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[個別エピソード:ラナク2]


 朝、目覚めたユウリの腕の中に居たのはギンネだった。すげ替えたられた事にも気付かないほどぐっすり眠っていたようだ。簡単に身支度をして部屋をでると、タイミング良くラナクと出くわした。


「おぁ!?…え、ユウリ。…おはよ」


 なんだか妙な態度である。ひとまず挨拶を返すと、ラナクは首に手を当てて居心地悪そうにしながら話があると言い、昨日激闘を繰り広げたゴダの広場にユウリを連れ出した。


「時間取らせて悪ぃな。…さっきクロハに謝ってきたんだ。ユウリを叩き斬りそうになった事は許してくんなかったけど、尻尾でブッ飛ばした事はそれほど気にしてなかったな。我ながら卑怯だったと思うし、ひでえ怪我をさせたのにさ…アイツ、やっぱ強えよ。力だけじゃなくてメンタルもさ」


 ラナクが見上げる先には大きく崩れた岩肌があり、クロハがぶつかった時の衝撃の大きさがうかがえる。本当によくこれで助かったものだ。


「"力無き故に最愛を失い、心弱き故に理知を失う"。何度も聞いた言葉だけど、やっと意味が分かった気がすんだ。…俺は弱かったんだって思い知らされた」


 ラナクは苦々しくそういいながら、亀裂の入った岩盤を指でなぞった。これはラナクの大剣が突き刺さった跡だ。


「ユウリも強えよな。まぁ細っこいし非力だけど…狂った竜に立ちはだかるなんて普通できねーよ。俺も灼竜だから、アンタの恐怖の匂いは感じてた。相当怖がってたのに、それでもアンタは必死にクロハを守ろうとした」


 そこまで言うと、ずっと壁ばかり見ていたラナクがようやくユウリの方を向いた。浮かぶ表情は複雑で、後悔、敬慕、それから…一歩近づいて、機嫌悪げに眉をひそめる。


「…そんなにアイツのことが大事かよ?自分の命よりも」


 ユウリの肩がビクリと震えた。先ほどまでとは明らかに違うラナクの低い声。沸々と揺れる瞳は怒りを湛えているようでもあり、どこか悲しげにも見える。


「一晩一緒に居たんだろ?いや、それだけじゃねえよな。こんなにべったりアイツの匂いつけてさ」


 ジリジリと肌が焼け付くような感覚がして、思わず後ずさったユウリはあっさりと壁際に追い込まれた。背の高いラナクに太陽が隠れて、暗くなった視界の中でギラギラと煮え立つ真紅の瞳から目が離せなくなる。


「アンタのこと気に入ってたんだ。野ウサギみてぇに素朴で、弱くてちっぽけで…少し睨んだだけでビビって擦り寄ってくるような惨めな姿も、少し優しくしただけで簡単に警戒心を解くバカな所も」


 確かにユウリは初対面のラナクに怯えて震えながらに恋人を演じたし、その後は食事を奢ってもらったりケーキを作って貰ったりでラナクって良い人だなと感じていた。

 単純で愚かな弱者だと言われればそうなのかもしれない。内心で見下されていたこともショックだが、ラナクと仲良くなったつもりでいたのが勘違いだったのかと思うと寂しい。


「はっ、傷ついてんのかよ?別に良いだろ俺にどう思われてようと。アンタは他に男が居るんだからさ」


 ついさっきまでは普通に接してくれていたはずのラナクが、今は嘲るように冷たい言葉で突き放してくる。訳が分からなくて、ただ悲しかった。


「…なんでアンタがそんな顔すんだよ」


 なんでってラナクがひどいことばっかり言っ…、いや、待てよ?威圧的な態度に気圧されていたが、よくよく発言を思い返してみればやたらクロハを引き合いに出してくるし、ユウリを気に入っていたと言っていた。ならば、いや、さすがに…まさかとは思うが…


「ヤキモチで意地悪を言ったの…?」


「う!るせえ!!悪いかよ!!」


 …図星らしい。

 

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