第23星話 遊園地の星 前編 【プールだ水着だ美少女だ大サービス回!】 【エリクと女刑事レイラが、イケメンシティーボーイを挟んでピキピキ】【ダリューン星編大宇宙刑事シリーズ5】
「今度、この星の遊園地に、ギルバン所長に連れて行ってもらうんです」
エリクがにこやかに言った。
レイラは、ブホッとコーヒーを吹く。
「遊園地? あの、それってこの星1番の屋外型スーパービッグ遊園地ってこと?」
必死に動揺を隠しながら、言う。
ギルバンとこの子が? 一緒に遊園地へ? なんで? 私もまだギルバンとデート……プライベートでのお出かけなんて、したことないのに。
「ええ、この星1番のスーパービックな遊園地です。この辺の星域で1番と大評判ですから、すごく楽しみです」
エリクの、屈託のない笑顔。
レイラは、必死に冷静さを装う。
「ふうん。そうなんだ。あはは。いいわよね。遊園地。確かに、年頃の子なら、行ってみたいわよね。あなたがギルバンにお願いしたのね?」
「いいえ」
エリクは、あくまでも無邪気な笑顔。
「ギルバン所長が、誘ってくれたんです。最近私が探偵事務所で活躍してるし、探偵助手の仕事で疲れもあるだろうから、ご褒美に、遊びに連れてってあげようって。所長はやっぱりいい人ですね」
ギルバンが誘った! なんだ!何が起きてるんだ! レイラは、頭をガツンと殴られた気がした。この17歳の少女を遊園地へ誘った? なんで? ギルバンは美女に弱かったが、それでもご婦人方との交際は、常に一線を引いていたのに。
レイラの頭がぐるぐる回る。
大都会星ダリューンのギルバン私立探偵事務所の、所長室であった。ギルバンは〝大宇宙刑事〟の異名をとる宇宙警察きっての敏腕刑事だが、窮屈な役所勤めが嫌で、私立探偵事務所を開業しながら刑事の仕事をすることを、特別に認められていたのである。
宇宙の旅人、17歳の少女エリクは、訳あってこの星でギルバンに〝保護〟され、探偵事務所で、住み込みの助手をしていた。なんだかんだ探偵助手として、活躍していたのである。
今、探偵事務所にギルバンは、いない。
そこへ訪ねてきたのが、宇宙警察の女刑事レイラであった。レイラは弱冠18歳ながら宇宙警察期待のエリートである。ギルバンの部下であった。そしてレイラは、星1番の美男子、〝小粋者〟である上司ギルバンに胸をときめかす乙女でもあった。
ギルバンが少女を〝保護〟して、探偵事務所で同居している、と聞いて、心穏やかでないレイラは、時々様子を見に来ていたのである。様子を見に来てどうなるというものでもないが、それが乙女心というものである。
今。
いきなり、エリクが自分の慕うギルバンに遊園地デートに誘われたと、告げられた。なんだか、自信満々、みせびらかすような口ぶりに感じた。これはレイラの乙女心に起因する激しく歪んだ解釈受け止め方であって、エリクの責任ではないのだが。
ピキピキするレイラ。コーヒーカップを持つ手が、かすかに震えている。そこに無邪気な笑顔のエリクが知らずして、強烈な追い打ちをかける。
「すっごく楽しみです。星1番の遊園地、星1番のハイパープールがあるんですよね。そこで思いっきりはしゃぎたいんです」
目を輝かせる少女。
プール! 上司に1人の乙女としての想いを持つ女刑事レイラは、ぐぬぬ、となる。プールデート! いきなり危険領域マックスだ!
だが、追い討ちはこれで終わりではなかったのである。
「プール! プール!って私がはしゃいでいたら、ギルバン所長が、そんなにプールが楽しみなの? じゃあ、僕が水着を買ってあげるからっ、て言ってくださったんです。所長は本当にいい人ですよね。すごく気前がいいし」
ギャッフーン!
