第三段階
今回短めスイマセン サブタイは次話から意味あり
第二章知るべきだった、知りたくなかった存在
「はぁぁッ!」
横薙ぎに振り抜いた圧砕重剣が眼前のエクスクレセンスを両断する。
十体以上いたエクスクレセンス第一段階もこれで弾切れだ。後は
遠くに残っている異形――エクスクレセンス第二段階が一体だけだ。
異常なほどに増加してきたエクスクレセンス。しかも流石に強い。
固体がそれぞれ副隊長クラスの能力を持っているもんだから一般の隊員
では手に負えない。だから俺のような隊長にエクスクレセンス討伐の
任務が回ってくるのだ。
今この戦場には俺と春彦、離れた場所に金がいる。いつものメンバー
だ。
俺と春彦の二人だけでその副隊長クラスの能力者を十人以上倒した
のだ。健闘だろう。
結構疲れている。だが最後に大ボスが待っているのだ。
隊長をも凌ぐ強さを(時には)持つエクスクレセンス第二段階。
『前方百五十mの位置、高さ一m、幅三mの壁みたいな奴』
フェイスバイザーから金の指示が聞こえる。
「当然の如く遠距離型ですねっ!」
一息つく暇もなく百五十m彼方から小型の鉄球のようなものが無数に飛来
する。
『どうしようか。バースト・カラットは射程圏外だし・・・』
いい加減疲れてきたし面倒にもなってきた。どうせこのままじゃ接近も
できない。ジリ貧になるだけだ。
「アレ使う。もういい加減面倒だ」
「アレって・・・・いいんですか?普通そういうのは隠しとくべきじゃ・・・」
「じゃあ春彦がアイツ倒してくれんのか?」
「・・・・。是非使ってください」
春彦の螺旋鎖鎌は座標さえ分かっていれば目に見えない場所でも鎖を出現
させられるが殺傷能力は無い。拘束がせいぜいだ。
「春彦っ!しばらくこの鉄球、止めとけっ!」
「了解!」
春彦が俺の前に出て鎖を何重にも交差させて壁を作る。
飛来する鉄球は全てそれに当たって俺には届かない。
そして俺は、ゆっくりと準備を始める。剣を胸の前で正眼に構える。
「燃え、溶け、焼け爛れ、燃え広がれ亡者の炎ッ!」
圧砕重剣は地獄篇のように刀身が左右にズレる。色もしっかりと変化した。
そして別の変化が起きた。左右に割れた刀身が片側に移動した。つまりは
両刃の刀身を二つに割って刃を両方とも片側に付けた状態だ。本来合わさって
いた部分が峰となる。
その刀身は鍔の中心に固定され、峰には小型の穴がいくつか開く。刀身の
付け根にあった純白の宝石は柄頭に移動した。
漆黒の刀身に片方側に二つの刃のある剣。峰に開いた数個の穴からは
ゆらゆらと蒸気が登っている。
「神曲喜剣・煉獄篇!」
圧砕重剣の第二の姿。煉獄を司る神曲の第二編。
峰から炎が噴出し、周囲の温度を一気に上昇させる。
「春彦、俺が合図したら鎖解いて伏せろ。間に合わなかったら首飛ぶぞ」
「了解。首飛ばすのは勘弁してくださいね」
今も無数の鉄球が春彦の鎖を殴打している。だというのに春彦は
涼しい顔で受け続けていた。
「いくぞ。3、2、1――」
俺のカウントダウンがゼロになった時、
「今だ!」
「はいっ!」
絶好のタイミングで鎖を解いて春彦は伏せた。
「ブーメラン・イグニッション!」
峰にある穴から炎を吹き出した剣がブーメランのように回転しながら
飛んでいく。
もの凄いスピードを出して、飛来する鉄球を両断しながら百五十m
先のエクスクレセンス第二段階に向けて猛進する。
途中にあった車も問答無用に切断してあっという間に距離を詰めて
しまった。
エクスクレセンス第二段階は反応できる暇もなく上半身と下半身に
分断されてしまった。
「よしっ」
俺は少しだけ拳を握ると剣に帰還を命じる。剣はクルクル回転しなが
ら上昇して戻って来ようとして―――。
「あ・・・・」
「あっ・・・」
「あ~あ・・」
電柱を一本、切断して帰ってきた。
バチバチ火花を散らしながら倒れる電柱。
公園を突き抜けて公道の電柱を切り倒してしまった。
「・・・・」
「どうするんですかもう・・・・」
「私知らな~い」
違法駐車してあった車はいざしれず、公道に突っ立ってる電柱を
切り倒したのはヤバい。
「こいつぁ・・・今日は夜勤だな」
夜中帰宅が決定した瞬間だった。
今の時間は午前一時。要は夜中の一時だ。
普通なら社会人くらいしか歩いてない時間帯に学生服姿の少年少女が
歩いている様は不良を思わせる。
「もうこんな時間だぜ・・・・」
「それは朝月君が電柱一つ切り倒すからでしょう」
「そうそう。私たちは巻き添えだよ」
「俺のせいかよ・・・・」
俺たちしか歩いているものはいない。不気味なまでに静まった道は
本当に不気味だ。
T字路に差し掛かった。曲がらずに直進する。
左に曲がった道は廃墟に繋がっている。廃墟というか建設途中で放り
出された建物の成れの果てなんだが。
その方向から誰かが歩いてくるような気がした。
横目に少し見えただけだ。はっきりと見えたわけではないのだ。
ふと、兄なのではないか、と思ってしまった。特に確証はない。思って
しまったのだから仕方ない。
そしてそれは段々確信に変わった。横目で見たから間違いない。でも
金と春彦は気付いてないらしい。こいつらが気付いていれば戦闘に発展
してもおかしくない。
なら言わないでおこう。向こうも仕掛けてくるつもりはないみたいだ。
無駄な戦闘なんてしたくない。相手が兄さんたちであるならなおさらだ。
兄さんとなんて戦いたくない。一度引き離されたからこそ一緒にいたい。
でもできない。それをしてしまえば俺はここにいられなくなる。また仲間
と引き離される。
それは嫌だ。それだけは。一度失って、やっと取り戻した新たな仲間。
例え過去の仲間が戻って来ようとも捨てるなんてできやしない。
それにここで死兆星を裏切れば俺の五年間の気持ちは全て消える。
BGに復讐もできない。だから、兄さんの下に行くことはできないんだ。
俺たちの後ろに六人が去っていくのが分かる。金も春彦も気が抜け
過ぎだ。いつもなら気付いていただろうに。
もし急に兄さんたちの態度が変わって戦闘行動を取らなくなれば疑われ
るのは俺だ。とばっちりで金と春彦も疑われる。
それは避けたい。それでなくとも既に俺を疑っている奴はいるだろう。
隊長の方々は大丈夫だと思う。だが目に見えて明らかな変化があれば
躊躇い無く俺を切り捨てる。
今を失うのは、やっぱり嫌だ。
兄さんたちも気付いてくれれば、全部分かってくれたなら前と同じ
ように相対してくれるはずだ。
本当に兄さんたちが本物で、俺をまだ大切に想ってくれているなら。