「いくぞ。・・・・静かにな」

 ゆっくりと扉を開けて会議室から出て行く。ここからが本番だ。

 廊下の明かりも消えて真っ暗に静まり返った本部。いつも仕事をしている

場所だからこそ、返って気持ち悪い。

 どこかに警備員とかがいるはずだが、それは金に任せるとしよう。

「湖子宮、サーチ頼む。どこに何があって何がいるか位は把握しておきたい」

「はい」

 金が「全てを暴け」と呟く。外見的には一切の変化はないが今の金はDU

を発動している状態だ。ここから周囲百m以上に渡って存在する物体の

形、動きの全てが知覚できているはずだ。

「把握しました。まず、最初の曲がり角の先に一人、三時間ごとの交代

なので、今交代したばかりです」

「オーケー」

 軌条が出ようとする。いや、軌条が出ちゃダメだろ。

 当然の如く音無さんが止める。しかしどうするのか。普通に気絶など

させてしまってはいけないのだ。どうやってスルーする気なのだろう。

「・・・・どうすっか」

「えーっ」

 思わず少々大きい声で言ってしまった。でも、しょうがないと思う。

ここまで来て考えておかないといけなかったことが抜けていたのだ。

「いや、全く考えてなかった(笑)」

「(笑)じゃないわよ。どうするのよ」

 まさかこんな何の難関もない場所で突然沸いて出た難関に衝突して

足を止めてしまった。この先もどこかで難関で沸いて出る気がする。

 万事休すか。思えば、自分の所属する場所よりは敵対組織のアジトに

潜入するほうが楽なのではないか。

「お前ら、こんな時間にこんな場所で、何やってんだ?」

 突然かけられた声に誰もが驚き振り向く。

 仮面をかけた青年。見覚えはある感じだが、声が違った。

「誰だ?」

 暁が身体を塵に変えながら問う。

「ああ、声で判れよ」

 仮面を取った下には最近見なかった顔があった。

「御堂さん。今までどこに行ってたんですか?」

 春彦が近寄りながら聞く。本当に最近見なかった。修之さんが倒れた

時もいなかったし、録画を見ている時もいなかった。

「ああ、前は任務でセントラルの端っこまで行ってた。三日前には戻って

きてたんだけどな」

「三日前?修之さんが倒れたのは・・・」

「知ってるよ。だからこそ、ここにいるんだ」

 要領を得ない。もっと分かり易く言って欲しい。

「お前たちが録画映像を見てる時、俺もその場にいたんだ」

「え?刀騎士とザ・フェニックスはいたけど、十四は見なかったぞ」

 軌条が驚いた風に言う。実際、誰も知らなかったことだろう。

「まぁな。知られないように隠れて見てたしな。それで、お前たちが

行動を起こす前、映像を見た直後から毎夜毎夜侵入してたから」

 爆弾発言だ。先を越されていたとは。

「で、お前たちも同じ腹だろ?行動起こすのが遅いんだよ」

「で、どうして仮面なんて被ってたんだ?」

 そこが気になって仕方がないらしい。軌条め、御堂さんの乱入に乗じて

自分の失態を消そうとしてるな。

「そんなの決まってんだろ。BGの奴らの仕業に見せかけるためだ」

 被っていた仮面は刀騎士のものに似ている。それに似せてデザインした

のだろう。黒一辺倒の服装さえ気にしなければ刀騎士本人に見えなくもない。

「せっかく分かり易い敵がいるんだ。こういうことするなら敵に罪を擦り

付けてやればいい」

「おお・・・その発想はなかった」

 ポンと手を打つ。誰もが軌条に呆れていた。

「氷魚は時たま抜けてるからなぁ」

 暁も呆れ顔だ。頼りになるのは俺も知っている。だが、こういう間抜け

な一面は知らないほうがよかった。女キャラがやってこそのドジだろう。

「あと、三島の野郎にも調べるよう頼んでおいた。あんな奴でも隊長だ。

使えるからな」

 そう言ってから御堂さんは先を進む。

「仮面は?」

「おい軌条、自分たちの分の仮面があることが前提で会話を振るな」

「無いのか?」

「ねぇよ!今まで警備員にも誰にも会わなかったから、仮面いらねぇんじゃ

ねぇかなぁ、とさえ思ってたほどだ!そんな状況で、会うのかも分からない

奴ら用に仮面の予備なんざ用意してねぇよ!」

 もっともだ。俺も期待はしていないと言ったら嘘になるが、そこまで

過度な期待はしていなかった。

「俺が一人で行って気絶させてくるから。その後から調べるの手伝え」

「りょーかい」

 大人しく待っていることにする。座って待っていようとも思ったが

座ろうと思った時には既に警備員は気絶、御堂さんは戻ってきていた。

「仕事、速いですね」

「人間の気絶くらいだったら朝月でも金でも春彦でもできるだろ?」

 三人揃って首を振る。漫画でよくある、首を後ろを叩いて気絶させる

アレはかなり難しいのだ。少なくとも、俺はできない。

「意外だな。金なんかは覚えといて損ないぞ?現もできるし、変質者

撃退に使える。今度教えてやるよ」

「はぁ・・・・」

 金も何がなにやらといった感じ。できるに越したことはないが、何か

怖いのは何だろう?

