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霊峰ガルダに登ろう!  作者: 静先輩
第二章 Steamガルダ編
24/28

第24話 あの鳥、本当にいるんですか問題

 理不尽は理不尽として、どうにも引っかかっていることがあった。


「あの猛禽類、やりすぎじゃない? さすがに創作だよな?」


 山ゲーだからこそ、雪崩や落石はリアル寄りに作り込んである。

 開発者インタビューでも「専門家に監修を受けた」と言っていた。

 そんなチームが、あんな怪獣みたいな鳥を入れるだろうか。


 気になった俺は、また隊長さんを喫茶店に召喚した。

 ノートPCで例の猛禽類の襲撃シーンを再生しながら、さりげなく聞いてみる。


「この鳥、さすがにゲームのオリジナルですよね? 現実にはいないですよね? ね?」


 隊長さんは画面をじっと見つめ、腕を組んだ。


「……ああ」


「ああ?……“ああ、ゲームオリジナルだ”の“ああ”ですよね?“ああ、いるな”の“ああ”じゃないですよね?」


「さあな」


 出た、曖昧返答。

 一番信用ならないやつ。


「いや、さあなって何ですか。隊長さん、山の話で濁すときって、『言えないことを知ってる』か『本当に知らないけど想像がつく』かのどっちかじゃないですか。どっちです?」


「……本当に詳しくは知らん」


「本当に、って付けた!」


 隊長さんは、コーヒーをひと口飲んでから、慎重に言葉を選ぶように続けた。


「ガルダの中腹以上はな、実際に行ったことがあるやつはほとんどいない」


「ですよね」


「だから、あそこの生態系については、確実なことは言えない。ただ」


 そこで一拍置いてから、ぼそっと付け加える。


「ああいうものを見た、と証言してる先住民は、実際にいる」


「やめて」


 背筋がぞくりとした。


「証言って、その、どのレベルで?」


「あれに連れて行かれた家族がいるとか、狩りの獲物を奪われたとか、そういう話だ。写真や動画はない。だが、あの辺りの集落で鳥の話をすると、急に口が重くなる」


「それ、絶対やばいやつじゃないですか」


「ゲーム内のサイズ設定が誇張かどうかはわからん。ただ、先住民を主食にしているという噂があるのは事実だ」


「さすがに冗談ですよね?」


「……そう思いたいなら、そう思っとけ」


 そう言ってコーヒーを飲む目が、全然冗談の目をしていなかった。


 よく考えれば、隊長さんは、山の話に関しては滅多に嘘をつかない。

 知っていても全部は言わないことはある。

 けれど、「ないものをある」とか「あるものをない」とか、真逆のことを言って安心させるタイプではない。


 そんな人間が、4m級の猛禽類について、「いるともいないとも言わないけど、先住民は食われてると言ってる」という曖昧なラインで止めている。


「……いかれてんのか、この山」


 もともと「標高五万メートルの超霊峰」という時点でまともじゃなかったが、設定を全部ひっくるめると、もはやこうだ。


「世界の全部の山の怖い話を、一箇所に集約しました」

 みたいな巨大ホラーコンテンツ。


 ゲームの中で何度死んでも、リトライボタン一つでやり直せる。

 でも、現実のガルダにはリトライボタンなどない。

 ネルソン以外、誰も山頂に届いていない理由が、少しだけ具体的になってきてしまった気がする。


 とりあえず俺は、ゲームを一旦ポーズして、「最高峰と人類最高峰の頂上決戦」とか言ってるタイトル画面を見つめながら、心の中でそっと付け加えた。


「……そこに“猛禽類”とか“硫化水素”とか“謎の先住民”も混ざってるの、絶対キャッチコピーに入れた方がいいと思うぞ」

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