第11星話 男だけの星 1 【衣服がまともに存在しないスローライフでは、肌露出多い少女に、男たちの目線が集中するの問題】 【長いので分割掲載します】
「助けてーっ! もうダメーっ!」
宇宙の旅人エリク。17歳の少女の悲鳴が、小型宇宙船ストゥールーンの操縦席の中に響き渡る。
「だから言っただろ! 絶対やめろって!」
エリクの膝の上では、おしゃべりな相棒の箱型ロボ、万能検査機が顔を真っ赤にしていた。
「君は僕の言うことを無視した。これはその報いだ」
ストゥールーン、もう操舵も効かなくなっている。濁流の中の木の葉。
宇宙嵐に呑まれたのだ。
いや、呑まれたのではない。エリクが自分から突っ込んだのだ。
エリクの愛機ストゥールーンは、腕利きの錬成師のところで整備を終えたばかりだった。最高の整備で愛機があまりにも快調になったので、出来栄えをもっと試してやろうと、エリクはふらふらと宇宙嵐に突っ込んだのだった。
宇宙嵐。それは強力な磁場と重力場が激しく入り交じり変動する宇宙の危険地帯だった。遭難志願者でない限り、突っ込んだりはしない。
ご主人様の無謀な突撃を万能検査機は必死に止めたのだが、エリクはいうことを聞かなかった。
「これだから人間は!」
箱型ロボの絶望の叫び。
「僕らがどんなに高性能でも意味がないんだ。最後は機械でなく、自分の稚拙な頭脳を頼る。そして、僕のような宇宙最高の機械を重力渦の藻屑にしちゃうんだ。ああ、人間よ、君たちは一体、何と言う罪深い存在なんだ」
「私、悪くないもん!」
エリクが金切り声を上げる。
「あなたの出したデータを、ちゃんとチェックしたのよ。宇宙嵐の隅をちょっと横切るだけなら問題ない、どう計算しても。そうだったよね。それが!プラズマが悪いのよ。いきなり襲ってきやがって!」
宇宙では稀に巨大プラズマが発生するのである。宇宙嵐に突っ込んだ時、突如巻き起こったプラズマがエリクの愛機を直撃した。ストゥールーンは操舵を失い、宇宙嵐の奥へと呑み込まれていった。
「あんただって、プラズマの事なんて言わなかったじゃない」
「なんでも予測できるわけじゃないよ。だけど、僕はちゃんと言ったよ。宇宙では何が起きるかわからないんだから、わざわざ危険なところに突っ込むなって」
「あー、もう。ねぇ、とにかく何とかして!早く脱出しないと。こんなところで塵になるなんて、絶対嫌なんだからーっ!」
ご主人様である17歳の少女は、涙声になっている。箱型ロボは、ため息をつくと、また探査計算を始める。言われなくても必死なんだけど。
激しい磁力重力の渦の中。プラズマ直撃のせいで宇宙嵐の波立ちは最高レベルになっている。これじゃ、脱出できずにぐるぐる回りながら、中心に引き込まれ、そして藻屑になる。どう考えても、それしか答えは出てこない。
せめて、宇宙嵐が弱まるまで、避難できる場所があるといいんだけどーー
血眼になって探査する万能検査機。
何かが引っかかった。
「むむ!?」
見つけたその1点を、最大解析する。
「あ、エリク」
「どうしたの、何か見つけた?」
「うん。吹き溜りがあった」
「吹き溜り? なにそれ?」
「こういう特殊で激しい磁力と重力の渦と流れの中の吹き溜りさ。地上でいう台風の目みたいなものだ。そこだけ凪になっていて、いろんな物質が溜まってるんだ」
「ええっ! 台風の目? 凪? じゃぁ、そこが私たちの避難所にできるってこと?」
「うん。そこに一時退避よう。本当に幸運だよ。宇宙嵐のこんな外縁に吹き溜りがあるなんてね。中心に引きずりこまれたら、もう絶対脱出不可能だから。今がチャンスだ。吹き溜りに一時避難して、嵐が弱まるのを待って、全力で脱出するんだ」
「助かるのね! ありがとう! 私の万能検査機、本当に、あなただけが頼りよ! 私の大事な大事な万能検査機!」
エリクは万能検査機を抱きしめる。少女は涙ぐんでいる。小さな箱型ロボは冷静に、
「まだ喜ぶのは早いよ。吹き溜りに無事避難できるか、わからない。この船は完全に操舵を失っている」
「うん……で、どうすれば」
「勇士の銃だよ。あれを撃つんだ。吹き溜りと反対の方向にね。銃の反動防止装置をオフにした上で出力最大限で撃てば、大きな噴射力推進力になる。吹き溜りまでひとっ飛びさ」
勇士の銃と言うのは、エリクが、あるガンマンから譲られた宇宙最強の銃である。少女の瞳が輝く。
「わあ、最高! よし、すぐに撃つよ」
「エリク、準備して。僕が最適な方角とタイミングを教えるから、全力で撃つんだ」
「わかったよ! 任せといて!」
エリクはもう一度万能検査機をぎゅうっと抱きしめると、
「超駆動!」
と叫ぶ。そして、操縦席を蓋うハッチを開け、激しい磁力と、重力の嵐の中、立ち上がる。その体は黄金の輝きに包まれていた。超駆動によって、エリクは光の気を纏い、宇宙服無しでマイナス270度の空間に立てるのだった。
エリクは銀の銃、勇士の銃を取り出す。最強の銃。出力を調整出来るように改良してあるのだが、今はもちろんMAXだ。
「準備できたよ、教えて」
エリクは、右手で銃を構え、左腕でしっかりと万能検査機を抱えている。
万能検査機の電光板が赤と黒にチカチカ点滅。
「エリク、今だ!」
箱型ロボの指し示した方向に引き金を引く。銃口から青く冷たい閃光が放たれた。巨大エネルギーを圧縮した光線である。
反動で。船は飛んだ。ものすごい振動。急いでエリクは操縦席にしゃがんで、ハッチを閉める。すぐに人工大気で船内を満たし、超駆動を解除した。
船の探査画面を見る。
「やった……の? うまくいったの?」
「ああ。ドンピシャ」
万能検査機もさすがに高揚している。エリクもハァハァ息をしながら、頬をピンク色に染める。
「あの宇宙嵐の中で、銃を正確に撃つなんて、私ってやっぱり超人の中の超人ね」
「エリク、感謝するんだ、僕に」
箱型ロボは胸を反らす。
「すべては僕のおかげだ。君が宇宙の藻屑にならなかったのはね」
5分後。
小型宇宙船は、吹き溜りに突入した。
磁力と重力の嵐が、凪いだ。
やっと船の計器類が、息を吹き返す。
「エリク、操舵管を!」
「わかってるって」
操舵管を握る。前方を確認してーー
「あっ!」
エリクと万能検査機、同時に叫んだ。
操縦席を蓋う透明なハッチ越しに、はっきりと見えた。
星だ。勇士の銃の銃撃の反動で猛スピードで飛ぶストゥールーンの行手に、星。小さな星があった。
「エリク、操舵を! 船を反転させて、衝撃を緩和するんだ。このままじゃ激突する。反対側まで突き抜けるぞっ!」
「もう、わかってるからっ! ごちゃごちゃ言わないで!」
15秒後。
ストゥールーンは、吹き溜りの中に浮遊していた小さな星に、激突した。
(第11星話 男だけの星 2 に続く)




