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第33星話 砕けた心は戻らないの星 2 



 岩盤浴に行こう。


 マーシャに誘われた。


 朝食の時間。今日も遅い。


 エリクは、マーシャをしげしげと見つめる。

 

 昨夜、エアバス爆破炎上事件に出くわした時は青ざめて、厳しい顔をしていたが、今は、ほわほわマーシャに戻っている。翳らしきものは見えない。


 とにかくよかった。エリクは、ほっとする。


 昨晩のこと。マーシャが、友達に会いに外に出かけた。そうしたら、たまたまエアバスの事件を目撃した。ただそれだけのことだ。何でもない。ちょっと気になる点はあるけど、マーシャだって、相部屋(ホテルメイト)の親友に何でもかんでも話さなきゃいけないという事は無い。話したくない事は、話さなくていいんだ。今、元気にしてるんだ。優しくお出かけに誘ってくれる。それでいい。


 「うん、いくよ。岩盤浴だね。楽しみだよ」


 エリクは、にっこりとする。マーシャも無邪気に、栗色のくるくる巻毛を揺らしている。陽だまり。浸っていたい。



 星都の中心街(メインストリート)にある、複合レジャー施設。その中に、岩盤浴温泉があった。プールや、普通の温浴場(スパ)もある。


 エリクとマーシャが相部屋(ホテルメイト)しているのは、超一流高級ホテルだ。もちろんホテル内にも岩盤浴もプールも何でもあるけど、マーシャは、ここがお気に入りなんだという。


 「うう、気持ちいいね」


 バスローブ1枚で、温められた岩の上に横たわるエリク。大きく伸びをする。


 マーシャは。


 おおっ


 エリクは赤くなった。バスローブを脱いで、全裸で、エリクのすぐ傍に横たわる。


 「うふ、エリク、この方が気持ちいいよ」


 岩盤浴場は、男女別だけど、プライベートルームというわけではない。結構人が入っているけど。他の女性客目線を気にせずに、全裸になっている人はそこそこいた。


 優雅に横たわるマーシャ。束ねずに乱れるがままにしている栗色の髪。ふっくらとした曲線美の(ボディ)。疵、シミひとつない綺麗な肌。しっかり隆起するメロン(サイズ)(バスト)


 マーシャは、とても気持ち良さそうに目を閉じている。天使、というより、女神みたい。


 エリクも。少ししてから、バスローブを脱いで全裸で横になる。マーシャの隣に。ふっくらした(ボディ)の少女と、スレンダーな(ボディ)の少女が並ぶ。


 一緒にお風呂に入ったりはしてるけど、裸で並んで寝るっていうのは初めて。


 マーシャは平然としているけど、エリクは心騒ぐ。赤面が最高潮。胸の動悸が止まらない。


 岩盤の熱と、マーシャの熱、そして、心臓の熱で、エリクは早くも頭がクラクラする。


 ダメだ、もう完全にのぼせ上がっている。頭が破裂しそう。


 エリクは、バスローブを着て、立ち上がる。


 「マーシャ、ちょっとプールのほうに行ってくる。なんだか温まりすぎちゃった。少し体を冷ましてからまた戻ってくるね」


 マーシャは目を閉じたまま、心地よさげにうなずく。



 ◇



 プールの水は冷たく感じる。


 水着姿のエリクは、ほっとひと息。マーシャの陽だまり。心地よく浸っていられる大切な場所だけど、全裸ですぐ隣に寝る……それはさすがに……もう熱湯地獄になっちゃう!


 すぐ傍のマーシャの裸。思い出すだけで、またまた顔が真っ赤になる。プールも湯だっちゃいそうだ。


 マーシャはエリクの裸を見ても、特別ドギマギしないみたいだ。女の子同士でこうするの、慣れてるのかな。


 岩盤浴に戻れば、まだ沸騰しちゃいそうだけど、でもせっかく来たんだし、しっかり体を冷やした上で、また挑戦してみよう。


 一泳ぎしようか。エリクがプールに身を沈めた時。



 ドオオオオオオーン



 爆発音がした。岩盤浴の方からだ。



 ◇



 「マーシャ!」


 プールから飛び出したエリクは、走る。


 施設中に、悲鳴がこだましている。


 岩盤浴の方へ。中から、バスローブ姿の客たちが、逃げ出してくる。やっぱり爆発はここであったんだ。煙も奥から広がってきている。


 マーシャは?


