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イン・ザ・フォグーインプレッション・オブ・ウォーター3

作者: 蒼乃モネ

 すっかり葉を落とした木々のなかにたたずむ、白い彫刻をぽつぽつと見た。女性の横顔であった。

 大気には露が煙り、冷えた髪を濡らしていた。これほどの濃霧のなかに身を置くのは、初めてのことである。

 仄白い明かりが看板を浮かび上がらせていた。


 ルーブル美術館を思わせるガラスの建築に足を踏み入れる。玄関の木目調の自動扉から、あたたかなぬくもりを感じた。


 特別展示は、パブロ・ピカソの絵。


 THE BLUE PERIOD AND BEYOND―


 青の時代に焦点が当てられていた。



 メインは「海辺の母子像」である。

 画面は一面の青。青によって輪郭づけられ、少しずつ表情を変えた同色で色づいている。

 浜辺にて聖母マリアが幼きイエスを抱き、五本の白い指を伸ばして祈る。

 その手には赤い花が―その画面上で唯一の赤が。

 聖母の彫深きおもてにて、頬には影が落ち、静かな瞑想のなかに強い意思が込められているのを感じる。


 眠る幼子の顔はぼやけていて、判然としない。

 この絵のテーマ性はあくまで海と聖母にあるらしい。

 まさに「静かな、力強さ」であろう。


 幾つかの伝説で聖母と結びつく、ローズマリーの花言葉。

 ローズマリーは「海の雫」を意味するハーブである。


 追憶、変わらぬ愛―


 どの絵でも決まって青く描かれる聖母のマントは、この絵において背後の水際に浮かぶ小船と砂浜と同じに、黄が混ぜられ、深く際立っている。


 古来、偉大な伝説を創り、多くの画家のイマジネーションの泉として信仰される、海の星の「青」であった。


 聖母の足元に静かに打ち寄せる波の縁、冷たい水面は、空の青、小舟の陰影を映し、透明にゆらめいている。


 ガラス窓から外を見やると、霧はますますその密度を増していた。山上、下界から閉ざされた世界であった。

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