第25話 スタート地点から死ぬ山
隊長さんから、ある日、分厚い冊子を手渡された。
「お前、どうせまたゲームのガルダで死にまくってるんだろ。有志が翻訳した昔の現地ガイドブック、読んどけ」
表紙には、地味な書体でこう書いてある。
『ガルダ山域・安全情報集成』
観光パンフじゃない。いきなり治安レポートから入るタイプのやつだ。
ページをめくって数枚、いきなり目に飛び込んできた見出しで、手が止まった。
「登山口付近における突発的爆発事例」
……は?
本文を読むと、こう書いてある。
ガルダ登山口近辺で、前触れなくいきなり地面が爆発して、何人も死んだ事故がある。
発生地点は麓の湿地帯~登山道入り口にかけて。
観測されている限り、外から見ての前兆はほぼゼロ。
「ちょっと待て。俺がゲームで走り回ってた、あのスタート地点の100mくらいの湿地って……」
てっきり「麓の地形をリアルに再現しました」的なこだわり演出だと思っていた。
靴が少し沈んで、「ぬかるんでるなー」くらいの演出。
まさか、あれ全部「いつ爆発してもおかしくないゾーン」だったのか?
よくよく思い返してみれば、ゲーム内であの湿地を歩いているとき、妙にカメラが低くなって、足元がアップになる。
水たまりの中で、時々、泡が「ぷく……」と上がってる。
「単なる雰囲気演出」だと思ってた。
あれ、もしかして、『プレイヤーの皆さん、ここ、実は麓クソヤバポイントです』っていう、闇運営なりのささやかな良心表示だったのか?
それにしてもだ。
「標高ゼロメートル地点で、山に入る前に死にます」って情報、普通の山の安全情報集になかなか出てこないワードだぞ。
ゲームでは一度もそのギミックを食らったことがない。
「……クソギミックすぎて実装されてないんだろうな」
プレイヤー体験として、タイトル画面からニューゲームを始めて、10秒で足元が爆発して死ぬのは、さすがに心折れる。
Steamレビューが地獄に染まる未来が見える。
ただ、闇運営のやり口を考えると、「高難易度か隠しモードでは、普通に仕込んでる」可能性がある。
「通常難易度では発生頻度0%ですが、難易度ネルソンでは“現地再現”のためランダムに発生します」
とかしれっと言い出しかねない。
「……スタート地点から登山口まで100mぐらい湿地があるの、単に麓の地形再現だと思ってたけど、まさか丸ごと地雷原ってオチなのか?」
ガイドブック片手に、ゲームのタイトル画面を見つめながら、俺はコントローラーを握る手にじっとり汗をかいた。