 周囲に目を配りながら、エリクは、岩盤浴場に飛び込む。


 いざとなれば超人スーパータイプの力を発動する。煙や炎だって、大丈夫だ。エリクは臨戦態勢。

 

 

 岩盤浴場内、煙が充満していた。熱も感じる。どこかが燃えているようだ。焦げ臭い匂いもする。爆発の後。


 助けるを求める声。とにかく、どんどん救助しなきゃ。


 「超駆動(オーバードライブ)!」


 エリクは、煙の中でも動けるように光の気(ルーンオーラ)を弱起動し、煙に巻かれて出入り口もわからなくなっている岩盤浴の客たちを出口へ誘導する。


 救助しながら、マーシャを必死に探す。岩盤浴場はかなり広い。


 「あ、」


 煙の渦が、一瞬切れた隙間に。


 マーシャがいた。全裸のまま、岩盤の上に立っている。


 「マーシャ!」


 駆け寄ろうとするエリク。その足が止まる。


 エリクの顔が凍りつく。


 なに? あれは一体何?


 マーシャ、こっちを見ている。間違いなくマーシャだ。


 でも、その表情。冷たい瞳。エリクを鋭く射抜くまなざし。凄惨な、敵意と憎悪、嘲笑のこもった視線。


 「マーシャ……」


 エリクは、身動きできない。あれがマーシャ? ありえない。あんな顔、見たことない。


 マーシャは、ニヤリとする。()っとする笑み。ほわほわの微笑み天使のマーシャとは、もう別人だ。エリクは、生気を抜かれたように立ち(すく)む。


 マーシャの姿が見えたのは、本当に一瞬のことだった。再び煙に巻かれ、見えなくなる。


 その時、大量の水が降ってきた。スプリンクラーだ。吸煙装置も作動し出した。岩盤浴場内の炎と煙は、たちまち消され、吸収された。



 ◇



 煙が晴れた時。マーシャは、岩盤の上に倒れて、意識を失っていた。


 すぐに救護室へ運ばれる。エリクは、ずっと付き添っていた。


 まもなく、マーシャは意識を取り戻した。目が開く。


 「マーシャ、マーシャ」


 必死に呼びかけるエリク。マーシャは、やがて微笑む。


 「エリク、どうしたの? 私、どうしちゃってたの?」


 それは間違いなく、ほわほわマーシャだった。不吉な翳は、もうどこにも見えない。


 マーシャは丁寧な診察の結果、何の別状もなしとのことで、エリクと一緒にホテルに戻った。マーシャは、岩盤浴してるところ、急に爆発が起き煙に巻かれ、すぐに気を失ったのだという。救護室のベッドで目を覚ますまでの事は、全く覚えていなかった。


 

 「ねえ、どういうことだろう?」


 エリクは、自分の部屋に1人でこもると、相棒のロボット万能検査機(メガチェッカー)に相談する。小さな黒い(ボックス)に手足のついた、頼れるロボ(キューボイド)である。


 箱型ロボ(キューボイド)は、最近、エリクが自分をそっちのけで、相部屋(ホテルメイト)のマーシャとじゃれついているので、やや、むくれていた。


 「僕を連れて行かないからさ。僕はいれば、何が起きたかすぐわかったのに」


 箱型ロボ(キューボイド)は、口を尖らせる。


 「もう、嘘つかないでよ。ちゃんと考えて」


 エリクは、ロボ(キューボイド)を撫で撫でする。とにかく、機嫌を直してもらわねばならない


 「警察が調べたけど、よくわかってないのよ。そんなに簡単な事件じゃないんだから」


 星都を震撼させている連続爆破爆発事件。星系警察は当然ながら全力で捜査をしていたが、手がかりは全くつかめず、真相は不明である。


 最初の動物園爆破侵入事件。何者かが外部から、動物園の塀の一部を爆破破壊侵入して、動物を多数殺傷したのである。爆破によってセンサー類も破壊されたので、犯人の手がかりは無し。


 次に起きたエアバス爆発炎上事件。事故ではなく、意図的な爆破である事はわかった。しかし、それ以外全くわからない。


 そして、レジャー施設での岩盤浴爆破事件。突如、爆発炎上が起こった。それ以外皆目不明。幸い怪我人など、人的被害は無し


 どの事件も、人為的な爆破爆発である事は間違いなかった。しかし、犯人の姿はもとより、爆破の方法、爆発物が何かなのかも全くわからないのである。手がかりすらなかった。使用したはずの爆発物の痕跡もない。そもそも、3つの事件が、同一の事件なのか、それもわからない。


