4-16:沈黙と慟哭
攻撃モーションをキャンセルするように度々動きが止まるニールヴォルグ。しかし大きな隙を晒すことがあってもなおその竜は強く、ユウリたちはギリギリの戦いを繰り広げていた。
「クソっ!クソがっ!図に乗るなよ!!なり損ないの器が!!非力な下等生物風情が!!身の程を知れっ!!崇高なる竜の裁きを受けるがいい!!!!」
激昂したニールヴォルグは四つ脚を地面に着いて爪を食い込ませると、口いっぱいに冷気を溜め始めた。…この技は一度見たことがある。赤泥のベラリリスを一撃で屠ったクロハの必殺技、じきに吐き出されるであろう圧縮された冷気の渦に当たればどうなるのかは3人共よく知っている。
「お、おいアレって…!」
「まずいっす!!撤退撤退!!!」
マオもウルムもひどく狼狽えている。なんとかしなければ…。"擁護の願い"で壁を張る?"瞬転の願い"でここから離れる?…無理だ、過酷な連戦で消耗しきったユウリではどちらも充分な効果を確保できない。
成す術もなく黒竜を見上げたユウリ、一瞬だけ目が合ったような気がする。どこまでも深い海の底のような、寂しい群青色の瞳。
「クロハ…?」
ばぐん。とその竜は冷気の渦を飲み込んだ。何が起きたのかわからなかった。ただ次の瞬間には炸裂した氷の刃が竜の体を内側から貫いていて、鮮血と濡羽色の羽毛が舞い散る様がスローモーションのように目に焼き付いた。
誰も言葉を発することができなかった。その場に倒れ込んだ黒竜は一度ぶるりと体を震わせると人の形に戻り、それきり動かなくなった。雨が止み、時間さえも止まったような静寂の中、ふわふわと降ってきた最後の羽が血溜まりの赤に落ちたのを見たとき、ユウリはようやくクロハが絶命したことを理解した。
「っ…、いや…っ!いやあああああああああああっ!!!!」
突き上げるような慟哭。…なんで、どうしてこうなった?こんなことは望んでいない。願っていない。あってはならないのに。広がっていく赤色にへたり込んでユウリは咽び泣いた。
時間差で駆けつけてきたウルムがさっと片膝をついて震える手でクロハの首元に触れた。…何も言わない。頭の中がぐちゃぐちゃだ、目の前の光景を受け入れることを脳が拒否し、心が否定している。認めたくなくて、確かめたくなくて、ユウリはクロハに触れることさえできない。
ギンネが空へ昇って、代わりにカンナが降ってきた。カンナは濡れた身体をブルブルと震わせて水を払ってから、呆然と立ち尽くすマオの頭の上に乗る。
「かわいいマオ、さすかだね。蝕む者も破滅の魔竜も倒しちゃうなんて」
「カンナ…。違う、僕がやったんじゃない…僕はこんなの望んでない…僕は、ただ…」
「そうだったね。アラドイムをこわして、お人形遊びを終わりにするんでしょう?」




