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第36星話 栗毛連盟の星 9 戦う騎士



 マーシャを喰い入るように見つめる少年。


 ロキは、セルス星の王宮護衛隊員だった。



 セルス星で生まれ育ったロキは、17歳で王宮護衛隊に志願した。護衛隊は、人気が高く、文武に優れた若者が選抜される憧れの超エリート部隊であった。


 つい先日のこと、ロキは念願の護衛隊に抜擢された。夢心地であった。


 新人の護衛隊員の入隊式には、国王自らが臨席し、隊員一人ひとりに声をかけた。ロキにとり、人生で最も晴れがましい1日であった。王家のメンバーも、みんな式に参加していた。直接言葉は交わさなかったが、星民の憧れと人気の的であるクレア姫の姿もあった。ロキは、それとなく、しかししっかりと、美しい王女の姿を目に焼き付けたのである。栗色のくるくる巻毛で優しく微笑むクレア姫。



 今、目の前にいる少女。

 

 間違えるわけがない。


 夢でもない。


 混乱したロキだが、忙しく考える。


 突如、セルス星で政変が起きた。国王夫妻は逮捕され、反逆者として、糾弾された。これから裁判にかけられる。一切の指揮を取った宰相ワジルは、国王派の排除、弾圧も直ちに行った。


 国王への忠誠心が厚いと見られた王宮護衛隊は、即座に解散となった。ワジルの配下の警固隊がとって変わった。ロキが隊員に抜擢されてから、間もなくのことであった。


 失意のロキであったが、身の危険を感じた。セルス星では反逆罪追求の嵐が吹き荒れていたのである。国王忠誠派として、嫌疑がかけられることを恐れたロキは、ゾパ星に避難した。ここ星には、両親の家があった。ロキの両親もセルス星の出身だが、ゾパ星に移住して、のんびり暮らしていたのである。



 護衛隊抜擢の栄光から、一転してどん底に落ちたロキだったが、また、運命が変転した。



 クレア姫!


 すぐ目の前の美少女。


 どういうことだろう。いきなりの姫の出現。ロキの頭はぐるぐる。


 宰相ワジル一派は、王女はショックで王宮にふさぎ込んでいる、そう宣伝していた。しかし、セルス星民の間では、クレア姫は密かに星を脱出して、国王夫妻救出のために動いているとの噂が、根強く流れていた。


 ロキも、そうであって欲しかった。


 いや、もう間違いなかった。


 それは、願望や噂ではなく、現実だったのだ。


 クレア姫は、やはり脱出して、この星に隠れていたのだ。


 どうするべきか?


 もうその答えは出ていた。


 自分は国王陛下直々に親任された王宮護衛隊員なのだ。王家を守る。姫を守る。それしかない。


 ロキは、目の前の少女を見据え、威儀を正す。



 「申し上げます。私の名はロキ。セルス星王宮護衛隊の者です。先日の入隊式では、王女殿下にも、親しく挨拶を受けました」


 「えっ」


 マーシャ、驚く。


 この人、セルス星の人なんだ。しかも、王宮護衛隊員!? じゃあ、王家をよく知る立場の人なんだ。


 どうしよう。マーシャは、戸惑う。


 「わかっています。私の前では、正体を隠さなくても大丈夫です。あなた様はまさしく、我が王女殿下、クレア姫ですね? ええ、間違えるはずはありません」


 ロキの眼差し、真剣そのもの。


 「王女殿下、密かに王宮を脱出し、他の星に潜伏してるとの噂、かねてより広まっております。私も王女殿下の身を案じておりました。ご無事で本当によかったです。私は王女殿下の味方です。なんなりとお申し付けください。私は護衛隊員です。きっとお役に立ちます」


 右手を胸に当て、忠誠の意思(ポーズ)を示すロキ。


 マーシャ、ドギマギする。


 クレア姫だと間違えられちゃっている。それは当然だ。鬘を取った姿を見られてしまっている。姫と私は、見分けがつかないほど、瓜二つ。だからこそ、国王救出作戦の王女の役に選ばれたんだ。セルス星で王家に仕えていた人にも、本物の姫だと思われるんだ。


 このロキという少年。国王支持派らしい。信じていいのだろうか。


 マーシャは悩む。

 

 少年の瞳には熱意と誠意しか感じられない。でも。今、自分は危険な立場。初対面で誰かをいきなり信用するのは絶対にダメ。特に、国王救出作戦については絶対の秘密だ。打ち明けるなんて、とてもできない。ここは慎重に行こう。


 マーシャは、目を伏せた。そして、


 「私のことは、マーシャと、お呼び下さい」


 曖昧に言った。ほわほわお嬢様マーシャには、何が最善なのか、とっさには判断できなかったのだ。


 ロキは、うなずいた。

 

 王女はやはり、おいそれと身分は明かせないんだ。確かにそうだ。今の状況。密かに星を脱出して、隠れている。宰相ワジル一派から、狙われているに違いない。僕の事は、顔も覚えてないらしい。それは仕方ない。入隊式の時は、大勢並んで王女の挨拶を受けたのだ。もちろん、こちらはクレア姫の顔を見間違うはずは無い。


 姫は、自分を信用していいのかどうか、迷っている。そうに違いない。どうすればいいんだろう。でも、なんであれ、姫をここで一人きりにさせておくことができない。絶対に守らねばならない。


