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森の中で

 体を包んでいた水が徐々に地面へと吸い込まれていくと同時に、見慣れない景色が姿を現した。


 「「おぉぉ!!」」


 ブレンディと口をそろえて言う。


 空を自由に飛び回る鳥、生い茂る木々、鼻をくすぐる緑の香り。そのどれもが天界では味わえない新鮮だった。


 「来てよかったな」

 「そうじゃな。ようやくあのどんよりとした部屋からおさらばじゃ」


 思わずそう出てしまうほど、この光景は光に満ちていてとても感動的だった。


 「行こう」


 まるで鳥籠にとらわれていた鳥が自由になった時のように俺はいてもたってもいられなくなり、ブレンディの手を引いて走り出した。


 「ま、待つのじゃ」


 制止する声を振り切り、俺達は森の中へと入る。


 眼前に広がるは、手つかずの自然。当然人工的な道はなく、獣が歩いて踏み固められた道――いわゆる獣道がそこかしこに走っていた。到底歩きやすいとは呼べないが、ここを進むほかないので仕方がない。


 俺達はきょろきょろとあたりを見回しながら慎重に進んだ。森の中にはありとあらゆる動物の声が木霊し、ときおり魔物と思しき声も聞こえてきた。


 「早く抜けるに越したことはなさそうじゃな」


 賛成だ。食料も持ってきてないし、万一にもここで野宿なんてまっぴらごめんだ。魔物が怖いんじゃない。むしろ来たら来たで返り討ちにしてやればいいだけの話なのだが、問題は......


 「ぎゃあぁぁぁ!虫ぃぃぃ!!!」


 ブレンディは顔面に飛んできた虫を手で払いながらそう叫ぶ。


 森の中に入ってからこの叫び声を何回聞いたのだろう。別に俺もブレンディも虫が嫌いなわけじゃない。天界にも虫はいるし、部屋に入ってきた芋虫を話し相手にしたこともある。まぁ、何も答えてはくれなかったが。じゃあ何故、下界の虫を嫌っているか。それは......


 でかいからだ。


 先ほどブレンディが振り払った虫も形こそただのトンボだが、その大きさは人間の半分ほどもある。これでもまだ小さいほうだ。ここに来るまでに見つけたカブトムシ(?)なんかは岩と見間違うほど大きく鹿を食べていた。俺達はその姿がトラウマとなり、今も奴がいないかどうか慎重に進んでいる。


 「きゃああああああ!!!!!!」


 唐突に森全体に悲鳴が鳴り響く。またかと思い後ろを振り返るが、ブレンディは声のした方をじっと見ている。


 「あるじよ」

 「ああ」


 これは人間の悲鳴だ。


 そう考える同時に俺達は声のした森の奥へと駆け出した。繁茂する草木をかき分けながら人の気配と魔力に近づいていく。十中八九魔物に襲われている。さっきの悲鳴は魔物に出くわした時に発せられたものだろう。


 「手遅れになってなければいいが......」


 かすかだった人の気配が次第に大きくなり、目的地がすぐそこだと示していた。


 木々を抜け、開けた場所に出ると、俺達は事の重大さを理解する。


 「こいつは......っ!!!」


 間違いない、サイクロプスだ。


 優に5メートルを超える巨体、青みがかった皮膚、腰には倒した魔物の皮が巻いてある。そして、顔の半分ほどの大きさの目玉が一つ。これほど特徴的な外見をしていれば、英雄譚でしか見たことない俺でも一発でわかる。そんなサイクロプスが木々に座り込んでいる少女に棍棒を振り下ろそうとしていた。


 魔法を打つなり、石で注意を引くなり考える前に俺の体はサイクロプスの正面へと飛び出していた。振り下ろされた棍棒を、両腕をクロスするようにして防ぐ。


 「うぐっ!?」


 どーんと鈍い音が鳴って、痺れるような痛みが腕を伝って全身を広がる。衝撃を逃がすように俺は片膝をついた。サイクロプスは棍棒を上げ、防がれたことに首を傾げて困惑している。そして、少女は振り下ろされた瞬間反射的に目をつぶっていたせいか、何が起こっているのかわからないといった顔でこちらを見ている。


 「ブレンディ!!」


 俺がそう叫ぶと既に魔法の詠唱を終わらせていたブレンディが、両手をサイクロプスに向け魔法を唱える。それを見た俺は、少女を抱きかかえブレンディの後ろへ避難した。


 「『火槍ファイア・ランス』ッッッ!!!」


 言い放ったと同時に出現した二輪の魔法陣の中から、燃え盛る槍が勢いよくサイクロプスの脳天目掛け射出された。火槍に気づき避けようとしたサイクロプスだったが時すでに遅し。爆音とともにクリーンヒットした。


 しかし、煙の中から怒りで赤黒く光った一つの目玉がこちらを睨む。見てみると当たったところは若干皮膚が焼き爛れている。つまり致命傷にはならず、あろうことか怒りを買ってしまったようだ。


 「やはりこの程度では倒れぬか。あるじよ、時間を稼いでおくれ」


 ブレンディに頷いて合図をする。そして、咆哮を上げながらサイクロプスが突進してくるのを見た俺は少女を抱きかかえたまま注意を引くために走り出した。


 「口を閉じてろ、舌を噛むぞ!」

 「!?はいッ!!」


 少女はようやく事態を理解したのか潔く返事をして口を手で塞ぐ。


 サイクロプスは走り出した俺に標的を変え、棍棒を振り回しながら追いかけてくる。ブレンディは次の魔法の詠唱をし始めた。


 「火と風の精よ」


 目をつぶり唱えるブレンディを視界に入れながら棍棒を避け続ける。


 「地を裂き天を穿つ雷霆となりて、愚かな敵を灰燼に帰せ――」


 詠唱が完了したことでブレンディは目を開ける。それを合図に俺は戦線を離脱した。


 「『神鎚ジャッジメント』ッッッ!!!」


 空中に現れた三輪の魔法陣。そこから放たれた雷撃は轟音とともにサイクロプスの体を包んだ。地面が揺れ、離れていた俺の足元にも稲妻が走った。


 すさまじい威力だ。蒸気を発しながら黒焦げになったサイクロプスの体は肉塊となって地面に転がった。そんな元サイクロプスを横目にブレンディに近づく。


 「やるな」

 「当然じゃ」


 ブレンディに声をかけ、少女を下す。彼女は裾をたたいて払うとこう言った。

 

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