EX-7:生理的に無理
マオの作戦は袋小路までエレノアを誘導するという至ってシンプルなものだったが、これがすんなりうまくいった。
「さ、追い詰めたよ。観念したら?」
姉弟に追い立てられて出入り口の1つしかない大部屋へとノコノコ入って行ったエレノアに、マオはご満悦で渾身の煽り顔を向けた。振り返り顔を上げたエレノアの顔には悔恨の表情が浮かんでいるだろうと思って疑わなかったのだ。しかし予想は外れ、その少女はぷっくりと可愛らしい口もとを歪に吊り上げて笑っていた。
「く…ふふ、くははははっ!ああ、本当に馬鹿な生き物だなぁ!追い詰めたつもりなのか、このオレを!」
「うん。事実だろ」
聞き覚えのある不快な高笑い…予想していた通り、やはりエレノアはニールヴォルグに身体の自由を奪われているようだ。
「いーや違うね、お前らは誘い込まれたんだ」
「なにそれ、どういう意味だよ」
ーービキッ…
何か、今、どこからか音がしたような気がする。見回してみても何の音かはわからない。数歩前に立つマオは音に気がついてさえいないようで、尚もケラケラと笑い続けるニールヴォルグに苛立ってズカズカと向かって行く。…いけない、何か嫌な予感がする。
「マオ、待っ…」
「っ!!!?!?」
それはユウリが声を発したのとほぼ同時だった。大股に歩くマオが足をつけた場所、硬い石の床が不自然にひび割れてガラガラとあっけなく崩れ落ちた。ダンジョン名物落とし穴である。足場を急に失ったマオはバランスを崩し、重力に引っ張られるままに暗闇へと落ちていく。
「マオッッ!!!」
咄嗟に駆け寄って伸ばしたユウリの手は虚しく空を搔いただけで、ほんの指先でさえマオに触れることはなかった。…何も、できなかった。異変には気がついていたのに、きっと防げたはずなのに、どうして止められなかったのか。
膝をつき、いくら目を凝らして覗き込んでも穴の底は暗くて見えない。何度呼びかけても声は返ってこない。不安と後悔、焦燥が募る。とにかくマオが心配だ。もう飛び降りるしか、
「2人きりになっちゃったなぁ、マリー?」
すぐ後ろから不快な声がして、ユウリは大きく目を見開いた。ネットリと絡みつくような瘴気に背中が震え、まるで金縛りに遭ったかのように身体が固まって動かない。
「震えているのかマリー?ああ可哀想に。オレが怖くてたまらないか?はははははっ!」
…怖い?本当にそうだろうか。普段は頼もしい仲間たちの影に隠れがちだが、ユウリだって決して守られてばかりのか弱いヒロインではないのだ。なにせこっちは異世界転移した直後からがっつり戦っている。
「ああ…!ようやくだ!!なぁマリーどうやって死にたい?まぁオレは優しいからなぁ、可哀想なマリーが寂しくないように、お前の大切な木偶共もみーんな葬ってやるよぉ」
抱く感情は恐怖ではない。思い返してみれば、自分が死にかけたときよりも仲間を失いかけたときのほうが余程怖かったように思う。
今はただ、不愉快だ。こいつはいつもそうだ。ユウリの大切な人たちを軽く扱って、傷つけて、嘲笑って…。むかつく。許せない。大嫌い。
「"断罪の、願い"」




