表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/102

第29星話 女の子2人でお買い物の星 後編



 最先端ファッションで宇宙にその名を知られたリコレ星。


 星1番の高層タワーの高級ショップで。


 偶然出会ったエリクと親友の錬成師(メカニック)ファーリン。


 2人の少女は、特別プライベートルームに入る。


 ここは、この高級タワーの特別会員であるファーリンのプライベートルームであった。星持ちのファーリンは、エリクよりずっと大金持ちで、贅沢屋だった。宇宙のあちこちの有名ショップには、特別会員となって、自分のプライベートルームを持っていたのである。もちろん、巨額の維持費がかかる。


 「相変わらず、天文学的な資産家なんだな」


 豪華絢爛たるプライベートルームの中。毎度ながら、エリクは感心する。超人スーパータイプの力を使ってちょこちょこ稼いでいる自分よりも、宇宙一の錬成師(メカニック)として有力なお得意様を多数抱えているファーリンの方が羽振りが良いのだ。ファーリンの取引先には、有力な星系政府も含まれるのだから、とてもかなわない。


 荷物を下ろした2人。


 「レストランに行こう。しっかり食べて、今日どうするか話し合おうね」


 ファーリンが言う。エリクは是非もない。



 ◇



 「いっただきまーす!」


 高層高級ショップタワーの最上階のレストランで。


 文字通り、雲の上の景色を楽しみながら。


 運ばれてきた特別予約注文料理に、ファーリンは、無邪気に顔をほころばせる。


 「悪いね、ご馳走してもらっちゃったりして」


 エリクも、ご馳走に見惚れながら言う。ファーリンは、いつも奢ってくれるのだ。


 「ああ、エリク」


 ファーリンは、陶然とした紫の瞳で、エリクを見つめる。


 「そんなこと言わないで! 私はただただ、あなたが目一杯着飾って、ご馳走を一杯に頬張っているのを見るのが好きなのよ! 自分が着たり食べたりするのより、よっぽどあなたのを見てるのが好き。本当に、あなたにお金を払いたいくらい」


 「あはは。そうなの?でも今日は、1人で予約したんでしょ? 急に2人分とか頼んで大丈夫だったの?」


 「それは、私、このレストランの特別会員だから、なんとでもなるのよ」


 ウィンクする紫の瞳。宇宙トップクラスのVIP。

 

 やっぱりかなわないなあ。

 

 お金持ちで贅沢屋。上には上がいるのだ。


 せっかくだから食べよう。エリクは、料理を頬張る。奢られるのに、遠慮はしないのだ。できればこのまま、借金のほうも帳消しにしてほしいんだけど。



 「美味しいね。これ、なに?」


 とろけるように甘く柔らかい、黒い魚のようなものを食べながら、エリクは訊く。ファーリンが解説する。


 「あ、それ、オオサンショウウオ。古代にいったん絶滅したんだけど、遺伝子解析で復活させて、それを養殖して研究して、ついに生態系の中で、天然化することに成功したの。原種(プロトタイプ)と全く同じものよ。最近販売が始まって、私も気に入ってるの。私の星に来てくれたら、毎日食べさせてあげるわよ」


 復活オオサンショウウオ。


 話を聞いただけでは、養殖なのか天然なのか、人工合成物なのか原種(プロトタイプ)なのか、よく分かりにくい。でも、美味しいからいいや。


 

 ◇



 特別高級料理を、すっかり満喫した2人。


 いよいよ、お買い物。


 光彩めくるめくショップの間を歩く。


 広いスペース。自走椅子(エアシート)でゆっくり移動している人も多いが、2人の少女はまだ若いし、自分の足で歩いて、立ち止まったり、あちこち眺めたりするのが好きだった。


 「ねえ、エリク、お願いがあるんだけど」


 「お願い? 何?」


 「うふふ」


 ファーリンが、顔を寄せてくる。近いな、とエリクは思う。


 「私がこの前あなたのために選んだ黒のニーソックスを、今日履いてきてくれたじゃない。だから、今日は、私の服装(コーデ)を、あなたに選んで欲しいの」


 「あなたの服装(コーデ)を? 私が?」


 なんだそりゃ、と思う。雲上人の宇宙VIPファーリンの服装(コーデ)? 住む世界が違いすぎて、そんなのわからないよ。エリクは、そう思ったが、


 「もちろん、ただでとは言わないわ。ちゃんとコーディネート料払うから。あなたの借金、半分にしてあげる。それでどう? 私のことを好きにしていいのよ」


 「やる!」


 エリクは、俄然、その気になる。借金が半分。それも魅力的だが。美少女ファーリンを自分の好きなようにコーディネートできる。それはそれで面白そうだと思ったのだ。


 ファーリンといえば、その豊満なスイカ(サイズ)双厖バストだ。いつもほとんど丸出しにしてアピールしている。胸開きドレス(デコルデ)を着ているのしか、見たことない。たまには思いっきり胸を押さえつけてみてはどうだろう。うん。パンツスタイルとかも。イメージ変えてみたら、どうなるんだろう。