「行くぞ。早くしないと交代の時間がくる。そうなる前にできるだけ

調べるんだ」

 先頭を歩く御堂さんについていく。見事に外傷無しで気絶した警備員

が横たわる。その横を通って扉に手をかける。

 中はかなり広い。まず関係者から普通の隊員が閲覧可能な資料室があり、

その奥の認証ゲートを潜った先に隊長格以上の者が閲覧可能な資料室が

ある。俺たちが目指すのは更にその奥、隊長以上の権限を持つ者しか

閲覧できない資料室。何か手がかりがあるとしたらそこしかない。

「どうやって侵入する気ですか?」

「軌条に聞いてやるな。警備員のことも頭に入ってなかった間抜けだ。

ここの認証ゲートのことなんて考えてるわけないだろ」

 御堂さんに言われて、確かに、と思ってしまった。

「それなら、御堂さんには何か考えが?」

「特に無いな。どっちみち、これはBGの仕業ってことになってんだ。

ゲートくらい壊したって問題ないさ」

 そう言って近づくが、思い直したようにこっちを向く。

「と、いうわけで、やれ。朝月」

「・・・なんで俺が?」

「お前壊すの得意だろ?俺はそこまで壊すの得意じゃない・・・・・設定」

「今、設定って言った?言いました?」

「言ってない言ってない」

 白々しい。設定ってことは本来ならこれくらいの破壊は造作も無いって

ことだよな。仕方ないか。

「分かりましたよ。木っ端微塵完膚なきまでに破壊するので、離れて

ください」

「いや、そこまでは言ってな・・・」

 最後まで言わせなかった。壊すなら徹底的に壊したかった。何か、

破壊衝動みたいなもんが出ていた。

 横に一閃、縦に両断、斜めに二回寸断、最後に突きで八つに切り裂かれた

認証ゲートの扉を吹き飛ばす。

 綺麗に部屋の隅まで吹き飛んだ扉(八つのパーツ)は壁に当たったり

床を跳ねたり天井にぶつかったりして綺麗に折り重なって部屋の隅に

積まれた。

「・・・・・・」

 すっきりした。これでこの破壊衝動が誰かに向けられることはないだろう。

 ていうかこんなことして警報とか鳴らないのか?今更になって心配に

なってきた。

 しかし心配は杞憂に終わったようだ。警報はいつまで経っても鳴らない。

「警報鳴らないのか?警備システム大丈夫かよ・・・・」

 なんて本気で心配したが、その心配さえも杞憂だったようだ。

 よく見れば金が目を閉じて集中している。そこまで注意しなければなら

ないような時間でもないだろうに。

「警報は鳴りますよ。本来ならば」

「どういう意味だ、春彦?」

「今の金はDUの侵食が進んでいます。始まっていないのは僕くらいで。

精神変化系だったようで、本人曰く、朝月君が侵食の開始を明かした時

には既に始まっていたようです。精神変化系で能力の幅が広がったみたいで

何だか、機械のシステムに介入できるようになったとか」

「システムに介入?明らかに元の探知系とはジャンルが違わないか?」

「DUをそういう常識的な考えで捕らえちゃダメだ」

 御堂さんが会話に入ってくる。俺と春彦、金と御堂さん以外は既に

資料室の中に入っていた。

「DUは俺たちの常識観念に囚われない、本当に未知な力だ。そういう面

じゃ案外、未知の欠片なんてもんも存在すんのかもな」

「それで、今は幅が広がった能力で警報装置のシステムに介入してもらって

鳴らないようにしてもらってるんです。周囲の監視も怠ってないという

超人ぶりです。脱帽ものですよ」

 そう言ってから春彦と御堂さんは部屋の中に入っていった。俺は金の

護衛を命じられたのでここにいることにする。

「・・・・・」

 しかし、本当に集中しているな。ここにいるのが俺だって気付いてない

んじゃないか、とさえ思わせるほどだ。いつもの金からは考えられないほど

の無口ぶりだ。

 自然と俺も喋らなくなる。二人きりの状況で片方が無口だともう片方も無口

と化す。新しい発見だ。・・・・・そうでもないか。

 俺が破壊した扉の向こうではガサゴソと漁る音がする。それに紛れて会話も。

「木っ端微塵完膚なきまでに、って言ってたわりには結構原型留めてるよな」

「本気で木っ端微塵にしちゃったらダメでしょ。一応、刀騎士の仕業って

ことになってるんだから」

「そうか。刀じゃこれくらいが限界か」

 とか何とか。

 そこまで考えていたわけじゃない。ただ、中の資料に被害を出さない

ように壊そうとしたら自然と、普通に斬るしか無いという結論に至った

だけだ。

 そんなに計算高いことはしていない。

 ・・・・さすがに時間がかかる。部屋に入って探し始めてから既に

二時間以上が経過していた。

 正確なところはわからないがそれなりの時間は経っているはず。

「熱源一。警備員と思われる人物が近づいています」

 突然の発声にびっくりした。ここ二時間近くは無言だっただけに言葉の

意味を飲み込むのに少し時間がかかった。

「今どの辺りだ?それによっては・・・・」

「まだ宿直室を出たばかりです」

「それなら・・・・」

 しかし何で敬語?隣にいるのが俺って分かってないのか?

