第35星話 吊り橋効果の星 中編
夜の幽霊スポットの古城を訪れたエリク、マーシャ、アルスンの3人。
地下通路の中。
再び歩き始めた。前を行く2人、アルスンとマーシャ。だいぶ足取りが重くなっている。無理することないのに。エリクは、だいぶ投げ遣り。しかし、廃墟のことは、妙に気になってきた。何かあるな。
「助けて!」
また、悲鳴が聞こえた。女性の声だ。さっきとは微妙に違うか?
「こっちへ、逃げて!」
今度は男性の声。なんだろう。
姿は見えない。地下通路いっぱいに突如響く声に、3人は身構えて、キョロキョロする。
「あっ!」
叫んだのはマーシャ。
ぼやっとした光が現れた。何か人影のような図象が浮かぶ。それは、すぐ消えた。
「み、見ましたか、マーシャさん」
アルスンの声、上ずっている。
「ええ、なんでしょう? 何か光っていました」
「そ、その、人魂っていうのじゃないですか?」
「人魂? あれが?」
「ええ、本で読んだことがあります。あれは間違いなく人魂です! やっぱりここは正真正銘本物の幽霊スポットだったんです! マーシャさん、僕から離れないで! 危険なことがあるかもしれません!」
強がっているアルスン。この状況でも、〝恐怖体験による吊り橋効果でマーシャとくっつく〟を狙っているんだ。でも、アルスンこそ本気で怖がっている。大丈夫なのか? 大体、本当に危険なことがあるなら、すぐ撤退するべきだと思うんだけど。
アルスンの恐怖と恋の天秤。どうなっているんだろう。
エリクは考える。マーシャも幽霊を信じちゃっているようだ。でも、今見えたのは、間違いない、立体映像だ。聞こえた声も、機械音声っぽい感じがした。これはなんだろう。この廃墟には、何かのショーが仕込んであるのか?
ま、なんであれ。本物の幽霊の訳はない。怖がるかどうかは別として、危険な事は無いはずだ。
2人がちょっと盛り上がってるんだし。
もうちょっと行ってみるか。
エリクは、何気なく壁をトントン叩く。
「あ」
ガラガラと壁が崩れ、人が通れる位の穴が開いた。そして向こうには、横通路が伸びている。なんだこりゃ。秘密の通路?
横通路の方を覗き込むエリク。ひんやりとした空気。その時、奥の方から聞こえてきた。
「助けて……」
とても微かな声だった。やはり。どうも人間の声ではない。機械音声のように思えた。でも。ここの仕掛けを解く鍵、この奥にあるかもしれない。
エリクは、突然開いた横穴ににびっくりしているアルスンとマーシャを振り向く。
「ちょっとこの奥を調べてくるよ。ここ、動かないでね。すぐ戻ってくるから」
そう言うや、エリクは、横穴の奥へと、走り出した。
「超駆動!」
弱起動で発動。
うっすらと光の気を纏う。
◇
エリクは、地下通路の中を走る。
「キャッーっ!」
また悲鳴が響く。どこからだろう。誰の姿も見えない。
「大丈夫だ、こっちだよ」
「さぁ、しっかり手を握って」
別の声だ。やはり姿は無い。声だけが地下通路に響く。なんだ? やっぱり人間の声とはちょっと違う。機械音声に思えるんだけど。
地下通路、道が分かれている。下に行く階段とかもある。どうしよう。万能検査機がいれば。エリクは、相棒ロボットのことを思う。ここの仕掛けなんで、すぐわかるのに。
今回は、〝五感を使って幽霊を体験する〟とかいう趣旨のせいで、置いてきてしまった。携行機器もない。いざという時の救援信号発信機を持っているだけ。機械なしに、自分で歩いて目で見て調べ物するって、ありえないくらい大変だな。もう。
地下通路の中。悲鳴。叫び声。ささやき声。だんだん大きく、数が増えていく。様々な姿なき声が重なりあい響きあい渦を巻きエリクを包んでいく。
とりあえずエリクは、声のする中心の方へ、走っていく。何層も、下に階段を降りる。
それにしても。なんだ。この声は。
ーー来るよ!
ーー怖い!
ーー大丈夫、しっかり!
ーーさぁ、こっちに!
なんだろう。普通に解釈すると、みんな怖がっているが、なんとか励ましあっている。そういう状況。何が怖いんだ?
◇
大きな広間に出た。天井が高い。照明がいくつか付いている。
さっきから重なり響いていた声の中心、この辺だと思うんだけど。
周囲に目を配るエリク。超駆動弱起動でも、感覚が研ぎ澄まされ、常人離れした能力で視ることができる。暗がりでも、全く問題なかった。
ズズズ。
広間が、揺れる。
なんだ?と思う間もなく、
ドゴッ、
床面を割って、地中から、巨大な物体が現れた。
なんだこりゃ。
エリクは瞳を凝らす。
機械だ。巨大機械。
長い手足が合計8本。頭部には、複眼式センサーが、赤く妖しく光っている。
重機? 腕の一本に、巨大なドリルがついている。シャベルのような腕もある。
掘削機? それに解体作業機の機能もある。なんだろう。巨大作業ロボットだ。ここで何をしているんだろう。
「助けて!」
さっきから続いている声が、また聞こえた。助けるも何も、姿が見えないんだけど。誰かが、この作業ロボットに襲われてるってこと?
作業ロボのセンサーが、エリクをとらえる。赤いライトが、集中する。
ギイイ、
長い手足を動かして、作業ロボは、エリクに近づいてくる。
おや?
エリクは、感じた。この作業ロボ、私を攻撃するつもりだ。ロボの腕のドリルが、ギュイーン、と回転を始めた。
兵器ロボットじゃない作業ロボットが人間を攻撃するなんて、第一級のバグだ。誰が何のために使っているロボットかはわからないけど、こうなったら、破壊しても問題ない。とっとと片付けよう。
「超駆動! フルパワー!」
エリクは、叫ぶ。
たちまち黄金の光の気が全開となる。
強化されたエリクの感覚、ロボットの内部構造も視える。思考指示中枢部動力源は、5つに分かれていた。こういう巨大ロボットの場合、1カ所が故障しても動き続けられるように、複数の思考指示中枢部動力源を持っているのが普通だった。
よし。
攻撃する的は、5箇所。
作業ロボットは、今しもエリクの頭上に大きくドリルとシャベルの腕を振り上げている。エリクは、動じない。所詮作業ロボットだ。宇宙で唯1人の超人の敵ではない。
エリクは、落ち着いて右手をかざす。
「光の剣!」
たちまち、流れるような光の条が走り、巨大ロボットを、寸断する。一瞬で、5つあった思考指示中枢部動力源は全て破壊された。
動くことをやめたロボットは、ガタガタと音を立てて崩れ落ちる。
(第35星話 吊り橋効果の星 後編へ続く)




