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第11星話 男だけの星 3


 

 エリクを取り囲む10人の男。年齢はバラバラ。10代後半の少年から、50代くらいまで。みんな、なかなかたくましい体つきをしている。何しろ腰布1枚だから、体つきはよくわかるのだ。


 もっとも私も。エリクは気づいた。バンドゥビキニ姿だから、体つきは丸見えだけど。ちょっと顔が赤くなる。でも、べ、別にビキニなんて、海やプールになら普通だし。大体向こうも腰布1枚なんだから。問題ないよね。黒のTバックインナーショーツを見せちゃってるけど、こ、こんなの普通だし! ガーターベルトやガーターリングはちょっと珍しいかもしれないけど……これは、価値観の主張!


 エリクを取り囲む男たち。じっと見つめてくる。お互いに顔を見合わせて何か囁いては、また、見つめてくる。


 男たちの視線を浴びながら。エリクは少し気になった。


 エリクは宇宙で唯1人の超人スーパータイプだ。超駆動(オーバードライブ)して究極兵器光の気(ルーンオーラ)を発動すれば、大抵の相手は敵ではない。


 しかし。


 超駆動(オーバードライブ)には弱点があった。長時間は発動できないのである。一回全力で発動すると、再起動できるようになるまで、かなり時間がかかるのだ。この星へ避難する時、宇宙空間で勇士の銃(コスモスナイパー)を撃つために全力で超駆動(オーバードライブ)を発動した。だからまだ、再起動できる状態ではない。


 槍を持った逞しい10人の男。


 襲われたら。


 絶対勝ち目は無い。なにされても抵抗できない。


 そのことに気づいて、エリクはやや、青ざめる。


 男たちは無言で、エリクをずっと見つめている。長い槍を握ったまま。ビキニの少女をみんなで取り囲んでジロジロ見ているなんて。ちょっとおかしい。ゾワッとする。よく見ると、男たちの腰布だと思ったものは、腰蓑だった。織った布ではなく、ただ草を束ねて編んだだけ。


 どうしよう。エリクは、必死に考える。落ち着け。落ち着いて考えるんだ。これはそんなに危険な状況じゃない。取り囲んでいる男たち、特に敵意のようなものは感じられない。ええと、そうだ。向こうもおそらく遭難者のはずだ。遭難者がなぜ腰蓑1枚で槍なんか持ってるのか、全くわからないけど。あ、ひょっとしたら。ターザン倶楽部の会員かな。会員特典でメンバーが宇宙旅行をしてる最中に、運悪く宇宙嵐にぶつかって、ここに引きこまれたのだろうか。多分、きっと、そう。遭難者同士、助け合わなきゃ。


 「あの」


 エリクは、精一杯の、友好的な笑顔をつくった。


 「はじめまして。私、エリクっています。ここに遭難不時着したばかりなんです。えーと、みなさんはターザン倶楽部のーー」


 「お前、どこから来た?」

 

 若い精悍な顔つきの男が言った。男たちの中央、エリクの正面に立っている。


 エリクは頑張った笑顔のまま、


 「ええと、どこっていうか、宇宙を旅していて、たまたま宇宙嵐に呑まれてーー」


 「ダメだ、こいつは」


 脇にいた年配の男が言った。

 

 「話ができない」


 「そうだな」 


 精悍な顔の若者も言う。


 おいおい。


 エリクの全力笑顔が、凍りつく。話が通じないのはあんたらだろ。何なの?ターザン倶楽部って、レディへのマナーとか、勉強しないの?


