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第21星話 借りてきた猫の返し方の星 4




 中央公園に着いたエリクと万能検査機(メガチェッカー)。昼間ののどかな光の中、広い空間に、大勢の人がいた。思い思いに、過ごしている。


 「ここであの子は、ペルシャ猫を見つけたんだよね」


 エリクは、あたりを見回す。


 「そして、猫と遊んでる時、飼い主に声をかけられ、しばらく遊んでいてくれと言われた。そして飼い主はどこかへ行って、戻ってこなかった。どういうことだろう?」


 万能検査機(メガチェッカー)は、電光板を赤と黒にチカチカ点滅させる。


 「うーん。わからないね。人間(ヒューマン)てのは、とにかく不合理だからね。物理法則や化学変化のように、きちんと説明できないんだ。そうだね。猫の飼い主は、猫を手放したかった、そういうことじゃないかな。でも捨てたり処分したりするのが嫌で、誰か猫好きの人にもらって欲しかった。そこで公園の少女が猫を可愛がってくれるのを見て、押し付けることにした。きっとそうだよ。もらってくれと言うと、断られるかもしれないと思って、預けて、そのまま逃げたんだ。これでどう?」


 エリクは、亜麻色の髪を撫ぜる。


 「そうかな。自分の猫を、ちゃんとした人に飼って欲しい、そういうことなら、普通に飼い主貰い手を募集すると思うよ。騙すようなやり方で、子供に押し付けたりはしないと思う」


 「そっか。じゃあそうすると、飼い主は、猫を公園に連れてきて遊ばせてる時に、突然何か急な用事ができたんだ。猫を連れてはいけない用事がね。そこでしばらくの間、公園で遊んでいた子供に預けることにした。だけど、飼い主の身に何かが起きて、戻って来れなくなった。これならどう?」


 「うーん。それもだめだね。女の子の話じゃ、飼い主の人は、そんなに急いでる様子じゃなかったっていうんだよね。緊急で猫から離れなきゃいけないから預かってもらう。そういう話なら、連絡先交換ぐらいはするでしょ。それもしなかったっていうのは不自然だよ」


 推理を否定された万能検査機(メガチェッカー)は、むくれる。


 「もう。じゃあ、エリク。どういうことなの? 君の考えは?」


 「普通だと説明できないね。普通じゃないケースを考えてみようか?」


 「普通じゃないケース? どんなの?」


 「そうだね。万能検査機(メガチェッカー)、あの猫の中には、何も変なものはなかったんでしょ?」


 「うん。僕が透査(サーチ)したんだ。間違いないよ。爆弾も、記憶(メモリ)カードも、体の中に仕込んであるものなんて、何もないさ。普通の猫だよ」


 「そっか。そうすると、普通の猫に見えて、実は特別。そういう事は無いかな?」


 「特別?」


 「あの猫は、実はマニアだけが知る、超高価なレアモノのペルシャ猫だった、とか。飼い主は大金持ちで、自分の財産を気まぐれに誰かに放り投げた、そういうのってどうかな」


 「突飛すぎるなあ。ペルシャ猫全般についての、情報検索もしたんだよ。全宇宙の情報を探しても、そんな情報は出てこなかったよ」


 「そっかあ。じゃあ、こう考えてみよう。飼い主は何はともあれ、女の子をしばらく公園で猫と遊ばせることには成功した。それが目的だった。この公園で猫と女の子が遊ぶ。これが何かの信号、暗号、シグナルだった。そういう事は無いかな?」


 万能検査機(メガチェッカー)は首を振る。


 「電子機器を使わない暗号シグナルって言っても、他にいくらでもやり方があるよ。そんなのほとんど無意味だと思うけど」


 エリクと万能検査機(メガチェッカー)、しばし沈黙し、公園に佇む。


 やがて万能検査機(メガチェッカー)が言った。


 「エリク、君の言った、飼い主は目的を達成した、成功した、その線で考えてみようか。暗号だシグナルだ以外に、何かあるかな? 女の子に公園で猫を預けて遊んでいてもらう。飼い主はそのまま姿を消す。すると、どうなるかな」


 「女の子は当然、飼い主を探しに行く」


 「そうなるよね。どこを探しに行くだろう」


 「あの女の子は、うちの探偵事務所に来たよね。これはちょっと珍しい行動だよね。たまたま、うちの評判を聞いたことがあったのかもしれない。この公園の近くに事務所はあるしね」


 「うん、エリク、そうだ。女の子は探偵事務所に来た。だけど、そこは空振りだった。僕たちは何もできなかった。それで、普通だったら、どうする?」


 「動物保護センターに行くかな。迷い猫や捨て猫の相談もしてるはずだし」


 「すぐに動物保護センターに行くかな。そこは迷子の飼い主を熱心に探してくれるところじゃない。行くとしたら、最後だろうね。その前に、自分で飼い主を見つけようとしたら、どうするだろう」


 「えーと、あ、そうだ。猫愛好家の団体とか、そういうのに問い合わせるってのは? こういう猫預かったんだけど、知りませんかって」


 「それだよ、エリク」


 万能検査機(メガチェッカー)は言う。


 「まず、自分の携帯端末で、ペルシャ猫についての情報検索を行う。すると、出てくるんだよ」


 やや、興奮気味の声。何か見つけたな。ロボ(キューボイド)と、長い付き合いのエリクにはわかった。


 「検索すると、すぐにダリューン星ペルシャ猫愛好会ってのが出てくる。しかもトップ画面に、ペルシャ猫のことでお困りの事や相談がありましたら、すぐにお寄りください、そう表示されてるんだ」


 「ちょうどぴったりだね。じゃあ、そこに連絡して、問い合わせるのが普通か」

 

 「うん。でも、ここからが普通じゃないんだよ」


 「普通じゃない?」


 「このダリューン星ペルシャ猫愛好会のサイトには、連絡先アドレスが、載ってないんだ。でも、住所は載っている。この中央公園の、すぐ近く、裏通りをちょっと行った先だ」


 「連絡先アドレスが載ってない? 変な団体だね。でも、すぐ近くなんだ。やっぱり、ぴったりな事は、ぴったりに違いないね」

 

 「もっとびっくりすることには、この団体のサイト、できたの1週間前なんだ」


 「1週間前? なんだか都合よすぎるね? ペルシャ猫のことで困る人が出てくるのが、まるでわかってたみたいだ」


 「うん。ちなみにこの星で、ペルシャ猫愛好会ってのは、この団体だけだ。ペルシャ猫は昔はものすごく人気あったけどね、最近はいろいろ生命工学でできた愛玩動物に人気を奪われてるからね。実際、目で見れば、かわいいんだけど」


 「1週間前に、この星唯一のペルシャ猫愛好団体が、突如誕生した。そして、ペルシャ猫を女の子に預けた男が現れた。団体のすぐ近くの中央公園で」


 「エリク、女の子はどうしたかな?」


 万能検査機(メガチェッカー)、声を震わせている。エリクの表情も、真剣なものになった。


 「自分の携帯端末で、ペルシャ猫について検索する。すると、ペルシャ猫愛好団体が出てくる。なぜか連絡先アドレスはないが、住所はこの中央公園のすぐ近くだ。そこで女の子は、よし、行ってみよう、となる」


 エリクと万能検査機(メガチェッカー)、顔を見合わせる。


 「大変だ! 行かなきゃ! 団体の住所、教えて」


 エリクは猛然と走り出した。




 (第21星話 借りてきた猫の返し方の星 5へ続く)

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