第36星話 栗毛連盟の星 18 大団円
やがて。
宇宙警察が、大部隊で、乗り込んできた。
どうしても尻尾をつかませなかった星域の大物ジョルバを少女誘拐事件を突破口に、一挙に身柄を抑えたのである。ギルバンとレイラの功績であった。
押収されたデータと一味の証言から、次々と驚くべき事実がわかった。
セルス星の国王反逆嫌疑もジョルバとワジルが共謀して行ったものであることが明確となった。宇宙警察によって、宰相ワジル一味は一網打尽となった。国王を毒殺する予定だった王宮の侍医も、全てを自白した。
陰謀反乱を行っていたのは宰相ワジルであったと、セルス星に布告された。国王夫妻は解放され、王宮のバルコニーに現れ、健在をアピールした。国王支持派は狂喜して街に繰り出し、祝い、夜を徹して踊り明かした。
ジョルバは、星域警察機構の現役時代から、宰相ワジルとは肝胆相照らす仲で、今回の陰謀の筋書きから、捏造証拠の準備まで、すべては、ジョルバが仕組んだのだった。
◇
「ジョルバは、欲を出しすぎたんだ」
ギルバンは、上機嫌だった。
宇宙船の中。
エリク、マーシャ、ギルバン、レイラの4人。
すべては片付き、これからみなで、セルス星に行くところである。
「これまでも地位を利用して、色々と悪事を行ってきたんだけどね。なんとも抜け目のない男だった。それが最後に、一世一代の大博打をして、さすがに今度は負けたと言うわけだ。星の乗っ取りだからね。どんなに周到に手を打っても、綻びが出るというわけだ。捏造した証拠で誰かを有罪にして地位と財産を奪うなんて。宇宙にこのギルバンがある限り、そんな事は許さんよ」
「本当に」
レイラ、うっとりとした口調。
「今度の事件が無事解決したのは、私とギルバン刑事の絆があってこそ。悪の一味の絆と違い、私たちの絆は、絶対に綻びはありません!」
陶然となる乙女刑事。
「しかし、マーシャさん、本当に王女にそっくりだね」
ギルバンが、感心したようにマーシャを見つめる。
「あの」
エリクが訊く。
「結局本物の王女、クレア姫って、どうなったんですか?」
「ああ」
ギルバンが応える。
「実は、最初から宇宙警察の特務班が保護していたんだ。セルス星に不穏な動きがある事は、我々も察知していたからね。何かあったときに備えて、連絡をとっていたんだ。国王は救出することができなかったけれどね。王女は何とか保護することができたんだ。ジョルバとワジル、必死に探していたけどね。さすがに、宇宙警察内部の保護には気づかなかったようだ。王女も、重要なデータを持ってきた。それもあって、捜査が進展したんだよ」
そうなんだ。王女は最初から安全だったんだ。エリクは、改めて、隣のマーシャの手を握る。
それでジョルバたちは焦ってマーシャを王女の身代わりに利用しようとしたりしてたんだな。向こうも追い込まれてたんだ。
「それにしても」
ギルバンが、顎を撫ぜる。
「ジョルバ邸に突入しようとした時、私たちを後ろから襲って倒した手練、あれは一体誰なんだろうな? 相当な猛者なのだが」
「あはは」
エリクは、また冷や汗。
結局のところ、エリクは、重大な捜査妨害をしたのだった。エリクが余計な妨害をしなければ、もっと早く、ジョルバの身柄と証拠類は、押さえられていた筈だ。
そればかりでなく、ギルバンとレイラが捕まり、下手をすれば、命も危ういところだったのだ。
このことは、黙っていよう。
エリクは、首を竦める。
ま、事件は無事に解決したし、ギルバンとレイラも無事だったんだから、これはこれでよし、だよね。
◇
セルス星。
国王無事解放と陰謀粉砕の祝賀で、沸き立っていた。
困難な状況の国王を助けた人たち、苦労をした人たちへの感謝慰労パーティーに、宇宙警察関係者や、セルス星の国王支持派に混じって、エリクとマーシャも招待されていた。
エリクとマーシャは、ジョルバに騙されて、知らずして国王殺害計画に加担した立場であったが、ギルバンが、陰謀に巻き込まれ危ない目にあった一般市民であると、報告していたのである。
◇
王宮でのパーティー。
「あ、ロキ!」
エリクとマーシャは、少年の姿を認める。
ロキは、王宮護衛隊の正装で、任務に就いていた。
駆け寄る2人の少女に、少年は、頬を赤らめる。
「さっそく護衛隊の任務に、復帰したんだ」
と、エリク。
「この前は、本当にありがとうございました」
と、マーシャ。
「任務ですから」
ロキは、照れ臭そうに笑う。
ロキについては。
エリクがギルバンに頼んで、事件に巻き込まれた一般市民を、王家への変わらぬ忠誠で助けた護衛隊員として、国王に報告してもらった。
マーシャが、王女と別人である事は、もう伝えてあった。もちろん、実は、国王殺害計画に加担していたという話は、ロキには秘密にしておいた。あまりにもショックが大きすぎるからである。ただ、マーシャは、王女に瓜二つなのを宰相ワジルに利用されそうになっていた。詳細については秘密である、とロキに説明しておいた。
ロキの家に捕らえていたセムトとレクムの兄弟2人組は、宇宙警察が身柄を確保していた。
なんであれ、マーシャはロキに助けられたのだ。
マーシャは幾度も、ロキにお礼を重ねた。
王女そっくりの少女の姿に、別人と分かっても、ロキはドギマギしていた。
それを見守るエリクが肩からぶら下げた鞄の中では。
万能検査機が、ぶすっとしていた。
エリクは、事が落ち着くと、さっそく愛機ストゥールーンを飛ばして、相棒ロボットを探しに行った。
箱型ロボは、ゾパ星を周りながらずっと浮遊し、救助信号を出していた。エリクは難なく回収した。が、
「酷いよおおおおっ! エリク! なんでもっと早く助けに来てくれないの! 僕がどんな気持ちで救助信号出し続けてたと思ってるの? この人でなしいっ!」
万能検査機は、泣き叫んだ。
「落ち着いて、万能検査機、ほんとに助けに来れなかったんだから。いい機械油買ってきてあげたからね。機嫌直して」
「いらないよ! そんなの!」
箱型ロボは、しばらくエリクに口を利かなかった。
◇
王宮のパーティーもたけなわの頃。王女クレア姫が、マーシャとエリクに挨拶に来た。
あくまでも、事件に巻き込まれて苦労をした一般市民という立場だったが、自分と瓜二つの少女にクレア姫も興味を持ったのだ。
「私のために、ご苦労をされて、本当に申し訳ありませんでした」
丁寧にマーシャに声をかける王女。
周囲の皆は、息をのんだ。栗色くるくる巻毛、明るい青い瞳、柔らかな曲線美の姿体。寸分狂わずそっくりの2人の少女。
おお、とエリクも思わず。
本当に瓜2つ。
さらさらと揺れる栗色のくるくる巻毛。
本当に本物の栗毛連盟だ。
◇
星から星へ。
エリクの旅は続く。




