第十二節 とある男の闘いⅡ
第十二節 とある男の闘いⅡ
顔面が青紫色の乗客は軽くパニックになる。男はもう、視線を外さない。ジッと只、乗客を睨み付けていた。
(二度三度、意表を突けば大抵のケンカは勝てる。潮時か……)
「終点ー、終点ー」
電車は終着駅に着いた。ゾロゾロと男を含める一般の乗客達はホームへ降りていく。男は一歩、ホームに足を運んだ。そして――、
男は改札に向かう階段とは逆方向に向かい、5、6歩あゆみを進めた。
例の乗客は――、
(改札へ向かったハズ……後ろから撃ち殺せば……)
改札に向かう階段を見上げた。そこに男の姿は無く――、キョロキョロと辺りを見渡すその乗客。遂には真後ろを向いた。そこには――、
「よお」
男が仁王立ちしていた!
「! !! !? !!?」
顔面が青紫色の乗客は完全にパニックに陥った。もともと青紫色の顔も、更に血色が悪く暗い色に変わっていった。もくろみとは真逆に、後ろを取られた乗客、もう自分から階段を上がるしかなかった。男は、その乗客が階段を最後まで登るのを見届けた。そして――、
「さぁて、品川駅と逆の方向の駅で、降りるとすっか」
十数分後――、
「ちょっとそこのあなた、いいですか?」
顔面が青紫色の乗客は、品川駅で警備員にバッグの中身をチェックされ、御用となった。
男は、実質ケータイとジェスチャーのみで銃刀法違反の殺人未遂の暴徒を、引き金を引かせることなく逮捕させたのだった。因みに、ケータイの通話履歴は無い。会話している様子も、全て演技だった。
車両に居合わせた警備員は言う。
「兎に角でかくて、悪目立ちしていたよ」
「それにしても、やけに堂々としていたな」
(他愛のない、敵だったな……)
男は暫く街を歩いたのち、自宅へ帰宅した。
「帰ったぞ」
「おっそいぞ! ××!!」
自宅には、男の帰りを、首を長くして待っていたイブキが居た。
イブキとは女? とおぼしき生命体で中性的な容姿をしており、妖精である。お風呂が大好き。
「××、この諭吉でしーすー行くぞ、しーすー!!」
「どこから用意しやがったそんな大金」
イブキは諭吉を5枚ほど、ちらつかせていた。
「株で一山上げたんだよー!!」
『天才投資家少女、現る!!』
そんな見出しが新聞に載ったのは1年以上前の話になる。フラッシュを目一杯たく取材陣に、イブキは自信満々に語っていた。
「投資のコツ? その企業の一定周期の“流れ”を読むことだね。アタイに読めない流れは無い」
その頃からネオニートとなり、大金持ちとなっていたイブキ、しかし彼女の過去は壮絶なモノだった。
「わぽっ……わぽっ!」
奇声を発しているイブキ。歳は4、5歳くらいだろうか? 彼女はどこからともなく現れ、気付けば孤児院に居た。孤児院の職員はあまりの突然の事に戸惑ったが、イブキの面倒を見る事にした。
「初めて見た時は、天使か妖精に会ったかの様でした」
孤児院の職員は語る。そこからの7年間、イブキは孤児院で平和に育っていった。12歳の誕生日を迎えた、ある日――、
「あの娘が欲しい」
「!?」
イブキの引き取り先が決定した。
「良かったねー、イブキちゃん。可愛がってもらうんだよ」
「えっ? えっ?」
「じゃあ、宜しくお願いします。○○さん」
「任せてください」
○○さんはイブキの首根っこを持ってお持ち帰りした。
「いやぁぁあああ!!」
どうなるイブキ!?




