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[個別エピソード:カイ1]


 カイの隣に座ったユウリは長い武勇伝を子守唄代わりに、抱きかかえたギンネをクッション代わりにしてすやすやと居眠りをしている。


「それでさー…あれ?ユウリちゃんもしかして寝てる?」


 …返事はない。カイが横顔を覗き込んでも、ユウリの伏せられたまつ毛が持ち上がる気配はなかった。


「なんだー、若い子の体力は無尽蔵なのかと思ったけど、ちゃんと疲れてんじゃん。…なぁギンネ。ニールヴォルグをまた封印したらさ、2人は元の世界に帰っちゃうのかな」


「さあね、ぼくにはわからないよ」


「そっかー…」


 カイは座ったまま足を伸ばして伸びをすると、天井を仰いでふぅとため息をついた。


「オレってまだ帰れる?」


「それは無理だねぇ、あっちのカイは死んでるもの」


「あーやっぱり?まぁ別に帰るつもりもなかったけど…」


 隣ですやすやと眠るユウリのあどけない寝顔が、いつか保健室で見た眠り姫の姿と重なる。あの時からずっとカイの心を離さないでいて、けれど遠くに行ってしまった人。もう2度と会うことは叶わない。


「ほんと、キレイだよなぁ。はなからオレとは釣り合ってねーの、なんで気付けなかったんだろ。真理さんがいつかアラドイムに戻って来た時のためにって思って、色々やってきたけどさ。…なんだったんだろーね、オレの努力は」


「カイのおかげでアラドイムはずいぶん暮らしやすくなったよ。マリーの大切にしていた世界がきれいになって、ぼくはうれしい」


「ははっ、まぁキミにとってはそうかもな。…おっと」


 かくんとバランスを崩して前に倒れそうになったユウリをそっと支えて、カイは少し迷った後にいまいち安定しないユウリの頭を自分の胸に寄せた。


「…マリーのたからもの、か。せめてオレの手の届くうちは、オレがちゃんと守んないとな」


 髪を撫でる優しい手の感触に、ユウリは目を覚ました。…いつの間にか眠っていて、カイに寄りかかってしまったようだ。膝の上のギンネと目が合うと、シーッと指を唇に当てるジェスチャーをされた。


「ねぇユウリちゃん、あっちに帰ってもさ、アラドイムを忘れないでいてほしいな。キミがいつでも戻ってこれるように、オレがこの場所を守るから。だからまたさ…会いにきてよ」


 どうしてそんな話になっているのかはわからないが、カイの声はいつになく真面目で…優しくもどこか寂しげだった。反対にギンネはなぜか満足げに尻尾を揺らしている。カイの発言はギンネの意に沿うものだったようだ。


「……あの。まだしばらく帰る予定はない、かも…」


 なんとなく居心地が悪くなってユウリが体を起こすと、カイは細い目をめいっぱい見開きながら素早くユウリから距離を取り、両手を上げてバンザイの姿勢をとった。


「んええ!?ユウリちゃん起きてたの!!?いや!これは違くて!!オレは未成年には手を出さない!決して!!やましい気持ちなどは微塵もなく!!」


 何をそんなに慌てているのだろうか。手を上げたまま早口で弁解を重ねるカイのシャツの裾から覗くおへその横に、ちらりと古い傷跡が見えた。


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