レイラは、完全に往復ビンタをくらった。頭がクラクラする。水着プレゼント! ダメ! それは絶対、ダメ……
◇
「ギルバン刑事」
呼び止められたギルバンは振り向く。今日は、星の宇宙警察支部に出勤の日だった。勝手気ままな自由人のギルバンも、巨大組織に仕える身であることには変わりない。
「おや、レイラ君か……どうしたんだね? 事件か?」
ギルバンは、ややたじろぐ。自分をつかまえた部下の女刑事の顔。なんだか凄絶すぎた。刑事たるもの、よほどの凶悪事件を前にした時にしか、こんな顔はしないものだ。
「ちょっと、こちらへ」
有無を言わせず、レイラは、ギルバンを、人のいない部屋へと引っ張っていく。
「どういうことですか!」
「は?」
目を血走らせるレイラに、ギルバンは、さらにたじろぐ
「あの子のことです! 探偵助手のエリク! 聞きましたよ。今度遊園地に連れて行くんですよね!」
「うん……まずいかな」
「よく考えてください!あの子は、身に危険があるから、ギルバン刑事自らが〝保護〟している。そういう話ですよね」
「ああ。エリク君がこの星に旅行で着いた時、僕がちょっと事件に巻き込んじゃってね。危険がある間、僕が保護することになったんだ」
「そうだとしたら!」
レイラは声を張り上げる。
「なんで遊園地に誘うんです? 遊園地! 危険地帯ですよ! ゴマンと人がいる。押し合いへし合い。誰かを狙うなら、最適の場所じゃないですか! 保護対象をそんなとこに連れてくなんて! 失礼ですが、刑事の自覚がなさすぎます!」
ギルバンは、たじたじになる。部下の女刑事に、ここまでで激しく叱責されるのは、初めてだ。自分はそんなにまずいことをしでかしたのだろうか。
「うーん。そうかな。でも、危険があるからといって、あの子をずっと檻に閉じ込めて鍵をしておくわけにもいかないし。今度行く遊園地は、君も知っての通り宇宙でも最高クラスの遊園地だ。セキュリティーはバッチリ。入園時にきっちり所持品の透査とかするからね。かえって安全な場所だよ。あれこれ気にせず、プライベートで気晴らしに行って、楽しむには、まさに絶好の場所だ」
自分が密かに想いを寄せるギルバンがプライベートで少女と楽しみに行く。レイラの心に、グサグサっと刺さる。
「プライベートの気晴らし……そういうのがいけないんです。ギルバン刑事、あなただって、つい、油断しちゃうでしょう。完全オフモードで気が緩んでいる時にあの子がが襲われたら、どうするんですか?」
レイラが気にしていたのは、エリクの安全ではないのだが。ギルバンは、部下の乙女の胸中に気づかない。
「レイラ君、心配してくれてありがとう。いやしっかり意見忠告してもらうのは、とても助かる。君だけだよ。私にちゃんと言ってくれるのは。だが、今回の事は、少し取り越し苦労だ。君も知っての通り、私は常に悪党に狙われている。何しろこのギルバン、悪党どもの最大の敵だからな。どんな時でも、決して気は抜かない緩めない。それがこの大宇宙刑事だ。安心してくれ。しっかりと無事にエリク君を楽しませてくるから」
さらにレイラが安心できない言葉を吐くギルバン。乙女の頭には、完全に血が上っていた。
「どうしても、行くんですね? わかりました。いいでしょう。それでは、私も一緒に行きます。市民の保護は、宇宙警察の絶対の義務です。私とギルバン刑事が2人で守れば、エリクも絶対に安全でしょう」
ギルバンは、はあ? という顔をする。
「いや、レイラ君、何もそこまでしなくても。ちょっと大げさに考えすぎなんじゃないかな。ただ、非番の日に遊びに行くだけだよ」
「ダメです! 市民の安全を守るという宇宙警察の神聖な義務の問題です。二人だけで遊園地なんて、絶対にいかせません! 私もついて行きます!」
すごい剣幕だった。ギルバンは、もう、言うことを聞くしかない。
「そう…… わかったよ。しかし、レイラ君、君はその日、非番なのかね?」
「休暇を取ります。絶対に誰にも邪魔をさせません」
部下の女刑事の確固たる決意。ギルバンはとやかく言わない。
「わかった。じゃあ、一緒に行こう。よろしく頼むよ」
レイラは、ややひきつった笑顔。
「あと、もう一つよろしいですか」
「なんだね?」
「エリクに、水着を買うと、約束したそうですね」
「うん。プールだし。変かな」
「ダメです」
レイラは、ピシャリと。
「失礼ですが、ギルバン刑事、あなたは、女性に水着のプレゼントをした事はこれまでおありですか?」
「うーん、水着というか、女の子に服をプレゼントするのも、これが初めてだ。何にでも初めてってものがある。エリク君とは同居してるし、このくらいいいだろうと思ったんだけどね」
同居。初めて。危険なワードがレイラの胸にまたまた刺さる。いや、抉る。
「ダメです」
また、ピシャリ。レイラ、目をギラギラとさせている。
「男性がいきなり女の子にプレゼント、それも水着、そんなのうまくいくわけありません。絶対に先方に迷惑がかかります。もう、私の気持ちわかってくれないんだから、そうなります。それが間違いの元なんです。私が一緒に行きます。そして、私があの子の水着を選びます」
断固たる口調だった。ギルバンは、なすすべもなく
「わかった……お任せするよ」
そう言うしかなくて。
◇
キラキラのスーパービッグ遊園地で。
アツい乙女の戦いが、始まるのである。
( 第23星話 遊園地の星 中編へ続く )




