3−3:視線
その夜、ユウリは夢を見た。アラドイムに来てから幾度となく見る、あの少女の夢。だけど今日はいつもと少し違い、ぼやけていてよく分からなかった音や色がはっきりと認識できる。
少女はユウリと同じ栗色の髪、錫色の瞳。
クリスマスプレゼントだろうか、無機質な病室で目覚めた少女は枕元に置いてあった縫いぐるみを手に取った。おそらく手作りであろうそれは継ぎ接ぎの布でできており、中身の綿が少ないのか少しくったりしている。
「マリーがほしいのはこんなのじゃないのに…マリーはお友だちがほしいの、みんなとおんなじようにお外で遊びたいの。サンタさんも叶えてくれないんだね」
プレゼントに喜ぶどころか涙を流してそう言った少女を、縫いぐるみは黙って見つめていた。犬でもウサギでもライオンでもなく、何をモチーフにしたのかもわからない歪な縫いぐるみの姿形は、強いていうならギンネと似ている。
目を覚ました時、ユウリは自分の目からも涙が流れていることに気がついた。夢の中の少女の気持ちが移ってしまったんだろうか。不思議な夢だとは思っていたが、その内容については今まであまり考えたことがなかった。だけど今は、夢の少女について思い当たることがある。
「おはようユウリ、今日もいいお天気…んみゅっ!?」
ベッドに登ってユウリのお腹の上をトコトコ歩いていたギンネをむぎゅっと両手で捕まえて、目の前に持ち上げて確認する。継ぎ接ぎではないが、やっぱりあの縫いぐるみと似ている。
「んむむ!はなしてかわいいユウリ…中身がでちゃうから…うぇぇっ」
中身?綿…ではないか、流石に。えずいたギンネの口の奥を覗き込めば、黒いドロドロと沢山の目玉が見えた。
「ぎゃーーーーーっっっ!!!!!!!!」
ユウリの人生の中で1番大きい声が出た。なんだ、今のは。絶対に見てはいけないものだったと思う。口の中に目が有って、目が合った。なんかこう、深淵?宇宙?いやまて混乱している。とにかくなんか、ヤバそうな何かが存在していた。
バタンっと勢いよく扉を開いて、目にも止まらぬ速さで部屋に人影が飛び込んできた。人影…クロハはベッドの手間で急ブレーキすると、目を見開いたままかたまっているユウリと、ユウリが手離してベッドに転げたギンネを交互に見る。悲鳴を聞いて駆けつけてくれたのだろう。
「……何があった?」
何ってそりゃヤバそうな何かが…。未だ混乱中のユウリはしどろもどろになりながらギンネの中身について説明しているが、そんな話を一体誰が信じるというのだろう。
「そうか、目玉と宇宙が…」
信じたっぽい。クロハはギンネの首根っこを掴んで持ち上げ、口の中を覗き込んでいる。
「はなして〜、もう引っ込んだよ」
「押したら出るのか?」
「おさないで!出ちゃったらみんながこまるの!」
「…ならやめておこう」
クロハは意外と素直な人なのかもしれない。少し遅れて、ウルムとルッチが慌ただしく部屋に入ってきた。
「大丈夫っすか!!?」
「ユウリ〜っ!!」
優しい仲間たちに囲まれ、ユウリは落ち着きを取り戻した。願わくばあの夢の少女にも、こんなふうに助けてくれる友達が出来ていたらいいと思う。




