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第36星話 栗毛連盟の星 14 狩人の嗅覚



 「うわあああっ、もうダメえええっ!」


 今度こそ、今度こそおしまいだ。


 ロキの家で。


 エリクは半狂乱。


 「私のせいだっ! 私のっ! 私があの2人を信用したりしちゃったのがいけないんだ。ああ、マーシャ……」


 「エリクさん、まだ諦めちゃだめです」


 ロキは、せっかくの発信機が空振りだったことには、さらに青ざめたが、その瞳にはまだ強い意思の光が輝いていた。


 「探すんです。これから。絶対にマーシャ様を見つけましょう」


 「探す。どうするの? 行き先、わかるの?」


 ロキは、思案する。


 「ワジルたちも、まさか、この星で王女が見つかるとは思っていなかったでしょう。大規模な捜索隊は、送り込まれてなかった筈です。ここにいる敵は、間違いなく、あの2人組だけですね。ちゃんとした隠れ家だって、用意してないでしょう。マーシャ様を拐ったんです。宇宙港(ステーション)へ行ったり、宿に行ったり、人目につく場所に行くのは、避けると思います。多分、人目につかない場所に隠れて、ワジルへ王女発見と報告するはずです。そして、応援部隊が来るのを息を潜めてじっと待っているはずです。応援部隊だって、すぐには来れないでしょう。まだ、時間があります。応援部隊が来る前に、こちらが潜伏先を見つける。そして、マーシャ様を取り返す。それしかありません」


 「潜伏先。わかるの?」


 「僕は、この星に何度も来ています。学校の長期休暇の時は、ずっとこの両親の家にいましたからね。この星の住民も同様です。マーシャ様を拐った2人組は、他所からここへ捜索に来たはずです。ここは小さな星です。他所から来た人間が考える人目につかない潜伏場所。そんなに多くはありません。そこを徹底的に探して回るんです」


 「うん」


 自信に満ちたロキの態度に、エリクも、希望を取り戻す。そうだ、諦めちゃ、絶対いけない。


 よし。ロキと一緒に探しに行こう。


 その時。


 エリクのお腹が、ぐうと鳴った。


 何も食べてないところに、エネルギーを使い切るまで全力超駆動(オーバードライブ)で宇宙の飛翔(フライト)をしたのだ。もう目が回りそうなほど、お腹が空いていた。


 「あの、ごめんなさい」


 エリクは、赤くなる。


 「私、死にそうなほど、お腹がペコペコなの。何か、食べさせてくれない?」


 ロキは、にっこりする。


 「そうですね。これから大仕事です。すぐに見つかるとは限りません。しっかり腹ごしらえをしていきましょう」


 ああ、もう、私、何してるんだろう。マーシャが助けを待っているときに。


 ロキが出してくれたお菓子やサンドイッチをガツガツと頬張りながら、エリクはずっと真っ赤だった。



 ◇



 「エリクさん、行きますよ。しっかりつかまっていて下さい」


 ロキは、エアバイクにまたがる。


 「わかった。お願いね」


 食べるだけ食べたエリク、後ろに乗る。


 超人スーパータイプのエネルギーは、完全に切れている。お腹いっぱい食べても、すぐには回復しないのだ。ここはもう、ロキを頼るしかない。


 エアバイクは走り出した。



 「エリクさん、2人組の潜伏先どこだと思います?」


 

 「うーん。人目につかない所。そして、エアカーに乗っているはず。街中はちょっと危ないから、そこじゃないと思うな」


 「そうですね。僕もそう思います。安全な隠れ場所として考えるのは、やっぱり森ですね。それも誰も来ない奥の方へ行くことを考えるでしょう。でも、エアカーで入れるところです。ある程度のスペースがなくてはいけない。そうすると、結構場所が絞れてくるんです。何しろ森は、狩人(ハンター)領域(フィールド)ですからね。自分の庭先みたいなものです。ここの森の事は、全部知ってます。追い詰めますよ」


 エリクは、おお、となる。


 やはり捜索なら、狩人(ハンター)だ。


 エアバイクで、星立公園の中へ。


 もう宵闇の頃。


 ロキは、潜伏している2人組に警戒されないために、エアバイクのライトはつけず、暗視ゴーグルを付けている。


 「狩人(ハンター)の7つ道具の1つです。夜間の狩猟(ハンティング)もしますからね。夜行性の獲物もいるのです。ライトをつけずに獲物を見つけ、狩るのも仕事です」


 ロキは、携帯端末(パッド)をチェックしている。


 「近距離の精査(サーチ)ができます。狩猟(ハンティング)じゃ、仲間の狩人(ハンター)を撃つのが1番いけないことですからね。近くに人間(ヒューマン)がいないか、これで確認できるんです。エアカーの反応もでます」


