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[個別エピソード:クロハ1]


 マガリを追いかけていくと図書館に辿り着いた。どうやらクロハの所まで案内してくれたらしい。ユウリがしゃがみ込んでマガリの背中を撫でながらお礼を言うと、マガリは得意げにみゃあと鳴いてから走り去っていった。


「…ユウリ?もう終わったのか?」


 窓際の席に座っていたクロハがユウリに気付いて読んでいた本をぱたんと閉じた。表紙に描かれた黒いドラゴンは礼拝室のタピスリーに描かれていたものと同じ…ならば神話の本か何かだろう。そして神話の神が自分の母親だったと先ほど判明したのだから、今のユウリにはその本が気になって仕方ない。


 クロハに許可をとって本を借り、ページをパラパラとめくってみる。しかし当然ながらそこにはアラドイムの文字が並ぶばかりでユウリには読むことができなかった。ちらり、とクロハの顔をうかがう。


「…俺にこれを読めと?」


 そうしてくれると助かる。どうせさっきまで読んでいたのだから声に出すか出さないかの違いだろう。ぜひお願いしたい。


「………………わかった、座れ」


 なんだか少々嫌そうである。しかし嫌そうながらも承諾してくれたし、椅子も引いてくれたのでユウリはクロハの隣に座った。


「長いから要約するが構わないな?これは200年前にアラドイムを襲った異邦の脅威"破滅の魔竜"と、それを打ち倒し封印した女神マリーと勇者たちの伝承だ」


 破滅の魔竜…前に桜竜王が言っていた気がする。守護竜の先祖にあたる黒い竜。ん?200年前?ユウリの母が活躍する話ならばそんなに昔な訳がないのだが…元の世界とアラドイムとでは時間の流れ方が違うのかもしれない。


「元々アラドイムは1つの大地だったが、異邦より魔物たちを従えた邪悪な黒竜が現れた。黒竜は止まない嵐を起こし、強大な黒い魔法を放ってアラドイムの大地を4つに砕いた。凶暴で悍ましい竜を恐れた人々が天に救いを願うと、天空に浮かぶイデアの園から美しい女神が舞い降りた」


 淡々と読み進めるクロハの声は低く落ち着いていて、滑舌が良く聞き取りやすい。わかりやすくかなり端折りながら話してくれているが、欲を言えば全編ノーカットで聞きたくなるくらい耳に心地が良かった。


「女神は2人の勇者と共に黒竜を倒し、竜が二度と悪さをできないようにと、肉体は4つに分かち罰を課し、悪しき魂はイデアの地に封印して海底に沈めた。すると嵐は止み、アラドイムは再び平和を取り戻した。…と、こんなところだな」


 …なんと珍しいことに、このそこそこに長い話をユウリは最後まで聞くことができた。女神マリーについてはもちろんのこと、共に戦った勇者や空に浮かんでいたというイデアの園とやらも気になる。


 さらに気になるのは挿し絵に描かれた黒竜。巨大で悍ましい破滅の魔竜とやらは当然ながら竜の姿をしているが…守護竜たちももしかしたら竜に変身するのだろうか。だとすれば1度くらいは見てみたい。


「もういいだろう」


 まじまじと黒竜のイラストを見ているユウリに構わず、クロハはぱたんと本を閉じてしまった。残念である。


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