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第2星話 ガンマンの星   【西部劇】 【銃の掟】 【勇士の銃】



 ウェルト星。


 銃の掟が支配する星。


 資源輸送の中継基地だ。宇宙港(ステーション)が一つ。町が一つ。星の地表の一部に作られた特殊人工重力場に貼り付いた人工大気。そこが人間(ヒューマン)の居住空間(エリア)だった。労働者用の安宿に、安酒場。荒っぽい声が、飛び交う。


 

 長逗留するところじゃないな。


 エリクは思った。愛機ストゥールーンを降り、宇宙港(ステーション)を出たばかりだ。空を見上げると、無数の星が煌めいている。無機質な光。宇宙空間で見るのと同じだ。この星では、人間(ヒューマン)居住空間(エリア)でも、大気は地表にごく薄く張り付けているだけだ。見上げれば、いつも星空なのだ。


 宇宙港(ステーション)と隣接する資源積み替え基地、様々な形と大きさの貯蔵タンク。そのすぐ隣の町。


 町の中心街(メインストリート)。喧騒が強い。大声を上げる酔っ払い。喧嘩。客引き。冷やかし。値踏み。労働者たちのひと時の憩い、ストレス発散の場。


 「ここはちょっとうるさすぎるな」


 エリクは町外れへと向かう。中心街(メインストリート)では、ひっきりなしに、男たちから声をかけられた。


 「よう、姉ちゃん、どこ行くんだい?」


 「商売しに来たのか?」


 「ハハ、ここで金持ってる男なんていねーぜ」


 「俺たちがここを案内してやるぜ」


 「どうだ、一緒に遊ばねーか?」


 無視して歩く。17歳の少女はここでは珍しいようだ。エリクは黒のブラウスに襟元の赤い(バレッタ)リボン、黒のミニスカート。そして肩から金百合柄の青ののマントを翻していた。左の太腿には、風がなくても銀色のガーターリングがチラチラしている。豊かな亜麻色の髪は、さらさらとストレートにしていた。


 男たちの視線が集まる。冷やかしの声が強まる。


 とにかく無視して歩くしかない。エリクの黒い瞳、誰とも目を合わせない。


 しばらく歩くとーーそれほど大き町ではないーーやっと喧騒が遠くなる。人影も、建物も、(まば)らになった。


 乾いた風が、砂塵を運んでくる。


 場末に。


 一軒の酒場(バー)があった。木材を乱暴に打ち付けて作ったような小さな酒場(バー)だ。これは懐古(レトロ)趣味なのか、ただありあわせの資材と建築法でこしらえた掘っ立て小屋なのか、たぶん後者だろう。


 本当に町のはずれだった。この先には、もう店も人家もない。風の吹き荒ぶ岩だらけの曠野。


 どうしようか。酒場(バー)の前で、エリクは暫し佇む。本当は、おしゃれな喫茶店(カフェ)に入りたかったが、この星にそのようなものはないのだ。とにかく静かに一息つければ、それでよい。


 中から聞こえてくる物音。人の声。荒れてはいないようだ。


 エリクは、両開き扉(スイングドア)を開け、入る。


 酒場(バー)の中。入り口の正面に、カウンターがある。そして左側にテーブルが3つ。全部、乱暴に作られた木製。


 カウンターの向こう側には、ここの店主(マスター)だろう、白いワイシャツに、青と赤のチェックのネクタイをした中年の男がいた。


 カウンターの客は1人。でっぷりと太った中年の男。カウボーイハットをかぶり、革のジャケットに革のズボン。革のブーツの踵には、拍車が光っている。


 全身革装備のカウンターの男の腰。両側に拳銃嚢(ホルスター)。左に短銃(コルト)、右に長銃(ライフル)を提げていた。


 ここでは、銃の携行は珍しくない、むしろ普通だった。


 テーブル席の客は、若い男の4人組。みな、拳銃嚢(ホルスター)に銃をこれ見よがしに提げている。客は全部で男5人。(マスター)も入れると、酒場(バー)にいたのは男6人。


 

