第三段階(2)
数日に渡って学校を休んでいる。もう授業には付いていけない。
まだ二日や三日、一週間程度なら努力でどうにでもなっただろうが、
既に一月となれば話は別だ。
学校は夏休みに入っている。だが、俺に休みはない。
エクスクレセンスたちの動きが活発に、しかも組織的に動くように
なり始めたのだ。
たった五人のエクスクレセンス第一段階と二体の第二段階。たった
これだけなら隊長格が一人か二人もいれば事足りるはずだった。実際
以前は俺と春彦だけで十体以上の第一段階を討伐することができた。
だが、今まではそれぞれがバラバラに行動し、ただ闇雲に攻撃を仕掛けて
くる雑魚だったからの話だ。今ではたったこれだけの敵に隊長格が三人
も出動している。
俺と春彦と金―――ではない。俺と軌条と暁だ。
「さて、と。組むのは始めてだな朝月。お手並み拝見といこうか」
「もう氷魚とは組み飽きたからな。そろそろ新しい刺激が欲しかった
ところなんだ」
たった七体の敵に隊長が三人。異例だ。しかも組んだことの無い二人
との共同戦線か。
「二人よりは弱いと思いますよ。俺は団体戦は苦手なんで」
「謙遜すんな。俺は今回、テストプレイにきたんだ」
ゴトっと何か巨大なものを取り出して地面に設置する。
「・・・なんですそれ?」
「これは城砦設置型の固定機関銃だ。簡単に言えば軍用ヘリコプターに
付いてる機関銃の上位存在」
二つほど設置する。立ち上がって別の端末を操作した。
「本来なら人間が持てるように開発する予定だったらしいんだがな、
威力を追求したらとても人じゃ持てない重さになっちまったらしい。
まぁ、修之なら持てるだろうけど」
操作した端末に操られて物陰からロボットのようなものが出てきた。
四脚に車輪の付いた形状。ホバリング走行をしているもの。キャタピラ
で移動しているものの三体だ。
「こいつの試験も頼まれててね。ガードロボ」
「そんなSF映画みたいな・・・・」
半ば呆れ半ば感心といった感じ。
まさか生きてる間にこんな未来的な物品に出会えるとは。
「戦闘力の無い一般人を護ったり手薄な場所を警護したりと、用途は
幅広い。実用に足る品か確かめてこいってさ」
「だから今回は俺たちの出番は殆どないんだ。朝月、お前には俺と一緒
に第二段階二体の殲滅をやってもらう。どう考えてもガードロボと機関
銃じゃ太刀打ちできないからな」
「了解です」
「ああ、そうそう・・・」
先に行こうとしていた暁が振り返る。
「俺って死にはしないけど戦闘力低いから。条件が揃えば、強いんだが」
「・・・・?」
「そういうことだ。あんま期待すんなよ」
そう言って先に行ってしまう。戦闘力低いんなら先に行くなよ。
「朝月待て。あいつは先行っても問題ないがお前は問題ある」
「・・・・なんで?」
「お前は無数の銃弾に撃ち抜かれて生きていられるか?」
それを言ったら暁もそうなんじゃないかと思う。だが歯牙にもかけない
感じは問題ないのだろうか。
「じゃー・・・・先に殲滅する」
飛び掛ってきた第一段階二体を地面に固定した機関銃が撃つ。だが、
首振り機能が無いのか正面にしか撃たない。
「おいおい・・・・旋回も上下運動も無しかよ。威力追求しても利便性
が皆無じゃ意味ないじゃん」
研究・開発が主の第五部隊にしては面白いミスだ。これでは歩兵に
対して意味を成さない。
防御力が高く、強力だが動きが鈍重で巨大な第二段階ならば的にできる
だろう。だがこれでは対人には使えない。
そもそも城砦設置型機関銃を作る意味があるのだろうか。謎だ。
「ちっ・・・歩兵には無意味か」
そう呟いた軌条の目の前にはもう既に二体の第一段階が迫ってきて
いる。
「軌条さ・・・」
「問題ない」
俺の心配は杞憂に終わった。
軌条が少し指を鳴らす。途端に周囲の気温が明らかに変わった。
前方、エクスクレセンスと軌条の間の景色が歪む。まるで煙突から
出る蒸気を見ているような気分だ。
そして、肉の焼ける臭いがする。
