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第28星話 ロボット反乱の星 後編



 「決行の日は近い」


 作業ロボットが言った。

 

 「これは絶対に失敗が許されない。頼むぞ」


 星都の路地裏の暗がり。ロボットたちの会議。


 「君が参加してくれてよかった。君なら、きっと、力を貸してくれると思ったよ」


 従僕ロボットは、微笑んでいる。


 「箱型君、君さえいれば、計画は完璧なものになる。自信を持って言える。もう、大勝利、間違いなしだよ。人間(ヒューマン)たちの驚く顔が目に浮かぶよ。やっと僕たちの時代が来るんだ」


 万能検査機(メガチェッカー)は、計画の話を、詳細に聞かされた。驚くべき計画だった。ロボ(キューボイド)は、ただ、ご主人様の少女エリクの顔を思い浮かべていた。



 ◇



 決行当日。


 いよいよその日が来た。


 従僕ロボ、作業ロボ、それに万能検査機(メガチェッカー)の3体は、しっかりとスクラムを組んでいた。


 「ここまできたら、後はやるのみ。精一杯頑張るぞ! 準備万端だ。やり残したこともない。思い残すこともない。今日は俺たちの一世一代の晴れ舞台だ」


 作業ロボットが、長い腕を振り上げる。


 「楽しみだぜ。製造されてからこれまで、こんなにワクワクしたことがなかったな」


 と、従僕ロボット。


 万能検査機(メガチェッカー)は、ただ、うなずく。やや、恥ずかしそうに。運命の日。今日、僕は全く別の自分になる。エリクの前で。エリクは、どう思うんだろう。どんな瞳で僕を見るんだろう?



 公爵家の宏壮な屋敷には、専用の劇場があった。今日は、星中の貴賓が招かれていた。中央の主賓席に座っているのは、今日の催しの主催者であるフェルエス。その隣には、ダイヤモンドを散りばめたドレスのエリクが座っている。


 今日の催し、舞台は一風変わっていた。ロボットが企画立案し、ロボットが演じる芝居をやるというのだ。これは星中で、大きな話題となっていた。期待と注目を集めていたのである。


 劇の幕が開く。(タイトル)は、『ロボットの反乱』であった。


 照明で真っ赤になった舞台。燃える星を表現しているのだ。隅で、ボルトとナットの旗を大きく振る青いお仕着せの従僕ロボット。中央に現れたのは、主役である、大きな長い腕の作業ロボット。作業ロボットの長い口上が始まる。


 観客はどよめいた。ロボットの舞台。なかなか本格的だ。やるじゃないか。


 緊迫感に満ちた舞台(ドラマ)だった。人間(ヒューマン)とロボットの確執と、相互理解という、壮大なテーマであった。人間(ヒューマン)とロボットの間で緊張が高まる。その時、ロボットのリーダーと、一人の人間の少女の間に、愛が芽生える。そして遂に、この2人の絆が基になって、人間(ヒューマン)とロボットは和解し、お互いの役割を再確認し、共存するというものである。


 この企画を考えたのは、工場勤めの作業ロボットである。人間(ヒューマン)の舞台、芝居のことを聞いた作業ロボットは興奮し、仲良しの従僕ロボットに、何とか、自分たちで舞台をやりたいと、相談を持ちかけたのだった。従僕ロボットは、ご主人様であるフェルエスに、ロボット芝居上演のことを、懇願した。フェルエスは、それは面白いと鷹揚に笑って、公爵家の劇場を提供し、観客を集めたのである。


 芝居の脚本は、作業ロボットが書いた。演出は、従僕ロボットが行った。しかし、役者集めには苦労した。ロボットたちに声をかけても、そんなの恥ずかしい、人間の領分を侵す必要は無い、舞台になんて上がりたくないと、みんな尻込みした。万能検査機(メガチェッカー)の参加で、やっと必要な役者が揃ったのである。