 酒場(バー)に入ったエリク。店主(マスター)と、テーブル席の4人組が一斉にみる。カウンターのカウボーイハットの男は、振り向かない。エリクを見ない。


 会話が止まり、沈黙が支配する。エリクはカウンターへ。カウンターに椅子は無い。立ち飲み(スタンド)である。


 「オレンジジュースを」


 エリクは言った。店主(マスター)はあまりにも場違いな少女の闖入者を一瞥すると、黙って冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、グラスに注いで、エリクの目の前に置く。


 「子供か?」


 テーブル席の若者4人組。


 「嬢ちゃん、家で寝てろよ」


 エリクは見ない。オレンジジュースのグラスを取り上げる。自分が場違いなのはわかっていた。ここでオレンジジュースを頼むのも。本当はミルクティーか、チェリーカモミールドライが飲みたかった。しかしこうした酒場(バー)でミルクティーを出せというのは無茶だし、カクテルもまともなものが出てくるはずがなかった。そこでオレンジジュース。


 これだって安心できない。とんでもないものだったらどうしよう。エリクは、慎重にオレンジジュースを舐める。うん。ごくごく普通のありきたりなオレンジジュースた。とりあえずこれでいいや。


 テーブル席の若い男4人組。オレンジジュースを飲む少女に興味をなくしたらしく、また、ワイワイと、自分たちの話を始める。


 エリクは、ほっとした。変に絡まれずにひと時を過ごせればそれでよいのだ。ずっと宇宙船(シャトル)に籠ってると、息が詰まる。どんな寂れた場所でも地表の人間(ヒューマン)空間(エリア)なら、僅かでも癒しが得られるのだ。


 カウンターには、エリクの左隣にカウボーイハットのおっさん。テーブル席は、その左にのほうにある。エリクの左太腿のガーターリング。あっちの若者たちには、見えないだろう。何も、無理に刺激する事は無いのだ。


 エリクはゆっくりとオレンジジュースを飲む。


 左のでっぷりとしたおっさんは、目の前の小さなグラスの褐色の液体を、静かに飲んでいる。蒸留酒(スピリッツ)だろう。それもかなり強度の。この辺の男は、見栄(ステータス)のために、強い酒を飲むのだ。


 おっさん。一切、エリクの方を見ない。まるでエリクが、存在しないかのように振る舞っている。エリクが酒場(バー)に入ってきた時からずっと。だが、エリクはおっさんが気になっていた。


 おっさんの右腰の長銃(ライフル)。銀色に光っている。ただものではない。そんじょそこらで手に入る武器ではない。特別みせびらかすわけでもなく、隠すわけでもなく、さりげなく提げている長銃(ライフル)。あの一丁で、この酒場(バー)を、いや、この町ごと買えるだろう。ただ、見栄(ステータス)のために、ぶら下げているのか? それならこのような酒場(バー)に来るべきではない。


 エリクはチラチラとおっさんを見る。でっぷりとした、カウボーイハットのおっさん。全身革ずくめ。ブーツの踵の拍車は何のためなんだ?


 注意深く観察する。丸顔だ。立派な髭。その眼光は、柔和に見せようとしているが、鋭さを隠せていない。でっぷりとしているが、ブヨブヨとはしていない。男のわずかな仕草から、エリクは見抜いた。その全身に、力が漲っている。鋭さを隠している。革のスーツで抑えなければ、飛び出してしまうなにかを。


 

 「お嬢ちゃん、だめだよ」


 店主(マスター)が、エリクを注意する。エリクは、はっとなった。おっさんの気を惹こうとチラチラ見ている。そう思われたんだ。当然だ。ここへ商売しに来たと思われたんだ。商売女だと。エリクは赤くなる。



 ハハハ、



 テーブルの若者4人組から、笑い声。


 「嬢ちゃん、俺たちと一緒に飲めよ。しけたおっさんより、俺たちの方がよっぽど気前がいいぜ。おっさんはグラス一杯に1時間もかかるんだ。懐になんにもねえのさ」


 また、ハハハ、と、笑い声。


 エリクは無視する。


 店主(マスター)は聞こえないフリ。


 おっさんはーー静かに、グラスを傾けている。確かにほんのちょっぴりずつだ。褐色の液体は、全然減らない。若者の嘲笑にも、顔色一つ変えない。


 

