表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/102

第36星話 栗毛連盟の星 15 狩り 



 少し歩くと、森の1番奥。エアカーが見つかった。明るい。皓皓と車内ライトをつけているのだ。夜の森の中で、まぶしく光っている。


 「不用心だな」


 これには、ロキも驚く。夜の闇の中で潜伏するときに、1番やってはいけないことをやっている。エリクも呆気に取られる。


 「森の1番奥まで来たから、安心して油断してるのかな。それとも、なにかの警戒装置があるのかな」


 実のところ、セムトとレクムの兄弟はワジルの1番期待されてない下っ端使いっ走り、つまり、かなりなヌケサクであるのだが、ロキもエリクもそれはもちろん知らない。


 ともあれ。ロキは望遠鏡(スコープ)で車中を確認。車内ライトのおかげで、はっきりと見える。


 「やっぱりアタリでした。エアカーの前部に、あの2人組。そして、後部座席には、マーシャ様が乗っています。あの2人、全然警戒しているように見えませんね。やっぱり油断しているんです」


 エリクは、躍り上がりそうになる。


 マーシャ! 夜の闇に浮かび上がるエアカーの中に。


 超人スーパータイプの力が発揮できれば、すぐにも飛び込んでいくんだけど。うずうずするが、ここは抑える。 



 「では、行きます」


 狩人(ハンター)の少年の声は、あくまでも冷静。


 ロキは素早かった。


 一気にエアカーまで駆け寄る。


 そして、右手の強化ナイフで、前部の窓を砕く。


 即座に、左手に握った閃光弾を車中に投げ込んだ。すごい手際だ。エリクは息を呑む。


 ロキの言った通り。


 一瞬で勝負はついた。


 勝利の夢心地に浸っていたセムトとレクムの兄弟は、何が起きたのかもわからず、いきなり目の前が真っ白になり、パニックとなった。


 ロキは落ち着いて、しかし迅速にエアカーの(ロック)を強化ナイフで破壊し、車中に乗り込む。そして視界の利かず茫然となっている2人の兄弟に、麻痺スプレーをかけ、完全に意識を消失させた。本来、この麻痺スプレーは、猛獣を生きたまま捕獲するとき、暴れるのを防ぐために使うもので、人間に使ってはいけないものだが、この場合は仕方がない。


 エリクも、エアカーに走り寄る。後部(ドア)を開けて、マーシャに抱きつく。


 「マーシャ! 私だよ!」


 マーシャは、まだ閃光弾で、なにも()えない。しかし、声でわかる。

 

 「エリク! エリクなの?」


 「そうだよ! 助けに来たよ! もう大丈夫だから!」


 「よかった!」


 マーシャはエリクとしっかり抱き合い安堵の涙を流す。


 「信じていた! きっと助けに来てくれるって!」


 「あ、あなたを助けたのは、私じゃない。ロキだよ。全部、ロキの活躍」


 「ロキ、ロキもいるの?」


 「王女様、もちろんです」


 ロキは、前部座席で、胸を張る。

 

 「私は、セルス星王宮護衛隊です。何があっても、王女様をお守りいたします」


 

 ◇



 10分ほどで。閃光弾の影響もなくなり、マーシャは目が普通に見えるようになった。


 「さ、いきましょう」


 と、ロキ。


 セムトとレクムは、まだ麻痺スプレーが効いている。2人の持っていた手錠で、しっかりと拘束する。これで、目を覚ましても大丈夫だ。


 出発する。


 ロキは、エアバイク。


 エリクとマーシャは、2人組兄弟のエアカーで。エアカーは、前の窓ガラスが砕けているのと、(ロック)が壊れただけで、普通に走れる。


 拘束したまだ気絶している兄弟を後部座席に乗せて、エリクが、エアカーを運転。マーシャは、助手席。


 夜の星を、走っていく。



 ◇



 ロキの家に戻ってきた。


 走行中、エアカーの窓ガラスが割れているのを、警官やら誰かに見咎められないように、エアバイクのロキがエアカーの側にぴったりと寄せて走っていた。


 エアカーは、家の裏手に回す。


 気絶している兄弟は、エリクとロキが担いで空いてる部屋へ運び、寝かしておく。


 

 居間に集まった3人。


 ほっとする。


 ロキが、紅茶を淹れる。


 少年は、頬を紅潮させている。さっきは、この上なくクールな狩人(ハンター)だったが、今は胸の高ぶりを抑えることはできない。〝王女〟の危機を2度まで救ったのだ。


 「一安心ですね」


 ロキはマーシャを見て、相好を崩す。


 「ロキ、本当に、ありがとう」


 マーシャは、エアカーの中で、エリクから、別れてから今までの説明を受けていた。


 ロキは、照れ臭そうに、


 「本当に、うまくいってよかったです。結構ずっとドキドキしていました。獲物を我が家に持ち帰るまでが、狩猟(ハンティング)ですからね。あ」


 王女を〝獲物〟と言ってしまったことに気づき、少年はさらに赤くなる。


 

 ◇



 「まだ、油断できません」


 ロキが言う。


 「宰相ワジルへは、あの2人から、王女を捕らえたと、連絡が行っているはずです。予想した通り、森の中に隠れて、応援部隊を待っていたんです。いずれ、大掛かりな応援部隊が来ます。あの2人からの連絡が途絶えたとなれば、何か異変が起きたと感づいて、徹底的にこの星を捜索するでしょう」