 市民に突き上げられての星系警察の必死の捜査が続いている。



 ◇



 「特によくわからないのは、最後の事件、岩盤浴の事件だね。私もその場にいたんだけど。爆発が起きた。でも誰がどうやってやったのか全くわからない。そんなことあるのかな」


 エリクは、思案する。


 「普通は、ないね」


 万能検査機(メガチェッカー)が即座に断言。ロボ(キューボイド)は、忙しく、事件関連の情報を精査(サーチ)解析している。


 「事件のあったレジャー施設は、高級施設で、セキュリティーもバッチリなんだ。厳重なセンサーによるチェックがあるからね。爆発物や不審物の持ち込みなんて、絶対にできないよ」


 「でも、実際に爆発が起きて、火と煙が出てきたんだけど」


 「つまり、普通に爆発物を持ち込んで、爆破した、そういうことじゃないってこと」


 「うん。そこまでは、誰だってわかるよ。それで、じゃあ、どうしたのかってこと。わからないの?」


 「あのさ、エリク」


 万能検査機(メガチェッカー)は苛立たしげに、


 「星系警察が全力を挙げて、まだわからないって言ってるんだ。僕がメディアの情報だけで、真相にすぐたどり着ける問題じゃないよ。だね。爆発物の持ち込みはなかった。つまり、施設内部にあるものを利用して、爆発物を作った。もしくは、爆発物なしで爆発を起こした。そういうこと。どっちも簡単じゃないなあ。しかも、痕跡を一切残さずだからね。手近なものを利用して爆発物を作る方法、外部から爆発を仕掛ける方法、確かにいろいろあるけどね。痕跡ゼロでっていうのは本当にハードルが高いよ」


 「要するに、全然分からないよね?」


 「うぐぐ」


 万能検査機(メガチェッカー)、顔を真っ赤にする。なんとか、ご主人様の少女に、いいところを見せたいのだ。


 「そうだね……ちょっと考え方を変えてみよう。普通でないことが起きた。それならば、普通でない条件があるはずなんだ。例えばエリク、君はどうかな」


 「私?」


 エリク、キョトンとなる。相棒ロボ、一体何を言い出すの?


 「君は超人スーパータイプだ。そして、君が超人スーパータイプであることは、センサーに反応しない。君は何の問題もなく、誰にも知られず光の気(ルーンオーラ)という究極兵器をどこにでも持ち込める。そして、痕跡を残さず使うことができる。そういう状況なんじゃないかな」


 「ええっ! じゃあ、超人スーパータイプが、もう1人いるってこと?」


 「君と同じ超人スーパータイプとは限らない。ただ、普通では考えられない特殊な能力を持つ者がいたって、おかしくは無いってことさ。こりゃ、君と同じで、星系警察の手には、負えないんじゃないかな」


 「ううん。なるほど。次元の違う特殊な能力者。そういう人がいるとして、どうやって探せばいい?」


 「わからないな」


 万能検査機(メガチェッカー)は、素直に言う。エリクは、必死な声で、


 「もう、結局、振り出しに戻っちゃったじゃない。私の大事なマーシャが巻き込まれてるのよ。そういう危険な奴がいるなら、何とかして捕まえなきゃ。何かあったらどうするの? マーシャ、動物園の事件の時も、近くにいたのよ。金色孔雀の羽根を持っていたし。それにエアバスの時も。岩盤浴の時なんてほんとに危なかったんだから。煙に巻かれて恐怖で、我を忘れてとんでもない表情してたんだよ。もうマーシャがあんな顔するの見たくない。ああ、私のマーシャ。なんて不運な子なんだろう。これ以上、マーシャを決して怖い目に合わせたくないの。万能検査機(メガチェッカー)、ちゃんと考えてよ」


 万能検査機(メガチェッカー)の電光板が、赤と黒にチカチカ点滅する。

 

 ロボ(キューボイド)のご主人様の少女は、知らずして、事件の核心に迫る情報を口にしていた。星系警察もメディアも、決して知り得ない情報であった。ロボ(キューボイド)は、忙しく情報(データ)精査(サーチ)解析する。間違いない。真相。たどり着いた。あらゆる情報(データ)が、1つの事実を指し示していた。


 だが、万能検査機(メガチェッカー)は黙っていた。


 言ったとしても。


 絶対にエリクは受け入れようとしないだろうから。




(第33星話 砕けた心は戻らないの星 3へ続く)

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