 やがてまた、テーブルの若者たちは、自分たちの話で賑やかに盛り上がる。


 まったくもう。エリクは思う。


 おっさん。ただ者ではない。それはひと目見ればわかるはずなのに。でも、全然みんなには見えてないんだ。そういうものなのかな。


 ともかく。ここにいるのが誰か詮索しに来たわけじゃない。ただ、私は地表でほっと一息つきに来ただけだ。でも。おっさんの腰の銀の長銃(ライフル)、おっさんの存在の全てがエリクの神経をキリキリと刺激する。


 いけないな。オレンジジュースを飲んだら、すぐにここを出よう。必要なものを買って、ストゥールーンに戻るんだ。


 

 オレンジジュースの最後の1口を飲み干そうとした時、


 「エリクだ!」


 突然自分の名前を呼ばれ、ぎょっとして手が止まる。思わず見る。テーブル4人組の1人、金髪で、まだ幼い顔立ちの若者。片手でグラスを持ち、もう片方の拳を突き上げている。


 「ついに始まるぞ!」


 「どうした?」


 黒髪のやや落ち着いた雰囲気の若者が言う。金髪の若者は一瞥して、


 「なんだ、知らんのか。ついに始まるんだよ」


 「だから何が?」


 「エリクだよ。知ってるだろ? 宇宙史上最高額の賞金首。やつの命運が、とうとう尽きるのよ」


 「エリクの命運が?どうして?」


 「アープだよ! ライヤット・アープ! アープがついにエリクを仕留めるんだ」


 おお、と若者たちが声を上げる。


 「本当か? アープがエリクを?」


 「そうだ。もうこの話、そうとう評判になってるぞ。ついに俺たちのヒーロー、アープが立ち上がったんだ」


 「アープ 対 エリク! これは世紀の対決だ! 実現するんだ! 夢みたいだ!」


 「アープか」


 黒髪の落ち着いた若者が言う。


 「ライヤット・アープ。宇宙一の賞金稼ぎ。その名は全星系に轟いている。しかし、その姿は誰も知らない。そしてエリクも。面白い。この勝負、どっちが勝つんだろうな」

 

 「そりゃ、決まってるぜ!」


 金髪の若者、椅子から立ち上がって、叫ぶ。


 「アープだよ! 決まってるだろ! アープに決まってるじゃねえか! エリクも年貢の納め時よ」

 

 「それはどうかな」


 黒髪の若者は、あくまでも冷静。


 「なに!?」


 金髪の若者、黒髪の若者を睨む。


 「なんだ、お前はエリクが勝つって言うのか?」


 「流した血の量が違う」


 黒髪の若者、低い声で言う。


 「血の量?」


 「ああ。エリクが殺したのは5000万人、いや7000万人とも言われる。それに対し、アープが倒したのは、15人、多くて17人だ」


 「へっ、」


 金髪の若者、さらに声を張り上げる。


 「なんだ、そんなの。エリクはただ、星を爆破して大勢殺しただけの悪党、臆病者の卑怯者の弱虫さ。それに対しアープは真のヒーローだ。アープが倒したのはみんな腕利きのひとかどの賞金首ばかりだ。エリク!? 勝負になるわけねえよっ!」


 勝ち誇った声。



 「それは、どうかな」


 酒場(バー)が、しん、となった。


 強く、太い声。


 カーボーイハットのおっさん。


 グラスをカウンターの上に置いて、若者たちの方を向いている。


 「なんだよ、おっさん」


 金髪の若者、中年男を睨む。


 「おっさんが、アープに、ケチをつけるのか」


 「アープにケチをつけようというのではない。エリクについてだ」


 「エリクがどうしたって?」


 「星を爆破して、幾千万もの命を奪った。実際に彼がそういう事をした、としてだが……それは、誰にでもできることではない」


 「ただ、ボタンを、ポチっとしただけだぜ」


 「やれるというのとやるというのは違うのだ。君なら、そのボタンを押せるか?」


 「ボタンを? そりゃ……」


 金髪の若者は、妙な汗をかいていた。正面からおっさんの視線を受けて。なんだ、このおっさん。妙な目つきをしてやがる。おかしい。体に震えが……


 「それに、私は、エリクが超人スーパータイプだと聞いている。宇宙最高額の賞金首は、ただ者ではないのだ」


 おっさんの言葉、重く響く。狭い酒場(バー)を震わせる。


 若者たちは黙り込んだ。


 金髪の若者は、じりじりする。妙な汗が出る。おかしい。奴はただのしけたおっさんじゃねえか。急にでかい態度しやがって。何なんだ? おい、どうしたんだ。みんな。こんなおっさんにびびるなんておかしいぜ。


