復讐者
再生を終えた俺たちは映像の中にあったキーワードと思われるものを
いくつか書き出した。
ノーバディノーズの欠片、子供たち。
未知の欠片の犠牲者。
わたしの様になってはいけない。
奴はDUに関わった魂を集めて回収する。力を集めていく。
アレが完成すれば死人は滅ぶ。
この世界だけでなく、全世界の死人が。
「よくわかんねぇな」
「・・・・ですね」
俺の呟きに相槌を打ったのは春彦。俺だけでなく皆が悩んでいる。
「とりあえず、このノーバディノーズの欠片と未知の欠片は同一と考えていい
として・・・・」
暁がホワイトボードに赤いペンで書き込む。それは俺も思っていたことだ。
「わたしの様になってはいけない・・・・・か」
金は順当に疑問を解いていくことにしたようだ。確かにそれが一番いいだろう。
気になるものから気になるものへと疑問をぶつけていっても意味はない。
「それはたぶん、エクスクレセンスにはなるな、ということではないでしょうか」
「やっぱりそうだよねぇ・・・・エクスクレセンスになること、それが何かに
対して不都合になるからなのか、はたまた別の理由なのか」
「それはわかんねぇな。次だ」
次のワード。奴はDUに関わった魂を回収する。力を集めていく。
「どういう意味だと思う?」
軌条の問いに答えられる者はいなかった。
「まず、奴ってのが何なのかが分からないと、意見の言いようがないよ」
「DUに関わったってのが、どの辺までなんだろう」
「それよりは魂の回収ってワードが先じゃないか?」
「力を集めていくっては?」
議論が先に進まない。誰も何も知らない以上、先に進むはずもない。
「次だ次」
アレが完成すれば死人は滅ぶ。この世界だけでなく、全世界の死人が。
「アレってなんだ?」
「死人は滅ぶって物騒な」
「この世界だけでなく全世界の・・・・異世界?」
「バカバカしい。異世界なんてあってたまるか」
そして軌条が気付く。
「・・・・・なぁ」
「ん?」
「そもそもさ、未知の欠片ってなんなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
まず、大前提からしてなってなかった。
そして音無さんは一言も喋っていない。
「ダメだな相変わらず。これで死人を統率しようってんだからお笑い草だ」
俺のよく知る、しかしここでは絶対に聞こえないはずの声が聞こえた。
「誰だ!?」
軌条が振り返る。そこには仮面を被った青年が壁に寄りかかって立って
いた。
「・・・・あなたはっ」
音無さんが音も無くDUを発動し仮面の青年――六人幹部会・ブルーム
シードの隊長、刀騎士をワイヤーで取り囲む。
それを見た春彦が螺旋鎖鎌を発動して刀騎士を壁に押さえつけた。
仮面の下の表情はわからないが口調は余裕そのものだった。
「手厚い歓迎だな。喜んでもらえたと思っていいのか?」
「思ったなら考えを改めな。誰も喜んじゃいねぇよ」
「そりゃ残念」
首を振る。手が動けば肩をすくめていたのかもしれないが。
「見るに耐えない討論だったからな。口出しさせてもらおう」
「こっちもいいもの見せてもらったからね」
刀騎士の縫い付けられている壁、その刀騎士の肩の上に一人の少女が
乗る。
さっきまでどこにもいなかった少女だ。
「誰だ?」
暁が身体の一部を塵に変えながら問う。
「THE BLOOMING GARDEN総帥直属 ザ・フェニックス」
丸々露出した左腕でライターを弄りながら拘束具で固められた右腕で
刀騎士の頭を弄る。
「こんな簡単に捕まるなよなぁ~。バックアップのつもりだったのに
前線に出されちゃったじゃん」
「仕方ないだろ。こいつら速いし、無音だし」
拘束されていて、助けにきたのが少女一人だというのに余裕の表情。
何か秘策でもあるのだろうか。
「いいもの見せてもらったってのはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味。さっきの映像、最初から最後まで見せてもらったから」
全員が驚く。いつの間にこの部屋に侵入していたのだろうか。そして
映像が終わるまで誰にも気付かせない。常識的にできる芸当ではなかった。
まぁ、俺たち死人自体が常識からかけ離れているんだが。
「情報提供してくれた代わりに、こっちからも少し教えてあげようかと」
「・・・・情報提供したつもりは無いんだがな。くれるなら貰っておこう」
軌条の台詞に満足したように頷いたザ・フェニックスは喋ろうとして、
「さっきのはね・・・・」
「エクスクレセンス第三段階の言っていたことは結構複雑でもある。情報
が一切無い状態では理解できないのも無理はない。・・・・まずは未知の
欠片辺りからだな」
刀騎士に完全に遮られた。そして台詞を奪われた。
「ちょっとぉ!これから言おうとしてんのに邪魔しないでよぉ!」
「お前が説明すると長くなるだろ!いつもそうだ、説明のそこかしこに自分
の感情論挿みやがってっ!」
「自分の意見言って何が悪いのさっ!」
「悪くはない。ただそれが無駄に長いのが問題なんだろうが!」
急に現れて急にケンカを始めた二人。唖然の俺たち。
「自分の意思と意見を強く持つことは大切なことだって、祖母ちゃんのお兄さん
が言ってた!」
「祖母ちゃんじゃないのかよ!」
しかも意味不明なことになってる。ケンカの理由、見失ってないか?
