ブタさんは自分の声が大嫌い
ブタさんは自分の声が嫌いでした。
低くて醜くて、ブヒブヒフゴフゴとうなるように聞こえる声が大嫌いでした。
ある日、ブタさんはウサギさんにバカにされました。
「お前の声、ほんとうに醜いな。そのダミ声で歌ってみろよ」
ブタさんは泣きながら歌いました。
ブヒブヒ言いながら歌いました。
ウサギさんは耳をおさえながらさらにブタさんをバカにしました。
「おお、醜い醜い。本当にひどい声だ。おいらのこの立派な耳がけがされちまう」
そう言って、ウサギさんは帰っていきました。
次の日、今度は犬さんがブタさんをバカにしに来ました。
「お前の鼻、平べったくておかしいな。それじゃあ、においも嗅げないだろう」
鼻をクンクンさせながら、犬さんはブタさんのまわりを歩きます。
「醜い醜い、役立たずの鼻。クンクンクンクンにおいも嗅げない」
ブタさんは泣きながら鼻をフゴフゴと動かしました。
「あははは、なんだいそれ。おっかしー」
犬さんは笑いながら帰っていきました。
次の日、今度は猫さんがやってきました。
「あいかわらずお前はしょぼい目をしているな。そんなんじゃ、遠くも見えないだろう」
目玉をキョロキョロさせながらバカにします。
「ほらほら、あそこに人間がいるぞ。ヤバいヤバい、近づいてくるぞ」
ブタさんはブヒブヒフゴフゴ慌てふためいて逃げようとしてすってんころりんと転びました。
「うひひひ、うっそだよん。あー、面白い」
猫さんはお腹をかかえながら帰って行きました。
ブタさんは思います。
なんで自分だけ、何もないんだろう。
この醜い声以外、まわりと違うものは一切ありません。
ブタさんはとっても落ち込みました。
そんなある日、ウサギさんと犬さんと猫さんが血相を変えてブタさんのもとへとやってきました。
「ヤバいヤバい、大変だ」
ウサギさんが叫びます。
「おおかみがやってくる、おおかみがやってくるぞ」
犬さんがウロウロと走り回ります。
「早く隠れなきゃ、早く隠れなきゃ」
猫さんが物陰に隠れたので、みんないっせいに隠れました。
そこへ、腹をすかせたおおかみがやってきました。
「ああ、腹が減った。ここに獲物が逃げ込んだ気がするが、どこ行った」
クンクン、クンクンと鼻を鳴らします。
「おお、ここにいたか」
そう言って、樽の中に隠れていた犬さんをつかみだしました。
「わははは、オレ様の鼻をなめるなよ」
今度は耳をすまします。
「おやおや、聞こえる聞こえる。おびえた心臓の音が、よおく聞こえるわ」
そう言って、今度は岩陰に隠れていたうさぎさんを捕まえました。
「オレ様の耳は、ささいな音も聞き逃さんぞ」
そして今度はキョロキョロと辺りを見渡しました。
「無駄無駄、隠れても無駄よ。オレ様の目は特別なのだ」
そう言って、草むらの影に隠れていた猫さんを捕まえました。
「今日は大量大量、おいしく食べてやる」
3匹を連れて帰ろうとするおおかみに、妙な声が聞こえてきました。
「フゴフゴフゴ、誰だ、ワシの獲物を横取りするやつは」
とても低くて恐ろしい声です。
「誰だ」とおおかみが辺りをキョロキョロと見渡します。
ですが、声の主は姿を見せません。
低く、うなるようなだみ声でおおかみを脅かします。
「ワシの獲物を横取りするとはいい度胸だ。貴様も一緒に喰ってやろうか」
どこの誰かはわかりませんが、あまりの迫力におおかみは怖気づきはじめました。
「す、姿を見せろ! オレ様の爪で八つ裂きにしてくれるぞ!」
「八つ裂きだと? このワシを?」
その瞬間、
「フゴーーーー!!」
という叫び声が辺りにこだましました。
そのあまりの迫力に、おおかみは
「ひえええぇーーーっ!!」
と叫んで逃げて行きました。
おおかみが抱えていた犬さんもうさぎさんも猫さんも、全員無事に解放されました。
ビクビクと震える3匹の前に姿を見せたのは、さんざんバカにしていたあのブタさんでした。
ブタさんはフゴフゴと鼻を鳴らしながら、心配そうに3匹を見つめています。
「みんなだいじょうぶ?」
3匹は驚きました。
まさかあの恐ろしい声の主がブタさんだとは思わなかったのです。
「あの声は、お前だったのか」
「すごい迫力だったな」
「勇気あるな」
3匹はさんざんバカにしていたことを心からお詫びし、その声を褒め称えました。
「お前の声は、最高だな」
その言葉に、ブタさんは初めて自分のだみ声が好きになりました。
それからというもの、4匹はお互いの長所を褒め合い、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。
おしまい
誰にだって長所はあるんだよ、というお話でした。
お読みいただきありがとうございました。