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[個別エピソード:ラナク1]


「さっきは悪かったな、けどお陰で助かった。時間あんなら飯奢らせてくれよ。えーと、ロージェじゃなくて…」


「ユウリだよ。ぼくはギンネ」


「え、こいつ喋んのか?おもしれーな。俺はラナク、まぁよろしく」


 そんなこんなでラナクに連れられて訪れたのは、海が見える落ち着いたカフェ。開放感のあるウッドデッキのテラス席もあったが、鳥に食べ物を取られるからやめておけと言われて店内窓際のカウンター席についた。


 ラナクのオススメの軽食とドリンクを注文して、それからしばらく2人と1匹は黙って海を見ていたが、やがてラナクが穏やかな声色で話しはじめる。


「俺さ、こういう時間が好きなんだよ。なんにも縛られないで、ぼけーっと海みて…それから野菜の世話して、収穫した野菜で料理なんか作ってさ。そういう生活がしたいんだよ」


 あー、なんかいいな。楽しそうだ。そういうスローライフに憧れる人は多いだろう。


「けどさぁ、俺んちの家系ってちょっと頭固いってーか、脳ミソに筋肉が詰まってるっつーか。男は体鍛えてナンボ、常に鍛錬あるのみ!みたいな?アジェラもそんな感じだったろ?家族みんなそうなんだよ。嫌になるよな」


 ラナクは海を見つめたまま、カウンターに肘をついてため息を漏らした。低くなってきた太陽が憂いを帯びた横顔を照らす。


 注文していた品が届いて、ユウリは目を輝かせた。食欲を掻き立てられるスパイシーな香りのチキンと、青と黄色のグラデーションになった爽やかなソーダ。まずはソーダから頂こうかな…、炭酸はそれほど強くなく、果物の甘酸っぱい風味が鼻を抜けていく。とてもおいしい。次はお肉を…


「昔…ほんっとーに大昔の話だよ。灼竜の一族から黒竜が出たらしくってさ。先祖返りだか知らないけど、特異な魔力を持ってたんだと。それが恋人が死んだショックで暴走して、黒い魔法でソウツェを焼け野原にしたんだって」


 急になんの話だろう、別にいいけど。少し辛いけどお肉もジューシーでとてもおいしい。パンチのある香辛料に負けない旨味の強い肉汁が滴りでてくる。


「ははっ、お前美味そうに食うなー。たんと食えよ?えーとどこまで話したっけ…あーそうそう。そんでさ、親父がよく言うんだ。"彼の者は力弱き故に最愛を失い、心弱き故に理知を失った。過去の悲劇に学び、我々は強くあらねばならぬ"ってさ、もう100回は聞かされてんじゃねーかな」


 ソーダに浮かぶ四角い氷がカランと音を立てて、ラナクはソーダを一瞥した。少し考えたあとグラスを手に取って、一口飲んでユウリに返す。なんか勝手にちょっと飲まれた。


「どんな理屈だよって感じだろ?大昔の黒竜の話なんか知ったこっちゃねえし、俺が鍛錬しなきゃいけない理由になってないよな?あ、デザートも食う?」


 ユウリはこくりと頷く。近くの客が食べていたフルーツの沢山乗ったケーキが気になっていたのだ。


「好きなだけ食っていいよ、愚痴聞いてくれた礼な」


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