1-4:異邦者
「クロハさーーーん?もーー!置いてかないでくださいよー」
とりあえずお礼を、と口を開きかけたユウリだったが、その言葉はどこからか聞こえてきた声に遮られてしまった。
やたらと強い仮面の人とは別にもう1人、恐竜に乗った少年が走り寄ってくる。
松葉色の髪、利発そうなツリ目に黄褐色の瞳。ユウリより少し若そうな少年はややふてくされたような顔で仮面の人に近づいたが、ユウリの姿を見つけるやいなや露骨な嫌悪に顔を歪ませた。
「うげ、異邦者じゃんすか。月が追っかけてたのはコイツっすか?」
「そのようだな」
「えー怪しすぎ。やっちゃいます?」
「駄目だ。保護して雪竜王に報告する」
「そっすよねぇ…」
ユウリを無視して話が進んでいく。物騒な発言もあったような気がするが、ともかく保護してもらえるようだ。たしか銀色の獣は竜を探せと言っていたし、この人たちに安全な場所まで連れていってもらって、その雪竜とやらに会えれば一石二鳥かもしれない。
「ウルム、その娘をギヌガルクに乗せてやれ」
「無理無理、俺異邦者とか嫌っすよ絶対。クロハさんが運べば良いじゃんすか」
「…はぁ」
なんだか押し付けあわれている。松葉髪の少年ウルムはとにかく異邦者が嫌いらしい。異邦者が何なのかは良くわからないが、今この場においてユウリのことを指しているのは明らかだ。
ギヌガルクとは多分2人の乗っている恐竜のような生物のことだろう。ウロコに覆われた縞模様の体躯、後頭部から後ろに伸びる2本の角、胸の前で控えめに折りたたまれた前足、太く長い尻尾に逞しい後ろ足。強そうな見た目だが、役割としては馬に近いのかもしれない。乗りやすいように手綱と鞍もついている。
「立てるか?」
ここで初めてユウリに声がかけられた。ウルムと話している時と声のトーンが変わらないあたり、仮面をつけたクロハの方は異邦者を特別嫌っている訳ではなさそうだ。かといって手を差し伸べてくれたりはしないが。
「はい、あの…ありがとうございます」
「喋ったァァ!?」
命の恩人に言い損ねていたお礼を述べただけなのだが、なぜだかウルムは大げさなポーズで驚いている。困ってクロハの方を見てみるが、こちらは仮面のせいで表情がわからない。
「別に良いだろう。言葉が通じる方が話が早くていい」
「いやいややっぱ怪しいっすよコイツ!外から来てんならアラドイム語喋るのおかしいし、アラドイムの人間なら危険区域で何してたんだっつー話じゃんすか。でも異邦の服っぽいし…意味不明。キモッ」
なんだか酷い言われようだが、ユウリが話したのはもちろん日本語である。そして先ほどから目の前の2人が話している言語も日本語にしか聞こえない。
「何にせよ聴取は後だ、拠点に戻るぞ」