 エリクは、おしゃれ女子として、忙しく考え始める。なんだかんだ17歳の少女なのだ。他人のコーディネートなんてする機会、滅多にない。頬を紅潮させる。


 「じゃあ、ファーリン、私が選んだの、絶対着てよね」


 「うん。もちろん。すごく楽しみ」


 豊かな胸を揺らしながら、紫の瞳の少女は微笑む。



 ◇


 

 エリクは、張り切ってショップ巡りをし、あれこれ手に取る。またまた、山ほど抱えて、ファーリンと一緒に、特別プライベートルームへ行く。エリクの試そうとした服も、置いてあった。


 しかし。


 自分の服装(コーデ)より、ファーリンのコーディネートで、エリクは頭が一杯になっていた。いつもファーリンには振り回されている。今日は思いっきり振り回して、驚かせてやろう。


 さっそく自分の選んだ服を持ち出して、ファーリンの着せ替えを始める。ファーリンは、ドレスを脱いで、下着だけとなった。かなりギリギリなブラジャーとショーツだけ。しかし、エリクはいつもと違って動じない。今日は、自分がコーディネーター、ファッション監督なのだ。ファーリンという超級の素材を、思いっきり使ってやるんだ。


 

 まずはパンツスタイル。あえてカジュアル感のある白のパンツに、スタイリッシュなブラウスを合わせる。(バスト)はしっかりと締める。どう締めても、ふくらみは隠せないのだが。胸元に、大きな赤い(バレッタ)リボンをつけた。


 「これ、スタイリッシュなの? それとも可愛い系なの?」

 

 微妙な笑みを浮かべるファーリン。


 「うーん、もうちょっとかな」


 ファッション監督エリクは、真剣に悩んでいる。


 「頭にもリボンつけよっか。いや、造花(コサージュ)のほうがいいかな」


 エリクのコーデだと、おしゃれにしよう、かっこよく決めようとしても、どうも、子供っぽさに引かれる傾向があった。


 散々あれこれ試して。



 エリクは、ますますファッション監督魂を燃え上がらせていたが、ファーリンは、珍しく疲れたと音を上げて、椅子に座ってチュウチュウとドリンクを飲んでいる。


 エリクの頭の中は、コーデのことで一杯である。


 「やっぱりいろいろ着たのをのを、並べて試さないと」


 プライベートルームにある、マネキンに目を止める。マネキンといっても、マネキンロボットだ。ショーなどでは、自分で動いて、華を添える。


 確か、音声入力で、いろんなポーズを取らせることができるはずだ。


 エリクは、マネキンに、ポーズを取るように命じてみる。だが、何の反応もない。


 「あれ? このマネキンロボット、人間(ヒューマン)の命令で、いろいろ動くんじゃないの?」


 「そうだよ」


 ファーリンがいう。エリクは、首をひねる。


 「動かないよ。スイッチが入ってないのかな? スイッチ、どこ?」


 「エリク、そうじゃない。エネルギーが入ってないの。ここでは、動かさないで飾っておくだけだから。結構繊細な高級ロボットだからね。変な誤作動しないように、使うときにエネルギー充填する仕様なの。使うなら、エネルギー充填するけど、ちょっと時間がかかるよ」


 「そうなんだ。面倒なんだね。高級ロボットなら、もっと便利に使えなくちゃ」


 ファッション監督として、芸術家気質丸出しとなったエリクは、苛々する。まさしく、大作に取り組んでいるがなかなか進まず、爆発寸前になっている芸術家そのものの姿だった。


 そうだ。エリクは、気づいた。自分は超人スーパータイプだ。超駆動(オーバードライブ)発動で、黄金のエネルギー光の気(ルーンオーラ)を出現させられる。光の気(ルーンオーラ)は、戦闘(バトル)飛翔(フライト)に使うが、普通のエネルギーに変換して、機械(メカ)に充填することもできたのである。


 早く自分の〝作品〟を完成させたい。大芸術家ファッション監督は、全く必要もないのに、高級ショップのマネキンロボットに光の気(ルーンオーラ)でエネルギー充填することにした。


 「超駆動(オーバードライブ)!」


 エリクが叫ぶ。たちまち黄金の光の気(ルーンオーラ)に包まれる。そして、室内にあった5体のマネキンロボットに、


 「エネルギー充填!」


 指を突き立てる。


 たちまち、黄金のエネルギーが、マネキンロボットに注入された。


 「ああっ!」


 ファーリンが飛び上がった。紫の瞳の少女は、エリクが超駆動(オーバードライブ)した時から、何をするのかと驚いていたが、まさかマネキンロボットに光の気(ルーンオーラ)を注入するとは思わなかったのだ。


