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第35星話 吊り橋効果の星 後編



 静けさが戻った。


 がらんとした、地下の広間。


 エリクは、超駆動(オーバードライブ)を弱起動に戻す。長時間全力で超駆動(オーバードライブ)していることはできないのだ。


 やがて、光が現れた。ぼんやりとした光。


 「助けていただき、ありがとうございました」


 さっきと同じ声。声とともに、ぼんやりとした光は、はっきりとした立体映像(ホログラム)となった。 


 浮かび上がったのは、若い青年と、女性。どちらも、キラキラのアクセサリをいっぱいつけ、なかなか立派な服装。マントを翻している。2人ともしっかり手を取り合って、笑顔でエリクを見つめている。


 これはもちろん人間(ヒューマン)じゃなくて。自律制御型ロボット(オートロボ)だ。ここには大掛かりな自律制御型ロボット(オートロボ)が仕込んであって、音声や立体映像(ホログラム)を出しているんだ。一体全体何のためなんだなろう。


 

 立体映像(ホログラム)の女性が言った。


 「ついに、最後の悪魔の機械(メカ)が退治されました。これでこの世界は、平和となることでしょう。我々は永遠の守り人を、静かに続けていくことができます」


 悪魔の機械(メカ)? 今、破壊した作業ロボットのことか? 永遠の守り人? エリクは、ますます訳が分からなくなる。


 この人工知能(AI)、何かズレている。


 立体映像(ホログラム)の青年の方がが言う。


 「失礼しました。あなたは、私たちを救いに来た勇者様ですね。最初私たちは、あなたのことを侵入者だと勘違いし、警戒していました。でも、我々の最後の敵を倒してくださいました。改めて、お礼を申し上げます。ここの守り人みなで、あなたを祝福します」


 気がつくと、周囲にいくつも立体映像(ホログラム)が浮かび上がっていた。少年少女。若者の男女。やや年配の紳士淑女。みんな、男女ペアで、しっかり手を取り合って、にこにこしてエリクを見つめている。


 何が始まっているんだ? これもロボットの1つの暴走なのか? もちろん敵意も何も感じられない。素直にみんなでエリクを祝福してくれているのはわかる。地底ロボットに祝福されて、すごく喜ぶべきなのか、それはわからないけれど。



 「あの」


 エリクはここのリーダーらしいキラキラ衣装のカップルに、訊いてみた。


 「あなたたちは、いったい何なんです? ここで何をしているんです? 守り人? それって何?何を守ってるんですか?」


 立体映像(ホログラム)の青年リーダー、笑顔になる。


 「はい、私たちは、遥か昔、ここにある宝を守る使命を授かりました。誰もここの宝に手を出してはならないのです。宝を奪いに来る侵入者を威嚇し、追い払うのが我らの使命なのです。我らが長い歳月の間、守り人を続けられるようにと、叡智を学び、自らを強化し、仲間を殖やす力を授けられているのです。ところが、ここの宝を奪いに来た敵が、悪魔を放ちました。手強い相手でした。戦いは長く続きました。そして、とうとう、最後の敵を、勇者様、あなたが退治してくださったのです」


 エリクは、だいぶ混乱する。でも、なんとなく話が見えてきた。周囲を取り巻く立体映像(ホログラム)の男女ペア、リーダーの話に、うんうんと聞き入っている。


 エリクは、一応、もう一つ訊く。


 「あの、みなさん、なんでみんな男女カップルなんですか? その、ちょっと気になったので」


 立体映像(ホログラム)の青年リーダー、爽やかに答える。


 「私たちには、学習能力があったのです。多くの人がここを訪れました。彼らは私たちの姿を見ると、しっかりと男女で抱き合い、結ばれていきました。それを見て学んだのです。外敵の脅威にカップルで結びつくことが、我々の増殖強化の(キー)となり得ると。我々はしっかりと結びつき、愛の種を殖やし、力をつけていったのです」


