1-9:きらっきら
氷雪のように艶めく白銀の髪、透明感のある白い肌。凛とした切れ長の目には澄んだ海のような群青色の眼。純白のマントに清廉な空気を纏わせて、その人は鎮座していた。
彼は雪竜の王フブキ。ため息が出るほど美しい人だった。…そう、どう見ても人である。どこが竜やねんである。
「つまりユウリちゃんの能力が蝕む者の大元を討つために必要で、観測者様が彼女をアラドイムに召喚したと」
蝕む者とはユウリを襲った赤い人のことで、このアラドイムという世界の侵略をはかる異邦の脅威らしい。世界を守護するのが竜たちの使命で、雪竜王フブキは蝕む者を討伐するために直属の部隊である雪竜騎士団を駆り出して、この屋敷を仮の拠点として活動しているとのこと…であるが、ユウリは早くも話についていけていない様子。考えることをやめてフブキの美しい顔面をぼんやりと眺めている。
「そのとおりだよ。アラドイムで生まれたすべてはアラドイムの理の中で生きているけれど、外から来たものはその限りじゃないからね。強い力と悪意を持った異邦のものに対抗するには、こちらも理を改変していかないとならないんだ」
フブキにそう話すのは観測者ギンネ。観測者は太陽と月の2体からなり、月の化身であるギンネは夜の空を照らしながら世界をパトロールするのが仕事らしい。昼間は自由に過ごせるから、だいすきなユウリと一緒にいるね。とのこと。
「理を改変…?そんなことが可能なのですか?」
「ユウリはかわいいヒヨッコだから、今はまだ近くの人をちょっと強化するくらいかなぁ。能力に慣れてきたらもっと…キミたちにとっては奇跡みたいなことも出来るはずだよ」
「私は雪竜ゆえに、あなたが嘘をついていないことはわかります。しかしあまりに突飛で…それに、あまり具体的なことは言わないのですね」
「未来のことはぼくにもわからないからね」
「そうですか…」
フブキは目を閉じて深いため息をついた。いきなりやってきた未知の存在に、こんなフワフワしたプレゼンを聞かされてもそりゃあ困るだろう。
一方でギンネはニコニコとしていて、その傍らに立つユウリはギンネの豊かなたてがみを撫でてみたりしている。真面目な話をしているという意識もなければ、王の御前だということも理解していなさそうである。
「…情けない話ですが、我が竜騎士団だけでは対応が追いついていないのが現状です。こんな時なのに桜竜の王とは連絡がつかないし…今は蝕む者の進行をなんとか食い止めてはいるが、とても元凶を探し出して叩くなんて余裕はない。あなた達にそれが出来ると言うならば、頼る他ありません」
苦い顔でそう言ったフブキは立ち上がってユウリのすぐ前まで来ると、引きずり込まれそうなほどに深い青色の眼で真っ直ぐにユウリを見つめた。
「月に導かれし者よ…、年端もいかないキミのような子には荷が重いだろうと思う。だが、どうか頼む。アラドイムを救ってほしい」