第24話 あの鳥、本当にいるんですか問題
理不尽は理不尽として、どうにも引っかかっていることがあった。
「あの猛禽類、やりすぎじゃない? さすがに創作だよな?」
山ゲーだからこそ、雪崩や落石はリアル寄りに作り込んである。
開発者インタビューでも「専門家に監修を受けた」と言っていた。
そんなチームが、あんな怪獣みたいな鳥を入れるだろうか。
気になった俺は、また隊長さんを喫茶店に召喚した。
ノートPCで例の猛禽類の襲撃シーンを再生しながら、さりげなく聞いてみる。
「この鳥、さすがにゲームのオリジナルですよね? 現実にはいないですよね? ね?」
隊長さんは画面をじっと見つめ、腕を組んだ。
「……ああ」
「ああ?……“ああ、ゲームオリジナルだ”の“ああ”ですよね?“ああ、いるな”の“ああ”じゃないですよね?」
「さあな」
出た、曖昧返答。
一番信用ならないやつ。
「いや、さあなって何ですか。隊長さん、山の話で濁すときって、『言えないことを知ってる』か『本当に知らないけど想像がつく』かのどっちかじゃないですか。どっちです?」
「……本当に詳しくは知らん」
「本当に、って付けた!」
隊長さんは、コーヒーをひと口飲んでから、慎重に言葉を選ぶように続けた。
「ガルダの中腹以上はな、実際に行ったことがあるやつはほとんどいない」
「ですよね」
「だから、あそこの生態系については、確実なことは言えない。ただ」
そこで一拍置いてから、ぼそっと付け加える。
「ああいうものを見た、と証言してる先住民は、実際にいる」
「やめて」
背筋がぞくりとした。
「証言って、その、どのレベルで?」
「あれに連れて行かれた家族がいるとか、狩りの獲物を奪われたとか、そういう話だ。写真や動画はない。だが、あの辺りの集落で鳥の話をすると、急に口が重くなる」
「それ、絶対やばいやつじゃないですか」
「ゲーム内のサイズ設定が誇張かどうかはわからん。ただ、先住民を主食にしているという噂があるのは事実だ」
「さすがに冗談ですよね?」
「……そう思いたいなら、そう思っとけ」
そう言ってコーヒーを飲む目が、全然冗談の目をしていなかった。
よく考えれば、隊長さんは、山の話に関しては滅多に嘘をつかない。
知っていても全部は言わないことはある。
けれど、「ないものをある」とか「あるものをない」とか、真逆のことを言って安心させるタイプではない。
そんな人間が、4m級の猛禽類について、「いるともいないとも言わないけど、先住民は食われてると言ってる」という曖昧なラインで止めている。
「……いかれてんのか、この山」
もともと「標高五万メートルの超霊峰」という時点でまともじゃなかったが、設定を全部ひっくるめると、もはやこうだ。
「世界の全部の山の怖い話を、一箇所に集約しました」
みたいな巨大ホラーコンテンツ。
ゲームの中で何度死んでも、リトライボタン一つでやり直せる。
でも、現実のガルダにはリトライボタンなどない。
ネルソン以外、誰も山頂に届いていない理由が、少しだけ具体的になってきてしまった気がする。
とりあえず俺は、ゲームを一旦ポーズして、「最高峰と人類最高峰の頂上決戦」とか言ってるタイトル画面を見つめながら、心の中でそっと付け加えた。
「……そこに“猛禽類”とか“硫化水素”とか“謎の先住民”も混ざってるの、絶対キャッチコピーに入れた方がいいと思うぞ」