 「なあ、おっさん、エリクのことを、やけにベラベラ喋るじゃねえか。あんた、エリクを知ってるのか?」


 「知らん。私はただ、皆が話していることを、話しているだけだ。君が会ったこともないアープについて、話しているようにね」


 金髪の若者は、キッとなる。だめだ、これは。若者は4人組のリーダーだった。これでは示しがつかない。こうなったらーー


 「おい、おっさん、いい加減にしろよ」


 拳銃嚢(ホルスター)へ手を伸ばす。もちろん、撃とうとしたのではない。ただ、(バレッタ)を抜けばおっさんは縮み上がり、空威張りも吹き飛ぶ、そう思ったのだ。

 

 しかしーー


 「なにをしているのだ」


 カウボーイハットのおっさんのさらに力強い声が酒場(バー)に響く。


 「君は、自分のしていることがわかっているのか」


 金髪の若者の手が止まる。中年のおっさんの、厳しく、堂々たる視線。それに射すくめられて。


 「若者よ、拳銃嚢(ホルスター)に手を伸ばすというのがどういうことかわかっているのか。(ガン)の掟は知っているな? 一旦(ガン)に触れたら、そこは戦場だ。もう、後戻りができない。君に、人を殺すと言う覚悟があるのか?」


 おっさんは、ゆっくりと、しかし強く低く響く声で言った。おっさんの姿、ぐっと大きく見えた。


 「君に、殺されるという覚悟はあるのか?」


 金髪の若者は、蒼白になっていた。汗がびっしょりと。だが、退くわけにはいかない。


 「うるせーっ!」


 金髪の若者の手が、拳銃嚢(ホルスター)に、



 バアアアーン!



 銃声がした。


 金髪の若者は、吹き飛ばされるようにして、床に倒れた。


 カウボーイハットのおっさんの左手には、短銃コルトが握られていた。誰も抜くのを見ていなかった。見えなかったのだ。短銃コルトの銃口からは、白い煙が立ち上っていた。


 黒髪の若者が、倒れた金髪の若者の体をかばう。


 「こいつはただふざけてただけなんだ、本気じゃなかったんだ。許してくれ」


 「心配ない。拳銃嚢(ホルスター)を撃っただけだ」


 おっさんが言う。


 みなが、倒れた若者を見る。若者の腰の左右の拳銃嚢(ホルスター)、どちらも砕け散っていた。銃声は一発しか聞こえなかった。金髪の若者は、白目を剥いてピクピクしていた。気絶しているのだ。床に落ちた薬莢は二つ。


 

 エリクは立ち上がった。そして、カウンターにオレンジジュースの代金を置くと、マントを翻して、両開き扉(スイングドア)から、出ていった。



 沈黙が酒場(バー)を支配する。


 カウボーイハットのおっさんは、カウンターに向き直りグラスを取り上げ、残った酒を、ぐっと一気に呷る。そして、青ざめている店主(マスター)に、


 「何、わしも若い頃は、方々で無鉄砲無作法をしたものだ。それが若者というものだ。では、騒がせたな」


 酒の代金をカウンターに置く。そして、酒場(バー)を出ていく。


 

 おっさんが出て行った後ーー


 床に仰向けに倒れ意識を失ったままの金髪の若者、それを取り囲む仲間。


 黒髪の若者は、おっさんが出て行った後も、ずっとユラユラ揺れる両開き扉(スイングドア)を見つめていた。


 今の銃捌き。そして圧巻の凄み。


 間違いない。


 あのおっさんは、



 ライヤット・アープ。



 ◇



 エリクは歩いていた。町外れから、さらに曠野へと。岩だらけの、でこぼこした大地。今日は両足とも黒いブーツ。正解だった。町を出ると誰もいない。ただ、どこまでも続く曠野。もう少し行けば、人工大気も尽きるだろう。