刀騎士は身動きできないせいでザ・フェニックスに頭をグリグリされている。
二人でギャーギャー言い合っているが、誰も聞いてはいなかった。
ただ見もせずに口ケンカが終わるのを待っている。もう関わるのが嫌になった
のだろう。かく言う俺も関わりたくない。自分の兄なのに。
・・・・・静かになった。
二人のほうを見る。下らない口ケンカは一応は終息を経たようだ。
「で、終わったのか?」
俺は声をかけたくなかったが、俺が声をかけないと誰も声をかけそうになか
ったので仕方なく声をかけた。
「あ、ああ。俺が説明させてもらう」
「・・・・・ぶっす~」
ザ・フェニックスは明らかに拗ねている。説得に余程苦労したのだろう。刀
騎士は疲労しきっていた。
「えーと、まずは未知の欠片のことからだったな」
やっとまともな話になりそうだ。勝手に見ておいて情報提供も何もあった
ものではないが、ただ取られてそれで終わりでは怒りが溜まる。向こうが有力
な情報をくれるというなら貰う。
「未知の欠片・・・・ルビは未知=ノーバディノーズだ。英語の意味さえも
分からないなら辞書で調べろ」
「とっとと進めろよ~」
「うるさい黙ってろ」
ザ・フェニックスの野次を一蹴して、視線をこっちに向け直してから。
「未知の欠片はその名の通り、今の俺たちの技術力じゃ決して生み出せない
未知の素材、存在だ。その一部のこと。それが、俺たちにDUを与えた
本体であり、死人を生み出した」
語られることは衝撃的なことばかり。俺が考えもしなかったような言葉
がスラスラと吐き出されていく。
「未知自体がどこにあるのかは不明だ。そしてこいつは、DUに
関わった魂―――いうなれば死人、死人によって命を落とした者の魂を
回収して、自分の力の糧とする」
「それじゃ、E4が、わたしの様になってはいけない、って言ったのは・・」
「そう。エクスクレセンスになって命を落とせば、その分だけ未知に
力が渡ってしまうということ。それに、エクスクレセンスに命は無くとも
魂はまだあるんだ」
「どういうことだ?」
「命と魂が同一と考えているならそれは誤りだ。命は命として、魂は魂と
して別個で存在する」
段々俺の理解能力は範疇を超えてきた。もっと簡単に説明して欲しい。
「未知が回収するのは魂であって命ではない。エクスクレセンスになる
ことで魂はより強力になり、第二段階、第三段階になるにつれてどんどん
強力になっていく」
ん?待てよ。エクスクレセンスになるにつれて強力になっていく?
それじゃまるで―――。
「その通りだ。常光、お前の考えた通り、魂とは俺たちの持つ―――」
刀騎士の口から吐き出される言葉は、今までの漫画や小説である設定
を完璧に覆す言葉だった。
「―――DEATH UNITのことだ」
「・・・・!」
驚愕を通り越す。俺たちの魂が・・・・DU?
「正確には少し違うがな。俺たちの命、俺たちの元から持つ魂、それに
二つ目のDUと化した魂だ。他人の魂を取り込んで変質させ、他人に
植えつける。基準は不明だがな。簡単に言えば――」
少しだけ息継ぎをしてから、
「死んだ人間の魂を、俺たちは自分の能力として使っている、ということだ」
ザ。フェニックスももう茶化さない。笑わない。刀騎士も自嘲気味に
笑った。
「効率のいいやり方さ。魂を集めて何人かに植え付ける。そいつが死ねば
そいつの魂と植えつけた魂が帰ってくる。しかも暴走した奴が殺した人間
の魂もおまけで付いてくる。それを繰り返せば数はすぐに集まる」
「未知の欠片の子供たちは死人のこと。未知の欠片の犠牲者は魂を取り込まれた
者だちのことだよ」
次々と疑問だったキーワードが解決されていく。これは最早情報交換
などではないのではないだろうか?
「で、最後のアレってやつだが・・・・」
軌条が急かすように問う。そういう問いがくることは分かっていた
ようで、刀騎士はすぐに答えた。
「それは分かってない。俺たちでも知らないことだ。一つだけ分かる
のは―――」
「異世界が存在する。未知は多重世界間に干渉できるほど未知な
存在ってことだけ」
もうわけわからん。DUが魂だの異世界だの多重世界間に干渉できる
だのと。俺の理解能力の範疇を超えている。もう完璧に。
驚愕だ。誰もが言葉を失い、未知を恐れる。自分の使っていた能力が
他人の魂であり、死後の人間を弄び辱める。自分の意思ではないにせよ、
最低最悪の行為だ。
「じゃあ・・・・・俺たちは・・・・」
「死ねば・・・・死んでも、安らぎはない。それどころか、待つのは
終わり無い苦痛か」
皆が俯く。当然といえば当然だ。
「さて、俺は行くぜ。もうやるべきことは終わった」
いつの間にか拘束から抜け出していた刀騎士。もう窓際に立っていて
いつでも逃げられる体勢だ。
「じゃあな。またどっかの戦場で会うかもな」
窓から飛び降りる。一応、ここは死兆星本部の十五階なのだが。
「あ、最後にいいこと教えてあげる」
ザ。フェニックスが振り向いて言う。
「今、一番怪しいのはこの死兆星だよ。政府直轄組織の死兆星なら、
いろんな情報があるはず。もし、未知のことを知っていて尚、死人
を管理しようというなら―――ね」
窓の向こうから「早くしろぉ~~」という悲鳴が聞こえる。どうやら
ザ・フェニックスがいないとダメらしい。
「そんじゃ、さよなら♪」
窓から飛び降りる。窓の下を見ると有り得ないゆっくり加減で地上に
向かって落下していく二人が見えた。
「上昇気流か・・・・あのフェニックスなら余裕か」
軌条が言った。
そして、解散となる。誰もが気持ちを整理して、考える時間が欲しかった。
皆が皆、バラバラに帰る。帰宅する方向が同じでも会話はなかった。