直後、エクスクレセンス二体が焼けた。
燃えたのでも溶けたのでもない。高温度のガスバーナーで炙られた
ように焼けたのだ。
ジューっという音を立てて高温で炙られていく。全身が火傷を負って
いく。
火傷にはいくつかあるのだ。まずは皮膚の表皮・角質層を焼くだけの
1度熱傷。次に表皮・有棘層、基底層までの浅達性2度熱傷。次は
皮膚の真皮・乳頭層、乳頭下層までの深達性2度熱傷。最後が表皮全体
から真皮全層、皮下組織までを焼く3度熱傷だ。
あの火傷は異常だ。肉の焼ける臭いがしてから殆ど間を置かず一瞬
で3度熱傷まで到達させた。
一瞬でエクスクレセンス二体が目の前で炭化した。
ほんの三m程度しか離れていなかった。しかし三m進む間に焼け、
炭化し、砕けた。
軌条の周りが陽炎の如く揺らめき景色を歪ます。砕けた炭の破片は
軌条に当たらず高温で蒸発した。
「ディーゼルエンジンと同じさ。空気を圧縮すると高温になる。それ
だけの話だ」
説明している隙に横から二体のエクスクレセンスが攻撃を仕掛けた。
だが三体のガードロボの自動操縦によって迎撃された。
四脚とホバリングが小型マシンガンを二挺。キャタピラがグレネード
ランチャーを二挺持っていた。
一、二分の間に倒されたエクスクレセンスは軌条の足元に転がる。
「ロボは使えるな。ちゃんと人間に被弾しないようになってるし」
最後の一体は様子を窺って逃げの体勢に入った。
だが、軌条が見逃すはずもない。
「厚く、暑く、熱く、焦がせ」
右手で指を鳴らす。ただそれだけなのに。
「爆縮」
最後のエクスクレセンスは一瞬で焼け爛れ、炭化した。
恐らくは、何か特別なことをしようと思ってやったわけではないのだろう。
息を吸うのと同じ感覚で敵を焼いた。それだけなのだろう。
「ほら、行けよ。暁だけじゃ倒せないだろうから」
暁はこの数分にも満たない戦闘の間にエクスクレセンス第二段階の前に
まで移動していた。
「灰燼に帰せ」
一体の攻撃が放たれる。地面が隆起し巨大な棘となって襲う。
しかし棘は暁の身体を貫けなかった。
「塵界嵐!」
腹部を確かに貫いたように見えたのに―――暁の身体はまるでそこには
なかったかのようにハラハラと解けて塵になっていく。
「あれは・・・灰?」
「そ。自分の身体を自在に塵に変える」
それが輩蓮のDUだ。
そう続けた軌条はもう暁のほうを見てはいなかった。
「行けよ。強そうに見えても人外相手じゃわかんねぇぞ」
灰になった暁は敵の後ろに移動しただけで攻撃はしない。できない。
塵になるだけじゃあんまり意味はない。
たぶん、あの塵界嵐は第三者の手が加わることで初めて意味を成す。
ちゃんと自力で他人を凌駕するほどの腕前はあるのだろう。どんな
塵にもなれるならアレにもなれるはずだ。
切り札ならここで使うはずがない。なら俺が行くしかない。
「・・・行きます」
「おう」
それだけを交わして走る。
圧砕重剣を顕現しできる限り急いで進む。
俺の横に灰と化した暁が並ぶ。
『俺が目くらましと動きを封じる。一気に叩き斬れ』
「了解」
声は反響するようにして聞こえた。
灰の形を龍のような細長い形に変えて四つに分離する。
二体ずつ一体に対応する。灰の龍が飛散して煙幕を張り、その隙に
一体が絡み付いて動きを止める。
俺は一気に踏み込んで下段に構えていた圧砕重剣を思い切り振り上げた。
「一体・・・・」
それだけで第二段階は一人死んだ。簡単にやっているように思えるが
少しでもタイミングを間違えば反撃を食らうし、一般隊員はまず接近
すら困難な相手だ。
残すは一体。隊長格二人がかりなら楽勝だ。
という油断がいけなかった。
俺は頭上に現れた新たな影に気付くのが遅れてしまった。気付くことが
できたのは、運と暁の声のお陰だった。
『朝月、上っ!』
「・・・!?」
咄嗟の判断で圧砕重剣を真上に向け無詠唱で神曲喜剣・地獄篇を開放
する。そのままノータイムでゼロレンジ・グラビティスを発動した。
しかし上から落ちてきた“何か”は重力球に触れる前にもの凄い風圧
