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第32星話 少女の裸体画をロボット画家に描いてもらおうの星 中編



 エリクとマーシャ、2人の少女が見守る前で。


 宇宙で唯1人の超人スーパータイプ少女エリクの注入した光の気(ルーンオーラ)のエネルギーによって。


 ロボットは目を開いた。


 老画家ロボット。動力に灯がついたのは、一体いつぶりのことなのだろう。長い眠りの歳月を経てもその体、錆ついてはいなかった。


 画家ロボットの目。完全な光が宿っている。すっと、体を動かす。


 「絵を描くことをお望みですか?」


 その音声、はっきりと聴き取れた。


 大昔のロボットで、ずっと動力源が抜かれていたが、別に故障や不具合があるわけじゃないんだ。


 2人の少女は顔を見合わせる。


 画家ロボットにエネルギーを注入して、起動させた。絵を描くと言っている。考えてみれば当然のことだ。


 「素敵」


 マーシャは、にっこりとする。


 「私、あなたの絵の大ファンなの。せっかくだから、描いてもらおうかな」


 このアトリエには、画家ロボットが再発見されたときに、一緒に見つかった画材画具も置いてあった。すぐに絵を描くことができたのである。


 マーシャは、アトリエの扉を閉め、内側から鍵をかける。ここは、美術館の小さな収納庫だったのを、最近見つかったロボットと、その作品や道具の展示室にしていたのであった。


 「マーシャ、なんで鍵を閉めるの?」

 

 エリクは訊く。


 「うふ」


 マーシャは、悪戯っぽく笑う。そして画家ロボットに、


 「私の肖像画を描いてもらう。それでいい?」


 画家ロボットはうなずく。 


 「かしこまりました。それが私の仕事です」


 肖像画専門のロボットなのだ。起動したら、またその仕事をする。当たり前の成り行き。



 昔のロボットに絵を描いてもらう。マーシャらしく、のんびりしてていいかもな。のんきに構えていたエリクだったが。


 え?


 目を疑った。


 マーシャが、服を脱ぎだしたのだ。


 「ちょっと、マーシャ、何してるの?」


 エリクは真っ赤になって叫ぶ。


 マーシャは、親友を気に止める様子もなく、服を脱ぐ。下着も脱いでいく。


 「うわ、あ、あ」


 エリク、脳が蒸発する。何してるの?


 マーシャは、にっこりとする。


 「肖像画っていえば、やっぱり全裸よ。人間の体こそが、一番の美術品なの。それを写してもらうの。この素晴らしい才能ある画家ロボットの先生に。才能を惜しげもなく使って私の体を。もう、最高よ」


 「え、ええ、才能? ロボットに才能っていうの?」


 うろたえるエリク。


 画家ロボットの目は無機質に煌めいている。



 大胆だなあ。


 とうとうマーシャは、素っ裸になった。

 

 美術鑑識眼のあるマーシャ。やっぱり考え方が違うのかな。上流階級の超お嬢様。確かに小さなアトリエの扉にしっかり鍵をかけて、ここにいるのはエリクとマーシャと画家ロボットだけ。


 エリクとマーシャは、一緒にお風呂にも入る間柄だ。


 あと、いるのはロボット。だから、全部脱いじゃって、別に問題ないといえばないんだけど。感覚的に、なんというか。ロボットの才能に期待する? そういうものなのか。


 

 画家ロボットは、絵筆を慣れた手つきで動かしている。


 モデルのマーシャ。


 神々しいまでに美しかった。背丈はエリクと同じだが、ややふっくらした、絶妙な曲線美。メロン(サイズ)の形の良い胸。疵、しみ、一つない、綺麗な肌。輝かんばかり。


 エリクは、ぼおっとして、見つめていた。自信に満ちた表情のマーシャ。全然恥ずかしくないみたい。こうしてみると、お風呂で見る裸とは、やっぱり何かが違うな。最高の美術品。うん。その通り。



 ◇



 画家ロボットは、描き終えた。


 服を着るマーシャ。


 画家ロボットから、作品の画板を受け取る。


 じっと見つめるマーシャ。笑ってはいない。真剣な表情。何か問いたげな。


 「マーシャ」


 エリクは、声をかける。


 はっとして、あわてて自分の絵を背後に隠すマーシャ。


 うん? なんだ?