 エリクは立ち止まった。誰かが後を尾けてくる。


 振り返る。



 おっさんだ。カウボーイハットの、全身革のスーツの、でっぷりとした巨軀。おっさんも足を止める。


 二人の視線が出会う。


 おっさんが言った。


 「エリクだな」


 おっさんは、体をかがめ、重心をやや低くし、両手を広げ、下に。戦闘態勢だ。瞬きする間もなく撃つことができる。


 「私はライヤット・アープだ。お前を追って来た」


 「なぜ」

 

 吹き荒ぶ風が、エリクの亜麻色の髪を、乱す。


 「お前は賞金首。そして私は賞金稼ぎ。それ以上、言うことは無い」


 ビュウビュウと風が吹く。


 対峙する二人、微動だにせず。


 しばらく見つめあってーー


 口を開いたのはアープ。


 「私の右の長銃(ライフル)は、おそろしく射程距離が長い。お前がどこへ逃げても無駄だ。そして左の短銃コルト。これに私の手が伸びた時、お前は死ぬ。さあ、手の内を明かした。手の内を明かして戦う。これが強者の戦いだ」


 アープ、左利きなんだ、エリクは思う。


 「強者の戦い……か。では、弱者の戦い、みせてやろう」


 エリクは、腕を、胸の上で交叉(クロス)させる。


 また、沈黙が支配する。風だけが吹き抜けていく。



 ガクッ、



 アープの膝が崩れた。


 「超駆動(オーバードライブ)!」


 エリクが叫ぶや、金色の光で包まれる。光の気(ルーンオーラ)だ。


 「光の鞭(ルーンウィップ)!」


 交叉(クロス)させたエリクの両手から光が伸び、螺旋状になり、しなり、うねり、幾束の光の刃となり、アープに襲い掛かり、切り裂く。エリクの光の気(ルーンオーラ)は、剣、槍、鞭、盾、どのような形状にも自在に変化するのである。


 

 ダアアアーッン!



 アープの短銃コルトが火を噴く。


 エリクの右脇腹を抉る。血飛沫が舞う。エリクは膝をついた。そして、右脇腹を抑える。大丈夫だ。損傷率4%。すぐ治癒(ヒーリング)光の気(ルーンオーラ)治癒(ヒーリング)もできる。アープはバランスを崩して撃った。致命の弾は受けていない。


 アープは。乾いた大地に空を仰ぎ倒れ伏し、もう動くことができない。


 ややあって。


 治癒(ヒーリング)を終えたエリク、アープににじり寄り、その顔の脇で、膝をつく。光の鞭(ルーンウィップ)で切り刻まれたアープは夥しい血を大地に流していた。命の灯が消えるまで、あとわずかだろう。


 エリクは、声を震わせながら、


 「酒場(バー)で、グラスに毒を入れた。許してくれ、これが弱者の戦いだ」


 アープは、やっと顔をエリクに向ける。その瞳に宿る最後の光。


 「勝ったのはお前だ、エリク、お前は真の強者だ。強者よ、どうか、私の最後の望みを聞いてくれ、私の長銃(ライフル)、これは勇士の銃(コスモスナイパー)だ。射程距離は2光年、星を撃ち抜くことができる。宇宙最強の銃だ。どうかこれを持っていってくれ。お前のものにしてくれ。お前にこそふさわしい銃だ。エリク、お前は宇宙最強を名乗るのだ」


 ライヤット・アープの瞳から、光が消えた。


 エリクは、しばらくの間、じっと、生命の灯が消えたアープを見下ろしていた。


 そして、アープの右の拳銃嚢(ホルスター)から、銀の銃を引き抜く。勇士の銃(コスモスナイパー)


 エリクは立ち上がた。しっかりと大地を踏みしめ、空に勇士の銃(コスモスナイパー)を向け、引き金を引く。


 青い光が放たれた。虚空に。煌めく星々へと、光が伸びる。


 音はしなかった。


 なんだ。もっと凄い音がすると思った。この星中の人が驚いて飛び上がるような、爆音破裂音轟音がすると思った。


 みなで、不世出の賞金稼ぎ、ライヤット・アープの新たな旅立ちを、見送ろうと思ったのだ。


 エリクは星空を見上げる。


 勇士の銃(コスモスナイパー)から放たれた青い光は、どこまでも、どこまでも伸びていく。



 ◇



 星から星へ。


 エリクの旅は続く。



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