表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/102

第29星話 女の子2人でお買い物の星 前編  【錬成師ファーリン】 【少女と少女の絆と火花】

 


 大繁栄都市リコレ星。


 最先端ファッションの星の一つとして、知られていた。



 「お買い物〜、お買い物〜」


 エリクの心は浮き立っていた。


 星1番の超高層タワービルで。あれこれ、服だ小物だアクセサリーだを選ぶ。宇宙の旅人、17歳の少女エリクには、至福のひとときであった。


 このリコレ星のファッションは、少し変わっていた。尖った最先端と呼ばれていた。他の星にはない独特のセンスが魅力であった。普段の服に飽きた時、ここに来るのだ。


 久々に来た。目新しい商品ばかりだった。エリクは、あれもいいこれもいい、あれも欲しいこれも欲しいと、ごっそりと最先端の流行物を両手に抱え、瞳を爛々と光らせながら、試着室へ向かう。


 最先端の服装(コーデ)で身を固めた自分を想像する。


 ああ! 自分にうっとりとする少女。



 「エリクじゃない」


 後ろから、声をかけられた。なじみぶかい声だ。


 エリクは、ビクっとする。


 これは。この声は。


 やや、背筋に冷たいものを感じながら、そおっと振り向く。



 ファーリンだった。錬成師(メカニック)ファーリン。


 

 ファーリン。15歳の少女ながら、宇宙でもトップクラスの錬成師(メカニック)である。自分の星を持っていて、その工房で、機械(メカ)の修理や整備(メンテナンス)、特殊な改造や開発を請け負っている。


 エリクも、自分の宇宙船(シャトル)ストゥールーンや相棒ロボットである万能検査機(メガチェッカー)整備(メンテナンス)を、いつもファーリンに頼んでいた。宇宙でピカイチの錬成師(メカニック)の腕に、絶対秘密厳守の安心安全。ファーリンに頼むしかなかったのである。



 しかし、今は。


 まずいとこ見られたな。


 エリクは、青ざめる。にこにこと自分を見つめるファーリン。その目線は、エリクがいっぱいに抱えている最先端の流行物に。


 「さすがエリク、お目が高いのね。いいの選んでいるじゃない」


 「あは。ファーリン、この星に来てたんだ。びっくりだね。広い宇宙で、偶然出会うなんて」


 「そう? エリク、私とあなたの仲じゃない」


 ファーリンは、悪戯っぽいまなざし。


 「宇宙のどこにいても、私はいつも、エリク、あなたのことを感じているわ」


 「あは、あはは」


 エリクは、ぎこちなく笑う。このファーリンは、エリクに妙にご執心だった。そして、さらにまずいことに。


 「それにエリク、お金持ちの好きな場所に行けば、大体あなたに出会えるわ。あなたって本当に、贅沢大好きだものね。その今日のお買い物も、すごい額になりそうね」


 エリクにウィンクするファーリン。


 うわあ、きた。目敏くて誰よりも頭の切れるファーリンが、見逃すはずがない。


 エリクは、ファーリンに自分の(シャトル)機械(メカ)整備(メンテナンス)を頼んでいた。その支払いとして、いつも莫大な額を請求されていた。払えないので、貸しでいい、いつでも払える時に払ってね、とファーリンからは言われていた。つまり、エリクは、ファーリンに莫大な借金があったのである。


 特に借金の催促もされないので、エリクは大金が入ってもファーリンに返済せず、借金のことは忘れて自分のために散財していたのである。


 ちょうど、その現場を押さえられてしまったのだ。


 「あの、これは」


 両手いっぱいに、高級高額商品を抱えながら、エリクは必死に釈明する。


 「観てただけ! 別に買うつもりなんて、なかったんだよ。最先端て興味あるじゃない。それで見にきたの。もちろんそうよ。あなたへの返済の事、忘れるなんてこと絶対しないから。あはは。ちょうどそろそろお(かね)の返済に行こうと思ってたの。今すぐ全額返済は無理だけど、結構お(かね)が入って、だいぶ返せるから。ここで出会って本当によかった。ちゃんと返済するからね。そうだ。じゃあ、ちょっとこれ、戻してくるから」


 冷や汗を浮かべながら、立ち去ろうとするエリク。


 「いいのよ、エリク」

 

 ファーリンは、天使のような笑顔。紫の瞳をキラキラさせる。


 「慌てて返済しなくていいから。しっかりお買い物してね。女の子にとって、最先端の服を買うのは、ご飯を食べるのと同じくらい必要なこと、大事なこと。私への借金のせいで、あなたがお洒落もできなくなったら、私、もう生きていけないわ。私の可愛い可愛いエリク! いつも宇宙一着飾っていてほしいの」



 うぐ。うぐぐ……



 エリクは、たじろぐ。


 ファーリンは、いつもこの調子なのだ。エリクへの〝執心〟それはビジネスではない、妙な欲望を感じた。この天才錬成師(メカニック)の15歳の少女は、超人スーパータイプである17歳の少女エリクを、何とか〝もの〟にしたいように見えるのだ。支払いはいつでもいいと言って、巨額の借金で縛って、ずっと自分の手許に繋いでおきたいというような。


 ともかく。


 ファーリンへの借金は、まだ待ってもらえるみたいだ。


 でも、その代わり。


 「一緒にお買い物しよ。ここで出会うなんていう偶然を、思いっきり満喫しなくちゃ。お買い物も女の子2人でしたほうが楽しいよね。今日は借金の事なんて忘れちゃってね。さ、行こっか」


 微笑むファーリンに、エリクはついていく。もう否応なく。


 ファーリンとは、なるべくビジネスだけの関係にしておきたいのだが、毎度毎度、そうはいかないのである。



 ◇



 高級ショップの中を、並んで歩く2人の少女。ファーリンは、注目を集める。その(バスト)。スイカ(サイズ)の双厖のふくらみを、惜しげもなくほとんど丸出しにした、胸開きドレス(ローブデコルデ)である。さすがに大勢に見られる場所なので、透かし(シースルー)肩掛け(ショール)を巻いてはいるが。


 背丈は同じ位だが、2歳年下の少女に、エリクはいつも圧を感じていた。


 「ねえ、エリク」


 ファーリンがウキウキとしていう。


 「私の願い叶えてくれたのね」

 

 「え?」


 何のことだろう、エリクは考える。


 「ほら、ニーソックス」


 ファーリンが、自分の、腰まで届く水色のストレートヘアを撫ぜながら、言う。


 「ああ、これね。なかなか気にいってるよ。教えてくれて、ありがとう」


 エリクは、花柄の白のブラウス、グレーのミニスカートに、黒のニーソックスだった。


 この前会った時、黒のニーソックスが似合うと、ファーリンに言われたのだ。


 そんなものかと思って、黒のニーソックスを買って試してみたら、意外と気にいったので、よく履いた。

 

 別にファーリンにアピールするためじゃないんだけど!


 大胆な胸開きドレス(デコルデ)の少女の視線が、エリクの脚に絡みつく。ファーリンは、うっとりとしている。


 エリクは、ぞわっとなる。


 この調子じゃ。


 いつか本当に、ファーリンに〝もの〟にされてしまうのだろうか。





  (  第29星話 女の子2人でお買い物の星 後編へ続く )


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