3-12:竜と騎士
ついに試練の時がきた。指定された場所に着くと、すでに仁王立ちの灼竜王とアジェラが待っていた。待たせて申し訳ないとか思う必要はない、こういうときに相手が先に待っているのは"そういうやつ"なのだ。
「兄上!昨晩もロージェさんと逢引していましたね!!もっと立場を自覚してください!!」
逢引…?あ、ケーキ…そうだラナクは夜にケーキを持ってきてくれた。それだけである。完全に誤解だ。変な言い方をしないでほしい。あとそもそもロージェじゃない。
「ラナクよ。"力弱き故に最愛を失い、心弱き故に理知を失う"。我ら灼竜はそれを忘れてはならぬ、悲劇を繰り返さぬ為にだ。お前は何も分かっていない」
「るせーな。説教の為に呼んだのかよ…」
「それだけではない、お前にも試練を受けてもらう。この者達と戦い、己の強さを示せ」
「は?クロハ達と戦えってことかよ。そんなの、」
「異議は認めぬ。やらぬならそれまでだ」
大変なことになってしまった。ユウリとクロハがラナクに勝てば灼竜の協力を取りつけられるが、それではラナクがお父さんに認めてもらえないようだ。どうしたものかとユウリはラナクの顔を覗き込んだ。
「…やるしかねーみたいだな。一応言っとくが俺の心配なんかすんなよ?アンタらが束になって来ようが俺には勝てない」
ラナクは腹を括ったようだ。となればこちらも覚悟を決めなければいけないだろう。ラナクは強い。生半可な気持ちで挑めばブン殴られるどころか黒焦げにされてしまう。というかクロハでさえ守護竜と渡り合う力はないとか言っていたし、2人で全力でやったって普通に負ける可能性がある。黒焦げは嫌だ。
「ユウリ」
クロハに呼ばれて、ユウリははっと顔を上げた。そういえば弱気になっていると灼竜にはバレてしまうんだった。しっかりしなければ。
「灼竜王は強さを示せと言っただけだ。必ずしも勝つ必要は無い」
そんな、それは…屁理屈では?
「灼竜は守護竜の中でも最強、どう足掻いても人間の勝てる相手ではない。灼竜王はそれを分かった上で言っている」
なるほど?クロハがそう言うのならそうなのかもしれない。勝たなくてもいい…のかな?一定のダメージを与えればいいとか、一定時間耐え凌げばいいとか…"そういうやつ"だろうか。
「だからお前は自分の身を守ることを最優先に考えろ。奴の相手は俺がする」
もしかして、心配してくれている?クロハはユウリに身を守れと言い、自分1人で勝てない相手と戦おうとしている。…そんなのはダメだ。全くもってそんな姿は想像つかないが、もしも万が一クロハが目の前でボコボコにされてしまったら、自分だけ安全な場所で見ているなんてことはできない。
ユウリもようやく腹を括った。やるしかない。自分だって今日まで何もしてこなかった訳ではないのだ。クロハと比べたらザコかもしれないが、やれる事は全てやりたい。いつまでも守られてばかりではいられない、どんな時も当然のように守ってくれていた優しい彼に報いたい。
「私も戦う。絶対に勝とう」