 「エリク、そんなことしちゃだめ!」


 叫ぶが、もう遅かった。


 光の気(ルーンオーラ)を注入した5体のマネキンロボット、眼が黄金色に不気味に光りだす。そして手足を振り上げて、暴れだした。


 「危ない!」


 ファーリンが叫ぶ。エリクも戸惑う。


 「どうしたんだろう。私、ただ、手っ取り早くエネルギー満タンにしようと思っただけなんだけど」


 「それがダメなの! 言ったでしょ? これすごく繊細なロボットなのよ。そんな無茶なエネルギー注入したら、誤作動大暴走するから。エリク、あなたは下がっていて。ここは錬成師(メカニック)の出番よ」


 ファーリンは、バッグから愛用のハンマーを取り出す。この錬成師(メカニック)は、いつも、ハンマーで、仕事をするのだ。


 暴れだした5体のマネキンロボットに、華麗な身のこなしで近づき、急所に一発ずつコツンとハンマーを打ち込んでいくファーリン。一撃で、マネキンロボットは、静止した。錬成師(メカニック)の熟練の技である。


 マネキンロボットは、すべて静止した。


 エリクは、ほっとする。何が起きたかまだよくわかっていないけど。


 「ありがとう、ファーリン」


 ファーリンは、緊張した面持ち。


 「これで終わりじゃないからね」


 プライベートルームの、重い扉を開ける。たちまち。ショップ中に響き渡る阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる。


 「何? 何、一体どうしたの?」


 うろたえるエリク。ファーリンは、あーあ、という表情。


 「思った通りね。あなたがマネキンロボットを最大限誤作動暴走させちゃったから。ショーとかで使う、ロボット一斉行動用の共鳴電波信号が、変な風に暴走拡散しちゃったのよ」


 エリクは、青ざめる。


 「それって、つまり、」


 「うん。このフロアの、エネルギー充填済みで作動していたロボットが、みんな変な電波でおかしくなって、暴走を始めたってこと」


 「大変だ!」


 最高級ショップが並ぶフロア中が、大騒ぎだった。暴れるロボットに、逃げ惑う客たち。光彩照明も、おかしな具合にピカピカしている。


 「助けなきゃ」


 飛び出そうとしたエリクを、ファーリンが引き止めた。


 「ダメ! どうするの? エリク? 誤作動しているロボットを片っ端からぶっ壊すの? それやったら余計に問題になるから。ここは私に任せて。あなたは何もしないで見てて!」


 ファーリンはエリクを抑えると、華麗な錬成師(メカニック)の妙技を発動させる。誤作動し暴れるロボットたちを、ファーリンは精確にハンマーの一発で、静止させていった。


 流れるような動きで、やっと全部のロボットを止め、フロアに静寂を取り戻した。


 しかしながら。


 おびただしい商品が破壊されていた。ロボット同士の取っ組み合いで壊れたロボットもいた。


 客には、誰も怪我人が出なかったのが、幸いであった。



 ◇



 「バカだねえ、君は」


 ホテルに戻ったエリクから顛末を聞かされた相棒の箱型ロボ(キューボイド)万能検査機(メガチェッカー)は唖然となった。箱型ロボ(キューボイド)は、今日は、おしゃれなお買い物だからと、連れていかず、ホテルに残していたのだ。


 「だって、私、私、ただ、マネキンロボットを早く使いたいから、エネルギー満タンにしようと思っただけなんだもん! 本当にそれだけ!悪いことしようと思ったんじゃないんだもん!」


 泣きじゃくるエリク。

 

 箱型ロボ(キューボイド)は、とりあえず、ご主人様の少女の頭を、おーよしよしと、ナデナデする。


 「エリク、ロボットっていうのはね、とても精妙で繊細なものなんだからね。扱いには気をつけなきゃ。光の気(ルーンオーラ)でエネルギー注入なんて、よほどの非常事態じゃなきゃ。やっちゃだめだよ」



 あれから。


 ファーリンの活躍で、一応その場はおさまった。しかし、無論、それで済むはずがない。


 高級ショップタワーの支配人が、真っ赤な顔をして駆けつけてきた。


 エリクは正直に、自分でマネキンロボットにエネルギーを注入しようとしたら、誤作動暴走してしまったと説明した。


 激怒した支配人は、エリクを警察に突き出そうとした。それを必死になって止めてくれたのはファーリンであった。全額賠償きっちりするからと言って、何とか警察沙汰は免れた。宇宙トップクラスのVIPファーリンの顔が大きくものを言ったのである。


 賠償金は、巨額な額になった。破壊された商品、フロア、ロボットの修理費用。そして怪我はしなかったものの、その場にいた客たちには、当然ながらたっぷり慰謝料が支払われた。ものすごい額が、エリクに請求された。エリクの手持ちでは、とても支払えなかった。そこで、ファーリンが、代わりに支払ってくれた。もちろんファーリンへの借金である。



 結局、最先端の流行ファッション星リコレでは。


 すってんてんの一文無しになり。お買い物やファッション監督どころではなく、ファーリンへの借金がまた山積みされることになったのであった。


 別れる時、ファーリンは、返済はいつでもいいから、また一緒に遊ぼうねと笑顔で言ってくれたけど。



 ファーリンへの借金を完済する日。果たしてそれは来るのであろうか。



 ◇



 星から星へ。


 エリクの旅は続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