 狩人(ハンター)ってすごいな。エリクは、ひたすら感心している。



 森の奥へ。だいぶ暗くなったが、ロキは全く問題なく、静かにバイクを走らせていく。公園の森は、樹々が密集してるところが多い。確かに、エアカーで走ることのできるルートは限られている。


 「マーシャ様を拐った2人組は、携帯端末(パッド)のマップを見ながら、一番奥へ行こうとするでしょう。隠れようと考えれば考えるほど、見つけやすくなるんです。相手の習性から行動を読むのが、狩人(ハンター)の仕事ですからね」


 ロキは落ち着いている。


 確実に追い詰めているのだ。



 ◇



 森の奥で。


 「へっ、へっ、へ」


 セムトは、上機嫌。


 「これで閣下も、俺たちのことを見直すだろうな」


 ワジルへの報告は済ませていた。すぐに応援部隊を送る。そのまま隠れていろ、勝手に動くな。いいか、絶対に王女を逃すな。もし逃したらただではおかんぞ、このまま王女の身柄を確保できたら、たっぷり褒賞は出す、と返事がきた。


 やや2人の能力を疑問視してるような言い草だったが、そんな事はもう気にならなかった。


 「おうよ、兄貴」


 弟のレクムも夢心地。


 森の1番奥に停めたエアカー。前部座席には、兄弟の2人、後部座席には、手錠をはめられたマーシャが乗っている。


 マーシャは、自分は実は王女じゃありませんと言うべきかと悩んだが、この2人がそれを信じるとは思えなかったし、とりあえず様子を見ることにした。



 「なあ、弟、これで俺たちも大出世間違いなしだな。幹部になれるぞ」


 「おうよ、兄貴、俺たちを馬鹿にした連中は、みんな見返してやることができるぜ」


 ワジル配下で一番期待されてなかった使いっ走りの2人なのである。


 洋々たる前途。興奮は収まらない。このままここに隠れて、応援部隊を待ってればいい。それだけなんだ。


 すっかり夜になっていた。



 ◇



 「そろそろ、森の1番奥です。エアカー、人間(ヒューマン)の反応があります。どうやら、アタリですね」


 ロキは、エアバイクを停めた。


 「さあ、ここからは歩いて行きます。向こうが気づかないうちに、襲います。相手も携帯端末(パッド)探査機器(サーチマシン)で、周辺を警戒しているかもしれません。不審に思われないように、普通に夜間の狩猟(ハンティング)に来た動きをします」


 エアバイクを降りたロキとエリク。


 装備を確認する。2人とも、暗視ゴーグルをつけている。


 「エリクさん、僕の長銃(ライフル)は、あなたが持っていてください。接近襲撃戦になります。大きな武器は邪魔です。でも、何かで使うことがあるかもしれませんので、持っていてください」


 「わかった」


 エリクは、長銃(ライフル)を受け取る。


 「で、どうやって襲撃するの?」


 「向こうが周辺探査(サーチ)しているかもしれません。近くでぐずぐずしていると、怪しまれます。さりげなく、夜の森を歩くふりをしながら、距離を詰めたところで、一気に駆け寄り突入します」


 ロキは、ズシリとしたナイフを取り出し、いくつかのカプセルを手のひらに乗せて、エリクに見せる。


 「これは強化ナイフです。普通のエアカーの車体なら切ったり砕いたりできます。そしてこのカプセル、暗幕弾(ダークボム)に閃光弾です。狩猟(ハンティング)で使うんです。急に猛獣の突進を喰らったりした場合だけですけどね。これをエアカーに投げ込めば、キマリです。一瞬で勝負がつきます。まずは、見つけたエアカーが、本当に我々の獲物なのか、確認しないと」


 暗視望遠鏡(スコープ)を持つロキ。


 「さあ、エリクさん、行きますよ。普通に、森の奥へ歩いて行きます。我々はあくまでも夜の狩猟(ハンティング)に来た狩人(ハンター)なのです。近づいて、獲物を確認したら、一気に襲撃します」


 「私はどうすればいいの?」


 ロキは、にっこりする。


 「見ていて下さい。何か不測の事態が起きた時は、声をかけます。僕の指示通りにしてください」


 エリクは、うなずく。そしてしっかりとロキの長銃(ライフル)を持つ。


 今は超人スーパータイプの力は、完全に切れている。普通の女の子の能力しか出せない。


 王宮護衛隊にしてゾパ星の狩人(ハンター)、ロキ。任せよう。この少年に。本当に頼もしい。


 万全の装備と手筈。


 2人は、歩き出した。


 夜の闇の中を。




(第36星話 栗毛連盟の星 15 狩り へ続く)


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