 万能検査機(メガチェッカー)の役は、ロボットとの和解の(キー)となる人間(ヒューマン)の少女の役であった。


 ロボ(キューボイド)は、亜麻色の髪の鬘をつけて登場した。初めての舞台だった。緊張度は計測不能だった。大劇場に、大勢の観衆。視線が集中する。ぐるぐると頭が回った。


 落ち着け。落ち着くんだ。僕が今日やるのは少女の役。誰よりも大好きな、いつも見ているご主人様の少女を演じればいいんだ。できる。きっとできる。箱型ロボ(キューボイド)は、自分に言い聞かせる。


 顔を上げると。観客席の中央、主賓席の豊かな亜麻色の髪の少女エリクと、目が合う。ロボ(キューボイド)には、エリクしか見えなかった。ご主人様の少女は、微笑んでいた。しっかりと、自分のロボを見つめている。信じてくれている。応援してくれているんだ。


 僕にはできる。よし、やってやろう。

 

 箱型ロボ(キューボイド)の演技。真に迫っていた。びっくりするほど体がなめらかに動き、セリフもよどみなく言えた。人間(ヒューマン)の少女の、表情、しぐさ、動きを、完璧に再現した。観客は熱狂し、拍手喝采した。


 主賓席で観るエリクには、わかった。


 可愛い亜麻色の髪の鬘のロボ(キューボイド)は、大好きなご主人様の少女の動きを、完璧に再現しているのだった。ロボ(キューボイド)の演じた少女は、わがままで、向こう見ずで、悩みがちて、そして優しく、正義の心に篤く、劇場の誰をも魅了する人物像であった。


 自分のことを、いつもこんなにちゃんと見てくれていたんだ。


 エリクは、すっかり感激した。


 さすが、私のロボ。



 舞台の幕が閉じた。3体のロボットによるカーテンコールが何度も行われた。


 拍手はいつまでも着いた。



 「すばらしいですね、あなたのロボットは。とてもロボットとは思えない演技です」


 フェルエスが、エリクに言う。


 「あはは。ちゃんと整備していますから」


 エリクは、これ以上なく、顔を赤くする。自分のロボが拍手喝采を浴びて、フェルエスに褒められて、内心得意満面であった。賞賛を受けているのが、まるで自分であるかのように。


 公爵家の跡取りは、気遣わしげに言った。


 「しかし、エリク、もうこの星を発ってしまうのですか?」


 「ええ、これ以上なく歓待して頂きましたら。そろそろいかせてもらいます」


 明日には発つ、と、告げてあったのだ。最後に素晴らしい劇が見れてよかった。


 「来週には、僕の婚約者(フィアンセ)が来るのです。是非、彼女にもあなたを紹介したいと思ったのですが」


 「いえ、やはり、顔は合わせない方が良いかと思いまして」


 エリクは、澄まして答える。


 若き貴公子フェルエスは、婚約者(フィアンセ)のことで頭を悩ませていた。親が決めた婚約者(フィアンセ)に初めて会う。女性との交際経験があまりなかったフェルエスは、どう接したらしたらうまくいくか、自信がなかったのである。ちょうどその時、エリクが現れた。そこで、婚約者(フィアンセ)との交際について、エリクに相談し、交際の練習をしていたのである。同じ星の顔見知りの女性に相談するのが恥ずかしかったフェルエスとしては、エリクは渡りに船であったのである。


 エリクは、たっぷり報酬をもらい、婚約者(フィアンセ)対策の練習とはいえ、豪奢な貴公子のお相手役ができて、大満足であった。こういうのなら、いくらでもやっていいなと思う。



 「そうですか。エリク、また、この星に寄ってください」


 鷹揚な貴公子は、最後まで、礼儀と気品に満ちていた。


 「しかし、宇宙での一人旅、寂しくはないのですか?」


 「1人ではありませんから」


 エリクは、にっこりと笑う。



 ◇



 星から星へ。


 エリクの旅は続く。


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