 「来るんだ」


 精悍な若者が言った。



 ◇



 エリクは、男たちに取り囲まれながら、森の奥へと、歩いて行く。


 男たちは、チラチラと、あるいは、じっと、エリクに視線を向けてくる。しかし、エリクと目が合うと、慌てて目をそらすのだった。


 エリクは気が休まらない。ここまで男目線浴びまくるの、初めてかも。


 なんなんだろ。10人の男の不躾無遠慮な視線。特にエリクのすぐ横を歩くおかっぱ頭の少年は、エリクのことがとにかく気になるらしく、ひっきりなしにこっちを見てくる。少女の胸や腰が少年の気を惹いているようにみえる。この少年も、エリクと目が合うと慌てて向こうを向く。すごくきまり悪そうにしている。そしてまた、チラチラと見てくる。


 危ないなあ。でも、襲ってくる様子は無い。ちゃんと距離をとっている。触れようとはしない。


 安心していいのか悪いのか。


 それに、森の道は。


 「キャッ! 痛っ!」


 裸足のエリクは棘のある草や小石を踏んで、飛び上がる。男たちも裸足たが、全然気にならないようだ。エリクが立ち止まると、男たちも立ち止まり、じっとエリクを見ている。 


 「あ、大丈夫です」


 エリクは、冷や汗を浮かべながら言う。手を貸してとは、とても言う気になれない。


 エリクが歩き出すと、男たちも歩き出す。



 湖畔から少し歩くと、集落があった。


 集落といっても、()った木を屋根型に重ねて組んで縄で縛って、草で葺いただけの、およそ考えられる上で、一番原始的な人類(ヒューマン)の家だ。それが7〜8軒ある。なんであれ集落を作ってるって言う事は、遭難不時着にしても、最近のことではなく、かなり前からここに住んでいるようだ。


 集落の中央の土の広場に、男たちは、腰を下ろす。槍は、草葺の家に立て掛ける。エリクも、腰を下ろした。


 精悍な若者が何か叫ぶ。


 草葺の家々から、人が出てくる。男だ。全員男。数えると、8人出てきた。エリクを連れてきた男と合わせて、これで男が18人。今度も男たちも、黒髪に赤銅色の肌、身に付けているのは腰蓑だけ。みんな同じ。


 1人だけ。毛皮を羽織っている男がいた。老人だ。白髪で、いかめしい顔つきをしている。

 

 毛皮の老人はエリクの正面に座りる。その脇に、精悍な若者が座る。


 今度は18人の男たちに取り囲まれている。これから何が始まるんだろう。


 みんなエリクをジロジロ見てくる。ビキニの少女に対して、相変わらず不躾無遠慮な視線。


 大丈夫かな。エリクは、自分の姿について考える。別に挑発的な格好ではないと思うけど。エリクがちょっと足を組み変えたり、髪をいじったりすると、男のたちの視線が集中するのがわかる。胸や腰や太腿に視線が突き刺さってようで、さすがに決まりが悪い。もっとも男たちも落ち着かない様子だ。妙にもぞもぞしたり、お互いで顔を見合ったりしている。エリクと視線が合うと、慌てて目を避ける。


 なんというか。視線は確かに不躾無遠慮だが、あまりギラギラしたものは感じない。飛びかかってきそうな雰囲気は無い。むしろ、エリクのことは気になるが、距離をおきたがっているように見える。


 うーん、どうなんだろう。これは、安心できるの?


 それに。エリクは考える。なんで男だけなんだろう。10代後半の少年から、白髪の老人まで。みんな男。女性や子供はいないのか? 別のところにいるのか?


 あと。最初に出会った時から感じていた違和感。男たちは、奇妙に似通った顔をしていた。まるでそっくりだった。髪型は、長髪だったり、短く刈っていたり、おかっぱだったり、編んで垂らしていたりだが、目鼻立ちはそっくり。おかっぱの少年も、あと何十年もしたら、毛皮の白髪の老人と同じ顔になるんだろう。


 いろいろよくわからない。


 とにかく、ちゃんと話をしないことには。うん。ターザン倶楽部か何か知らないけど、とにかくこのままじゃだめ。エリクが口を開こうとした時、



 「長老、これが落ちてきた光です。湖畔で見つけました」


 精悍な若者が、毛皮の老人に向かっていった。毛皮の老人が長老なんだ。


 落ちてきた光? それって私のこと?


 エリクは正面の、毛皮の老人を見据える。


 



 (第11星話 男だけの星 4 へ続く)


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