1-12:にゃん
屋敷に着いてすぐにエリナとウルムはクロハの姿を探したが、不在だったようだ。考えてみれば当然である、彼には彼の仕事があるだろう。
だったらフブキに話を聞けばいいと思うのだが、なんとなく恐れ多くてできないのだと言う。世が平和であれば竜王は王都でふんぞり返っていれば良いだけの立場で、ここのような辺境の町に滞在しているのがすでにヤバい、ということらしい。
そもそもこの屋敷は何なのかというと、蝕む者を討伐する騎士たちの為の仮拠点として、危険区域にほど近いこのシウネラという町で町長の家を間借りしているのだそうだ。エリナは町長の家のメイドであって、騎士たちとは特に何の関係もないらしい。なんというか、結構適当である。いや、きちんとした騎士団の駐屯地がいらないほどに、元々のこの町は平和な場所であったということか。
結局その日は遅くまでクロハは戻らず解散となった。ギンネにも話を聞ければ良かったのだが、今の時間では既に空に浮かんでしまっている。あの丸い月がモフモフのギンネと同じものだなんてまだ変な感じだ。ユウリは月に向かって手を振ってみたが、特に反応はなかった。
ベッドに潜って目をつむると、ユウリは再びあの夢をみた。病気の女の子の夢。
相変わらず病室に1人きりだが、今日は絵本を読んでいるようだ。まだ文字がそれほど読めないのか、ページを行ったり来たりしながら主に絵を見ている。
「起きて、かわいいユウリ、朝になったよ」
べろり。昨日と同様に顔を舐められて目が覚めた。起こされ方に不満があるのか、ユウリは心なしかムッとした表情をしているが、ギンネはニコニコと微笑んでいる。
「いよいよ今日から冒険がはじまるね。それでね、思ったんだけど、ぼくって大きくて目立つでしょう?だから旅のあいだは小さくなっておこうかなって。みてて」
そう言うと、ギンネは光に包まれて、宣言通りみるみるうちに小さくなった。光が消えて現れた姿は子猫と同程度の大きさで、筋肉質だった元のフォルムよりもころころと丸みがあって愛らしい。
これは…可愛いと言うべきか、弱そうになったと言うべきか。
「キュートでしょう?ちなみにもともと戦えないから、戦力としては気にしないでね。ああでも、代わりに助っ人をたのんであるから大丈夫だよ」
もともと戦えない?あの大きな図体で、立派な牙も爪もあり、あまつさえ尻尾に剣を装備できるのにも関わらず、戦闘には参加しないと。あくまでもパーティメンバーではなくマスコット的なポジションに収まろうというのか。
と、それより。助っ人とはやはりクロハのことだろうか。だとすればうなだれたウルムの姿が目に浮かぶようだ。うなだれウルム…うなだれム…ということか。