 エリクは、頷く。どのみち、この星に、長居はできない。


 「そうだね。ところで、あのエアカーは、大丈夫なのかな。発信機とかついてないの?」


 「大丈夫です。確認しました。発信機はありません。でも、ずっと置いておくわけにはいかない。後で、どこかに乗り捨ててきます」


 「頼んだよ」


 エリクは、また頷き、頭を巡らせる。


 セルス星へ、国王救出作戦に行くところを、すっかり手間取ってしまった。この星にも、ワジル配下が押し寄せてくる。今から、どうするべきか。


 「ロキ」


 エリクは言った。


 「私とマーシャは、一旦、この星の主星へ戻る。そこからここに来たんだ。主星には、私たちを助けてくれる大物がいるの。詳しい事は言えないけど、私たち、実は重要極秘任務の途中なの。こんなことになったから、一旦戻って報告して、これからのことを考える」


 「エリク」


 マーシャは驚いて、


 「ラウシュさんからは、私たちでこのままセルス星に行くようにと、言われたけど」


 エリクは、首を振る。


 「そうだけど。予想外のことが起きすぎて、私たち全部荷物も無くして、すってんてんになっちゃったし。主星に戻るのは、すぐにできる。一旦態勢を立て直そう。向こうでしっかり相談して、また動いた方がいい。さっきエアカーでセルス星のニュースをチェックしたけど、国王夫妻が今にも処刑されるとか、そういう事は無いみたい。まだ裁判も始まっていない。国王支持派が巻き返しているのかもしれない。今すぐセルス星に飛んで行かなくても大丈夫だよ。マーシャ、ものすごく大きなことなんだから。焦ってはダメ。しっかり相談確認して、準備して、それから動かないと。一旦引き上げよう」


 エリクとしては、着のみ着のまま無一文だし、肝心の超人スーパータイプの力も尽きてしまったしで、とてもマーシャを守る自信はなかった。このままセルス星へ突入するわけにはいかない。


 マーシャも、頷く。


 「わかった。エリク、あなたの言う通りにするから」


 ほわほわのおっとり屋お嬢様マーシャ。緊迫した情況では、親友を頼るしかない。


 

 「そういうことで」


 エリクは、ロキをしっかりと見て言う。


 「私たちは、すぐにこの星を出る。そして、一旦主星に引き返すから」


 「僕も一緒に行きます!」

 

 ロキは、思わず語気を強める。


 「マーシャ様の護衛、ずっと僕がします。お願いです。連れて行ってください。絶対に役に立ちますから」


 エリクは、かなり心苦しかったが、


 「ごめん、あなたはここに残って。主星に行くだけなら、安全だし。さっきも言ったけど、私たち、向こうで、大物の支援を受けているの。大物に、これから安全に動けるように、ちゃんと手配してもらうから。私たちは、自分だけの意思で動いてるんじゃない。大物の指示で動いているの。だから、あまり勝手なことはできない。あれこれ詳しくこっちの事情を話すわけにいかないの。あなたを信用しないわけじゃないの。あなたは本当に誰よりも忠実で勇敢で、頼りになる人よ。あなたのことは向こうでもきちんと話すから。必要な人だと大物が判断すれば声がかかるし、なんであれ、今回の事ではきちんとお礼をしてもらえるから。お願い。私の言う通りにして。ここで捕まえた2人組の、見張りをしていて」


 ロキは、目に見えて、落ち込み、うなだれる。


 エリクも辛い。しかしながら、国王救出に動く元警察大臣ジョルバのことをロキに話していいのかわからないし、何よりも、これからさらに危険な任務となる。これ以上、巻き込みたくなかったのだ。


 「ロキ」


 マーシャが、ロキの手を取る。


 「ごめんなさい。せっかくあなたが、私たちを守ってくれるっていうのに断ったりして。私たちは、あなたに話せないことが、いろいろあるんです。隠してることもあります。あなたを疑っているからではなく、事があまりにも大きいのです。でも、信じてください。私たちは、国王のために動いています。必ず、国王は助けます。必要な時が来たら、あなたにもまた、助けてもらいます。あなたほど頼りになる人はいません。ここは、エリクの判断に従ってください」


 「わかりました」


 ロキはしっかりと、マーシャの手を握り返す。


 「事情を知っている方の判断に従います。私は王宮護衛隊です。なんであれ、命に従います。待てと言えば待ちます。動けと言えば動きます。本当に何でもおっしゃってください」


 マーシャ、にっこり。


 「必ずまた、連絡します」



 「さあ、こうしたいられません」


 ロキが立ち上がった。もう落ち込んだ様子はなく、すっかり自信に満ち溢れている。マーシャの気持ち、伝わったのだ。


 「すぐ、出発しましょう」


 「うん。宇宙港(ステーション)に行って、乗合宇宙船(バスシャトル)に乗る。


 と、エリクも立ち上がる。


 その時、重要なことを思い出した。


 そうだ。お(かね)携帯端末(パッド)も無いんだ。


 「あ、あのロキ、勝手なことばっかりお願いして、本当にごめんなさい」


 エリクは、真っ赤になって言う。


 「私たち、ここに来る時、荷物も携帯端末(パッド)も全部なくしちゃって、実は今、無一文なの。交通費だけでいいから、貸してくれない?」


 ロキは、にっこりとする。


 「なんなりと、お申し付けください」





(第36星話 栗毛連盟の星 16 ジョルバ邸再び へ続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