「御堂さん」

 資料室の中に入って御堂さんに声をかける。

「どうした?誰か来たんならお前が対処しろ」

 一蹴された。

「俺は御堂さんみたいに気絶させられないんですから。何とかしてください」

「一度この作業から離れると再開したくなくなるから嫌だ。素手で無理

なら圧砕重剣で殴って気絶させとけ」

 無謀な。刀騎士の刀じゃあ俺の圧砕重剣とは大きさも重さも全然違う。

下手に殴って気絶させたら、殴った跡から刀じゃないってバレるかも。

 どうしよう。何とかして何とかしなければ。

 一度資料室を完全に出る。まだ気絶した警備員が転がっていたが、その

身体を資料室内に運んでおく。少しでも侵入が発覚するのを遅くするため

だ。

 カツン、カツン・・・・・。

 暗い廊下を移動する足音が聞こえる。もう近くまで来ているようだ。

「おい金、今どの辺りだ?」

「資料室を出て真っ直ぐ進んで突き当たりを二回曲がった所です。後二分

から四分でここに到着します」

「時間がねぇな。俺がやるしかないのかよ・・・」

 足音をできる限り消して廊下を歩く。途中にあった扉を開けてその部屋

に入って一度隠れる。

 部屋の前を誰かが通る気配がする。足音が大きくなり、一番大きくなった

後に遠ざかって段々小さくなる。

 こっそりと、素早く部屋から飛び出して目の前を歩いていた警備員の

首に俺の腕を巻きつけた。

「な、何だおまっ・・・・」

 何だお前は、と言おうとしたのだろう。しかし口と鼻を同時に塞がれて

首を絞められている。声を出すことができるはずもない。そのまま首を

絞め続け、

 ゴキッ。

「あ」

 嫌な音がしたから手を離す。警備員は糸の切れた人形のようにその場に

倒れた。

「ふぅ・・・・」

 額の汗を拭う。一瞬聞こえた嫌な音は、この際、聞こえなかったことに

する。俺は何も聞こえてない聞いてない。

 警備員の身体を引き摺る。男なので結構重い。面倒になったからこの辺

に捨てていこうか、とも思ったがこんな場所に放置したら朝一番に見つかる

こと請け合いなので仕方なく資料室まで運んだ。

「ふぅ・・・これでいいだろ」

 運んだ身体を適当に放り投げる。

「もう誰かいるってことは無いか?」

「付近に生体反応はありません」

「そっか」

 しかし、この敬語は何とかならないもんだろうか。出会い始めのことを

思い出して少し切なくなってくる・・・・。

 今は夜中の三時過ぎ。今さっき引き摺ってきた警備員の腕時計を見た

から大丈夫。三時間経って見つからないとくれば、もっと時間がかかる

と見て間違いない。

「今日は完徹か・・・・明日が辛いな」

 俺はここで護衛をしているだけだからまだマシだが、他の人たちはあの

暗い資料室で目を凝らしながらどこにあるかも分からない重大な資料を

探しているのだ。明日が辛いのは皆のほうだろう。

 しかし、暇だ。

 こんなこと言ってはいけないのだろうが、どうしても暇だ。金は集中

してて話しかけられる雰囲気ではないし、かといって俺は金の護衛の任務

を受けた身。資料探しに参加するわけにもいかず。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 暇だ。