 少年護衛隊員の体が、熱く火照る。


 「あの、姫、いや、えっと、マーシャ様、ここでお一人でいるのは、危険ではないかと存じます。安全な場所へ。マーシャ様、お連れします」


 マーシャが返事をする前に。



 「おっと待った。姫をいただくのは、俺たちだぜ」


 声がした。



 ◇



 公園の樹々が、ざわざわと揺れ、その陰から現れたのは、2人組の男だった。


 1人はひょろっと痩せたのっぽ。1人は小柄でずんぐり小太り。


 どちらもカーボーイハットに革のチョッキ、革のズボンにブーツ。


 2人とも、ニヤニヤしながらマーシャを眺め回し、へっ、へっ、と笑う。


 「こんないい日はねぇぜ、なあ、兄貴」


 小柄小太りの男が言う。


 「ああ、そうだ。弟よ。ロクなお手当てもなく、面倒な任務押し付けられてよ。どうせだめだろうってんで公園でごろ寝してたら。いや、とんでもないもの見つけちまったぜ」


 と、のっぽの男。興奮している。すっかり有頂天だ。


 「えっへっへ。お姫様だぜ。お姫様。とんでもねえ拾い物、落とし物だ。こんなしけた星に、あるわけねえお宝だ。なあ、弟よ、これってもしかして夢なんじゃねえのか?」


 「夢じゃないぜ」


 小太りの弟は、舌なめずり。目をギラギラさせている。


 「間違いねえ。姫様のお顔は、しっかりとこの目に焼き付けてあるからな。本物だよ。間違いなく本物。うはは。鬘で変装とは、また、やられたね。うっかり騙されちまうところだった。でも、外したのを俺たちに見られたのが運の尽きだったな。さあ、姫さん、クレア王女殿下、俺たちと一緒に来てもらいますぜ」


 2人の男、マーシャとロキに近づく。すぐ近くに。


 ロキは、マーシャの前に立ち、身構える。


 「お前たちは、何者だ」


 のっぽは、ロキを見て、ふんと笑う。


 「うん?なんだ、お前は。そうか、姫のお付きか。しかし姫様ともあろう方が、こんな小僧しかお供がいねえとは。やっぱり運の尽きだな。おい、小僧、お前はひっこんでろ。怪我したくねえだろ? 俺たちだって無闇と坊やを痛めつけたりしたくはないんだぜ。穏便に行こうじゃねえか」


 「兄貴」


 小太りの弟も、せせら笑いながら言う。

 

 「この坊や、よくわかってねえのかもな。だから、ちょっくら教えてやってもいいんじゃねえか?俺たちが誰なのか」


 兄のっぽは、うなずく。


 「よし。小僧。教えてやるぜ。俺たちはワジル閣下の手の者だ。閣下の命令で、姫さんをお迎えに来たんだぜ。こう言えばわかるだろう?しかし、いけない姫様だな。勝手に家出するとは。王宮は大騒ぎなんですぜ。さ、俺たちと一緒に、帰りましょう。小僧は、家に帰って、おとなしくおねんねしてな。見逃してやるぜ」


 弟の小太り男は、ひっ、ひっ、と笑う。


 「姫さん、もう逃げようったって、そうはいかねえぜ。ワジル閣下からは、多少手荒ないことをしてもいいから、必ず王女を確保しろ、身柄を抑えることが大事だ、決して逃してはいかん、そう言われてるんでね」


 状況を理解したロキ。体を動かすが、


 「おっと」


 兄のっぽが、革チョッキの内ポケットから、銀色の(ケース)を素早く取り出す。


 銃だ。この星では、勝手な銃の所持携行は、禁止されている。隠して持ち歩くように開発された(ケース)型銃。


 弟の小太り男も、同じ銀色の(ケース)型銃を、チョッキから抜いている。


 ロキの動きが止まった。


 「あはは、ざまあねえな」


 兄のっぽが、嘲笑う。 


 「小僧、肩に担いでいる長銃(ライフル)はなんだ? 警備だ護衛だに、そんなのは役には立ちゃしねえぜ。役に立つのはこういう隠し銃よ。おめえが長銃(ライフル)を構える間に、10発は叩き込んでやれるからな。小僧、てめえ、よほどの間抜けだな。それで、姫の騎士(ナイト)気取りか。ま、国王一家のお付きなんてこんな間抜けばかりなんだろうな。だから、宰相様に足を掬われるんだぜ」


 「はは、わかったか。小僧、そのまま、両手を上げろ!」


 小太り弟が言う。相変わらずギラギラした目。



 ロキは、冷静に2人の男を見る。


 自分が肩に担いでいる長銃(ライフル)と、2人の隠し銃。撃ち合いになったら、当然、向こうの勝ちだ。至近距離の早撃ちで、長銃(ライフル)が小銃にかなうはずがない。


 しかし、今は。


 2人の男がこれ見よがしに見せびらかしている銀色の(ケース)型銃。


 その銃口は、こっちに向いていない。すっかりこちらを侮って、油断しているのだ。2人組は、肩の長銃(ライフル)だけを、警戒している。


 よし。


 ロキは、決断した。


 そっと、狩人(ハンター)着のポケットに指だけ入れ、中からカプセルを取り出すや、2人に投げつける。


 小さな爆発が起きた。


 「うわああああっ!」


 「なんだあっ!」


 のっぽと小太りの兄弟、悲鳴をあげる。


 いきなり、暗闇に包まれたのだ。視界が効かない。何も見えない。


 ロキは、マーシャに囁く。


 「暗幕弾(ダークボム)です。殺傷能力はありませんが、しばらく何も見えなくなります。さ、今のうちに逃げましょう。走って!」


 ロキはマーシャの手を引いて走り出す。


 ついに護衛隊の使命を果たす時が来たのだ。


 ロキの頬は、紅潮している。


 握った手。王女の手を引いているのだ。その温もり。少年の鼓動は高まる。




 (第36星話 栗毛連盟の星 10 王女の護衛 へ続く)

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