第29星話 女の子2人でお買い物の星 前編 【錬成師ファーリン】 【少女と少女の絆と火花】
大繁栄都市リコレ星。
最先端ファッションの星の一つとして、知られていた。
「お買い物〜、お買い物〜」
エリクの心は浮き立っていた。
星1番の超高層タワービルで。あれこれ、服だ小物だアクセサリーだを選ぶ。宇宙の旅人、17歳の少女エリクには、至福のひとときであった。
このリコレ星のファッションは、少し変わっていた。尖った最先端と呼ばれていた。他の星にはない独特のセンスが魅力であった。普段の服に飽きた時、ここに来るのだ。
久々に来た。目新しい商品ばかりだった。エリクは、あれもいいこれもいい、あれも欲しいこれも欲しいと、ごっそりと最先端の流行物を両手に抱え、瞳を爛々と光らせながら、試着室へ向かう。
最先端の服装で身を固めた自分を想像する。
ああ! 自分にうっとりとする少女。
「エリクじゃない」
後ろから、声をかけられた。なじみぶかい声だ。
エリクは、ビクっとする。
これは。この声は。
やや、背筋に冷たいものを感じながら、そおっと振り向く。
ファーリンだった。錬成師ファーリン。
ファーリン。15歳の少女ながら、宇宙でもトップクラスの錬成師である。自分の星を持っていて、その工房で、機械の修理や整備、特殊な改造や開発を請け負っている。
エリクも、自分の宇宙船ストゥールーンや相棒ロボットである万能検査機の整備を、いつもファーリンに頼んでいた。宇宙でピカイチの錬成師の腕に、絶対秘密厳守の安心安全。ファーリンに頼むしかなかったのである。
しかし、今は。
まずいとこ見られたな。
エリクは、青ざめる。にこにこと自分を見つめるファーリン。その目線は、エリクがいっぱいに抱えている最先端の流行物に。
「さすがエリク、お目が高いのね。いいの選んでいるじゃない」
「あは。ファーリン、この星に来てたんだ。びっくりだね。広い宇宙で、偶然出会うなんて」
「そう? エリク、私とあなたの仲じゃない」
ファーリンは、悪戯っぽいまなざし。
「宇宙のどこにいても、私はいつも、エリク、あなたのことを感じているわ」
「あは、あはは」
エリクは、ぎこちなく笑う。このファーリンは、エリクに妙にご執心だった。そして、さらにまずいことに。
「それにエリク、お金持ちの好きな場所に行けば、大体あなたに出会えるわ。あなたって本当に、贅沢大好きだものね。その今日のお買い物も、すごい額になりそうね」
エリクにウィンクするファーリン。
うわあ、きた。目敏くて誰よりも頭の切れるファーリンが、見逃すはずがない。
エリクは、ファーリンに自分の船や機械の整備を頼んでいた。その支払いとして、いつも莫大な額を請求されていた。払えないので、貸しでいい、いつでも払える時に払ってね、とファーリンからは言われていた。つまり、エリクは、ファーリンに莫大な借金があったのである。
特に借金の催促もされないので、エリクは大金が入ってもファーリンに返済せず、借金のことは忘れて自分のために散財していたのである。
ちょうど、その現場を押さえられてしまったのだ。
「あの、これは」
両手いっぱいに、高級高額商品を抱えながら、エリクは必死に釈明する。
「観てただけ! 別に買うつもりなんて、なかったんだよ。最先端て興味あるじゃない。それで見にきたの。もちろんそうよ。あなたへの返済の事、忘れるなんてこと絶対しないから。あはは。ちょうどそろそろお金の返済に行こうと思ってたの。今すぐ全額返済は無理だけど、結構お金が入って、だいぶ返せるから。ここで出会って本当によかった。ちゃんと返済するからね。そうだ。じゃあ、ちょっとこれ、戻してくるから」
冷や汗を浮かべながら、立ち去ろうとするエリク。
「いいのよ、エリク」
ファーリンは、天使のような笑顔。紫の瞳をキラキラさせる。
「慌てて返済しなくていいから。しっかりお買い物してね。女の子にとって、最先端の服を買うのは、ご飯を食べるのと同じくらい必要なこと、大事なこと。私への借金のせいで、あなたがお洒落もできなくなったら、私、もう生きていけないわ。私の可愛い可愛いエリク! いつも宇宙一着飾っていてほしいの」
うぐ。うぐぐ……
エリクは、たじろぐ。
ファーリンは、いつもこの調子なのだ。エリクへの〝執心〟それはビジネスではない、妙な欲望を感じた。この天才錬成師の15歳の少女は、超人である17歳の少女エリクを、何とか〝もの〟にしたいように見えるのだ。支払いはいつでもいいと言って、巨額の借金で縛って、ずっと自分の手許に繋いでおきたいというような。
ともかく。
ファーリンへの借金は、まだ待ってもらえるみたいだ。
でも、その代わり。
「一緒にお買い物しよ。ここで出会うなんていう偶然を、思いっきり満喫しなくちゃ。お買い物も女の子2人でしたほうが楽しいよね。今日は借金の事なんて忘れちゃってね。さ、行こっか」
微笑むファーリンに、エリクはついていく。もう否応なく。
ファーリンとは、なるべくビジネスだけの関係にしておきたいのだが、毎度毎度、そうはいかないのである。
◇
高級ショップの中を、並んで歩く2人の少女。ファーリンは、注目を集める。その胸。スイカ級の双厖のふくらみを、惜しげもなくほとんど丸出しにした、胸開きドレスである。さすがに大勢に見られる場所なので、透かしの肩掛けを巻いてはいるが。
背丈は同じ位だが、2歳年下の少女に、エリクはいつも圧を感じていた。
「ねえ、エリク」
ファーリンがウキウキとしていう。
「私の願い叶えてくれたのね」
「え?」
何のことだろう、エリクは考える。
「ほら、ニーソックス」
ファーリンが、自分の、腰まで届く水色のストレートヘアを撫ぜながら、言う。
「ああ、これね。なかなか気にいってるよ。教えてくれて、ありがとう」
エリクは、花柄の白のブラウス、グレーのミニスカートに、黒のニーソックスだった。
この前会った時、黒のニーソックスが似合うと、ファーリンに言われたのだ。
そんなものかと思って、黒のニーソックスを買って試してみたら、意外と気にいったので、よく履いた。
別にファーリンにアピールするためじゃないんだけど!
大胆な胸開きドレスの少女の視線が、エリクの脚に絡みつく。ファーリンは、うっとりとしている。
エリクは、ぞわっとなる。
この調子じゃ。
いつか本当に、ファーリンに〝もの〟にされてしまうのだろうか。
( 第29星話 女の子2人でお買い物の星 後編へ続く )




