4-8:悲劇の舞台
赤い森を進むユウリたちはやがて廃村に辿り着いた。蝕む者が徘徊する畑は赤泥に侵蝕され、かつては人の暮らしていたであろう建物も無残に崩れてしまっている。生気を感じない、不気味で寂しい場所だった。
「着いたっすね、ここがルラソー村。…この村のどっかにルビオス・ヘモネブラが居るはずっす」
ここがルラソー村…。ウルムの生まれ育った村。しかし眼前に広がるのは、ウルムの見知った景色とはかけ離れたものだろうと思う。ユウリはどんな言葉をかければいいのかわからなかった。
「行くぞ」
クロハの短い言葉でギヌガルクたちは歩き出す。今はやるべきことをやるしかない。諸悪の根源、ルビ…なんたらを打ち倒して、アラドイムに平和を取り戻す。
不思議なことに村の中に居る蝕む者たちは襲いかかってこなかった。こちらに気づいても、目の無い顔でしばらくじっと見つめて、また何事もなかったようにウロウロと徘徊する。
「…気味は悪いけど、好都合っすね。少し補給してくっすか?」
「補給?」
「そこの店…、まだ使えるもんあるかもしんねっす」
ウルムが指差したのは半壊した建物で、取れかかった看板には道具屋のマークが描かれている。アイテム類は多めに持ってきていたので補給の必要は無いのだが、ユウリには思い当たることがあった。
「…ああ、そうだな。少し寄ろうか」
クロハも気付いたのだろう。この店がウルムの実家であろうことに。油を売っている時間はないのだが、ウルムの気持ちを尊重して立ち寄ることにした。ユウリもギヌガルクを降りて、2人を追って店に入る。
棚はほとんどが倒れ、投げ出された商品が床に散らばっている。一応まだ使えるものもあるようだ…こういう時は貰っていい、"そういうもの"だろう。ユウリは店内を物色していくつかの商品を拝借した。
店の奥は居住スペースになっているようだ。慣れた足取りで入っていったウルムをそっと追いかけて、背中越しに中を覗いてみる。…見なければ良かったと思った。何かが争ったように荒れた室内、壁や床にはベッタリと生々しい血の跡が残っている。
勝手に見ておいて情けなくも目まいを起こしたユウリは、ふらついて咄嗟にウルムの服を掴んだ。振り向いたウルムは意外にも落ち着いていて、やれやれといったようにユウリを支える。
「大丈夫すか?怖かったっすね。外出ましょうか」
「グァオーーーーン」
「え…今の、」
もちろんユウリの声ではない。外の方から遠吠えが聞こえてきた。
「ギヌガルクが要救助者を見つけた時の合図っす。…生存者なんているわけないのに…なんで……」
顔を引きつらせたウルムに支えられて外に出ると、すでにクロハがギヌガルクたちと共に待っていた。
「ガイルが人影を見たようだ。…と言っても人間ではない可能性が高い。警戒して向かう、準備はいいな」
「はいっす」
「…ウルム、蝕む者は魔物を取り込んで操っていた。人間を取り込む事も出来るのかもしれない」
「……、それって…」
「覚悟はしておけよ。今のお前が守るべきものを見誤るな」




