第2話 初登山セットと、勘違いのピーク
そうと決まれば道具からだ。
形から入るのは、ボンボンの特権であり悪癖でもある。
市内で一番でかいアウトドア専門店に乗り込んで、「登山、始めようと思って」と店員さんに言ったら、目が一瞬だけ値踏みするように細くなった。
たぶん、高そうなジャケットだけ先に買って、そのうち押し入れの肥やしにするタイプと見られたんだろう。否定はしきれない。
けど今回は違う。
俺は本気だ。ガルダだぞ、ガルダ。
「とりあえず日帰りで行ける山から、段階的にレベルアップって感じがいいですよ」と、店員さんは教科書的な提案をしてくる。
俺も一応うなずきながら、実際に買い物カゴに放り込んだのは、かなりガチなやつだった。
最新モデルの軽量バックパック。
ゴアテックスのジャケットに、軽いのにやたら高いトレッキングシューズ。
カーボンのストック。
アクションカメラと胸につけるマウント。
それから、店員さんに「いります?」と聞かれて二つ返事で入れたのが救急キットとポータブル酸素ボンベ。
「いらないときはただの重りですけど、いるときにないと困りますからね」
そんな店員さんの台詞が、やけに名言っぽく響いた。
いいね、そういう現場感。
クレジットカードを差し込む音がした瞬間、脳内の俺はもうガルダのふもとに立っていた。
スーツケースにシールびっしりの世界的アルピニスト。スポンサーはうちの会社と、YouTube の再生数に釣られた海外ブランド。
ありったけのアウトドアメーカーのロゴを背中にぶら下げて、空港を颯爽と歩いていく自分の姿が見えた。
「まずは近場の山で慣らします?」
店員さんの現実的な言葉に、俺は「そうっすね」とだけ返した。
心の中ではもう決めていた。
近所の山なんて、ガルダに向かうためのチュートリアル。
ゲームの最初の森みたいなもんだ。
マップの端っこに、未踏破のガルダが黒いシルエットで鎮座している。
その手前でスライムを狩るのも、まあ悪くない。




