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松本という漢Ⅵ  作者: 時田総司(いぶさん)


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第十八節 松本という漢

第十八節 松本という漢




入院、一時間後――、


「ネェネェ!!」


「!?」


大声が聞こえてきた。今度はジジイだ。


「ネェネェ!! もういいよ!!」


何が『もういいよ』だ? かくれんぼでもしたいのか?


「ネェネェ!! 部屋帰らせて!!」


「ブハッ」


思わず、吹き出してしまった。


「ネェネェ!! ……ネェネェ!! ……ネェネェ!! ……ネェネェ!!」




流石に、五月蠅い。




職員は何をしているのか? さっさと対応しろよ。


「ネェネェ!! 部屋帰らせて!!」


「……」


バタンと、ナースステーションから扉が開く音がして、看護師さんが現れた。


漸くお出ましか。


「ハイハイ、ネェネェおじさん」




「!!」




病棟公認なのか……。




入院一日目――、


運よく業者が来る日で、お菓子を買えた。スナック菓子とジュースを少々、一週間分買う事となった。


そのお菓子を食べる時間、夕食、服薬時間――、やっと一日が終わる。


時間が長く感じる。


病室で食事を摂るのはできかねる。何故か紐で縛られた老人がおり、オムツを一日に何度も替えてもらっている。この病院に入って初めての感想、『臭い』というものが露見した。よって、ここで食事はできない。ナースステーションの前のホールのような場所で、食事を食べる様にした。




入院二日目――、


何かOTと呼ばれるものに参加しなければならない様だ。本日のOTは、映画鑑賞。『幸福の黄ばんだハンカチ』という映画を見るらしい。内容の一部でT田T矢が


「先っちょだけ! 先っちょだけ!!」


と女にせがんでいた。俺は何を見せられているのだろうか……。


「アッハハ(笑)。これが面白いんだよ」


何故かウケている患者も居た。その横で


「つまらん」


酷評する者も。俺は只、失笑するだけだった。


映画の時間が終わると、昨日より遅めのお菓子の時間が来た。


(これだけが、唯一の楽しみかな)


しかしお菓子を多く食べることはできず、数gだけ皿に置いて食べるだけだった。


お菓子を食べ終えた頃、どこかで歌声が聞こえてきた。




いつもいつもカギを閉められて


寝床という檻に収監される


毎日毎食嫌気がする


臭い飯を食わされる日々




おお、これが人間の扱いなのか


おお、これが人間の扱いなのか




俺達は皆 俺達は皆




肥溜めに捨てられた、糞の様




地べた這いずり回わるヤツもキシャーと叫ぶけど




俺達は今日も並んで飯を待つ




「こら! うるさいですよ!!」


歌声の主は看護師さんに注意され、その後は歌声を発さなくなった。




入院三日目――、


退院日が来た。この臭い病院とも、今日が最後だな……。名残惜しい気持ちは一切ない。寧ろ、清々しい気持ちでこの病院を後にするだろう。


病院から去る際、やけに大柄な男(いや、漢と言うべきか)とすれ違った。


彼は何者だろう……?


この病院の関係者だろうか。


家族が入院していて、お見舞いに来たのかも知れない。どちらにせよ、恐らく『彼』とすれ違うことすら、この先無いのだろう。俺は、自分の判断でこの病院に診てもらうのを止めるのだから。処方されたクスリも、捨ててしまおう。


『彼』は何者だったのか? 少しだけ気に留めるのだが、俺の人生を1ミリも変えない、取るに足らない疑問に過ぎないのだろうと、病院の敷地内から、一歩外に出た。




松本という漢Ⅵ 完





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