 立体映像(ホログラム)のカップルたち。満面の笑みで、しっかりと抱き合っている。


 エリクは、頭がクラクラした。


 やっと何とか理解できた。いや最初から、もうだいたいわかってたんだけど。


 バグだ。



 ◇



 バグ。


 その最初は。


 お宝探し(トレジャーハンター)の時代だ。この古城にお宝が眠っているとの噂で、お宝探し屋(トレジャーハンター)が殺到したことがあった。 


 もちろんお宝なんてなかったんだけど。


 殺到したお宝探し屋(トレジャーハンター)の1人が、当然ながら、お宝は見つけられなかったけど、どうしても諦めきれなくて、しばらくここ掘ってみようと思った。でも自分で見つけられなかったお宝が、他のお宝探し屋(トレジャーハンター)に、見つかっては、癪だ。そこで、お宝探し屋(トレジャーハンター)を追っ払う作戦を考えた。


 自律制御型ロボット(オートロボ)をここに仕込んだのである。


 それはどんな自律制御型ロボット(オートロボ)であったか。やってきたお宝探し屋(トレジャーハンター)を片っ端から攻撃するのでは、犯罪になってしまう。すぐに通報されて、仕掛けた人間も、捕まってしまう。〝宝を奪いに来る侵入者を威嚇する〟と、言っていた。要するに、音声や立体映像(ホログラム)を出現させて、やってきた人間を怖がらせて追っ払う、他愛ない〝お化け屋敷作戦〟であった。これなら犯罪にはならない。


 この作戦がどの程度成功したのかはわからない。どのみち、お宝など最初からなかったのである。やがて、お宝探し(トレジャーハンター)の時代は終わったが、お化け出現ロボットは、そのままに放置された。仕掛けたお宝探し屋(トレジャーハンター)は、ロボットを回収しなかったのである。 


 廃墟となった古城の中で、ロボットは、ひたすら自分の使命を果たし続けた。いつしか、ここは、幽霊(ゴースト)スポット、カップルがキャーキャーしに来るデートスポットとなった。律儀に、お化けの役割をロボットは続けた。そもそも人を脅かすのが使命なのである。全く問題なかった。


 ただ、このロボットには、永続作動を可能にするための自己学習能力、自己増殖生成能力があった。やって来てはキャーキャー騒いで吊り橋効果でしっかり結ばれていく人間(ヒューマン)のカップルを見続けていたロボット。ここでバグが起きた。人工知能(AI)が更新を続けるうち、カップルの思考行動システムを取り込んでしまったのである。自分たちが、やってきた侵入者に悲鳴をあげて、抱き合い、しっかり結ばれるカップルになるべしと認識してしまったのである。


 バグ思考を取り込んだまま。ロボットは自己増殖生成を続けていった。今では、たくさんのカップルの思考認識を取り込んだ人工知能(AI)頭脳体となってしまっている。

 

 この人たちのいう〝悪魔〟、あの作業ロボットも、元はと言えば、お宝探し(トレジャーハンター)の時代に、誰かがここを掘るために持ち込んだものだろう。そしてそれがここに捨てて置かれた。何かの加減で、再起動することがあったのだろう。向こうもバグなんだ。ここの宝を守る使命と掘る使命。2つのロボットの衝突では、確かに、お化け出現驚かせ特化型ロボットが、苦戦したに違いない。

 


 ◇



 事情が分かって。


 どうしたものか?


 エリクは、考える。


 長年の間、放置されて自己学習自己生成自己増殖を続けてきたロボットが、バグを起こし、人知れずしておかしな方向に変形進化発展していくことは、稀にあった。未知の人工知能(AI)思考世界誕生である。


 こういうロボットで、人間(ヒューマン)に危害を加える恐れのあるものを見つけた時は、当然ながら、星庁に一報しなくてはいけない。


 でも。


 エリクを取り巻く立体映像(ホログラム)たち。そして、その根源にある超自己進化自律制御型ロボット(オートロボ)


 あくまでも、訪問者を驚かす〝お化け〟の役割しかしない。そして自分たちも、訪問者を〝お化け〟と認識し、キャーキャー悲鳴をあげ結ばれるのである。双方での吊り橋効果の発生。それなりに人間(ヒューマン)世界でのカップル誕生率の上昇に、貢献しているといえるだろう。これがこの幽霊(ゴースト)スポットデートスポットをずっと支えてきたシステムである。このまま放置しても、何の問題もなさそうだ。