 なんで絵を隠したんだろう。見せたくない?それ、どういうこと。


 エリクの目線に、マーシャは、冷や汗を浮かべて答える。


 「うーん。自分の裸を描いた絵、見られるのは、ちょっと恥ずかしいかな」


 え? そうなの?


 一緒にお風呂も入る仲だし、たった今、平然と全部脱いで、私の目の前でモデルもやってたのに。何をいまさら? エリクは不審に思うが、マーシャは、ややぎこちない笑みを浮かべるばかり。


 何か見られたくないものが描いてあったのだろうか。でも、詮索してはいけない。


 

 ◇



 「エリク、あなたも描いてもらいなさいよ」


 マーシャが言う。


 そういうものかな、と思い、何しろ、この画家ロボットを久々に目覚めさせたのは自分なんだから、と。


 エリクは、画家ロボットの前に立つ。


 「今度は私を描いて」


 「承知しました」


 画家ロボットが、感情のない声で言う。


 「あ、ダメよ」


 マーシャが悪戯っぽく笑う。 


 「え?」


 「エリクも、全裸じゃなきゃ。全部脱いで、描いてもらって」


 「え……恥ずかしいよ」


 「何を言ってるの、恥ずかしがり屋さん。ここには私しかいないよ。扉もしっかり鍵がかかってるから。人間の裸こそ、最高の美術品。青春絶頂の思い出に、描いてもらおうよ」


 マーシャの裸美術理論。青春絶頂理論。



 画家ロボットは、無機質な目線を向けてくる。青春絶頂ってわかっているのだろうか。そもそもロボットに、青春絶頂ってあるのだろうか。



 いいだろう。


 エリクは決意した。人間の裸が最高の芸術か。17歳。青春絶頂の。そうかもしれないな。宇宙を渡り歩いてきたこの体をしっかり受け止めてもらおうじゃないか。


 脱いだ。


 思い切って脱いだ。



 ◇



 美術館の隅の小さなアトリエで。素っ裸のエリク。マーシャとは対照的に、スレンダーな体。(バスト)はグレープフルーツ(サイズ)


 マーシャに見守られて。


 一心に絵筆を動かす画家ロボット。


 エリクは、最初は顔を赤くしていたが、だんだん、平気になってきた。私だって、私だって、結構自信あるんだから! しっかり描いてもらおうじゃないか。ちゃんと描いてね! 青春の絶頂なんだ!



 ◇



 「終りました」


 画家ロボットは、描き終えた。

 

 エリクは、服を着る。気分が高揚していた。体が火照っている。なんだか、すがすがしい。


 完成した絵を見る。


 エリクの肖像画。


 裸のエリク。


 それだけじゃない。黄金の輝きを纏っていた。


 エリクは息を呑む。


 「光の気(ルーンオーラ)だ……」


 超人スーパータイプエリクの究極兵器光の気(ルーンオーラ)を、画家ロボットは、しっかりと絵に描いていた。


 なんだ。なぜ?


 確かに光の気(ルーンオーラ)で、このロボットに、エネルギーを注入したのだ。しかし、ロボットに光の気(ルーンオーラ)()えた筈がなかった。エネルギーを注入する時、もちろんこのロボットは作動していなかった。注入完了した時、エリクは、超駆動(オーバードライブ)を停止させていた。当然だ。


 ()えない筈の光の気(ルーンオーラ)を。


 間違いなく描いた。


 エリクは、はっとした。ここに飾ってある肖像画、このロボットの作品にはすべて、人物だけでなく、別の図象(イメージ)が一つ付け加えられている。


 画家ロボットに()えた、その人の本質。または別の姿。普通では目に見えない何か。


 そうなのか。


 じゃあ、マーシャの肖像画には。


 一体何が描いてあったんだろう。





(第32星話 少女の裸体画をロボット画家に描いてもらおうの星 後編へ続く)


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