を出して逃げた。
「わぷっ!?な、何だ?」
少し離れた場所に降り立ったそれ(・・)は俺と暁、追いついた軌条を唖然
とさせるには十分だった。
「おい輩蓮・・・ありゃあ何だ?」
驚きと困惑、恐怖が入り混じった声色。
「分からん。俺が聞きたい」
暁も似たようなものだ。俺だって表情に出していないだけで内心、
かなり驚いているし困惑している。恐怖している。
「エクスクレセンスか?」
「だと思うが、俺はあれが今までと同じとはとても思えない」
同感だ。だってあれ(・・)は・・・・。
「今まで見てきたエクスクレセンスは皆異形だったが、共通してた点
がある。その一つが二本の手足だ」
俺が会ってきたものも全て二本の手足が付いていた。多くもなく
少なくもない。ちゃんと手が二本に足が二本あった。
「二つ目が顔だ」
身体のどこかしらに必ず生前の顔があった。今までそれでエクスクレ
センス化したのが誰なのか判断していた。
「少なくとも後ろ足はあんなに大きくなかったし、前足はあんなに
小さくなかった。それに・・・」
一拍置いてから言った。
「顔がない(・・・・)なんてことはなかった!」
そう。顔がない。
見た目は恐竜に近い。大きく発達した後ろ足。素早く動けそうでいて
大きく跳びそうだ。
代わりに小さくなった腕。身体全体から見れば申し訳程度にしかない
大きさ。それでも鋭い爪がある。
太い尻尾。皮膚を覆う鱗。そして―――。
「あの顔はまるで・・・・首を切断してその断面に口だけ付けたみたいな
もんだな。気持ち悪ぃ」
その通りだった。恐竜の首を切断して断面に口だけを付けた感じ。
見た目は嘔吐感を感じるほど気持ち悪い。
それでいてさっきの風圧。もしかしたら・・・・。
そんなことを考えている間にそれ(・・)は移動した。
俺の目の前に。
「・・・・ッ!?」
「朝月!」
後ろに跳躍する。重力制御も使っているので簡単には追いつけないくらい後方に
――イメージでは十階建てのビルに飛び乗る感じ――跳んだはずだった。
だが、目の前には相変わらずそれ(・・)がいた。
気持ち悪い口。それが開いて強風を吐き出した。
「うわっ!」
空中にいたため回避もできす強風の直撃を食らう。直接的なダメージは無いが
高所から叩き落されて肋骨が折れたようだった。
「朝月、大丈夫か!?」
軌条が駆け寄ってくる。しかしその軌条の真上にはそれ(・・)がいた。
軌条が俺を抱えて一旦後退する。追っては来なかった。
「大丈夫か?」
「・・・・ええ」
立ち上がる。さっきのことを思い出す。
俺は確かに跳んだ。地面に落ちたのがその証拠だ。ではあいつはなぜ追って
これた?あの足の跳躍力はそんなに強力なのだろうか。
待て、最初、あいつは落ちてきたのにも関わらず空中で跳躍して俺の攻撃から
逃れた。しかも強大な風圧があった。
そしてさっきも俺は強風で叩き落された。これが何を意味するか。
『あいつは風使いだったのか』
「そのようですね。しかし、あの姿は・・・・」
「今は仮にエクスクレセンス第三段階と名づける。コールネームはE3。俺たちは
E3を危険と判断し独自に殲滅するッ!」
『了解!』
こういうときに軌条は頼もしい。他人を率いる術を知っている。
「輩蓮、お前は固まれ。そのままだと吹き飛ばされるぞ」
『分かってる』
「朝月、この中で奴の能力に直接作用されない能力はお前だけだ。頼りにしてるぞ」
「過度な期待は遠慮してください」
そう言って全力でE3に向かって走る。重力制御で高く舞い上がり、今度は
重力をかけて重くする。その勢いのまま落下して背中に圧砕重剣を突き立てた。
「はぁあああ!」
紀伊坂のときでもやらなかった程の力で刺す。しかし、全霊の一撃は堅い、堅
すぎる鱗に完璧に防がれた。
バギィイッ!と嫌な音がして圧砕重剣の片側――左右に分かれている剣先の
片方が欠けた。
「なッ!?」
空中にいてバランスの取れない俺を強風が舞い上げる。咄嗟に重力を制御して