 

 そっとしておこう。エリクは、別れを告げた。


 立体映像(ホログラム)のカップルたちに祝福されながら、広間を後にする。



 帰り道、エリクは焦った。あちこち走り回って、どこをどう行けばいいか、わからなくなってしまったのである。もちろん、地下通路の壁や天井をぶち抜けば、すぐに外に出ることができるが、廃墟の完全な崩壊を起こして、マーシャとアルスンを巻き込みでもしたら大変だ。


 やっぱりお化け屋敷に行くなら、安全な遊園地に行くべきだな。宇宙最強超人スーパータイプの能力も、戦闘(バトル)飛翔(フライト)治癒(ヒーリング)はできるが、探し物や迷路脱出は苦手だ。


 さんざん迷って、ぐるぐる走り回ってあげく。


 やっと、元の場所に戻った。


 マーシャとアルスンは、全然場所を動いてなかった。


 2人とも蒼白で、しっかりと抱き合って、うずくまっていた。エリクが大暴れしたせいで、ここを支配する自律制御型ロボット(オートロボ)の〝驚かせ〟システムが最大限発動し、怖い音声だ立体映像(ホログラム)やらに襲われまくったらしい。冷静に考えれば、そんなの別に怖がる必要ないんだけど。


 この古城廃墟の地下通路という本物感が、恐怖心をかき立てたのだろう。



 「遅くなっちゃったね。どう? 幽霊(ゴースト)スポットは、充分楽しめた?」

 

 エリクは、声をかけるが、2人はまともに話すこともできない。恐怖体験は十分したらしい。魂が抜けたようになっている。


 「あちゃ〜、お嬢様お坊ちゃんは、これだから」


 エリクは冷や汗。


 2人の背中を擦ったり、肩を叩いたりして、何とか元気づける。


 マーシャは、やっと立ち上がった。


 「エリク、本当に怖かった」


 涙ぐんでいる。うんうん、よしよしと、エリクはマーシャを抱きしめ、頭を撫でる。


 なんとかマーシャは、正気に戻った。


 アルスンは、座り込んだまま動けない。ずっとガタガタ震えている。そんなに怖かったんだ。これでよく、幽霊(ゴースト)スポットに行こうって誘えたものだな。


 エリクは呆れたが、ともかくアルスンは歩くこともできないので、背負っていくことにする。マーシャは何とか自分で歩けた。


 一行は、地下通路から廃墟の中を戻っていく。


 エアカーに乗り込む。


 置き去りにされていた万能検査機(メガチェッカー)が、眠そうな目で出迎える。



 アルスンの友人の家へ向かう。もともと、そうする予定だったのだ。古城の幽霊(ゴースト)スポットを一巡りしたら、アルスンの両親に伝えておいた通り、友人の家行ってそのまま一泊する。


 友人の家に着いて、アルスンはやっと正気を取り戻した。



 翌日。ルーンドルフ伯爵家の城館(シャトー)に戻り、最後の歓待を受けた後、エリクとマーシャはアルスンとその両親にさよならし、自分たちのホテルへと戻った。



 結局どうだったんだろう。


 散々だった幽霊(ゴースト)スポット探訪について、エリクは考える。


 アルスンは、有名恐怖体験スポットで、マーシャと距離を縮めるチャンスを狙っていた。目論見通り、恐怖体験をし、2人はしっかり抱き合っていた。でも。完全に腰が抜けてしまったアルスン。さよならするときは、威厳を取り戻していたけど。〝好きな女の子にかっこいいところを見せる〟のには、完全に失敗した。


 マーシャは、相変わらずほわほわしている。アルスンをどう思っているかはわからない。


 結局のところ、吊り橋効果狙い。成功したのだろうか。それとも失敗だったのだろうか。


 エリクには、どっちでもいいんだけど。


 そして、あの古城の自律制御型ロボット(オートロボ)も。ずっと来訪者を驚かせ続けながら、いったいどういう風に進化していくんだろう。



 ◇



 星から星へ。


 エリクの旅は続く。

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