 その暇な時間が過ぎること更に二時間余り。そろそろ空も白けてきた。夜明け

が近い。朝早い人間なら後一時間もすれば出社してしまうだろう。

 金も厳しい。かれこれ、もう五時間近くもDUを発動しっぱなしなのだ。まだ

DUの侵食が始まったばかりとはいえ、これは辛いものがある。

 何かを成し遂げるため、誰かを手伝うためであっても、自分の命を削っている

のだから。

「金。もう解いていいぞ。いい加減辛いだろ」

 部屋の中から御堂さんが顔を出す。金もDUを解いた。

「見つかったんですか?」

「ああ・・・・五時間かけてやっとな」

 薄い紙の束を右手に持っていた。これだけ小さければ探すのも一苦労という

わけだ。

「さっさと帰るぞ。これの検証は明後日だ」

「何で明後日なんだよ?とっととやったほうがいいんじゃ・・・・」

「軌条、お前はこの寝不足の中、いつも通りに仕事してその直後に、この

意味分からん奴について書かれている書類に目を通す。そのままノック

ダウンしない自信はあるのか?」

「ないな」

「即答するくらい分かってんなら言うな」

 軌条含め暁と春彦、音無さんが資料室から出てきた。全員目の下がクマ

で真っ黒だ。

「よし、お前らは早く帰れ。窓の鍵は俺が閉めておいてやる」

「へ・・・・?」

 軌条が間抜けな声を上げた。ああ、そうか・・・・・。

「軌条さん、自分たちが帰った後にどうやって窓の鍵閉めるか、考えて

なかったんじゃ?」

「・・・・・・・・・・・・・・おお」

 おお、じゃねぇよ。ホント、御堂さんがいてくれてよかった・・・・。

 資料は御堂さんが責任をもって保管するそうだ。俺たちは侵入した窓

から外へと出る準備をする。

 準備といっても俺がDU発動するだけなんだが。

「御堂さんはどうするんですか?窓の鍵を閉めるとなると、どこから出る

気なんですか?」

「俺はここに残る。気絶した警備員を誰かが見つけるまで潜伏して、騒ぎ

が大きくなったらそれに乗じて逃げるさ」

 一人ずつ重力を操作して外に下ろしていく。地上十五階の高さから真っ黒

な六人が空中浮遊して地面に降りる姿は、いつか都市伝説にでもなりそうだ。

 最後に俺が出る。窓の向こうで御堂さんが鍵をかけたのを確認してから

地面までゆっくり降りる。

「さて、帰ろうふぁ~」

 軌条の言葉は欠伸で最後がよくわからなかった。意味は伝わるが。

「軌条、みっともないから口くらい塞ぎなさい。ふわぁ」

「男は口なんて気にしないさ。なぁ軌条?・・・・・ふぁ~」

 結局、全員眠いのだ。

「帰りますか。二人ほもぉ」

「欠伸しながら喋んな。意味わかんなくなるだろうが。俺はホモじゃねぇ」

「私はそもそも男じゃない~」

 俺たちも相当眠いなこりゃ。

 とっとと帰って寝るか。何者かが資料室に侵入して何かを持ち去った。

しかし、それを公にはできないはずだ。何せ盗られたものがアレだ。

何か適当な理由を付けて表の巨大企業職員のみを残して臨時休暇にする

はずだ。上層部の連中も、色々時間が欲しいだろう。

 心置きなく寝られる。何かあれば誰かに叩き起こされるだろうからな。

 本当に臨時休暇になるなんて、思ってなかったけど。


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