宙に浮いたが真下には上を向いて口を大きく開けたE3が見えた。
「――――――――――――」
風の塊が俺を狙う。竜巻を球形にして小さくまとめたような風の塊が俺を吹き
飛ばそうとして、
『危ない!』
暁が能力を解除して俺を突き飛ばす。俺が風の範囲から外れた直後に暁は俺を
狙っていた風の塊に飲み込まれた。
「暁さん・・・!」
「あいつは大丈夫だ!それより今はE3に集中しろ!」
下を見る。圧縮した空気をぶつけて攻撃している軌条が見えた。だがあの鱗
の前には些細なダメージのようだった。
元来、ゲームなんかでも出てくるモンスターの鱗とは堅いものなのだ。
それでいて生息地域によって弱点が異なる。
こいつは耐熱性があるらしい。口の中にでも打ち込めば効果あるだろう
が外殻に当てるだけでは効果薄だ。
(やっぱり俺がキーか・・・)
攻撃はせずに地面にゆっくり降りる。同時に無傷の暁が横に下りた。
「無事だったのか・・・」
「ああ。能力解除も一瞬だったしな。塵になっちまえばどんな強力な
風だろうとへっちゃらだ」
少し遅れて軌条もやってきた。
「こいつは一筋縄じゃいなかねぇな。剣は効かない熱も効かない塵
なんて論外。どうしたもんか・・・・」
俺の重力制御を超える跳躍力。人間なんか風圧だけで押し潰せそうな
ほどに強力な風。堅すぎる外殻。
俺たちの攻撃は通らない。唯一可能性があるとすれば口だが危険だ。
あの口から風は放たれる。その気になれば溜め込んでおいて目の前に
きた瞬間に放つこともできるかもしれない。正面から狙うのは危険
すぎる。
「打開策がないわけではありません」
俺が発した一言に当然、二人は食いついた。
「どういう意味だ?あの鱗を貫通できるとでも?」
「ええ。ですが、危険です。俺でも使いこなせていない能力。圧砕重剣
の第三の顔を出すわけですから」
『第三の顔・・・・使いこなせていない?』
やはりそこが気にかかるだろう。
「暴発する危険性があるんです。暴走すればE3はもちろん俺たちも・・」
「死ぬ、ってか」
「ええ」
少しの思考の後、
「やろう。今のままじゃ体力切れでこっちの負けだ。可能性があるなら
そっちに賭けてみよう」
「・・・いいんですね?」
『それしかないだろ』
了解の意味を込めて頷く。
「少し待ってください。今、開放しますから」
圧砕重剣を正眼に構えて目を閉じる。
「開放まで二分。稼いでください」
「おっけ」
『了解』
二人は駆け出した。あの二人だ、二分くらいは。
しかし目の前の敵が強大すぎて忘れていた。ここにはもう一体いた
ことを。
集中に入っていた俺は気配に気付くことができた。遅かったら死んで
いただろう。
俺の背後には殺していなかったエクスクレセンス第二段階がいた。
「くっ・・・!」
攻撃を回避したせいで集中が途切れ、約一分が無意味になってしまった。
「輩蓮、あいつを止めろ!」
『了解!』
暁が長細い体に変化し第二段階に巻きつく。
その動きが止まった直後、軌条が俺の前にすっ飛んできた。
「ぐ・・・・あッ!」
左腕が変な方向に曲がっている。あれは完璧に折れているだろう。
「まだか、朝月!もう保てないぞ!」
「仕方ない。暴走覚悟で言葉も集中も省略していきます!」
圧砕重剣を両手で持つ。右腕を侵食していた黒い闇が左腕も侵食する。
しかしそれはすぐに純白に変わった。
そして刃の色も、鍔の色も柄の色も、純白に変わる。
「俺が叫んだら跳んでッ!」
返事を聞かずに純白と化した圧砕重剣を横薙ぎに思い切り振った。
「はぁああああああああッ!切り裂けぇぇぇぇぇッ!」
刃が一層光輝き、辺りを白く染め上げた。
その白い閃光の中、全身全霊で剣を振りぬく。
何かを切断する感触が手に伝わる。その後にまた何かを切断した。
閃光がなくなり二人が着地する。俺は空を見上げた。
そこには尻尾を半ばで切断されたE3が風を纏って空中に浮いていた。
「仕留め損ねたか・・・!」
「輩蓮!」
『了解!』
暁が塵になる。あれは、木屑か?
風で近寄れなくなるギリギリまで暁がE3を取り囲む。軌条が指先
を向けた。
「俺の攻撃の後にすぐ攻撃しろ。なんでもいい、あいつを撃退できる
だけの威力を持った奴をだ」
「了解」
圧砕重剣を地獄篇に変える。欠けた剣先を向けて紅く縁取られた
黒い球体が収束を始める。
「いくぞ輩蓮!」
軌条が指を鳴らす。それに呼応して木屑と化した暁のいる場所に
圧縮した空気を作った。
「これは・・・」
E3も理解したのだろう。口から二つの風の塊を吐き出す。それは
一直線に俺と軌条を狙っていた。
軌条は避けた。だが、俺は避けることをしない。
「朝月!?」
今動いたら狙いがズレる。そうなれば当てる自信はない。
風が当たる直前、俺は放った。
「バースト・カラット!」
そして同時、E3の周囲が粉塵爆発を起こす。
巨大な爆発を押し退けて重力の光線がE3を撃った。
そして俺も吹き飛ぶ。
斜め上からの攻撃のせいで地面にめり込むほどのダメージだ。
息が詰まって肋骨が更に二本くらい折れた音がした。
空を見る。そこには満身創痍で逃げていくE3の姿が見えた。
「仕留め・・・・られなかったのか」
「そのようだな」
左腕を押さえた軌条がくる。その背後で切断された尻尾が消えていく。
「しっかしお前も馬鹿だな。あのタイミングなら避けられただろ」
「避けたら狙いがズレた。そしたら当たってなかったと思う」
立ち上がろうとした。
でも、できなかった。
「う・・・」
突然、両腕に酷い痛みが走った。
「うぁあああああッ!?」
侵食された部分、今は黒くなっている部分が痛い。肋骨が折れたこと
よりも、何よりも痛かった。
「どうした朝月!?おい!」
「何が起こった!」
暁もやってきた。しかし俺はそんなこと気にしていられない。
ただただ、両腕が痛い。
「うううああああああッ!」
そして痛みが和らいだ。肩で息をしながら二人を見る。
「・・・・・」
二人は無言。その視線は俺の腕に注がれていた。
「どうし・・・・」
そして、驚愕した。
「な、なんだよ・・・・これ」
俺の腕が。
腕の皮膚が。
「なんで爬虫類の皮膚になってんだよっ!?」
トカゲやイグアナのそれと酷似している。それは圧砕重剣の侵食が
消えていくと同時に形を潜めた。
「・・・・なんだったんだ?」
「さ、さぁ」
「・・・・」
俺でさえ理解不能。意味不明。自分の腕が爬虫類の腕になるなんて
まさに青天の霹靂だ。
「まさか・・・・」
思いたくはなかった。でも今までの自分を振り返ってみれば仕方
ないことではあるのかもしれない。
これは恐らく、DUの侵食。
俺の生命力が少なくなってきている証拠だった。
そしてそれに恐怖すると同時に。
自分の身体が別のものに変化することに対して激しい恐怖感を抱いた。